商用利用は大丈夫? ChatGPTと切っても切れない著作権の関係について解説

【ご相談内容】

当社では、時代の流れに遅れまいと生成AIを積極的に活用する方針に舵を切りました。

そこで、まずは手始めにChatGPTを業務に利用していこうと考えているのですが、色々調べていると、ChatGPTを利用することで必然的に著作権侵害の問題が生じる旨の記述を多く目にし、やや躊躇しています。

ChatGPTを商用利用することは控えたほうが良いのでしょうか。

 

 

【回答】

まず、ChatGPTを提供しているOpenAI社は、ChatGPTを商用利用することを許諾していますので、商用利用すること自体は問題ありません。

ChatGPTを利用する上で著作権侵害の問題が生じるとすれば、①指示・質問文章(プロンプト)を入力する場面、②ChatGPTが回答を生成した場面の2つが考えられます。

いずれについても当然に著作権侵害成立という結論にはならず、一定の条件を満たした場合に著作権侵害のリスクが生じることになります。

したがって、一定の条件を満たさないよう利用する限り、商用利用することは何ら問題ありません。

以下では、著作権につき簡単に解説を行いつつ、ChatGPTの商用利用が著作権に抵触する場面につき解説を行います。

【解説】

 

1.著作権とは

 

著作権を理解する上で、最低限押さえておく必要があるのが「著作物」、「著作者に認められる権利」、「著作権侵害の要件」となります。

 

(1)著作物とは何か

まず著作権法では、著作物を次のように定義しています。

 

【著作権法第2条第1項第1号】

思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

「思想又は感情を創作的に」と規定されているので、学術的や文学的、あるいは芸術・美術的な何か高尚なものに限定されるのではと思われるかもしれません。しかし、ある人の考えや気持ちが示されていれば足りると解釈されています。よくたとえ話として、3歳児が書いた絵でも著作物に該当する…といったことを聞いたことがある方もいるかもしれません。

一方、あくまでも考えや気持ちを対象とする以上、客観的事実それ自体は著作物に該当しません。例えば、×年×月×日の×市×町×丁目×番の×宅で火災が発生した…という記述は客観的事実を示すに過ぎませんので、著作物に該当しません。

 

次に「表現」と規定されているので、頭の中に留まっているアイデアや発想は著作物に該当しません。ここは現場実務で話をしていても勘違いが多い事項であり、あくまでもアイデアや発想を何らかの形で表現すること(例えば、紙面に文字や図を用いて記述するなど)が絶対要件となります。

なお、表現すれば何でもかんでも著作物に該当するわけではありません。著作権法で独占的な権利として保護されるためには、その表現に個性や独自性が現れている必要があります。「創作的」な「表現」ではない、すなわちありふれた表現=誰がやっても同じ表現になる場合は、著作物に該当しないことにも注意を要します。

 

ちなみに、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とは例示とされており、これらに限定する趣旨ではありません。また、著作権法第10条では著作物が列挙されていますが、やはりこれも例示に過ぎません。

 

(2) 著作者に認められる権利とは何か

著作者とは、著作物を創作する者と定義されています(著作権法第2条第1項第2号)。

そして、著作者は次のような権利を保有すると規定されています。

 

【著作権法第17条】

1. 著作者は、次条第1項、第19条第1項及び第20条第1項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第21条から第28条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。

2.著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。

 

実は「著作権」という単体の権利が存在するわけではなく、複製権や公衆送信権といった著作権法に定められている権利の総称を「著作権」と呼びます。このため、著作者がどのような権利を有するのかは、著作権法の各条項を見て判断する必要があります。

ちなみに、本記事のテーマであるChatGPTであれば、主に次のような権利を意識することになります。

・複製権(著作権法第21条)…著作物をコピーする権利

・公衆送信権(著作権法第23条)…著作物をインターネット上に送信する権利

・譲渡権(著作権法第26条の2)…著作物を他人に譲渡する権利

・翻案権(著作権法第27条)…著作物に変更を加える権利

 

(3)著作権侵害の成立要件は何か

上記(2)で解説した著作者が有する権利を第三者が無断で利用した場合、著作権侵害が成立します。ただ、著作権は、特許や商標と異なり登録なくして成立する権利であることから、著作者の作品(著作物)と第三者の作品が偶然似通ってしまうといった事例も発生します。

