景品表示法に定める優良誤認表示とは何か? 具体例や考え方について解説
Contents
【ご相談内容】
同業他社が、景品表示法に定める優良誤認表示違反の疑義があるとして、消費者庁の調査を受けているという情報に接しました。当社としても他人事と思えませんので、これを機に景品表示法に関する見識を深めていきたいと考えています。
そこで、優良誤認表示とは何か、その具体例や判断基準、違反しないための予防策などについて教えてください。
【回答】
優良誤認表示については、景品表示法第5条第1号で定義されていますが、例えば、カシミヤ混用率が80%程度のセーターに「カシミヤ100%」と表示した場合とか、「この技術を用いた商品は日本で当社のものだけ」と表示していたが、実際は競争業者も同じ技術を用いた商品を販売していた場合、といった事実とは異なるのに優良であると偽って広告表示した場合のことを言います。
たくさんの事例が公表されていますので、本記事では実際に優良誤認表示と認定された事例をいくつか取り上げながら、なぜ問題視されたのか、これらの事例から得られる教訓は何かを解説していきます。また、優良誤認表示と言われないための予防策についても簡単に触れておきます。
【解説】
1.優良誤認表示とは
優良誤認表示は、景品表示法第5条第1号で次のように定められています。
商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの |
ここで「事業者」とは、景品表示法第2条第1項で定義されていますが、法人・個人事業主を問わず、業種を問わず、対消費者に対して商売を行うあらゆる者と認識しておけば足ります。なお、一定の条件に該当すれば「事業者」から除外されるということはありません。
また、「表示」とは、景品表示法第2条第4項で定義されていますが、これについてもありとあらゆる広告媒体が該当すると認識しておけば足ります。やはり一定の条件に該当すれば「表示」に該当しないということはありません。
以下では、その他の要件について解説します。
(1)規制対象
優良誤認表示の規制対象は「品質、規格その他の内容」です。具体的には次のようなものとなります。
・品質:成分(原材料、純度、添加物等)、属性(性能、効果、鮮度等)
・規格:国、公的機関、民間団体等が定めた一定の要件を満たすことで自動的に又は認証等を経て表示することができる等級など
・その他の内容:原産地、製造方法、受賞の有無、有効期限など
上記規制対象のうち、(品質のうち)成分や規格については、形式的判断に馴染みやすいものであるため、事業者としても優良誤認表示の該当性につき判断がしやすいと思われます。
一方、(品質のうち)属性については、主観的評価が伴いやすく、事業者と消費者庁とで見解の相違が生じやすい事項となります。そしてこの相違は、後述する不実証広告規制における「合理的な根拠を示す資料」該当性で決定的な差異となって現れ、とかく事業者に不利に作用しがちです。
品質(特に属性)に対して、どこまで念入りに注意を払うことができるのかが重要ポイントとなります。
(2)著しく
景品表示法第5条第1号では、「著しく優良である」と表示することが禁止されています。
この「著しく」という要件につき、よく事業者から、
・多少オーバーな表示は許されるという意味ではないのか(特に悪質なものだけ取り締まるという趣旨ではないのか)
・故意、重過失による表示はともかく、軽過失(不注意、ミス)の場合は「著しく」に該当しないのではないか
という問い合わせを受けることがあるのですが、残念ながら“そのような意味ではない”と回答せざるを得ないのが実情です。
景品表示法には「著しく」に関する定義は定められていませんが、消費者庁は次のような見解を示しています。
・「著しく」とは、当該表示の誇張の程度が、社会一般に許容される程度を超えて、一般消費者による商品・サービスの選択に影響を与える場合をいう。(不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針より引用)
・「著しく」とは、誇張・誇大の程度が社会一般に許容されている程度を超えていることを指します。そして、誇張・誇大が社会一般に許容される程度を超えるものであるか否かは、当該表示を誤認して顧客が誘引されるか否かで判断され、その誤認がなければ顧客が誘引されることが通常ないであろうと認められる程度に達する誇大表示であれば「著しく優良であると一般消費者に誤認される」表示に当たります。(消費者庁が公表している「事例でわかる景品表示法」より引用)
つまり、「著しく」とは、多少オーバーな表示のうち一部に限定するという意味ではなく、多少を問わずオーバーな表現が行われることで一般消費者が購入の動機付けになる場合は、すべて「著しく」に該当すると消費者庁は解釈しています。
