利用規約違反の対応方法とは?制裁に際してのポイントを弁護士が解説
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【ご相談内容】
当社は、スマートフォン向けのアプリケーション開発及び提供を行っています。
アプリケーションの利用者が増加するに伴い、本来予定されていない態様にてアプリケーションを利用するユーザや、当社のみならず他の利用者に迷惑をかけるユーザなどが出現し、頭を悩ましています。
このようなユーザに対処するべく、何らかの制裁処分を実行しようと考えているのですが、どのような点に注意すればよいでしょうか。
【回答】
ユーザに対して制裁処分を科す場合、何らかの根拠が必要となります。
アプリケーションの場合、その利用に関して利用規約を定め、その利用規約に制裁に関する何らかの根拠規定を置くことが通常ですが、根拠規定を置かない場合、民法上の措置(契約解除、損害賠償)のみとなります。ただ、民法上の措置のみでは柔軟性を欠き、現実的な対処法とは言えません。
そこで、制裁処分を行うためにも利用規約の整備が必須となるのですが、サービス提供事業者の自由裁量で利用規約を整備すれば事足りるという訳にはいきません。そこには法令上の制限を含め、一定の限界があります。
本記事では、制裁処分を実行するために必要となる要件を確認した上で、利用規約を整備する上でのポイントを解説します。
【解説】
1.制裁するための要件
ユーザは、サービス提供事業者が用意するプラットフォーム上でサービス提供を受けるにすぎません。このため、サービス提供事業者は、自らの考え方次第で、ユーザのプラットフォーム上での動きをコントロールすることが可能です。
ただ、プラットフォーム上はサービス提供事業者が好き勝手な対応ができるとしても、法律上その対応が許されるのかは別問題です。
特にユーザに対して何らかの制裁措置を講じる場合、ユーザに対する不利益が大きいことから、次に記載する3事項を遵守する必要があると考えられます。
(1)根拠規定(禁止事項)を定めること
ユーザに対して何らかの制裁を行う場合、ユーザがサービス提供事業者に迷惑をかけたこと、すなわち何らかの問題行動を起こしたことが大前提となります。
この「問題行動」について、社会常識的にNGな行動全て…と言いたいところなのですが、社会常識は各人によって考え方が異なるため、サービス提供事業者が常識的にNGだと判断しても、ユーザは問題なしと認識していることも十分あり得ます。特に近時では、注意喚起されていない事項以外については何をやってもよい…という風潮さえあるところです。
以上のことから、ユーザに対して制裁を行うための1つ目の要件として、サービス提供事業者がNGと考える事項を具体的に列挙し、ユーザに告知・周知することが必要となります。
(2)利用規約等の手続きに沿うこと
例えば会員制の有料サロンなどで見かけることがあるのですが、何らかの制裁処分を科す前に、問題行動を起こしたユーザに対して弁明させる、といった手続きを定めていることがあります(プロバイダ責任制限法において、投稿内容の削除措置を講じるに先立ち、プロバイダが投稿者に対して照会手続きを行うことに準じて、利用規約でも定めている場合があるようです)。
仮にサービス提供事業者が、ユーザの問題行動に対して制裁を行うに当たり、例外なく当該ユーザに対して弁明の機会を付与すると定めているのであれば、当然のことながら、サービス提供事業者は弁明手続きを取る必要があります。この弁明手続きを取らない場合、サービス提供事業者自らが利用規約に違反する行為を行ったこととなり、制裁の根拠を欠くと言わざるを得ません。
以上のことから、ユーザに対して制裁を行うための2つ目の要件として、利用規約に定めた手続きに従っていることが必要となります。
(3)制裁内容を定めること
特定のユーザの行為が禁止事項に該当する以上、サービス提供事業者は利用規約に従って制裁を科すことが一応可能となります。もっとも、その制裁内容についてサービス提供事業者の思い付きで、好き勝手にしてよいということにはなりません。
例えば、制裁内容につきサービス提供事業者の自由裁量であるとして、同一の違反事由であるにも関わらず、時には多額の違約金の支払いをユーザに科す、別の時には違反ユーザのハンドルネーム等を公表するといった、どのような制裁が科されるのか分からない(予見できない)というのは問題となり得ます。
一方で、違反の軽重を問わず、制裁内容は退会措置しかないというのもバランスを欠くという点で問題となります。
なお、運用上の観点となりますが、同じ問題行動を起こしたユーザが複数いる場合、一方は利用歴(課金歴)が長いから軽めの処分、他方は利用歴(課金歴)が短いので重めの処分といった均衡性を欠く処分を科すことも問題となり得ます。
以上のことから、ユーザに対して制裁を行うための3つ目の要件として、制裁処分については複数の類型を用意し、禁止事項違反の軽重等に対応した制裁処分を利用規約に明記することが必要となります。
2.根拠規定(禁止事項)を定めるうえでの留意点
(1)禁止事項の内容
上記1.(1)で記述した通り、ユーザに対して何らかの制裁を科すためには、大前提として禁止事項を利用規約に明記し、周知を図る必要があります。
では、具体的にどのような禁止事項を定めればよいのかが問題となるのですが、これはサービス内容によって異なります。ここでは、一般的によく定められている事項を列挙しておきます。
