内容証明郵便への対応
1.なぜ従業員・元従業員が送付した内容証明郵便への対応が必要なのか
(1)内容証明郵便とは
内容証明郵便とは、日本郵便株式会社が提供する郵便サービスの1つであり、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって日本郵便株式会社が証明する郵便サービスとなります。なお、受取人が文書を受領したことを日本郵便株式会社に証明してもらうために、配達証明サービスも付加することが通常です。このため、「配達証明付き内容証明郵便」と呼んだ方が正確かもしれません。
さて、内容証明郵便は、あくまでも文書の存在(=××という事項を記載した文書を送付したこと)を日本郵便株式会社が証明するだけであり、文書の内容の真実性を証明するものではありません。したがって、内容証明郵便は、差出人が一方的に言いたいことを記述したお手紙に過ぎない…というのが本来の趣旨です。
しかし、現場実務で内容証明郵便が用いられる場合は、差出人の本気度を示す、その裏返しとして、受取人に心理的圧力を加える目的があることが通常です。
このため、内容証明郵便を受領したにもかかわらず、受取人が適切な対応を行わなかった場合、差出人はさらに強力な手段に打って出るリスクが高くなり、紛争が泥沼化することにもなりかねません。
(2)従業員・元従業員からの内容証明郵便対応を怠ることによるリスク
従業員・元従業員から会社・事業者宛に内容用証明郵便が送付されてくる場面は様々なものがありますが、典型的なものとして次の3パターンが考えられます。
①未払い賃金(残業代)の請求
退職した元従業員からの、「×円の残業代を、本書受領後×日以内に支払え」といった内容証明郵便などが代表的なものとなります。
会社・事業者によっては、どうせこれ以上は何もしてこないだろう…と高を括って何も対応しないということもあるようです。しかし、適切な対応を行わなかった場合、労働基準監督署の臨検が行われる、労働組合が団体交渉を申出てくる、労働審判や訴訟が提起されるといった、より深刻な事態に陥ることが近時は多くなってきています。そして、深刻な事態になればなるほど、最終的な会社・事業者の出費は高くつくことになります(遅延損害金や付加金の支払い、専門家への対応費用など)。
したがって、未払い賃金(残業代)の支払いを求める内容証明を受領した場合、会社・事業者は、未払い賃金(残業代)が発生するのか検証し、発生しているのであれば支払う、発生はしているものの金額が異なるのであればその旨反論し交渉する、といった対応が必要となります。
②ハラスメントによる慰謝料(損害賠償)請求
在籍中の従業員又は退職した元従業員からの、「×氏よりハラスメントを受け精神的苦痛を受けたので、その慰謝料として×円を本書受領後×日以内に支払え」といった内容証明郵便が代表的なものとなります。
上記①と同様に、これ以上は何も…といった会社・事業者の慢心による対応放置の場合もありますが、社内調査等に時間がかかり結果的に差出人からすれば無反応に見えてしまう…ということがあったりします。ただ、様々な事情があるとはいえ、適切な対応を行わなかった場合、労働組合が団体交渉を申出てくる、訴訟が提起される、近時ではSNS等に投稿され社会的非難を浴びるといった、やはり深刻な事態に陥るリスクが付きまといます。また、深刻な事態になればなるほど、最終的な会社・事業者の出費は高くつくことも同様です。
支払期限などは差出人が一方的に設定してきたものとはいえ、差出人が次のアクションに移行するための猶予期間という意味合いがあることを考慮し、例えば、社内調査に時間がかかるのであればその旨を返答するなどして、最低限のコミュニケーションを図るといった対応が必要となります。
③不当解雇を理由とする復職請求
元従業員からの、「×月×日付解雇の言い渡しは不当なので、直ちに復職させること(復職までの期間中の賃金を支払うこと)」といった内容証明郵便が代表的なものとなります。
解雇処分については、会社・事業者が差出人(元従業員)を相当問題視していることが多く、感情的な対立もあることから、“やれるものならやってみろ。とことん戦ってやる!”とあえて反応しないという方針をとることも多いようです。しかし、無反応の場合、労働組合が団体交渉を申出てくる、仮処分等の訴訟が提起される、場合によっては勝手に出社し社内に居座り続けて他の従業員の業務を妨害する…といった深刻な事態を招きかねません。また、事態が悪化すればするほど、最終的な会社・事業者の負担が重くなることも同様です。
解雇に正当性があるのかにつき弁護士等の専門家の見解を参照しつつ、解雇の正当性につき反論するのか、解雇を撤回し復職を認めるのか、合意退職に向けた金銭解決を目指すのか等の方針を決め、差出人に回答するといった対応が必要となります。
