WEBサイト制作事業者が抱えがちなトラブルへの法的対処法

【ご相談内容】

当社は、WEBサイトの制作や保守運用を行っている会社です。

近年「モノ言う顧客」が増えたのか、大小を問わないトラブルが頻発しており、頭を抱えています。

典型的なトラブル事例の紹介とその対処法について教えてください。

 

 

【回答】

一昔前であれば、内容はともあれWEBサイトを公開しているだけで一つのステイタスとなっていたのですが、今ではWEBサイトもその目的に応じて多種多様なものが提供されています。このため、依頼者の目も肥えてきており、依頼者の目的に適わないWEBサイトである場合、厳しくその不備を指摘するようになってきています。

もちろん、その不備が制作事業者の責めに帰す事由によるものであれば、素直に依頼者の申入れに耳を傾け、適切に対処する必要があります。

しかし、中には依頼者の一方的都合に過ぎず、制作事業者が受け入れる必要のない申入れもあります。

この辺りの区別はやや専門的な話にはなってしまうのですが、以下の【解説】では、制作事業者がよく遭遇するトラブル事例を挙げながら、必要な法的対処法につき説明を行います。

 

 

【解説】

 1.契約交渉段階

 

契約交渉を行っている段階で、制作事業者が抱え込むありがちなトラブルとして3例挙げると共に、対処法のポイントを解説します。

 

(1)注文書交付前に作業を開始したところ、契約交渉が頓挫した場合

依頼者が希望する納期の都合を考慮すると、契約交渉を経て作業を開始したのでは間に合わないことから、現場担当者間で協議を進め、制作作業を開始した。

ところが、依頼者よりWEB制作に関する社内方針が変更となり、正式な発注はできなくなったとの連絡が入った。

せめて作業賃だけでも支払ってほしいと交渉を試みるも、依頼者は契約締結前である以上、一切の支払いはできないとして要望に応じてもらえない。

 

上記のような“見切り発車”的なトラブルは、WEB制作の現場では起こりがちです。

この種のトラブルに対処する場合、①そもそも契約が成立したといえるのか、②契約不成立の場合であっても何らかの請求ができないか、を分けて検討することがポイントです。

 

まず、①につき契約が成立したと評価できる場合(口頭でも契約は成立します)、WEB制作に関する業務委託契約は、一般的に請負契約に該当すると考えられます。このため、依頼者(注文者)はいつでも解約することができますので(民法第641条)、制作事業者は発注取消(解約)自体を争うことはできません。

もっとも、依頼者都合で解約した場合、依頼者は制作事業者に対し、利益を受ける割合に応じた報酬支払い義務(民法第634条)と、制作事業者に生じた損害賠償義務(民法第641条)を負担することになります。

以上のことから、制作事業者が求める作業賃の具体的内容を考慮する必要がありますが、報酬又は損害賠償のいずれかを請求することで、依頼者より回収することが可能と考えられます。

 

一方、②の場合、原則的には作業賃を請求することは困難と言わざるを得ません。ただ、諦めてしまうのは早計です。なぜなら、

・「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。」と定める商法第512条に基づく報酬請求ができないか

・契約締結上の過失に基づく損害賠償請求ができないか(契約成立には至っていないが、契約交渉などの準備段階において、相手方に契約成立に関する信頼が生じた場合には、その信頼を侵害したことによって生じた損害賠償責任を負う法理のこと)

といった救済策が残されているからです。

もちろん、これらの救済策は例外的なものであることから、ケースバイケースの判断となり、常に制作事業者が救済されるわけではありません。ただ、検討する価値はあると考えられます。なお、これらの詳細については、次の記事をご参照ください。

 

契約書を締結未了の相手とトラブルになった場合、損害賠償等の請求は可能か

 

(2)企画提案内容を模倣された場合

受注獲得に向け、依頼者と何度も打合せを行い、複数回の企画提案書を作成・提示していたが、残念ながら受注するには至らなかった。

しかし、後日、依頼者が公開したWEBサイトを確認したところ、当方の提案内容が流用されているのではないかという疑義が生じた。

提案内容の流用に対して、依頼者に対して何か請求できないか。

 

コンペや相見積りが予想される案件に対して提示した企画提案書がパクられた(と感じる)トラブルもありがちです。

この種のトラブルに対処する場合ですが、流用されたものがアイデアなのか、デザイン等の具体的な表現物なのかを分けて検討する必要があります。

 