そのため、著作権侵害が成立するためには、①類似性、②依拠性の2つの要件を充足する必要があるとされています。ここでは簡単にポイントのみ触れておきます。

 

①類似性

文字通り作品が類似しているのかという要件です。ただ、単に類似していたら著作権侵害が成立するという訳ではなく、著作者の作品と第三者の作品を比較した上で、第三者の作品につき「著作者の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるか」という視点で判断されます。

現場実務では「表現上の本質的な特徴」とは何かを巡って見解の相違が生じ、紛争に発展するケースが多々あります。

 

②依拠性

第三者が、著作者の作品に触れ、これを利用して作品を作出した場合に著作権侵害が成立します。裏を返せば、第三者が、著作者の作品の存在を知らずオリジナルで作出したところ、偶々類似してしまったという場合であれば、依拠性を欠き著作権侵害にはなりません。

ただ、依拠性の有無は第三者の内心に関わることであり、外からは判別がつきづらいことから、現場実務では、著作者の作品を知る機会があったか、著作者の作品と酷似しているか、第三者がオリジナルで作出した経緯を合理的に説明できるか、といった事情を踏まえて判断しています。

 

ところで、上記のような著作権侵害の成立要件を充足した場合であっても、著作権法は一定の場合であれば、著作権侵害は成立しないと定めています。

ChatGPTなどを含む生成AIについては、著作権法第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)の適否がポイントになることが多いのですが、この点は後述します。

 

2.プロンプト入力の場面

 

ChatGPTを利用する場合、プロンプトと呼ばれる指示・質問文章を入力する必要があります。

この点、ChatGPTより優れた回答を導き出すためには、プロンプトを工夫する必要があるとされているところ(プロンプトエンジニアリングと呼ばれたりします)、この工夫されたプロンプトそれ自体が著作物に該当するのかという疑問が生じることになります。

もし、プロンプトが著作物に該当するのであれば、他人が当該プロンプトを利用した場合は著作権侵害が成立することになります。

一方で、例えば、第三者の論文につきChatGPTを用いて要約させる場合、プロンプトそれ自体は第三者の論文=著作物を打ち込むことになります。この場合、他人の著作物であることは争いがありませんので、形式的に著作権侵害が成立しそうです。

ただ、このような形式的結論でよいのか(せっかくのAIの利用価値を損なわないか)疑問が生じることになります。

以上の2点につき、解説します。

 

(1)入力するプロンプト(指示・質問文章)は著作物に該当するか

この点を検討するに当たっては、上記1.(1)で解説した「著作物」該当性を考慮することになります。

例えば、「××について教えて欲しい」といったプロンプトであれば、ありふれた表現ですので著作物には該当しないと考えられます。

一方で、「××について教えて欲しい。ただし、以下の条件を満たしたものとする。条件①××、条件②××、条件③××…」と具体的かつ長文のプロンプトの場合、個性や独自性が出てきますので、創作性のある表現として著作物に該当する可能性は出てきます。

結局のところはケースバイケースとなってはしまうのですが、基本的な考え方としては、あくまでもChatGPTに対して一定の回答を行うよう指示する文章である以上、創意工夫の余地が大きいとはいえず、誰しもが似通った文章を思いつく以上、著作物に該当する場面は相当限定されるように思われます。

なお、インターネット上に“著作権フリー”を謳い文句とするプロンプトが公開されていることがあるのですが、この“フリー”の意味として、対価を徴収しないという意味なのか、無条件・無制限で利用可能という意味なのか、よく確認する必要があります。なぜなら、個人利用は可、商用利用は不可といった条件が付されていても、対価は徴収しないという意味で“フリー”と謳われていることがあるからです。

商用利用を検討している場合は、必ず利用条件等を確認する必要があります。

 

(2)他人の著作物をプロンプトとして利用できるか

上記で挙げた他人の論文をプロンプトとして入力する場合、形式的には複製権侵害が成立すると言わざるを得ません。ただ、これではAIの利用価値を著しく損ないます。

そこで、著作権法は次のような規定を設けて、著作者とAI利用者との調整を図っています。

 

【著作権法第30条】

著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

(以下省略)

 

【著作権法第30条の4】

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(1号省略)

②情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合

③前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあっては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

 

