労基対応

1.なぜ労働基準監督署対策が必要なのか

(1)そもそも労働基準監督署とは何か

労働基準監督署とは、厚生労働省が各都道府県に設置している労働局の出先機関であり、全国に300以上あります。主な業務は、事業者に対する労働基準法等の遵守状況の監督、労災給付、労働保険の適用及び労働保険料の徴収、未払い賃金立替事業、個別労使紛争の斡旋などです。

この労働基準監督署には、労働基準監督官と呼ばれる者が配置されています。そして、労働基準監督官は、臨検監督と呼ばれる調査権限と特別司法警察職員としての強制捜査権限を有しています。ただ、労働基準監督官が、特別司法警察職員として活動することは稀であり、現場実務では臨検監督権限の行使に対して、どのように対処するのかが事業者・会社の関心事になると考えられます。

 

さて、臨検監督には、①定期監督、②申告監督、③災害時監督、④再監督の4種類があります。

定期監督は、労働基準監督署が任意で事業者・会社を選択し調査を行うものです。基本的には、不意に調査対象となることが多いのですが、事前に「今年は××業種を中心に調査する」といった厚生労働省等より発表がされることがありますので、その場合はあらかじめ準備しておいたほうが無難です。

申告監督は、労働者(退職者を含む)から労働基準監督署に法律違反の通報があったことをきっかけに行われる調査をいいます。弁護士が労働基準監督署対応を行う場合、おそらく多くの場合が申告監督ではないかと思われます。事前に労働者とトラブル(例えば、残業代の支払いにつき労使で見解の相違があるなど)があった場合は、臨検監督があり得ると予測ができるのですが、表面的にはトラブルが発生していなくても労働者が不満に思っていることを労働基準監督署に申告することで調査が行われるということもあったりします。

災害時監督は、死亡事故など一定規模以上の労働災害が発生した場合に行われる調査です。これは事前予測が可能な調査となります。

再監督は、行政指導(是正勧告など)を受けたにもかかわらず、事業者・会社が従わない場合に行われる調査です。悪質性ありと判断して行われる調査であるため、その対応は当然厳しいものとなります。

 

(2)労働基準監督署への対応を怠ることによるリスク

様々なリスクが想定されますが、ここでは3つのリスクを取り上げます。

①刑事罰を受けるリスク

ある日突然、労働基準監督官が訪問してきて臨検監督を実施すると告げられた場合、事業者・会社としては心理的抵抗もあり、臨検監督を拒絶したい気持ちになるかもしれません。

しかし、臨検監督を拒絶した場合、労働基準法第120条違反となり30万円以下の罰金に処される可能性が生じます。

【労働基準法第120条】

次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の罰金に処する。

(1から3号省略)

④第101条(第100条第3項において準用する場合を含む。)の規定による労働基準監督官又は女性主管局長若しくはその指定する所属官吏の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者

 

なお、不謹慎ながら、30万円程度なら軽い犯罪では…と思われる事業者・会社もいるかもしれません。しかし、例えば、厚生労働省が許認可官庁となる事業(派遣業、職業紹介業など)を行っている場合、許認可取消事由となり事業を継続することが不可能となります。また、助成金などの不支給事由にも該当することが通常です。さらに、労働基準法違反で処罰されたことがプレスリリースされることで、世間的にはブラック企業と認知され、すさまじい風評被害を受けることにもなります。

したがって、刑事罰を受けることによる悪影響が様々なところに波及するリスクも覚悟する必要があります。

 

②労使問題が拡大するリスク

例えば、退職した労働者と未払い残業代に関するトラブルがあり、退職した労働者が労働基準監督署に通報したことで、労働基準監督官が来社し、臨検監督が実施されたとします。

この臨検監督に対して事業者・会社が誠実に対応しない場合、労働基準監督署は悪質性を考慮して、申告者である退職した労働者のみならず、事業所に勤務する全労働者を対象とした調査に切り替えてくることがあります。

そうなると、トラブルになっていない未払い残業問題が表沙汰になり、結果的に事業者・会社は多額の金銭負担を強いられることになります(もちろん、本来であれば支払うべきものなのですが、予期せぬキャッシュアウトによる事業者・会社の財務に与える影響は甚大であり、下手をすれば経営危機に陥るリスクさえ出てきます)。

「労働法など守っていては経営などできない」といった本音があるかもしれませんが、法令違反があるのであれば、適切に解決するという姿勢を示すことが重要です。

 

③取引が打ち切られるリスク

近時は大手企業を中心に、「サプライチェーンにおけるビジネスと人権問題」に取り組むことが多くなってきているところ、労働法を遵守できない事業者・会社はサプライチェーンより排除される事例が多数生じています。