オーバーな表示ではあるが、「著しく」ない表示だから優良誤認表示に該当しない、過失はなかったという反論は通用しないことを押さえておく必要があります。
(3)著しく優良であること
景品表示法第5条第1号では、優良誤認表示には
・実際のものよりも著しく優良であると示すこと
・事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すこと
の2種類があることを定めています。
以下では、2.で「実際のものよりも著しく優良であると示すこと」の具体例をいくつか検討していきます。また3.で「事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すこと」の具体例を検討します。
なお、具体例ですが、本記事執筆時点(2023年5月執筆)において、消費者庁が公表している最新の事例集である「景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表(令和5年3月31日現在)」を参照しています。
(4)不実証広告規制
不実証広告規制は優良誤認表示の場合のみ適用がある制度です。
これは、「消費者庁長官は、優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合には、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、事業者が求められた資料を期間内に提出しない場合や、提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合には、当該表示は、措置命令との関係では不当表示とみなされ(第7条第2項)、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定される(第8条第3項)。」制度のことを言います。
端的にいえば、商品等の品質・属性・規格その他の内容に関して優良であると表示するのであれば、事業者自らが客観的かつ合理的根拠を準備すること、準備ができない場合は優良誤認表示として消費者庁は取扱うというものです。本来、行政機関が事業者に対して不利益処分を行うのであれば、行政機関が問題点(優良誤認表示に該当すること)を証明する必要があるのですが、上記の不実証広告規制は証明責任を転換したものと位置づけられます。
この不実証広告規制は、事業者にとって脅威というほかなく、過去の処分事例を見ていても、多くの事業者が証明しきれずに優良誤認表示で措置命令を受けるという状況となっています(なお、事業者による証明のどこに問題があったのか、どの程度の証明を要するのか等については、消費者庁から説明されません)。
次の資料を参照しつつ、客観的かつ合理的な根拠は何かを探るほかないというのが実情です。
(参考)
消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」
2.実際のものよりも著しく優良であると示すこと
(1)具体例
表示と実際の内容が異なるとして、優良誤認表示と認定された典型的な事案を3つ紹介します。
【例1】令和4年9月6日措置命令の事案
×株式会社は、「トロピカーナ 100% まるごと果実感 メロンテイスト」と称する果実ミックスジュース(以下「本件商品」という。)を一般消費者に販売するに当たり、令和2年6月9日から令和4年4月13日までの間、容器において、「厳選マスクメロン」、「Tropicana® REAL FRUIT EXPERIENCE まるごと果実感」、「100%MELON TASTE」等と表示することにより、あたかも、本件商品の原材料の大部分がメロンの果汁であるかのように示す表示をしていた。
実際には、原材料の98パーセント程度はぶどう、りんご及びバナナの果汁を用いており、メロンの果汁は2パーセント程度しか用いていないものであった。 |
消費者庁が公表する場合、違反事業者の名称まで明記しているのですが、一応本記事では伏せておきます(商品名を見ると分かる方には分かってしまいますが…)。
さて、上記事例はマスコミ等でも大々的に報じられたものであり、おそらく知っている方も多いと思われます。実際の表示内容は、次の参考で引用した消費者庁のリリース記事を確認していただければと思うのですが、
<表示・記載>メロンを強調する表示
<世間の認識>メロン果汁がふんだんに用いられていると認識
<実情・真実>メロン果汁の使用は2%程度
というものであり、これでは優良誤認表示と言われても仕方がない…というものです。
おそらく事業者としては、“メロンテイストと明記しているだけであって、メロン果汁を使用しているとは一言も書いていない”というのが言い分だと思いますが、表示全体から判断する限り、消費者に誤解を招くものであって、このような言い分は通用しないことをイメージしていただければと思います。