2.従業員・元従業員からの内容証明郵便を受領した段階で注意したいポイント
(1)受領した直後に確認するべき事項
内容証明郵便は、代表者・社長宛で送付されてくることが多いことから、会社・事業者によっては、社長宛の手紙を勝手に開封することはNGであるとして、受領しても社長が見るまではそのまま放置するといった社内対応をとるところもあるようです。
しかし、上記1.(1)でも解説した通り、内容証明郵便は差出人の強い意向が示された文書であることから、たとえ代表者・社長宛であったとしても、社内担当者が開封し、中身を直ぐに確認するという体制を構築しておくべきです。
次に、開封後、文書内容を確認した上で、次の事項を整理することがポイントです。
・内容証明郵便の受領日(郵便局員より受け取った日)
・差出人(従業員本人or弁護士等の代理人なのか)
・回答期限(本書受領後7日という記載であれば、具体的な日付の特定)
・差出人の要求事項(金銭要求であれば具体的金額など)
・要求するに至った原因(ハラスメントの指摘など)
ところで、内容証明郵便が送付されてくるということは、会社・事業者にとっては不都合なことが記載されているので、それなら一層のこと内容証明郵便を受領しない(受け取りを拒否する、郵便局保管期間内に取りにいかない等)という対応を取った方がよいのではないかと考える方もいるかもしれません。
ただ、執筆者個人としては、このような対応はお勧めすることができません。
なぜなら、内容証明郵便を受領しないということは、受領者(会社・事業者)において交渉の余地なしという態度を示したことにほかならず、差出人はより強い(会社・事業者にとって不利益な)手段を講じることになってしまいかねないからです。
一般的に労使紛争は、協議による解決を模索することが、会社・事業者の時間、労力、お金の負担を最小限に抑えることができます。わざわざ会社・事業者において、負担増加を招く選択をすることは得策ではありません。
(2)事案別の確認するべきポイント
従業員・元従業員より内容証明郵便を受領した場合の総論的なチェック事項は、上記(1)の通りです。ここでは、未払い賃金(残業代)、ハラスメント、不当解雇といった事案ごとでチェックすべき事項のポイントを記載します。
①未払い賃金(残業代)の請求
差出人(従業員・元従業員)が要求する未払い賃金額が具体的に書いてある場合、その算出方法が記載されているかを確認する必要があります。
もし算出方法が記載されていない場合、差出人に対し算出根拠を照会することが初動対応となります。なお、内容証明郵便とは別に算出方法に関する資料が普通郵便等で送付されてくることがありますので、別郵便がないか確認したいところです。
一方、差出人は未払い賃金があると指摘するのみで、算出するための資料を提出するよう要求している場合、原則的には算出のための資料(タイムカード、日報など)を準備し、提出することが初動対応となります。なお、資料を提出しなければ、差出人は算出ができないのではないかと考える会社・事業者もいるかもしれません。しかし、資料提出を不当に拒絶した場合、慰謝料支払いの対象になるという裁判例が存在しますので、提出しないという選択肢はお勧めできるものではありません。
②ハラスメントによる慰謝料(損害賠償)請求
ハラスメントが行われた具体的な日時、場所、加害者、行為態様、目撃者の有無など具体的な事実関係が記載されているかを確認する必要があります。
もし具体的な事実関係について記載がない場合、差出人に対し、時系列にそって5W1H形式で特定するよう返答するのが初動対応となります。
一方、具体的な事実関係が記載されている場合、社内調査に要する時間を考慮しながら、差出人に対し、いつまで調査がかかるのか見込み等について返答するのが初動対応となります。
③不当解雇を理由とする復職請求
解雇理由について具体的な記載がされているかを確認する必要があります。
もし具体的な記載がされていない場合、そもそも会社・事業者として解雇を行った事実があるのか、解雇を行った事実があるとして、いつ、どこで、誰が、どのような理由で、どのような方法を用いて解雇を伝えたのかを会社・事業者で調査することが初動対応となります。なお、会社・事業者において解雇した事実がないのであれば、その旨を差出人に回答することになりますが、合わせて今後の処遇をどうするのか決めておく必要があります。
一方、具体的な解雇理由等が記載されている場合、解雇は正当と言えるのか、証拠はそろっているのかを調査することが初動対応となります。
3.従業員・元従業員からの内容証明郵便に対して反論を行う場面で注意したいポイント
(1)反論する前に確認したい事項