例えば、労働基準監督署による臨検監督に対して不誠実な対応を行う、行政指導に従わないこと等を原因として検察庁へ送検されたといったことが公となった場合、大手企業としては、自らの社会的責任を果たすべく、取引打ち切りを選択することも十分あり得るところです。

労働基準監督署への対応は、単なる社内問題に留まらないことを認識する必要があります。

 

 

2.労働基準監督署と対峙する場面で注意したいポイント

(1)呼び出しを受けた場合

執筆者個人の感覚に過ぎませんが、この場合、労働者からの通報に起因する申告監督である場合が多いように思います。

理屈の上では、この労働基準監督署からの呼び出しは事実上のものに過ぎず、応じなかったことだけを理由として不利益処分を受けることはありません。

ただ、上記1.(2)でも解説した通り、労働基準監督署は悪質な事業者・会社であるという心証を抱きますので、通報者以外の労働者との問題にまで調査範囲を拡張し、結果的に労使トラブルを増幅させかねないリスクが発生します。

したがって、労働基準監督署より呼び出しを受けた場合、できる限り社長が出向く、社長の都合がつかないようであれば、人事労務の責任者が出向いて説明を聞き、誠実に対応することをお勧めします。

 

(2)臨検監督があった場合

臨検監督の場合、事前に日時の予告があって来社し実施する場合と予告なく突然来社し実施する場合の2パターンが存在します。

①事前予告を受けていた場合

一般的には、次のような資料を準備するよう労働基準監督署より指示を受けますので、事前に準備を行います。

組織図、労働者名簿、賃金台帳、労働者別の時間外労働・休日労働に関する実績資料、タイムカード等の勤務時間の記録、時間外・休日労働に関する協定届(36協定)、就業規則、変形労働時間制・裁量労働制・フレックスタイム制を導入している場合は労使協定、年次有給休暇取得状況に関する管理簿、労働者別の労働条件通知書、安全管理者等の選任状況に関する資料、安全委員会等の設置・運営状況に関する資料、産業医の選任状況に関する資料、健康診断の実施結果

 

上記資料のうち、事業者・会社で作成していないものがあるかもしれません。その場合、無理に作成するのではなく、存在しない旨労働基準監督官に説明し、指示(是正勧告などの行政指導)を受けて対処すれば事足ります。

また、資料はあるものの、素人目に見ても法令違反であることが明白なものがあるかもしれません。しかし、隠したり又は改ざんしても、後で発覚しますので、結果的には労働基準監督官の心証を害するだけであって何も良いことはありません。ありのままの状態で労働基準監督官に開示するべきです。もちろん、違法である旨の指摘を受けますが、指摘に従い改善すれば、それ以上のペナルティを課されることは想定されにくいというのが実情です。

なお、関連して、労働基準監督官からの聞き取り調査に備え、労働者に対して虚偽の発言を行うよう仕向けることも絶対に止めるべきです。

 

ところで、労働基準監督官は上記資料(のコピー)を持ち帰って検討する場合もありますが、その場で直ちに検証することが一般的です。その点を考慮した場合、会議室などを予め準備しておくことが無難です(可能であれば、他の労働者とは隔離された場所の方が良いと思われます)。

 

ちなみに、事前予告があるとはいえ、労働基準監督署が指定する日時がどうしても都合が悪い場合があります。この場合、臨検監督を受け入れること自体は異議がないことを明確にした上で、日時変更の要請をした場合、比較的柔軟に応じてもらえることが多いように思います。したがって、日時の調整がつかい場合は、早めに労働基準監督官に連絡し、日程調整に関する協議をすることをお勧めします。

 

②予告が無かった場合

事業者・会社にとっては不意打ちであり、抵抗感も強いため、臨検監督を拒否したいと思うかもしれません。しかし、不当な拒否は労働基準法第120条違反となること上記1.(2)記載の通りです。

したがって、臨検監督は受け入れざるを得ません。

ただ、不意打ちであるが故に、社長や人事労務担当者が不在という場合もあり、上記①で記載した資料を用意できない場合もあるかと思います。その場合は、その旨正確に説明し、後日準備の上で開示することを提案すれば、たいていの場合は後日に改めて臨検監督を行うことで収まることが多いように思います。

心理的な抵抗はあるかと思いますが、その場でできることは誠実に実行し、できないことは現時点では困難だが後日対処可能であることを説明することがポイントとなります。

 

