従業員以外の者が、従業員宛に送信した私信メールを会社が閲覧・モニタリングすることは可能か?

従業員以外の者が、従業員宛に送信した私信メールを会社が閲覧・モニタリングすることは可能か?

質問

 弊社は、就業規則に基づき、各従業員に貸与している会社パソコン内のデータを定期的に閲覧していますが、弊社従業員以外の第三者から弊社従業員宛の私信メールも多く含まれています。

 

 この様な私信メールを閲覧することは問題があるのでしょうか。

回答

 対従業員との関係では、就業規則が適切に定められている限り、問題ないと考えて良いでしょう。
 また、対第三者との関係でも、基本的には問題にならないと考えて良いと思われます。

<解説>

1.対従業員との関係について

 メールのモニタリングの可否、従業員とのプライバシー権との調整等の名称で論じられることがありますが、例えば、就業規則等の社内規程において、「会社が貸与したパソコン内のデータ情報は会社の財産であり、会社は必要に応じて当該データ情報を閲覧することができる。」等の定めがあれば、従業員のプライバシー権を侵害していると判断される可能性は低いと考えられます。

2.対第三者との関係について

 上記で述べたとおり、対従業員との関係では就業規則や社内規程を根拠にすることができました。

 しかしながら、従業員以外の第三者には就業規則や社内規程に拘束されるわけではありません。

 そうすると、第三者としては、メールの名宛人以外の者が閲覧することを期待せずにメールを送信している以上、会社が当該メールを閲覧した場合、対第三者との関係ではプライバシー侵害が成立するのではないかという問題が生じます。

 

 特に、私信メールではなく私信「手紙」の事例ですが、高裁判例として、「私信は特定の相手だけに思想や感情を伝えることを目的としており、もともと公開を予定していないものであるから、その性質上当然に私生活に属する事柄であって、その内容がどのようなものであれ、一般人の感受性を基準にすれば公開を欲しないものと解すべきもの」と解釈し、「発信者は、…本件手紙をみだりに公開されないことについて法的保護に値する利益を有しており、その承諾なしに公開することは、人格権であるプライバシーの権利を侵害するもの」と判断して、プライバシー権侵害に基づく慰謝料請求が認められている(高松高裁平成8年4月26日判決)ことから、メールでも問題になるのではないかと考えるところです。
 この点、メールも手紙も私信であること、私信は本来名宛人以外の第三者に閲覧されることを予定しておらず、また発信者も期待していないことから、プライバシー権侵害が成立するという考え方も成り立ちうるでしょう。

 

 しかしながら、第三者の閲覧を希望しない手紙であれば封書により送付されるところ、手紙の場合、物理的に封書を開封しない限り、内容を閲覧することは不可能です。

 

 一方、メールの場合、会社のサーバを介して送信される以上、物理的に内容を閲覧できないようにすることは困難と言わざるを得ません(会社のサーバにデータが残る以上、当該データより閲覧は可能です)。

 また、会社のドメイン名を用いたアドレスであれば、情報管理の必要性が叫ばれている今日において、第三者である送信者は、会社によるモニタリングの可能性等を十分認識できるのであって、メールで送信する以上、閲覧のリスクを甘受すべきとも考えられます。

 したがって、私信の手紙の場合とは事情を異にする以上、直ちに上記裁判例の解釈が妥当するわけではなく、基本的には対第三者との関係であってもプライバシー権侵害は成立しないと考えてよいと思われます。

 

 もっとも、会社担当者(例えば、会社内の閲覧担当者や情報管理責任者、必要に応じてその上長等)に止まらず、関係のない従業員や会社外の第三者に公開した場合、公開の必要性・相当性を欠くと考えられますので、プライバシー権侵害の可能性は生じると言わざるを得ませんので、注意が必要です。
 

※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。