まず、形式的なことですが、内容証明郵便が送付されてきた以上、反論書面を返す場合は内容証明郵便にしなければならないという決まり事はありません。普通郵便でも構いませんし、FAXや電子メール、何なら電話でも構いません。どのような手段を用いて反論するのかは、ケースバイケースで臨機応変に対処すれば足ります。
次に、内容証明郵便で何らかの要求を受けた場合、その要求に必ず従わなければならない義務が生じるわけではありません。上記1.(1)でも記載した通り、内容証明郵便は文書の存在が証明されるだけであり、文書の内容の真実性まで証明されるわけではないからです。会社・事業者の認識と異なる内容があるのであれば、むしろ積極的に反論するべきです。
さらに、内容証明郵便を受領した場合、応答しなければならない義務が生じるわけではありません。応答(反論)するか否かは会社・事業者の任意となります。ただ、上記1.(1)で解説した通り、差出人はそれ相応の覚悟をもって内容証明郵便を送付していますので、一切応答しないという対応は、次の新たな強力な手段に打って出る引き金になり得ます。このため、よほどのことがない限り、一切応答しないという対応はとらないほうが良いと考えられます。
(2)事案別の反論のポイント
従業員・元従業員からの内容証明郵便に対して反論する場合の総括的なチェック事項は、上記(1)の通りです。ここでは、未払い賃金(残業代)、ハラスメント、不当解雇といった事案ごとで、反論に際して留意したい事項のポイントを記載します。
①未払い賃金(残業代)の請求
差出人(従業員・元従業員)が指摘する事項に対して、単に反論するだけでは不十分です。会社・事業者が認識する算出方法に従えば、未払い賃金(残業代)は発生しない又は発生しても×円に留まるといった、対案まで明記することがポイントです。
この対案内容が理論的に明快であり、かつ対案内容に対する証拠が十分であればあるほど、差出人(従業員・元従業員)は、強い態度に出られなくなるからです。
なお、その後は裁判外での合理的な数字(支払額)を探る交渉に移行させることで、会社・事業者にとっては、最小限の時間・労力・お金の負担で済むというメリットを享受することができます。
②ハラスメントによる慰謝料(損害賠償)請求
差出人(従業員・元従業員)が指摘する加害者の言動が存在するのか、存在するとして違法性を有するハラスメントと評価されるのか、この点を区別しながら反論することがポイントです。
反論内容が必要十分であれば、差出人(従業員・元従業員)として承服しがたいものの、しかし裁判等で立証できるのか(勝訴できるか)疑義が生じるため、これ以上の追及は行わないということがあり得るからです。
ちなみに、その言動だけを取り上げればハラスメントと認められる余地があっても、その言動に至る経緯からすれば、ハラスメントに該当しないという裁判例は複数存在します。また、ハラスメントと一口に言っても、決して穏当とは言い難いが民事上違法とまでは言えないとする裁判例も複数存在します。
事実の存否とその評価は、高度な専門性を必要としますので、可能な限り弁護士等の専門家の見解を踏まえつつ判断したいところです。
③不当解雇を理由とする復職請求
差出人(従業員・元従業員)は往々にして自らの問題行動を過小評価していることが多いことから、会社・事業者が積極的に問題行動を事細かに指摘し、組織全体として差出人(従業員・元従業員)を迎え入れることはできないことを明確にすることがポイントです。
解雇が正当性を有するかは正直ハードルが高いものの、しかし問題行動を具体的に指摘すればするほど、差出人(従業員・元従業員)は自らの非違行為に気付き、復職しても自分の居場所がないことを理解します。この結果、事実上復職要求が撤回されることがあり得るからです。
なお、事実上復職要求が撤回された後、差出人(従業員・元従業員)が何も言ってこないため静観するという場合もありますが、一般的には合意退職に向けた裁判外交渉に移行することが多いと思われます。この合意退職を行うに際し、会社・事業者は一定額の解決金を支払うことになることが通常ですが、それでもなお、時間・労力・お金の負担は最小限に抑えられるというメリットを会社・事業者は享受することが可能となります。
4.従業員・元従業員からの内容証明郵便対応を弁護士に依頼する理由
(1)メリット
従業員・元従業員からの内容証明郵便を受領した場合、会社・事業者は、①必要以上に恐れ慄いてしまい、過剰な要求であるにもかかわらず受け入れてしまう、あるいは②必要以上に感情を高ぶらせてしまい、本来受け入れるべき要求であるにもかかわらず冷静な判断ができない、といった好ましくない対応を取ってしまうことが多いようです。そして、最初の好ましくない対応が尾を引いてしまい、あってはならない方向に事態が推移し、会社・事業者が大損害を受けるということも現実に発生しています。
こういった会社・事業者が大損害を受ける事態を避け、労使紛争を落ち着くべきところで落ち着かせて解決を図り、究極的には会社・事業者における負担を最小限にすること、これらを実現可能とすることが、弁護士に依頼するメリットとなります。