(参考)
【例2】令和4年12月21日措置命令の事案
有限会社×は、例えば、自社ウェブサイトにおいて、少なくとも令和2年3月から令和4年7月までの間、「但馬牛焼肉竹田屋」、「徹底した但馬牛の本質にこだわり」、「厳選した但馬牛の焼肉と地場野菜」等と表示するなど、あたかも、「竹田屋」と称する焼肉店で提供する料理には「但馬牛」が使用されているかのように表示していたが、実際には但馬牛ではない和牛が使用されていた。 |
内容としては、
<表示・記載>但馬牛を強調
<世間の認識>ブランド牛である但馬牛が提供されると認識
<実情・真実>但馬牛を使用していない
というものであり、教科書に出てくるような典型的な優良誤認表示の例となります。
あえて本記事で取り上げたのは、上記【例1】は全国で商品が流通し誰しもが知る有名企業の事例であるのに対し、【例2】は一地方で運営しているに過ぎず、(おそらくは)全国的な知名度は低いと考えられる事業者であるという点です。すなわち、有名企業はもちろんのこと、たとえ一地方の中小企業であっても発覚した場合は容赦なく景品表示法違反として取り締まり対象となるという点に注意してほしいからです。
“当社のような地域限定で知名度のないところであれば、わざわざ取り締まりにこないでしょう”と甘く考えている事業者もいるのですが、決してそうではないということを肝に銘じてほしいところです(景品表示法違反として公表された場合、深刻な風評被害を招きますし、課徴金納付命令で経済的な損失も被ります。また、場合によっては返金措置を余儀なくされることもあり、経営に与える影響は重大です)。
(参考)
【例3】令和5年2月15日措置命令の事案
×株式会社らは、共同して、令和4年5月21日及び同月22日に東京ドームで実施された「L’Arc~en~Ciel 30th L’Anniversary LIVE」と称するコンサート(以下「本件役務」という。)を一般消費者に提供するにあたり、例えば、令和4年1月1日から同年5月18日までの間、「30th L‘Anniversary LIVE 2022 MAY 21 22 ―TOKYO DOME― L’Arc~en~Ciel」と称するウェブサイトにおいて、「会場の座席レイアウトはこちら」との記載と共にステージ、W会員シート、SS席、S席及びA席について会場内でのそれぞれの配置場所を図示した画像等を表示するなど、あたかも、SS席を購入すれば1階アリーナ席、S席を購入すれば1階スタンド席、また、A席を購入すればバルコニー席又は2階スタンド席で本件役務の提供を受けることができるかのように示す表示をしていた。
実際には、SS席を購入しても1階スタンド席で本件役務の提供を受ける場合があり、S席を購入しても主に1階スタンド席後方でしか本件役務の提供を受けることができず、かつ、バルコニー席又は2階スタンド席で本件役務の提供を受ける場合があり、また、A席を購入してもバルコニー席で本件役務の提供を受けることはできず、かつ、主に2階スタンド席後方でしか本件役務の提供を受けることができないものであった。 |
この事案についても、マスコミ等で大きく報じられましたので知っている方多いかと思います。内容としては、
<表示・記載>ランクに対応した座席配置図を表示
<世間の認識>当該ランクに応じて希望する配置内に座席が用意されると認識
<実情・真実>ランクと座席配置が対応していない
というものであり、初歩的なミスと言えばよいのでしょうか、なぜこのような座席配置図を表示したのかやや理解に苦しむ事例です(コンサート会場に行けば、確実にクレームが出ることが予想されます)。
有体物(商品)における表示のみならず、無体物(サービス、役務)の表示であっても、景品表示法の取り締まり対象となることをイメージして頂きたく、本事案をあげました。
(参考)
(2)打消し表示
優良誤認表示の典型的な具体例として【例1】から【例3】をあげましたが、最近では、優良誤認表示のうち「打消し表示」と呼ばれる表示方法が問題視されています。
ここで「打消し表示」とは、強調表示からは一般消費者が通常は予期できない事項であって、一般消費者が商品・サービスを選択するに当たって重要な考慮要素となるものに関する表示をいうと定義されています(消費者庁「打消し表示に関する実態調査報告書」1頁参照)。そして、同報告書では、打消し表示の類型として、例外型、体験談型、別条件型、非保証型、変更可能性型、追加料金型、試験条件型などがあると指摘しています。