まず、アイデアの場合ですが、残念ながら法的な対応は難しいところがあります。なぜなら、アイデアそのものを保護する法制度が存在しないからです。

存在しない以上、制作事業者は自衛策として、コンペであれば依頼者が設定している条件を確認する、企画提案書に流用禁止を明記する、依頼者と事前に秘密保持契約を締結しアイデアを秘密情報とした上で採用検討以外での利用を禁止する…といった対応を行う必要があります。

 

一方、具体的な表現物である場合、著作物該当性を確認することがポイントです。なぜなら、もし著作物に該当する場合、著作権侵害を主張することで、依頼者による使用の差止めや損害賠償請求を法的に行うことが可能となるからです。

もっとも、著作物に該当するかは高度な法的スキルが必要となりますので、法律に明るいとはいえない制作事業者のみで判断することは止めたほうが良いと考えられます。なお、著作物に該当しない場合、上記のアイデアに関する考え方を当てはめることになります。

 

(3)依頼者より提示された契約内容に対して変更を申し入れる場合

依頼者と契約交渉を行っているが、あまりに契約内容が一方的であるため、条件変更を申し入れているが、なかなか応じてもらえない。

何か良い説得材料はないか。

 

取引条件の設定は、どうしても当事者間の力関係(パワーバランス)に影響されることから、制作事業者の理想通りとすることは難しい場合があります。

もっとも、依頼者に対して下請法違反を指摘する、独占禁止法違反を示唆する等のプレッシャーをかけることで、ある程度の取引条件の見直しを実現できる場合があります。ただし、下請法の適用要件や独占禁止法違反の可能性などの判断は、なかなか制作事業者のみでは判断しづらいところがありますので、弁護士に相談しながら交渉戦略を練った方が無難です。また、単に法律違反を指摘するだけでは、依頼者の感情を害してしまい交渉が難しくなるリスクもありますので、言い方やタイミング、誰が違反を指摘するのか等の検証も必要不可欠です。

 

 

2.制作段階

 

契約を締結し、作業を開始してから完了となる前までの期間中に、制作事業者が巻き込まれがちなトラブルを5例挙げると共に、対処法のポイントを解説します。

 

(1)想定外の業務が追加された場合

制作状況に関する中間報告を行ったところ、依頼者より想定外の修正要求を受けた。

追加作業に該当するので別途費用が発生する旨指摘したところ、依頼者より別途費用が発生するのはおかしいとの回答があり、見解の相違によるトラブルが表面化してきている。

 

WEB制作の場合、当初の取決め通りに事が進むこと自体が稀で、作業中に変更や追加が出ることはむしろ通常といえます。このため、依頼者はもちろん制作事業者も、ある程度は変更・追加要求に対して無償で応じることが当たり前と認識している節があります。そして、この認識がどこまでの作業内容をカバーするのかを巡って、後々別途費用負担に関するトラブルに発展する原因に繋がります。

この種のトラブルに対処する場合ですが、契約締結時の仕様等に関する合意内容を精査することが必要です。

 

まず、契約締結時の仕様等が抽象的あるいは不明確である場合、正直なところ制作事業者に分が悪いと言わざるを得ません。なぜなら、WEB制作に関する業務委託契約の法的性質は一般的に請負契約であるところ、仕事の完成(WEB制作物の納品)に対して報酬が発生するという建付けになっており(民法第632条)、完成に至るまでの工程段階での作業工数の大小によって報酬が変動するとはなっていないからです。

制作事業者としては、完成品(WEB制作物)に含まれる事項・含まれない事項の抽出、及び契約締結時に検討未了になっている事項の抽出を行い、契約書等に反映させることで、「仕事の完成」から除外されている事項を明らかにする=別途費用が発生する条件を明確にするといった工夫が求められます。

 

一方、仕様等が具体的かつ明確である場合、別途費用が発生する追加作業に該当するか否かの判断は容易となります。ただ、現場実務で見かける落とし穴として、別途費用が発生するとしても、具体的な金額算定はどうやって行うのか判断基準がないという問題です。

この結果、別途費用が発生することは明らかであるにもかかわらず、その具体的な金額設定につき交渉が難航し、後で揉めてしまうという事例が後を絶ちません。

制作事業者としては、例えば値段表を契約書に添付する、値段表を添付することが難しいのであれば、作業工数に応じた単価とサンプル例を明記するといった対策を講じることで、できる限り具体的な金額設定ができるように対処したいところです。