著作権法第30条は、私的使用のための複製と呼ばれる著作者の権利を制限する規定です。

ただ、商用利用の場合、「私的使用」には該当しないという解釈が一般的ですので、この規定に頼ることは難しいと言わざるを得ません。

 

一方、著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用と呼ばれる著作者の権利を制限する規定です。

本記事執筆時点(2024年12月)では、裁判例や定まった解釈論があるわけではないのですが、プロンプトの入力は、「情報解析の用に供する場合」又は「著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用に供する場合」に該当するという考え方が多いようです。

この考え方を前提とした場合、他人の論文を要約する目的で、当該論文をプロンプトとして入力する行為は情報解析に該当するとして、著作権侵害が成立しないと思われます。とはいえ、著作権法第30条の4本文但書にある「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」とは具体的にどのような場面を指すのかが分からないところがありますので、安易に著作権侵害が成立しないと決めつけるのは危険と言わざるを得ません。

 

3.出力(AI生成物)を用いる場面

 

プロンプトを駆使して、ChatGPTより有益な回答を得られた場合、その回答内容を独占化して自らのためだけに利用したいと考える場面があるかもしれません。

ただ、この場合、有益な回答=AI生成物が果たして著作物に該当するのか疑問が生じることになります。

一方で、ChatGPTが導き出した回答内容が他人の著作物に類似していた場合、著作権侵害が成立し、プロンプト入力者は何らかの制裁を受けるのではないかという疑問も生じます。

以上の2点につき、解説します。

 

(1)著作物に該当するか

著作物の該当性については、上記1.(1)で解説した通りです。

この点、ChatGPTの利用者が、単に「××について教えて欲しい」とプロンプトを入力しただけの場合、AI生成物(回答内容)につき入力者が創作的に関与したとは言いづらく、著作物には該当しないと考えられます。

一方で、ChatGPTの利用者が、特定の回答が得られるよう、入力条件を駆使するなどして寄与していたと言い得るのであれば、著作物に該当する余地が生じます。

結局のところ、ChatGPTの利用者が、ChatGPTを思想・感情のある表現物を作成するための道具として利用したに過ぎず、かつその結果生まれたAI生成物に個性や独自性が認められた場合は、著作物に該当すると考えられます。

ただ、このように考えた場合、プロンプトの入力内容が著作物該当性に大きな影響力を及ぼすことになります。著作物としての保護を受けたいのであれば、プロンプトの入力過程を保存するといった対策が必要になりそうです。

 

(2)他人の著作権を侵害するか

著作権侵害の判断は、上記1.(3)で解説した通りです。

この点、「類似性」については、他人の著作物とAI生成物とを比較することで判断が可能です。

問題は「依拠性」についてです。なぜ問題になるのかですが、ChatGPTに搭載されている学習用データセットに他人の著作物が含まれていたのかがブラックボックスであることはもちろん、仮に含まれていたとしても、プロンプト入力者が他人の著作物の存在につき認識していなかった場合にまで依拠したと言い得るのか等の疑義が生じるからです。

実はこの点については激しい議論が交わされており、執筆者が知る限り、裁判例や定まった見解はもちろん、有力な見解というものも無いように思われます。

このため、今後の議論の行方を見守る必要があるのですが、1点指摘できるとすれば、プロンプトの入力内容によっては依拠性が推定されるのではないかという点です。

すなわち、生成AIはプロンプトの入力内容に沿ってAI生成物を作成します。そうであれば、プロンプトの入力内容が他人の著作物を念頭に置いたような内容(例えば、××風の文章を作成してくださいなど)であれば、依拠性を推認する事情にはなり得るのではないでしょうか。

いずれにせよ、万一AI生成物が他人の著作物に類似してしまった場合、依拠性につき疑義は残りますが、現状では著作権侵害のリスクを想定して利用は控えるという対応が求められると考えられます。

4.まとめ

 

ChatGPTを商用利用するに当たり、著作権侵害の問題を回避するためには、次のような対策を講じることが重要です。

 

①プロンプトの内容を慎重に設計する

・他者の著作物をそのまま引用せず、独自の内容を工夫する。

・特定の著作物やキャラクターに直接依存しないプロンプトを使用する。

 

②AI生成コンテンツの監査

・生成されたコンテンツが第三者の著作権を侵害していないかを確認する。

・必要に応じて弁護士や著作権法の専門家の意見を求める。

 