この打消し表示が問題視されているのは、「強調表示は、対象商品・サービスの全てについて、無条件、無制約に当てはまるものと一般消費者に受け止められるため、仮に例外などがあるときは、その旨の表示(いわゆる打消し表示)を分かりやすく適切に行わなければ、その強調表示は、一般消費者に誤認され」るからと同報告書では説明しています。
この打消し表示の具体例としては、次のようなものがあります。
【例4】令和4年4月15日措置命令の事案
×株式会社は、「クレベリン 置き型 60g」と称する商品(以下「本件商品」という。)及び「クレベリン 置き型 150g」と称する商品の各商品(以下これらを併せて「本件2商品」という。)を一般消費者に販売するに当たり、例えば、本件商品について、平成30年9月13日以降、商品パッケージにおいて、「空間に浮遊するウイルス・菌・ニオイを除去※」、「用途 空間のウイルス除去・除菌・消臭にご使用いただけます。」等と表示するなど、あたかも、本件2商品をリビング等の室内に設置すれば、本件2商品から発生する二酸化塩素の作用により、リビング等において、室内空間に浮遊するウイルス又は菌が除去又は除菌される効果等が得られるかのように示す表示をしている又は表示をしていた。
なお、例えば、本件商品について、平成30年9月13日以降、商品パッケージにおいて、「◎ご利用環境により成分の広がりは異なります。」、「◎ウイルス・菌・カビ・ニオイのすべてを除去できるものではありません。」及び「※当社試験 閉鎖空間で二酸化塩素により特定の『浮遊ウイルス・浮遊菌』の除去を確認。」とする表示を、商品パッケージ等の「表示期間」や「表示媒体・表示箇所」欄に表示していた。 |
これは著名な医薬品メーカーに対する措置命令であり、大きく報道され反響を呼んだ事例となります(なお、その後、当時では過去最高額の課徴金納付命令が出されたことでも話題となりました)。内容としては、
<表示・記載>空間に浮遊するウイルス・菌・ニオイを除去と表示。なお、打消し表示として、利用環境により除去作用に影響があること、全てのウイルス等除去できるわけではないこと等を表示
<世間の認識>(打消し表示があるとはいえ、分かりづらい箇所に記載されていたことから)商品を設置することで、室内空間に浮遊する全てのウイルス又は菌が除去又は除菌される効果等が得られる認識
<実情・真実>打消し表示が記載されていた場所・配置等からして、一般消費者の認識を打ち消すものではない(打消し表示に気が付かない、分かりづらいので、打消しになっていない)
というものです。
実際の打消し表示の記載場所・配置等については消費者庁のリリース記事を確認してほしいのですが、打消し表示の場所・配置等は世間一般で多くみられるものではないかと思われます。この記載方法がNGとなると、おそらくは多くの企業で打消し表示の方法について見直しが必要になると予想されますので、リリース記事と報告書の内容につき、今一度精査してほしいところです。
(参考)
3.事実に相違して競争事業者のものよりも著しく優良であると示すこと
「事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すこと」の代表例は比較広告や最高級表現と呼ばれるものです。
「比較広告」とは、自己の供給する商品又は役務(以下「商品等」という。)について、これと競争関係にある特定の商品等を比較対象商品等として示し(暗示的に示す場合を含む。)、商品等の内容又は取引条件に関して、客観的に測定又は評価することによって比較する広告のことをいいます(消費者庁「比較広告に関する景品表示法上の考え方」を参照)。
比較広告それ自体は全面的に禁止されているわけではありません。むしろ、その特徴を適切に比較できる具体的情報が提供されるのであれば、一般消費者にとって有益となります。
そこで、景品表示法違反となる比較広告は、①実証されていない、又は実証され得ない事項を挙げて比較するもの、②一般消費者の商品選択にとって重要でない事項を重要であるかのように強調して比較するもの及び比較する商品を恣意的に選び出すなど不公正な基準によって比較するもの、③ 一般消費者に対する具体的な情報提供ではなく、単に競争事業者又はその商品を中傷し又はひぼうするもの、といったものに限定されています。
詳しくは、次の資料をご参照ください。
(参考)
次に、「最高級表現」とは、比較広告の一種であり、「最高」「最大」「最速」等の表現で、他の全ての事業者の提供する商品等と比較して優位性があると表示する広告のことを言います。これについては、消費者庁によるガイドライン等は定められていませんが、何をもって最高級と表現するのか、その根拠は何か等について形式的に判断することが可能です。
したがって、取締り対象となりやすく、安易に用いてはいけない表現となります。
【例5】令和5年1月12日措置命令の事案