 

(2)依頼者都合で契約が打ち切られた場合

契約を締結し作業を進めていたところ、依頼者の都合によりキャンセルとなった。

依頼者も何らかの清算が必要であることは認識しているものの、金額の折り合いがつかない状況である。

 

WEB制作に関する業務委託契約は、一般的に請負契約に該当するところ、依頼者都合で解約した場合、依頼者は制作事業者に対し、①利益を受ける割合に応じた報酬支払い義務(民法第634条)と、②制作事業者に生じた損害賠償義務(民法第641条)を負担することになります。

したがって、法的にも何らかの請求ができることは明らかなのですが、問題は、①の場合「依頼者の利益を受ける割合」をどのように算定すればよいのか、②の場合「損害額」をどのように算定すればよいのかという点です。

法律の解説書や文献などをみると、法的な請求権が発生するのかという議論に終始し、具体的な算定方法については一切触れていないことが多くあります。このため、制作事業者としては、中途解約権が行使された場合に備え、どのような清算ルールを設定するのか契約書に明記することが極めて重要となることを意識するべきです。なお、無料で入手できる契約書のテンプレート等では、具体的な算定方法まで明記していないことが通常であること要注意です。

ちなみに、本件のような事例の場合、ケースバイケースで判断するほかありませんので、弁護士に相談し、具体的な算定を行うほかないものと思われます。

 

(3)制作事業者都合で契約を解消する場合

依頼者より正式な受注を受けたものの、依頼者が非協力的であり、作業が全く進まない状態である。

そこで、制作事業者より契約の解消を申入れることを検討している。

 

WEB制作に関する業務委託契約は、一般的に請負契約に該当すること繰り返し解説した通りですが、実は民法上、制作事業者(請負人)は中途解約権を有していません。したがって、上記事例の場合、そもそも制作事業者の都合で契約を解消することができるのかを検討する必要があります。

この点、上記事例の場合、依頼者の協力義務(プロジェクトマネジメント義務)違反を理由に、契約の解除を主張することが考えられます。ただ、一口に協力義務(プロジェクトマネジメント義務)違反といっても、契約解除に値する程度の重大なものと言い得るのか慎重に検討する必要があります。なぜなら、依頼者より、軽微な義務違反に留まる以上は解除ができない、そうであるにもかかわらず作業を中止したことは契約違反であるとして、損害賠償請求を受けてしまうリスクがあるからです。

以上の通りですので、制作事業者より契約解消を申し入れる場合、法的根拠の検証と依頼者からの反論リスクを考慮する必要があります。

なお、制作事業者の自衛策としては、依頼者は協力義務(プロジェクトマネジメント義務)を負担すること、この義務違反は解除事由になること、解除を受けた側は損害賠償請求ができないことを契約書に明記することが考えられます。

 

 

(4)納期遅延に対する責任を追及された場合

制作段階で、依頼者が追加・変更要望を繰り返し行ったため、当初設定されていた納期に完成物を納品できない事態に陥ってしまった。

数週間遅れで納品したところ、依頼者より、納期遅延がある以上は満額の報酬を支払うことができないと言われてしまった。

 

制作会社としては、依頼者が後付けで注文したことが原因で納期遅延が発生したと反論したいところです。しかし、上記(1)でも触れた通り、WEB制作の場合、当初の取決め通りに事が進むこと自体が稀で、作業中に変更や追加が出ることはむしろ通常であり、依頼者のみに責任があるとは断定しづらいところがあります。また、一度は納期を約束した以上、形式的には契約違反となってしまうことも、制作事業者にとっては痛いところです。

本件のようなトラブルに備えて、契約書に追加・変更要望があった場合は納期変更があり得ること、追加・変更要望の受入れ条件として納期変更に関する合意が必須であることを明記することが一案です。また、実際の現場対応として、追加・変更交渉を行う場合、セットで納期変更に関する交渉を行うことを意識することが重要となります。

ちなみに、上記事例の場合、依頼者の追加・変更要望が、当初定めた仕様書等とどこまで乖離するものなのか、その乖離によって作業進捗にどの程度の影響が生じるのか、その影響を吸収することを制作事業者に求めることが酷とならないか等の事情を考慮しながら、減額の可否を検討することになります。