③利用規約とポリシーの遵守

・OpenAIなどのサービス提供者が定める利用規約を厳守する。

・商用利用の際には契約内容を十分に理解する。

 

④著作権侵害を防ぐ技術的手段の活用

・著作権侵害の可能性があるコンテンツを自動的に検出するツールを導入する。

・生成されたコンテンツに関する透明性を確保するため、プロンプトの入力内容を含めた生成過程を説明できるよう予め準備する。

 

5.ChatGPTを商用利用するに際して弁護士に相談するメリット

 

商用利用を目的としてChatGPTを導入または活用する際、弁護士に相談することは非常に多くのメリットをもたらします。このような技術的かつ法的な取り組みは、リスクを最小限に抑えながら効率的に実行するために専門家の助けが不可欠です。

以下では、弁護士に相談するメリットについて詳しく説明します。

 

①法的リスクの特定と回避

ChatGPTを商用利用する際には、様々な法的リスクが発生する可能性があります。例えば、著作権法以外にも以下のようなリスクが考えられます:

・個人情報保護法

プロンプトに個人情報が含まれる場合、それを適切に保護し、法律に準拠した形で取り扱う必要があります。特に、利用目的外の利用や第三者提供の可能性について留意し、これを守るための対策を講じる必要があります。

・契約上の問題

ChatGPTを利用する場合、OpenAIとの契約が必要となります。この契約内容を正確に理解し、自社のビジネスモデルに適合する形で使用するためには、弁護士の専門的な知識が役立ちます。

 

②利用規約およびプライバシーポリシーの作成

ChatGPTを商用利用する際、例えば、ユーザインターフェースとして提供する場合、適切な利用規約とプライバシーポリシーを策定することが重要です。これらは、サービスを利用するユーザに対する説明責任を果たすとともに、企業を守るための重要な法的文書です。

・利用規約

ユーザがサービスをどのように利用できるか、禁止事項、責任範囲を明確にする必要があります。例えば、生成されるコンテンツに関して、「このコンテンツに関する責任はユーザ自身に帰属する」といった免責事項を記載するといったことが重要となります。

・プライバシーポリシー

ユーザから収集するデータの種類、利用方法、第三者への提供に関するポリシーを明確にする必要があります。日本国内の規制に加えて、GDPRやCCPAなど海外のデータ保護法に適合するかも確認が必要です。

 

③訴訟リスクへの備え

ChatGPTを商用利用する過程で、予期せぬ法的トラブルが発生する可能性があります。例えば、以下のようなケースが考えられます:

・他社の知的財産権を侵害していると訴えられる。

・ユーザが生成されたコンテンツに起因する問題(例えば、誤情報や差別的表現)に対して訴訟を起こす。

・データの取り扱いに関する規制違反で行政指導を受ける。

弁護士に相談しておくことで、これらのリスクに事前に対応するための戦略を構築し、万が一の際には迅速に対応できる体制を整えることができます。

 

④透明性と信頼の向上

弁護士を通じて適切な法的フレームワークを構築することで、顧客や取引先からの信頼を高めることができます。法的に正しい運営を行うことで、透明性が向上し、ブランド価値の向上にも寄与します。

 

6.当事務所でサポートできること

 

当事務所は、既に有料版のChatGPTを導入し業務に活用していますので、ChatGPTに関する前提知識を保有しています。また、多くのIT企業の顧問弁護士として活動し、情報管理や利活用に関する現場実情などに知見を持ち合わせています。

そして、当事務所は次のような特徴を有しています。

①豊富な実績: ChatGPTを組み込んだサービスを展開する事業者からの相談、利用規約の作成・リーガルチェック、プライバシーポリシーの見直しなどを複数手がけており、豊富な経験に基づくアドバイスを提供します。

②カスタマイズされたサポート: 企業の規模や業種に応じた法的サポートを提供し、それぞれのニーズに合わせた柔軟な対応が可能です。

③早期解決を目指す交渉力: トラブルが発生した場合、法廷外での早期解決を目指した交渉に尽力します。

 

ChatGPTの商用利用を促進するために、当事務所の弁護士が全力でサポートすることで、ご依頼者様には、安心してビジネスを進めていただける環境を提供します。

 

 

<2024年12月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。