①法令順守を目的とした禁止事項例
・財産権(所有権など)侵害の禁止
・知的財産権(著作権、商標権など)侵害の禁止
・プライバシー等の侵害禁止
・公序良俗違反行為の禁止
・裁判所の判決等に違反する行為の禁止
②ユーザ保護を目的とした禁止条項例
・虚偽情報による登録禁止
・アカウントの不正利用の禁止
・アカウントの第三者譲渡、貸与等する行為の禁止
・なりすましの禁止
・複数アカウント取得の禁止
③サービス安全性確保を目的とした禁止事項例
・リバースエンジニアリング等の禁止
・コンピューター・ウィルス等を送信する行為の禁止
・情報の改ざん、消去の禁止
・不正アクセス等の禁止
・アクセス制御等の回避行為の禁止
④不適切行為防止を目的とした禁止事項例
・当社サービスに付随する第三者サービス提供行為の禁止
・サービス利用者に対して第三者取扱商品等の宣伝広告等の禁止
・宗教活動への勧誘行為の禁止
・反社会的勢力に対する協力行為の禁止
・転売目的による商品購入の禁止
⑤不当表現防止を目的とした禁止事項例
・誹謗中傷投稿の禁止
・選挙運動に関連する投稿の禁止
・わいせつ投稿の禁止
・差別につながる投稿の禁止
・個人情報の投稿禁止
⑥その他の禁止事項例
・いわゆるバスケット条項による行為規制
・カスタマーハラスメントの禁止
上記は一般的によく見かける禁止事項ですが、全て記載していないと不十分という訳ではありません。例えば、ユーザによる投稿機能サービスが無いのであれば、上記⑤の不当表現防止を目的とした禁止事項をあえて定める必要性は乏しいと言えます。
一方で、提供するサービス内容によっては、上記①から⑥には分類されないサービス特有の禁止事項を定めることもあり得る話です。例えば、婚活サービスであれば未成年者による使用を禁止することを定めることが必要となります。
(2)法令等による制限
禁止事項を定めるに際しては、サービス内容に応じて網羅的に規定すると共に、ユーザに容易に理解してもらえるよう明確かつ一義的に表現することが重要なポイントとなります。
ただ、何でもかんでも禁止事項として定めておけばよいという訳ではなく、そこには一定の限界があります。
典型的には、消費者契約法第10条により「消費者の利益を一方的に害する」禁止事項は無効となります。なお、ユーザが事業者のみに限定される場合は消費者契約法の適用がありませんが、定型約款(民法第548条の2第1項)に該当する場合、「相手方の利益を一方的に害すると認められる」事項はそもそも合意が成立しないと定められています。
いずれにせよ、あまりに一方的な禁止事項を定めた場合、上記のような法律に基づき法的効力を持たない場合があることに注意が必要です。
ところで、最近議論になっているのは、いわゆる包括条項(バスケット条項)の有効性についてです。
後述4.(2)でも触れますが、抽象的な内容であるが故にサービス提供事業者による濫用のおそれが大きく、ユーザが著しく不利益な扱いを受けるリスクがあるという指摘があるところです。
とはいえ、変化の激しい現代社会において、全ての事象を事前に予測し、それを禁止事項として定めておくことはおよそ不可能と言わざるを得ません。この点からすれば、包括条項(バスケット条項)を定める必要性は高いと考えられます。
結局のところ、包括条項(バスケット条項)の必要性と上記のような指摘(懸念)を考慮した内容が望ましいと言えるのですが、例えば…
・該当例を2~3記述し、ユーザに予見可能性を付与する包括条項(バスケット条項)とする
・該当判断につき、合理的根拠と合理的判断が必要である旨定めた包括条項(バスケット条項)とする
・バスケット条項の運用に当たり、ユーザに対し事前に通知と異議申立権を付与する
といった工夫が今後必要になると考えられます。
(3)禁止事項の具体的な表現方法
禁止事項の具体的な定め方に関するポイントや表現方法については、次の記事をご参照ください。
3.制裁内容を定める上での留意点
禁止事項に該当することで、何らかの制裁処分を発動させる場合、どのような制裁処分があり得るのか、あらかじめ利用規約に定めておく必要があります。
(1)制裁内容の分類
制裁内容や分類について、法律上特段の決まりごとはありません。
もっとも、サービス提供事業者が定める利用規約を分析していくと、4種類前後の制裁内容を定めることが多いようです。
①(ユーザが投稿した)情報の削除
※ユーザがプラットフォーム上に蓄積した情報の巻戻し(削除)を含む
②一時的な利用停止
③永久の利用停止(退会措置、いわゆる垢バン)
※サービスへの再入会拒否処分を含む
④違約金の請求
①から③については、ユーザによるサービス利用に対して何らかの制限を科すという意味での制裁処分であり、順に処分内容が重くなるという性質を有します。
一方、④は、ユーザに直接的な金銭負担を科すものであり、ユーザによるサービス利用制限とは別次元の制裁処分となります。
その他制裁処分については、サービス内容に応じて様々なものが考えられますが、サービス提供事業者が効率的な運用を図る場合、上記4種類の制裁内容を利用規約に定めておくことは必須と考えるべきです。
(2)法令による制限
制裁内容とその実施は、ユーザに対して直接的な不利益を及ぼすものである以上、必要かつ相当な範囲で行われなければならないことは当然です。