なお、依頼者の追加・変更要望が発生した原因につき、例えば、契約締結当時に求められる制作事業者の仕様等のまとめ方に不備がある場合、制作事業者に帰責性があると言わざるを得ません。この場合、制作事業者のプロジェクトマネジメント義務違反に基づき、依頼者による減額請求が認められる可能性が高くなることに注意を要します。

 

(5)依頼者の強い拘りにより繰り返し修正要求が行われる場合

約定に従い制作物を納品したところ、依頼者が細部にこだわってNGを連発するため、一向に検査合格とならない。

残存する不合格事由は、受託業務の範囲外と考えられる事項と考えられることから、これ以上の修正には応じない方針である。

 

当初は依頼者からの修正要求に応じていたものの、制作事業者としても我慢の限界があり、その一定ラインを超えたことで、一気にトラブルが表面化するという上記のような事例もよく見かけるところです。

ところで、理屈の上では、WEB制作に関する業務委託契約は一般的に請負契約と考えられるところ、請負契約の「完成」時期について、多くの裁判例では作業工程が完了したときと判断しています。このため、上記のような事例の場合、納品済みであることから、法的には作業工程が完了したと言えますので、報酬請求権を行使しても支障はない状態となっています。

以上のことから、依頼者の検査不合格理由が、仕様書等に記載された合意事項に合致し、かつ制作物の機能・稼働に支障を来すことはない状況である場合、検査に合格したものとして取り扱われ、結果的には修正要求に応じなくても報酬請求が認められる可能性は十分想定されるところです。

とはいえ、検査不合格理由が不合理と言い得るのかは、結局のところ仕様書等に記載された合意事項を充足するのかという判断になりますので、仕様書等の記載が曖昧、抽象的、多義的な解釈が可能といった事情がある場合、現場実務では対応に苦慮するところです。

したがって、制作事業者は、仕様書等の記載を具体的かつ明確にすることが求められるところです。また、可能であれば、納品完了後の修正回数について上限を設定するといった契約条件を定めることも一案となります。

 

 

3.作業完了後段階

 

納品を行い、検査にも合格し、制作事業者としては一区切りついた以降で巻き込まれがちなトラブルを5例挙げると共に、対処法のポイントを解説します。

 

(1)忘れた頃に不具合修正の要求を受けた場合

3年前に作業を完了させた元依頼者より、今になって不具合を発見したので、無償で修正して欲しいとの要求があった。

この要求を断ることはできないか。

 

結論から申し上げると、民法の原則に従う限りはこの要求を断ることは困難です。

なぜなら、WEB制作に関する業務委託契約は請負契約に該当するのが通常であるところ、民法は、「不具合を知ったときから1年以内」に請負人(制作事業者)に通知すれば、契約不適合責任を追及できると定めているからです(民法第637条第1項)。この点、2020年3月以前の旧民法に定められていた瑕疵担保責任の発想が残っているためか、引渡し後1年以内と勘違いしている方も見かけます。しかし、2020年4月1日以降に契約した取引については、改正民法に定める契約不適合責任が適用されるため、最長で10年間は契約不適合責任を制作事業者は負担し続けることに注意を要します。

上記のような事例を防止する場合ですが、

①契約不適合責任を負担する期間について、例えば「検査合格後3ヶ月」といった期間制限を契約書に明記する

②保守契約を締結する場合、契約不適合責任を負担しない旨契約書に定めた上で、保守業務にて対応する

③契約不適合に該当する事例に絞り込みをかける(例えば、ブラウザやOSなどの第三者が提供するサービスに起因する不具合については契約不適合に該当しない旨契約書に明記する)

といった対処法が考えられます。

 

(2)WEBサイトからの情報漏洩が発覚した場合

3ヶ月前に作業完了となったWEBサイトについて、脆弱性が発覚し、顧客情報が漏洩する事故が発生した。

依頼者より損害賠償請求を受けているが、どこまで対応しなければならないのか。

 

上記のような事例の場合、WEBサイトを通じて個人情報の漏洩事故が発生した以上、制作事業者が責任を負わなければならないように思われるかもしれません。しかし、多くの裁判例が指摘している通り、リスクゼロのWEBサイトを構築することなどおよそ不可能であり、漏洩事故が発生したことだけを理由に、制作事業者が当然責任を負うと法的に結論付けられることはありません。

