利用規約とは?作成・リーガルチェックのポイントについて弁護士が解説

【ご相談内容】

当社がインターネット上で提供することを予定している新サービスにつき、モニターを募集して実際に利用してもらい、サービスの改善に努めることを計画しています。

モニターより利用料を徴収するわけではありませんし、ベータ版であることを明示して利用してもらいますので、わざわざ利用規約を作成するまでも無いと考えているのですが、間違いでしょうか。

 

【回答】

事業者のサービスがベータ版である以上、バグや不具合が発生し上手く稼働しない場合もあることはユーザも認識しており、いちいち文句を言ってくることは無いと考えていたとしても、残念ながらその考えは事業者の独りよがりと言わざるを得ません。

たとえ無償であったとしても、何か問題があればハードクレームをつけてくるユーザは存在します。

したがって、無償版やベータ版であることを問わず、不特定多数のユーザにサービスを利用してもらうのであれば、利用規約を作成の上、ユーザとの権利義務関係を規律することをお勧めします。

以下では、そもそも利用規約とは何か、なぜ作成する必要があるのかに触れた上で、利用規約の作成・リーガルチェックを行う場合に持っておきたい視点、弁護士に依頼した方が良い理由などにつき解説を行います。

 

【解説】

 

1.利用規約とは

利用規約については、法律上の定義はありません。一般的には、オンラインサービスやアプリ、ECサイトなどを運営する事業者がユーザとの間のルール(権利義務関係)を定めたものと定義されたりします。

ところで、権利義務関係を定めるものといえば、契約書をイメージする方も多いかもしれません。そして、利用規約と契約書との異同は何か気になるのではないでしょうか。

何に着目するのかにもよりますが、次のような相違があります。

 

【契約の成立方法】

  利用規約 契約書
成立の形式 一般的にはサイト上に掲載し、ユーザが「同意ボタン」を押すことで成立(黙示の合意もあり得る) 署名・押印または電子署名を行い、双方が合意することで成立
契約の主体 事業者と不特定多数のユーザ 通常は二当事者
交渉の余地 なし(利用規約に従わないのであれば、ユーザはサービスを利用できない) 双方が条件を交渉して合意

 

【法的拘束力】

  利用規約 契約書
変更可能性 一方的に変更できる場合がある 原則不可
証拠力 やや不安定(表示不十分の場合に効力が否定されるなど) 強い(二段の推定など)

 

【主な用途】

  利用規約 契約書
主な使用場面 ECサイト、SaaS、SNS、オンラインゲームなど、不特定多数が利用するサービス 業務委託契約、売買契約、秘密保持契約など、特定の取引
個別対応の必要性 なし(一律に適用) あり(当事者ごとに条件が異なる)

 

上記の通り、利用規約と契約書とでは相違点が多いのですが、どちらか一方のみ使用しなければならないと考える必要はありません。例えば、基本となるオンラインサービスを提供しつつ、さらに追加の有料オプションを組み合わせる場合、基本となるオンラインサービスにつき利用規約でルールを定めつつ、追加の有料オプションについては個別の契約書を締結するといった方法もあり得ます。

契約の効率化を重視するのであれば利用規約を、契約の個別性を重視するのであれば契約書を用いるといった使い分けを意識することがポイントです。

 

 

2.利用規約を作成する必要性

上記1.を踏まえると、事業者と不特定多数のユーザとの関係を規律するために利用規約が必要であると結論付けることができるのですが、もう少し具体的に説明します。

 

(1)法令への対応

利用規約を作成すること自体は法令上の義務ではありません。

しかし、インターネット上でサービスを提供する場合、様々な法令対応が必要となるところ、利用規約を作成しておくことで、法令遵守が可能となる場合があります。

例えば、次の通りです。

 

民法 利用規約に変更があり得ることを定めておくことで、利用規約の一方的な変更の有効性を高めるなど
消費者契約法 事業者の軽過失による一部免責条項の有効性を担保するなど
特定商取引法 特定商取引法に基づく表示事項を利用規約に定めておくことで、法令違反を免れるなど(なお、一般的には利用規約とは別に「特定商取引法に基づく表示」といったページを作成することが多い)
個人情報保護法 取得した個人情報の利用目的や、個人情報の第三者提供ルールを定めておくことで、法令を遵守するなど(なお、一般的には利用規約とは別にプライバシーポリシーといったページを作成することが多い)
ガイドライン 利用規約に必要事項を定めておくことで、電子商取引及び情報財取引等に関する準則や個人情報の保護に関する法律についてのガイドラインに対応するなど