(2)リーガルブレスD法律事務所の強み
従業員・元従業員からの内容証明郵便対応を弁護士に依頼するメリットは上記(1)に記載した通りです。当事務所では、さらに次のような強みがあると自負しています。
①従業員・元従業員からの内容証明郵便対応に多数の解決実績があること
当事務所の代表弁護士は、2001年の弁護士登録以来、事業者・会社からの依頼に基づき、従業員・元従業員からの内容証明郵便対応に関与し、解決を図ってきました。
これらの現場で培われた知見とノウハウを活用しながら、ご相談者様への対応を心がけています。
②時々刻々変化する現場での対応を意識していること
弁護士に対する不満として、「言っていることは分かるが、現場でどのように実践すればよいのか分からない」というものがあります。
この不満に対する解消法は色々なものが考えられますが、当事務所では、例えば、差出人(従業員・元従業員)と直接のやり取りを行っている担当者との間で直接の質疑応答を可とする、書式や文案を提示し必要書類の作成工数削減を図る、差出人(従業員・元従業員)とのやり取りを行うに際して想定問答を作成するなどして、現場担当者との接触を密にし、実情に応じた対処法の提示を常に意識しています。
また、必要があれば、差出人(従業員・元従業員)との交渉代理を行うなどして、現場担当者の負担の軽減と適切な措置実施の支援を行っています。
③原因分析と今後の防止策の提案を行っていること
弁護士が関与する前に差出人(従業員・元従業員)との対応を行ったところ、事業者・会社が思い描いていたような結論を得られず、以後の対応に苦慮している場合があるかもしれません。
こういった場合に必要なのは、方針・対処法の軌道修正をすることはもちろんのこと、なぜ思い描いた結論に至らなかったのか原因検証し、今後同じ問題が発生しないよう対策を講じることです。
当事務所では、差出人(従業員・元従業員)への対応を通じて気が付いた問題点の抽出を行い、改善の必要性につきご提案を行っています。そして、ご相談者様よりご依頼があった場合、オプションサービスとして、就業規則や社内規程の制定、マニュアルの整備、担当者向け勉強会の実施なども行っています。
労務トラブル防止のための継続的なコンサルティングサービスもご対応可能です。
5.従業員・元従業員からの内容証明郵便対応を弁護士に依頼した場合の料金
(1)法律相談サービス
【サービス内容】
経営課題への対処や問題解決のために、法的観点からのアドバイスを行うサービスです。
【当事務所の特徴】
①資料(差出人からの内容証明郵便、労働契約書、就業規則等の社内規程、ご相談者様自らが作成したメモなど)を予め検討したうえで、法律相談に臨みます。
(但し、法律相談実施日の3営業日前までにご送付願います)
②法律相談実施後2週間以内であれば、ご相談事項に関連する追加のご質問について無料で対応します。
(但し、メールによるお問い合わせに限定させて頂きます)
【ご利用者様が得られるメリット】
法的根拠の有無を確認し、方針を組み立てることで、自信を持って経営課題に対処し、問題解決に取り組むことができます。
【弁護士費用】
1万5000円(税別)
(2)従業員・元従業員からの内容証明郵便対応にまつわるご依頼内容の具体例
【例1:解雇撤回要求への対応】
・元従業員より、×年×月×日付解雇の撤回と復職を要求する内容証明郵便が届いた
・当社は解雇をした認識はないものの、さりとて今更復職を認めるつもりもない
・反論書面を作成し、元従業員に送付してほしい
<弁護士費用>
7万円~(税別)
※反論書面作成までの会社資料の精査、方針打合せの費用を含みます。
※反論書面送付後の従業員・元従業員からの連絡に対する対応、労働基準監督署・労働組合・弁護士介入による交渉対応、労働審判・仮処分・訴訟などの手続き対応に要する弁護士費用は、上記費用に含まれていません。弁護士による対応をご希望される場合、費用体系が変更となります。
【例2:残業代請求への対応】
・元従業員の代理人弁護士と名乗る者より、残業代支払いに関する内容証明郵便が届いた
・今後の対応につき、当社の代理人弁護士として活動して欲しい
<弁護士費用>
10万円~/月(税別)×解決期間
※計算資料の収集と分析、未払い賃金の計算、元従業員側の代理人弁護士との交渉などの一連の対応につき、ある程度時間をかけて対応する必要があると考えられるため、顧問契約に近い形式での対応としています。
※上記は、裁判外での交渉のみを念頭に置いています。交渉が決裂するなどして、労働審判・訴訟などの第三者機関が関与する手続きに移行した場合の弁護士費用は、上記費用に含まれていません。弁護士による対応をご希望される場合、費用体系が変更となります。