結局のところは、WEBサイトの構築作業を行っていた時期に、制作事業者が、問題となった脆弱性を認識していたのか、あるいは一般的なWEB制作事業者の調査能力をベースとしつつ果たして認識可能と言えたのか、という個別判断で結論を決めることになります。

様々な事情を考慮した上での総合判断とはなりますが、例えば…

・WEBサイトを格納するレンタルサーバに原因がある場合、制作事業者の責任は免れる方向での考慮要素となる

・作業完了時点では世間一般に知られていなかったウィルスに原因がある場合、あるいは作業完了以降に新たに発生したウィルスに原因がある場合、制作事業者の責任は免れる方向での考慮要素となる

・WEBサイトを構成する第三者作成のソフトウェアやプログラムに原因がある場合、当該ソフトウェアやプログラムの脆弱性情報につき、制作事業者が調査を尽くしたと言えない限りは有責の方向での考慮要素となる

・仕様書やSLA等で一定のセキュリティ対策を保証している場合、制作事業者に有責の方向での考慮要素となる

といった事情が想定されるところです。

 

(3)制作代金の支払いがない場合

制作物を納品したが、約定日に報酬の支払いがなかった。

依頼者の担当者宛に連絡をしたところ、「社内事情で数日待ってほしい」と言われてしまった。

 

報酬の未払いトラブルは、避けたくても避けられないトラブルです。このため、未払いトラブルが発生することを想定して、事前に回収フローを準備しておくことが重要となります。

汎用的と考えられる回収フローは次の通りです。

 

①:報酬未払いの理由を問い質し、明らかにする。

 

②-1:未払いの理由が手元不如意の場合、とりあえず「×年×月×日時点における未払い金は×円であること」を記載した念書等を依頼者より徴収する(支払い方法は支払予定日まで記入する必要なし。なお、可能であれば、「不具合その他契約違反を理由として支払いを拒絶しているわけではないこと」を明記するのがベター)。

②-2:未払いの理由が制作事業者の契約違反であると依頼者が主張する場合、とりあえずその違反内容を具体的に聞き出す。なお、可能であれば、録音や依頼者より理由を明記した書類等を提出させる。

②-3:未払いの理由が依頼者の失念に過ぎない場合、支払予定日の交渉を行い確定させる。

 

③-1:念書等を徴収後、支払いに関する交渉を行う。進展がないようであれば、直ぐに法的手続きに移行する(債権回収は早い者勝ちであるため)。

③-2:依頼者が主張する違反内容につき精査の上、反論を考える。なお、反論に際しては、契約上の根拠の有無を確認することはもちろん、依頼者が主張する違反内容に変遷がないか(例えば当初指摘した違反理由と事後に指摘した違反理由が異なっている等)、依頼者の主観的不満や言いがかりに留まるものではないか(例えばデザインに不満がある等)、隠された別の本音がないか(例えば制作事業者を困惑させることで、報酬減額等の譲歩を引き出させようと企んでいないか等)といった、相手の言動・心理を観察することがポイントになる場合が多い。

③-3:再度未払いとなった場合、直ぐに法的手続きに移行する(これ以上の交渉は無駄となる可能性が高いため)。

 

慌てず・騒がずフローに当てはめながら、粛々と手続きを進めていくことがポイントです。

 

(4)制作代金の減額要求を受けた場合

制作物を納品し、請求書を発行しようとしたところ、依頼者より「予算オーバーなので値引きしてほしい」と要請された。

 

理論的には、納品した制作物に不具合その他契約の目的に反するような事情(契約不適合)がない限り、制作事業者は減額要求を受け入れなければならない義務はありません。また、下請法の適用がある取引であれば、下請法違反であるとして関係機関に違反申告し、依頼者を指導してもらうことも可能です。

したがって、理由のない減額要求であればきっぱり拒絶し、満額の支払いを求めるというのが基本スタンスとなります。

もっとも、依頼者との関係上、何らかの値引きを行わざるを得ない場面も想定されます。

この場合、「契約不適合により減額したわけではないこと」を記録化(書面、メール等の後日再現可能な記録媒体)することをお勧めします。なぜなら、後で制作物に不具合等が見つかった場合、減額したこと=制作事業者が不具合を認識していたといった主張を依頼者が行い、色々とややこしくなるからです。