 

(2)事業者にとってのメリット

利用規約を作成することは、事業者にとってメリットにもなります。

 

①法的トラブルを未然に防ぐ

利用規約がないと、ユーザとの間で紛争が発生した際、どのようなルールに基づくかが不明確になります。あらかじめサービスの利用条件や免責事項を定めておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

 

②事業者の権利を守る

例えば、ユーザが不正行為を行った場合にアカウントを停止できるようにする、利用料の支払い遅延があった場合に契約解除できるといった規定を設けることで、事業者の権利を適切に保護できます。

 

③信頼性の向上

利用規約を整備することで、ユーザに対して「安心して利用できるサービス」であることをアピールできます。特にBtoB取引では、利用規約がないと取引先からの信用を失うリスクがあります。

 

④サービス運営の円滑化

サービスの利用条件が明確になっていることで、ユーザからの問い合わせ対応の手間を減らすことができます。また、運営方針を一貫したものにしやすくなります。

 

⑤グローバル展開にも対応できる

海外向けにサービスを提供する場合、準拠法などを明確にすることで海外展開がスムーズになります。

 

(3)まとめ

利用規約の作成は、法律上の義務ではありません。

しかし、契約の明確化、法的トラブルの防止、事業者の権利保護、信頼性の向上など、多くのメリットがあります。また、特定商取引法や消費者契約法などの法令に適合させることで、後々の法的リスクを回避することができます。

事業を安全に運営し、信頼を得るためにも、利用規約をしっかりと作成し、適切に運用することをおすすめします。

 

3.利用規約を作成・検討する上で最低限押さえておきたい視点と条項

 

展開するサービスが異なれば、利用規約に定めるべき事項も異なってきます。このため、ありとあらゆるサービスに適合する利用規約は存在しません。

もっとも、不特定多数のユーザとの関係を一律に対処するという利用規約の目的を踏まえると、どのようなサービスであっても定めておいた方が良いと考えられる共通項を抽出することが可能です。

例えば、次の7項目が考えられます。

 

(1)取引したいユーザの選択

事業者が望ましいユーザを選び、不適切なユーザの排除を可能にする条項を定めておくという視点です。

例えば、

・会員資格に関する条項(個人or法人に限定するのか、未成年者は排除するのか等)

・登録条件に関する条項(ユーザ情報をどこまで取得するのか、虚偽情報が提供された場合の処置等)

・会員審査に関する条項(事業者がユーザ登録を拒否できるか等)

といった内容が考えられます。

 

条項例

当社は、以下のいずれかに該当する場合、登録を拒否または抹消することができます。

(1)登録情報に虚偽がある場合

(2)過去に本規約違反により利用停止処分を受けた場合

(3)その他、当社が不適切と判断した場合

 

(2)出口戦略

事業者が望ましくないと考える個別ユーザを排除する、サービス展開が上手くいかなかった場合に混乱なく終了できることを可能にする条項を定めておくという視点です。

例えば、

・事業者による解除条項(利用規約違反者に対する強制退会を可能にするのか等)

・サービスの中止や中断に関する条項(事業者側の都合でサービスを終了できるようにするのか等)

・ユーザからの解約条項(解約手続きルールを設定するのか、利用料の清算はどのようにするのか、一定の解約禁止期間を設けるのか等)

といった内容が考えられます。

 

条項例

当社は、以下の場合に本サービスを中止または提供を終了することができます。

(1)システムトラブル等によりサービス提供が困難な場合

(2)経営上の判断により、本サービスを終了する場合

(3)その他、当社が必要と判断した場合

 

(3)実施するサービス・実施しないサービスの明記

事業者が対応すべき範囲を明確にすることで、ユーザに誤解を与えない、期待外れと思わせない条項を定めておくという視点です。

例えば、

・提供するサービスの範囲に関する条項(提供される機能により実現可能な範囲はどこまでなのか、サービスが稼働するには条件があるのか、どのようなサポートが提供されるのか等)

・事業者が対応しない事項に関する条項(提供しないサービスは何か、個別カスタマイズに対応するのか等)

といった内容が考えられます。

 

条項例

当社は、本サービスを現状有姿で提供し、以下の事項について一切保証しません。

(1)本サービスがすべてのデバイスで正常に動作すること

(2)本サービスの継続的な提供

 