なお、資料を隠したり改ざんしないこと、口裏合わせ等しないこと、隔離された会議室に案内することなどは、上記①で解説した内容がそのまま当てはまります。

 

 

3.是正勧告書・是正指導書が提示された場面で注意したいポイント

臨検監督後、何ら問題がなければそれにて終了となりますが、通常は何かしらの問題が見つかりますので、労働基準監督署より何らかの文書が交付されます。その文書とは、使用停止等命令書、是正勧告書、及び是正指導書なのですが、ここでは現場実務でよく見かける是正勧告書と是正指導書を取り上げます。

 

(1)是正勧告・是正指導の意義

臨検監督の実施後、労働基準監督署より是正勧告書又は是正指導書が交付されるのが通常です。それぞれの文書の意義は次の通りです。

是正勧告書…法令違反が認められる場合に、違反事項の指摘と対処を要求する文書

是正指導書…法令違反ではないが改善が望ましい事項がある場合に、改善事項の指摘と対処を要求する文書

 

なお、理屈上の話となりますが、是正勧告及び是正指導は「行政指導」に分類されるため、是正勧告書や是正指導書にて指摘された事項に不満や誤りがある場合に不服申立てを行うことができません。

ただ一方で、「行政指導」に過ぎないため、是正勧告や是正指導にて指摘された事項への対処を怠ったとしても、そのこと自体で直ちに不利益処分を受けるわけではありません。とはいえ、再監督になることは必須ですし(さらに厳しい調査を受けることになります)、特に是正勧告の場合は法令違反があることを前提にした行政指導ですので、その法令違反となる事実を根拠に刑事事件化するリスクが生じます(例えば、賃金不払いであれば労働基準法第24条違反となるので、労働基準法第120条第1号による刑事罰の対象となるなど)。

したがって、是正勧告書や是正指導書にて指摘された事項に対する不服がある場合、次の(2)で解説する報告書にて対応することになります。

 

(2)報告書の提出

是正勧告に対しては是正報告書を、是正指導に対しては改善報告書をそれぞれ提出します。

なお、理屈の上ではこれらの報告書を提出する義務はなく、不提出であること自体で直ちに不利益処分を受けるわけではありません。しかし、上記(1)に記載したようなリスクを招来することになりますので、現場実務では報告書を提出しないという選択肢はないと考えるべきです。

さて、是正勧告書及び是正指導書には、いつまでに対処するよう確定日付が書いてあり、それまでに報告書を労働基準監督署に提出することになります。そして、通常であれば、指定された確定日付までに是正又は改善対処したことを報告書に記載し提出します。

どうしても指定された確定日付までに是正又は改善が難しい場合は、事前に労働基準監督官に連絡し延長を申出ることになります。この延長を申出る際、なぜ延長する必要があるのかその合理的必要性を説明できるのか(単に忙しくて手が付けれない等では納得してもらえません)、事業者・会社として確実に報告できる日時はいつかを設定することがポイントとなります。

 

一方、是正勧告書や是正指導書にて指摘された事項に対して不服がある場合、報告書を作成するに際してはちょっとしたテクニックが必要となります。

例えば、労働基準監督官より、タイムカードにある始業・終業時刻に従って賃金を支払うよう指摘された場合において、事業所の実情として打刻時間と労働時間とに齟齬が生じているのであれば、その点を報告書に記載すると共に、裏付け証拠があるのであればその証拠を報告書に添付して提出するといった対応が必要となります。

ちなみに、上記対応後は労働基準監督官より連絡が入ることが通常であるところ、事業者・会社としては、自らの主張を理論的に説明し、労働基準監督官と粘り強く交渉する必要があります。この交渉に際しては、弁護士等の専門家に支援を受けたほうが望ましいと思われます。

 

 

4.労働基準監督署対策を弁護士に依頼する理由

(1)メリット

労働基準監督署が介入したことをきっかけに、事業者・会社に波及する様々な悪影響を断ち切ることを念頭に置くのであれば、全体像を見渡し、総合的な見通しを立て、よりベターな戦略を立案した上で、個々のトラブルにつき現場対応することが求められます。

もっとも、このような総合的な考察は、相当訓練を受けないことには難しいところがあります。

しかし、弁護士の場合、訴訟外の交渉案件や訴訟上の紛争案件を通じて、常日頃から上記のような総合的考察を行い実践しています。

例えば、上記1.(2)でも解説したような、労働基準監督署に対する不誠実な対応に起因した労使トラブルの拡大を防止するのであれば、先手を打って、労働基準監督官に対して申告者と協議したいので間に入ってほしいと要請し、申告者との和解協議を同時並行で進めてしまうといった具合です。