なお、あまりに理不尽な減額要求に対し、制作事業者は対抗策として制作物を引揚げる(サーバよりプログラムを抹消する、依頼者がサーバにアクセスできないようにする、WEBの非公開化を実行する等)といったことをしたくなるかもしれません。ただ、この種の対抗策は法的理由があればともかく、無いのであれば新たなトラブルを引き起こし、かえって依頼者に付け込まれるだけですので、止めたほうが無難です。

 

(5)引継作業を依頼された場合

制作物を納品後、依頼者より、制作物の改修(リニューアル)を別事業者に依頼することになったので、別事業者との引継作業を行ってほしいという連絡を受けた。

引継要請を受け入れる義務はあるのか。

 

制作事業者がWEB制作業務のみ受託しただけに過ぎず、納品完了後の運用保守業務を受託していないというのであれば、引継要請を拒絶しても法的には問題ありません。むしろ、明らかな別作業となる以上、別作業分の報酬が発生することを依頼者に説明するべきです。

一方、制作事業者が運用保守業務まで受託していた場合はやや微妙なところがあります。なぜなら、運用保守業務の中に引継業務が含まれていると解釈される余地があるからです。この種のトラブルを回避するためには、保守運用業務に関する契約において、引継業務は含まれていないことを明記するなどの工夫が必要となります。

なお、依頼者より、制作事業者の対応が悪いことを理由に引継業務を無償で行うよう迫られることがあります。しかし、「対応が悪い」という具体的内容が法的な意味で契約違反を構成するのか極めて疑問であることが多いように思われます(いわば単なる依頼者の都合・主観に過ぎないということです)。したがって、このような主張に対しては、具体的にどういった点に問題があったのかを問い質し、保守運用業務のどの業務に含まれるのかを冷静に検証した上で、淡々粛々と反論することがポイントです。

 

 

4.保守・運用段階

 

納品完了後の保守運用段階において起こりがちなトラブルを3例挙げると共に、対処法のポイントを解説します。

 

(1)WEBサイトが稼働しない場合

制作物を納品後、しばらくの間は問題なく稼働していたが、ある日を境に不自然な挙動がみられるようになった。

原因を調査したところ、制作物に紐づいている第三者が提供するサービスの変更によるものであることが判明した。

依頼者より、保守運用の範囲内で不具合を修正するよう要求されたが、制作物に不具合があるわけではないにもかかわらず、応じなければならないのか。

 

上記のようなトラブルは、保守運用業務に対する双方当事者の認識のズレに起因します。

依頼者は、WEBサイトの異常に対して必要な修正を行うことが保守運用業務の内容であり、原因の如何を問わず正常稼働することを保証する契約であるといった認識を持っています。

一方、制作事業者は、WEBサイトが正常稼働しているか監視し、万一の場合に備えてデータのバックアップを行い、異常が発生した場合はその原因を調査した上でバックアップデータを用いて復旧させることといった認識に留まり、少なくとも大規模な制作物の補修は想定しておらず、ましてや外部サービスの影響による異常にまで対応しなければならないという認識は持ち合わせていないことが多いと考えられます。

このような認識の相違から発生するトラブルを回避するためにも、運用保守業務に含まれる業務内容、逆に含まれない業務内容を積極的に明記した契約書を用いることが望まれます。

上記のような事例の場合、制作事業者としては、制作物それ自体に不具合があるわけではないこと、第三者が提供するサービス内容の変更については責任を持てないことをまずは説明することになります。その上で、その第三者が提供するサービス内容に合わせた設定を行うのであれば、補修作業ではなく、新規の追加作業になるので保守運用業務の範囲外であり、作業工数に応じた別費用が発生する…というスタンスをとるほかありません。

なお、上記のようなスタンスを貫けるかは、保守運用業務に定める業務内容によります。残念ながら、特に検討することなく(大手企業の)他社の保守運用業務契約をコピペしたため、保守運用業務に含まれる業務内容が広範であり、別費用を請求することは困難という事例を見かけたりしますので、よくよく注意してください。

 

(2)データが消失した場合

ある日よりWEBサイトに何も表示されなくなり、コンテンツの閲覧ができない状態となった。

依頼者より報告を受けた制作事業者において原因を調査したところ、レンタルサーバ内に格納されているはずのデータが削除されていることが判明した。

依頼者より早急にWEBサイトを復旧させるよう要求されているが、どこまで対応する必要があるのか。

 