(4)ユーザに遵守を求めたい事項

トラブルの原因となる行為や事業者としてやって欲しくない事項を定めておくという視点です。

例えば、

・不正アクセスやハッキングの禁止条項

・誹謗中傷の禁止条項

・財産権や知的財産権の侵害行為の禁止条項

・アカウントの譲渡禁止条項

・サービスの不正利用(リセール・転売など)の禁止条項

といった内容が考えられます。

 

条項例

ユーザは、以下の行為を行ってはなりません。

(1) 法令または公序良俗に違反する行為

(2) 他のユーザまたは当社に対する迷惑行為、誹謗中傷

 

(5)マネタイズ

事業者が利益を確保するためにも、料金に関するトラブルを防止する条項を定めておくという視点です。

例えば、

・料金の算定方法に関する条項(従量制か定額制か等)

・料金の支払い方法に関する条項(前払いやクレジットカード払いに限定するのか等)

・未払い時の対応に関する条項(サービスを一時的に利用不可扱いにするのか等)

・返金の可否に関する条項(事業者に帰責性がない場合は返金不可にするのか等)

といった内容が考えられます。

 

条項例

支払済みの料金は、当社の責に帰すべき事由がある場合を除き、返金はいたしません。

 

(6)リスクヘッジ

事業者の責任範囲を限定し、不測の損害を防ぐための条項を定めておくという視点です。

例えば、

・サービスの完全性、正確性、継続性の保証を否認する条項

・ユーザの損害に対する責任制限条項

・サービス内容が将来的に変更されたことに伴う責任制限条項

・利用規約の変更に伴う責任制限条項

といった内容が考えられます。

 

条項例

当社は、本サービスの完全性、正確性、有用性を保証するものではなく、ユーザが本サービスを利用することによって生じた損害について、一切の責任を負いません。

 

(7)紛争処理

法的紛争が発生した際の処理方法に関する条項を定めておくという視点です。

例えば、

・準拠法に関する条項(日本法を準拠法にするのか等)

・言語解釈に関する条項(日本語を誤訳した英語版の利用規約が存在しても、日本語版の利用規約が優先するのか等)

・紛争処理機関に関する条項(特定の裁判所を第一審の専属的合意管轄にするのか等)

といった内容が考えられます。

 

条項例

本規約は日本法に準拠し、本サービスに関連する紛争が生じた場合、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄とします。

 

 

4.利用規約の作成・チェックを弁護士に依頼する理由

 

インターネット上にはテンプレートも多く存在し、自社で作成しようと考える事業者も少なくありません。しかし、そのテンプレートが果たして自社のサービスに合致しているのか、法令に反する内容が含まれていないか、果たしてリスクヘッジができる内容となっているのか、何らの保証はありません。

利用規約の作成やチェックを弁護士に依頼することは、将来のリスクを回避し、ビジネスをより安全かつ円滑に運営するための有用な投資と捉えるべきです。そして、次のようなメリットを享受できることも考慮したいところです。

 

① 法的トラブルを未然に防ぎ、事業を守る

利用規約が適切に作成されていないと、例えば、次のようなリスクが発生します。

・ユーザからのクレームや訴訟リスク(サービスの障害によってユーザが損害を被った場合、利用規約で免責事項を明確にしていなければ、事業者が賠償責任を負う可能性があります)

・消費者契約法違反のリスク(事業者に有利すぎる条項(例:返金不可・一方的な契約解除など)は、消費者契約法で無効になる可能性があります。無効になった場合、当該条項は適用されず、事業者に不利な形で問題が解決されてしまうこともあります)

・契約の不明確さによるトラブル(ユーザとの間で「解釈の違い」によるトラブルが発生しやすくなります。契約内容が曖昧な場合、裁判ではユーザ側に有利な解釈がなされる可能性が高いため、事業者が不利な立場に追い込まれることもあります)

 

弁護士が関与することで、これらのリスクを事前に排除し、事業を守ることができます。

 

②法改正や最新の判例に基づいた適切な内容にできる

法律は頻繁に改正され、裁判例も日々更新されていきます。たとえば、特定商取引法や個人情報保護法は近時大幅な改正がされており、これに対応するために利用規約の改訂が必要になった事業者も多く存在しました。また、近時の裁判例の傾向として、「利用規約の内容が明確でなければ、事業者に不利な解釈がされる」といったものがあります。

 