株式会社×は、「メガスタ高校生」と称するオンライン個別学習指導に係る役務、「メガスタ医学部」と称するオンライン個別学習指導に係る役務、「メガスタ中学生」と称するオンライン個別学習指導に係る役務、「メガスタ私立」と称するオンライン個別学習指導に係る役務、「メガスタ小学生」と称するオンライン個別学習指導に係る役務(以下これらを併せて「本件5役務」という。)を一般消費者に提供するに当たり、本件5役務について、令和4年4月4日及び同年5月10日から同年6月21日までの間、自社ウェブサイトにおいて、「オンライン家庭教師で利用者満足度No.1に選ばれました!」、「第1位オンライン家庭教師 利用者満足度」等と表示するなど、あたかも、×が提供する本件5役務及び他の事業者が提供する同種又は類似の役務(以下「同種役務」という。)を利用した者に対する利用者の満足度を客観的な調査方法で調査した結果において、同社が提供する本件5役務に係る利用者の満足度の順位が第1位であるかのように示す表示等をしていた。
しかし、実際には、×が委託した事業者による調査は、回答者に×が提供する本件5役務及び他の事業者が提供する同種役務の利用の有無を確認することなく実施したものであり、×が提供する本件5役務及び他の事業者が提供する同種役務を利用した者の満足度を客観的な調査方法で調査したものではなかった。 |
家庭教師の派遣サービスを実施している事業者の事例となります。内容としては、
<表示・記載>利用者満足度No.1、第1位と表示。
<世間の認識>他の事業者が提供する家庭教師サービスよりも、指導方法・講師の質・実績等が抜きんでていると認識
<実情・真実>調査方法が不十分であり、利用者満足度No.1と裏付けることができない
というものです。
家庭教師派遣サービスに限らず、同業他社がしのぎを削っている業界では、比較広告、特に最上級表現が好んで使われる傾向があるようです。この点、根拠なく最上級表現を使用することがNGであることは当然であるとして、一応の根拠があったとしても、果たして客観的合理性がある根拠と言えるのか検証する必要があることを示唆する事例となります。
特に本件では、調査会社に委託していたようですが、調査会社の結果を鵜呑みにせず、調査の前提となっている対象者が適切なサンプルと言えるのかまで、事業者が確認する必要がある旨の指摘が重要となります(調査会社の結果を信じただけだから責任は無いと反論しても、消費者庁はそのようは反論を採用しません)。
具体的な表現内容や不十分とされた調査方法の詳細については、消費者庁の公表記事でご確認ください。
(参考)
【例6】令和5年3月14日措置命令の事案
×は、「くまのみ整骨院」等と称する店舗において供給する各種役務(以下「本件役務①」という。)並びに「プレミアムボディバランス(Premium Body Balance)」と称する店舗において供給する「美骨盤矯正+選べる最新痩身5種ダイエット」と称する役務(以下「本件役務②」という。)及び「小顔矯正」と称する役務(以下「本件役務③」という。)に係る表示について、例えば、本件役務①について、令和2年2月18日から令和5年1月18日までの間、自社ウェブサイトにおいて、「埼玉県口コミ No1!!」等と表示するなど、あたかも、自社が運営する店舗が「口コミ」において高評価であるかのように表示していたが、実際には、同社が競合他社との比較にあたり選出した事業者には、同社が競合他社との比較に用いている「口コミサイト」において上位に入る店舗を有する事業者が含まれておらず、統計的に客観性が確保された調査によるものではなかった。 |
美容施術に力点を置く整骨院事業者の事例となります。内容としては、
<表示・記載>埼玉県内で口コミNo.1と表示
<世間の認識>他の事業者が提供する美容施術サービスよりも、美容効果を得られた利用者が多いと認識
<実情・真実>調査方法が恣意的であり、口コミNo.1と裏付けることができない
というものです。
なお、上記では引用していませんが、口コミ自体も利用者に特典を与えて書かせており(サクラというべきか?)、口コミの信用性自体も否定されているようです。
おそらくは、外部に公開されている口コミサイト上ではNo.1として記載されており、一見すると表示内容に誤りがないような外形が整っていた事案ではないかと推測されます。もっとも、口コミサイトのからくりを消費者庁が調査したところ、全く恣意的で信用性が無いことが明らかとなってしまい、優良誤認表示として措置命令が出されたと思われます。
少しでも自社に有利な情報を訴求したいという事業者の気持ちは十分理解できるものの、比較方法の公正性が担保されない限り、法律違反は免れないことを示唆する事案となります。
なお、事案の詳細については埼玉県の公表記事でご確認ください。
(参考)
4.優良誤認表示と認定された(景品表示法に違反した)場合