労働基準監督署対策を弁護士に依頼する最大のメリットは、事業者・会社が本来負わなくてもよい責任とリスクから解放されることにあります。

 

(2)リーガルブレスD法律事務所の強み

労働基準監督署対策を弁護士に依頼するメリットは上記(1)に記載した通りです。当事務所では、さらに次のような強みがあると自負しています。

①労働基準監督署への対応実績が複数あること

当事務所の代表弁護士は、2001年の弁護士登録以来、事業者・会社からの依頼に基づき、臨検監督への立会い、是正報告書・改善報告書の作成支援、労働基準監督官との折衝など、複数の労働基準監督署への対応問題に関与してきました。

これらの現場で培われた知見とノウハウを活用しながら、ご相談者様への対応を心がけています。

 

②時々刻々変化する現場での対応を意識していること

弁護士に対する不満として、「言っていることは分かるが、現場でどのように実践すればよいのか分からない」というものがあります。

この不満に対する解消法は色々なものが考えられますが、当事務所では、例えば、労働基準監督官と直接のやり取りを行っている担当者との間で直接の質疑応答を可とする、書式や文案を提示し必要書類の作成工数削減を図る、労働基準監督官とのやり取りを行うに際して想定問答を作成するなどして、現場担当者との接触を密にし、実情に応じた対処法の提示を常に意識しています。

また、必要があれば、労働基準監督官との面談に立ち会うなどして、現場担当者の負担の軽減と適切な措置実施の支援を行っています。

 

③原因分析と今後の防止策の提案を行っていること

弁護士が関与する前に労働基準監督署への対応を行ったところ、事業者・会社が思い描いていたような結論を得られず、以後の対応に苦慮している場合があるかもしれません。

こういった場合に必要なのは、方針・対処法の軌道修正をすることはもちろんのこと、なぜ思い描いた結論に至らなかったのか原因検証し、今後同じ問題が発生しないよう対策を講じることです。

当事務所では、臨検監督への対応を通じて気が付いた問題点の抽出を行い、改善の必要性につきご提案を行っています。そして、ご相談者様よりご依頼があった場合、オプションサービスとして、就業規則や社内規程の制定、マニュアルの整備、担当者向け勉強会の実施なども行っています。

労務トラブル防止のための継続的なコンサルティングサービスもご対応可能です。

 

 

5.労働基準監督署対策を弁護士に依頼した場合の料金

(1)法律相談サービス

【サービス内容】

経営課題への対処や問題解決のために、法的観点からのアドバイスを行うサービスです。

 

【当事務所の特徴】

①資料(是正勧告書や是正指導書、労働契約書、就業規則等の社内規程、相手からの通知書、ご相談者様自らが作成したメモなど)を予め検討したうえで、法律相談に臨みます。

(但し、法律相談実施日の3営業日前までにご送付願います)

②法律相談実施後2週間以内であれば、ご相談事項に関連する追加のご質問について無料で対応します。

(但し、メールによるお問い合わせに限定させて頂きます)

 

【ご利用者様が得られるメリット】

法的根拠の有無を確認し、方針を組み立てることで、自信を持って経営課題に対処し、問題解決に取り組むことができます。

 

【弁護士費用】

1万5000円(税別)

 

(2)労働基準監督署対策にまつわるご依頼内容の具体例

【例1:是正勧告への対応】

・臨検監督に基づき是正勧告書が交付されたが、一部指摘事項につき納得がいかない

・報告書の作成方法、その他今後の対処法についてアドバイスが欲しい

 

<弁護士費用>

5万円~/月(税別)×解決期間(月)

※是正勧告書に記載されている指摘事項に対する事実上の反論を行った場合、労働基準監督官との交渉に要する準備支援が必要となり、ある程度時間をかけて対応する必要があると考えられるため、顧問契約に近い形式での対応としています。

※弁護士が直接労働基準監督官と交渉する場合、別途費用が加算されます。

※労働基準監督署が臨検監督するきっかけとなった申告者との紛争対応は、上記費用に含まれていません。弁護士による対応をご希望される場合、費用体系が変更となります。

 

【例2:臨検監督への立会】

・労働基準監督署より、臨検監督を行う旨の事前予告があった

・臨検監督に立ち会ってほしい

 

<弁護士費用>

10万円~/回(税別)

※臨検監督までの会社資料の精査、方針打合せの費用を含みます。

※労働基準監督署が臨検監督するきっかけとなった申告者との紛争対応は、上記費用に含まれていません。弁護士による対応をご希望される場合、費用体系が変更となります。