弁護士であれば、最新の法律・裁判例に基づいた利用規約を作成でき、事業者が不要なリスクを抱えることを防げます。

 

③紛争時に有利な立場を確保できる

万が一、ユーザとの間で紛争が発生した場合、適切な利用規約があるかどうかで、事業者の立場が大きく変わります。例えば、次のような違いが生じます。

・裁判になった際の有利な証拠となる(利用規約に「当社の責任範囲は限定される」と明確に記載されていれば、裁判において事業者の責任を限定できる可能性が高くなります)

・ユーザとの交渉をスムーズに進められる(紛争が発生した際、事前に定めた規約があることで、事業者側がルールに則って冷静に対処できるようになります)

 

弁護士が作成した利用規約があれば、万が一の紛争時にも事業者を守る強力な武器になります。

 

【まとめ】

適切な利用規約の整備は、ビジネスの安定と成長に直結します。「何かあってから対処する」のではなく、「何も起こらないように準備する」ことが重要です。

事業の法的リスクを最小限に抑え、安心して運営するためにも、ぜひ弁護士による利用規約の作成・チェックを依頼することをおすすめします。

 

5.当事務所における利用規約の作成・リーガルチェックの流れ

 

当事務所の利用規約の作成やリーガルチェックをご依頼いただいた場合、次のような手順で進めています。

事前に利用規約の作成やリーガルチェックに必要な情報を共有した上でお見積りを発行し、あらかじめ作業内容や範囲とそれに要する弁護士費用、作業スケジュールを明確にしていますので、安心してご依頼いただくことが可能です。

 

(1)利用規約の作成

 

お問い合わせの際に、サービス内容をお伺いします。

(対外的なプレゼン資料や実際のWEBサイトの検証はもちろん、必要に応じて無料のオンライン面談を実施することでサービス内容の把握に努めます)

お伺いした内容を踏まえてご提案書(お見積書)を提示します。

(お見積書には、弁護士が理解したサービス内容、弁護士費用、支払時期・方法、作業スケジュール・予定納期などを明記しています)

ご提案書(お見積書)にご了承いただいてから、利用規約の作成に着手します。

利用規約の初案を作成し、ご提示します。

貴社にてご検討の上、誤りや疑問点などをご指摘ください。修正案を作成します。

(このプロセスは複数回発生する場合があります)

利用規約の最終案を作成し、ご提示します。

最終案で問題がなければ完成となり、利用規約のデータを納品します。

 

(2)利用規約のリーガルチェック

 

お問い合わせの際に、サービス内容をお伺いします。

(対外的なプレゼン資料や実際のWEBサイトの検証はもちろん、必要に応じて無料のオンライン面談を実施することでサービス内容の把握に努めます)

リーガルチェックの対象となる利用規約案をご送付いただき、弁護士において簡易検証を行います。

(修正の必要性や程度、合法性、サービス内容との整合性などを検討し、作業量を把握します。なお、簡易検証の結果は開示しておりません)

お伺いした内容を踏まえてご提案書(お見積書)を提示します。

(お見積書には、弁護士が理解したサービス内容、弁護士費用、支払時期・方法、作業スケジュール・予定納期などを明記しています)

ご提案書(お見積書)にご了承いただいてから、利用規約のリーガルチェック作業に着手します。

リーガルチェックを踏まえた修正案をご提示します。

貴社にてご検討の上、疑問点やご要望などをご指摘ください。さらなる修正案を作成します。

(このプロセスは複数回発生する場合があります)

利用規約の最終修正案を作成し、ご提示します。

最終修正案で問題がなければ完成となり、修正履歴等を削除した利用規約のデータを納品します。

 

 

6.利用規約の作成・リーガルチェックはリーガルブレスD事務所まで

 

当事務所は、複数のインターネットサービス提供会社の顧問弁護士を務めつつ利用規約の作成やリーガルチェックを行ってきました。また、顧問契約を締結していない事業者様からのご依頼を受け、スポットでの利用規約の作成・リーガルチェックを行ってきました。

したがって、実例を踏まえた数々の知見とノウハウを蓄積していますので、ご相談者様には経験に裏付けられたアドバイスをご提供することが可能です。

インターネットサービスの提供に関する利用規約の作成やリーガルチェックについて、当事務所の弁護士が全力で精査することで、ご依頼者様には、安心してビジネスを進めていただける環境を提供します。

 

当事務所へのお問い合わせはこちらより行ってください。

 

 

 

 

<2025年2月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。