また、上記2.(2)で解説した通り、消費者契約法第10条及び民法第548条の2第2項についても意識する必要があります。
さらに、④違約金の請求については、次の点にも注意が必要となります。
消費者契約法第9条第1号
消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの (※当該超える部分につき無効) |
例えば、極端な例ですが、サービス提供事業者が定める禁止事項に違反したユーザは、直ちに1億円の違約金を支払うと定めていた場合、形式上ユーザは支払い義務を負うことになります。
しかし、一般的にはサービス提供事業者に1億円もの損害が発生しているとは考えられません。そのような場合、上記消費者契約法第9条第1号が発動し、1億円の違約金請求は不可ということになります。
どれくらいの違約金額が妥当なのかはケースバイケースであり、「平均的な損害」をどのように考えるのかにもよります。この点については弁護士と相談しながら決めたほうが無難です。
4.制裁に伴うリスク回避措置を定めるうえでの留意点
(1)法令による制限
サービス提供事業者がユーザに対して制裁処分を科す場合、①禁止事項及び制裁内容につき、利用規約上の根拠があること、②禁止事項に違反するユーザの行為をサービス提供事業者が捕捉していること、③ユーザの違反行為について証拠による裏付けを行っていること、が通常です。
しかし、何かの間違いにより、サービス提供事業者が誤ってユーザに対して制裁処分を科してしまうこともあり得る話です。この場合、ユーザは制裁処分を受けている以上、何らかの不利益を被っており、場合によってはユーザがサービス提供事業者に対して損害賠償請求を行うという事態に発展しかねません。
そこで、サービス提供事業者は、ユーザからの損害賠償請求について一切受入れない、又は一定額の範囲に留めるといった対策を利用規約上に定めることになるのですが、この場合、消費者契約法に留意する必要があります。
第8条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
①事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項 ②事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項 ③消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項 ④消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項 |
要は…
・契約違反(債務不履行)、不法行為を問わず、サービス提供事業者が全部免責されることを定めても無効
・契約違反(債務不履行)、不法行為を問わず、サービス提供事業者が一部免責されるに留まるのであれば原則有効。但し、サービス提供事業者に故意重過失がある場合、消費者契約法第10条違反となる場合は無効
となります。
サービス提供事業者としては、例えば、「事業者に契約違反又は不法行為があった場合、事業者はユーザに対し、ユーザが支払った利用料金の1ヶ月分を上限として損害賠償責任を負うものとします。但し、サービス提供事業者に故意又は重過失があった場合はこの限りではありません。」といった規定を利用規約に定めるといった対応が無難と考えられます。
なお、ユーザが消費者ではない場合、消費者契約法が適用されません。このため、「サービス提供事業者は、事由の如何を問わず一切責任を負いません」と利用規約に定めていた場合、理屈の上では有効と考えられます。
もっとも、サービス提供事業者に故意重過失があるにもかかわらず、一切免責されるというのは不合理であるとして、免責条項の適用を否定する複数の裁判例が存在します。
したがって、BtoBサービスを前提とする場合であっても、利用規約に全部免責条項さえ定めておけば問題なしと考えるのは禁物です。
(2)モバゲー裁判の影響
モバゲー裁判とは、令和2年11月5日に東京高等裁判所が出した判決のことです。
この裁判ですが、利用規約に、禁止事項として「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合」とする包括(バスケット)条項を定めた上で、禁止事項に違反したことへの制裁処分によるモバゲー会員への悪影響が生じることに関して、「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません」と全部免責条項を定めていたことが問題視された事案となります。
そして、東京高裁はこの免責条項につき、消費者契約法に違反し無効と判断しました。
本記事執筆時点において上記東京高裁の判決から約2年が経過しようとしているのですが、未だにこのような条項を定めているサービス事業者は多いように思われます。
今後はこのような規定を置いていても、無効と判断される可能性が高い状況であることに十分ご注意ください。なお、包括(バスケット)条項及び免責条項の見直しについては、是非とも弁護士と相談して対処してほしいところです。
<2022年8月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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