優良誤認表示と認定された場合、①措置命令(景品表示法第7条)、②課徴金納付命令(景品表示法第8条)の2つの処分を受けることになります。
なお、リコールや返金措置といった一般消費者に対して何らかの措置を講じることまで求められるわけではありません。ただ、措置命令が出た場合、消費者庁により公表され、場合によってはマスコミ等に報道されることになることから、大きな騒ぎになる前に一般消費者へどのように対応するのかについては事実上考慮する必要があります。
(1)措置命令
上記2.及び3.で記載した具体例ではすべて措置命令が出ている事案となります。
措置命令の具体的内容は次の通りです。
・表示の差止め命令
・違法行為が再び行われないよう防止するための対策命令
・上記2点の公示命令
・その他必要な事項の実施命令
(2)課徴金納付命令
あえて誤解を恐れずに説明するとすれば、罰金のようなものです。
優良誤認表示と認定され措置命令が出た場合、課徴金納付命令もセットで付いてきますので、事業者への影響は大きなものとなります。
なお、課徴金納付命令の詳細や対策等については、次の記事をご参照ください。
(参考)
景表法における課徴金制度とは?予防策から対処法までそのポイントを解説
5.優良誤認表示違反にならないための予防策
予防策について、残念ながらこれといった特効薬的な方法はありません。
地道に、(a)表示から受ける一般消費者の認識を正しく把握する、(b)実際の商品等の内容を正確に認識する、(c)この2点を比較検討し、差異の有無及び程度を考察する、という方法をとるしかないと考えられます。
まず(a)ですが、事業者自らが一般消費者の認識を判断することは困難と言わざるを得ません。できる限り弁護士等の第三者に判断してもらう、何らかの事情で第三者の判断を仰げず社内で処理しなければならないのであれば、営業担当者以外の従業員に忌憚のない意見を言ってもらうということが重要です。
なお、判断および意見をもらうに際に、事業者として特に意識しておきたい事項としては、業界常識にとらわれないこと、デメリットにつき不表示とすることで誤解を招かないか注意すること、打消し表示の記載場所・配置等が適切かに留意することがあげられます。
次に(b)ですが、記載されていることを形式的に抽出し、意味内容を確定させることが重要です。どうしても事業者、特に表示担当者は、“××と書いても、一般消費者は○○と受け止めるであろう”という希望的解釈をしがちであり、意外とこの客観的な表示内容の確定ができないことが多いようです。
どこに、どのような表示がなされているのか、外観のみで把握することを徹底的に意識する必要があります。
なお、当たり前のことですが、表示する以上はその裏付けとなる客観的かつ合理的な根拠資料を準備することも必要です(不実証広告規制への対策という意味もあります)。この根拠資料ですが、往々にして一般消費者を前提とした利用環境と根拠を作るための実験環境が大きく異なっており、合理性がないというパターンが多数みられますので、この点は是非とも意識したいところです。
最後に(c)ですが、比較検討するに当たり、公正競争規約がある場合は参照する、公正取引委員会のガイドラインがあるのであれば参照する、というのがまずもっての鉄則となります。なお、公正競争規約は業界の自主規制に過ぎませんが、景品表示法違反として取り締まらないということを消費者庁と業界団体とで合意している以上、事業者が業界団体に所属していなかったとしても必ず参照したほうがよいと考えられます。
なお、公正競争規約やガイドラインがない場合、弁護士等の第三者の意見を聞きつつも、最終的には事業者の責任で判断するほかありません。少しでも客観性を担保するのであれば、消費者庁が公表している違反事例をつぶさに確認し、類似事例があれば参照しながら検討することが有用です。
6.当事務所でサポートできること
当事務所は、広告主が掲載希望する広告表示につき、媒体社や広告代理店が定める自主基準に違反しないかという観点からのご相談をお受けしたり、ネット通販など小売業を行う事業者からの広告チェック依頼をお受けするなど、景品表示法を含む広告規制に関するご相談を日常的に受けています。
また、実際に消費者庁より連絡があった後の対処法についても、ご相談を受けています。
これまでに対処したことで得られた知見やノウハウ等を活用することで、ご依頼者様からの景品表示法に関する様々なご相談に対応可能と考えています。
景品表示法その他広告規制に関するご相談があれば、是非当事務所をご利用ください。
<2023年5月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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