当直勤務をしていた勤務医からの未払い賃金請求
<質問>
当院では勤務医が当直勤務を行っています。当直勤務は労働基準法の適用外であると聞いていたので、特に賃金は支給していませんでした。今般、退職した元勤務医より当直時間中に相当する賃金が未払いあると主張する通知書が送付されてきたのですが、どのように対処すればよいのでしょうか。
<回答>
当直勤務が労働基準法の適用外であるというご指摘は、おそらく労働基準法第41条第3号に定める「断続的労働」のことを指しているのだと考えられます。
この断続的勤務については、①行政官庁の許可を得ているのか、②当直勤務の実態が、労働基準法が想定する断続的勤務の概念と合致するのか、③断続的勤務に該当するとしても、突発的な急患対応等を行った時間を労働時間としてカウントし賃金を支払っているのか、といったことを検討する必要があります。
【解説】
労働基準法第41条第3号において「断続的勤務」に関する規定があり、当直勤務はこの断続的勤務に該当すると医療業界内では認識されているようです。
たしかに、直ちに間違いとは言い切れません。
ただ、実際にこのようなご相談を受けていると、そもそも必要な許可を得ておらず、労働基準法第41条第3号を適用することができないという事態に遭遇したりします。意外と見落としがちですので、必要な許可を得ているのか再度確認されることをお勧めします。
次に、行政官庁の許可を得ているとして、実際に行われている当直勤務の内容が、労働基準法第41条第3号に定める「断続的勤務」の範疇に該当するか検証する必要があります。これは「断続的勤務」の定義について、厚生労働省が平成14年に「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」という通達を出しており、裁判例もこの通達を前提に断続的勤務に該当するか否かの判断を行っているからです。詳細は当該通達を読んでいただきたいのですが、ポイントしては、相当な睡眠設備があることを前提に、病室の定時巡回や検温等の特殊措置を要しない程度の軽度のもの、又は短時間業務を念頭にしている点となります。
したがって、実態として、上記通達に書かれている軽度又は短時間業務とはいえない場合は「断続的勤務」には該当しないということになります。この場合、睡眠時間を含めて労働時間としてカウントされ、当該時間分の賃金支払い義務を負う可能性が極めて高いといわざるを得ません。
なお、非常に誤解があるのですが、必要な許可を得るとともに、法の予定する断続的労働に該当する場合であっても、急患対応等の実働があった場合、その実働部分は当然労働時間であり賃金支払い対象となります。断続的労働に該当するから一切賃金支払い義務を負わないということではないので注意が必要です。また、当直手当を支払ったことが、直ちに当直時間中の実労働に対する賃金を支払ったとみなしてよいのかは全く別問題であることにも注意が必要です(当直手当について、いわゆる定額残業代のような賃金形態にしたほうが無難ではないかと考えられます)