おそらく制作事業者としては、レンタルサーバ内に格納されているデータを削除したのは依頼者を含めた第三者であること、レンタルサーバの管理責任を負っているわけではないこと等を理由に、自らの責めに帰す事由はないと考えているのではないでしょうか。したがって、無償で復旧作業を行う義務はなく、損害賠償請求を行うのであればレンタルサーバ会社に行ってほしいと結論付けているかもしれません。

ただ、上記のような考え方は、データ削除者の特定(少なくとも制作事業者が削除したわけではないこと)を立証する必要があり、かつレンタルサーバの契約は依頼者が行っていることを前提としない限り成り立ちません。なぜなら、一般的に制作事業者はレンタルサーバのアクセス権を有しており、データを誤って削除した可能性を否定しきれないこと、及びレンタルサーバとの契約を制作事業者が行っている場合、依頼者に対してレンタルサーバサービスを提供しているのは制作事業者であって、そのサービスに不備があれば制作事業者の契約違反となるからです。

以上のことから、レンタルサーバ事業者の不備を理由として、依頼者の要求を当然に拒絶できるわけではないことに注意を要します。

このようなトラブルを回避するためには、保守運用契約において、①レンタルサーバの不備に起因する場合、制作事業者は何らの責任を負わないこと、②復旧作業は、制作事業者が保有する最新のデータに基づき対応すれば足り、消失時点のデータに基づく復旧を行う必要はないこと、③依頼者において最新データの保存を行うこと、等を明記することが求められます。

 

(3)営業時間外対応を要求された場合

WEBサイトに異常があるとして、依頼者より休日深夜に原因調査と補修要求があった。

営業時間外でありスタッフを集めることができないので、翌営業日対応になることを返信したところ、依頼者は運用保守契約違反であるとしてクレームを申立ててきた。

本当に運用保守契約違反となるのか。

 

この種のトラブルについても、保守運用業務に対する双方当事者の認識のズレに起因します。

依頼者は、24時間365日稼働するWEBサイトを一瞬たりとも止めることは許されない、したがって、どんな状況下でも即座に対応することが保守運用契約の内容であると認識しています。

一方、制作事業者には営業時間内で対応するのが常識であり、保守運用契約を締結しているからと言って当然に営業時間外対応が求められるわけではないと認識しています。

このような認識の相違に起因するトラブルを防止するには、保守運用契約において、①受付時間を設定すること(受付時間を過ぎた連絡に対しては、翌営業日の営業開始時間での受付となること)、②作業時間は制作事業者の営業時間内で行うこと、③緊急を要する場合、営業時間外対応に要する費用を別途支払うこと、を定めておくことがポイントとなります。

ちなみに、上記のような事例の場合、営業時間外対応について保守運用契約に何らの定めがなかったとしても、制作事業者が営業時間外であっても当然に対応しなければならない法的義務が発生するとは考えにくいところです(営業時間が存在し、営業時間内で対応すれば足りるというのが社会通念であるため)。

ただ、例えば、顧客情報の漏洩など時間の経過とともに損害が拡大するような場合であって、外部遮断等の応急処置をとれば損害拡大を食い止めることができ、かつ応急処置が容易にできるといった事情があるのであれば、たとえ営業時間外であっても対処したほうが良いと考えられます。なぜなら、現在進行形で損害が拡大していることを制作事業者も認識できているにもかかわらず漫然と放置した場合、一定の限界を超えた不作為に対する責任追及が認められる例外場面も想定されるからです。

WEBサイトに発生した不具合が、依頼者以外の第三者に対してどの程度の悪影響を及ぼすのか見極めながら、対処方針を決めるというのが一つの目安になるかもしれません。

 

 

5.弁護士に相談するメリット

 

上記1.から4.でも示した通り、WEBサイトの制作には各種工程があり、その工程ごとで制作事業者に対してトラブル回避のために求められる事項が異なってきます。

特に、トラブルの芽が生じたときに、自己流で対応したがために紛争化し、制作事業者だけでは如何ともしがたい状況になってから弁護士に相談する…という事態が後を絶ちません。

もちろん、弁護士は紛争処理のプロフェッショナルであり、弁護士に任せることで適切な解決を図ることができるという点で、制作事業者はメリットを受けることができます。

しかし、大きな紛争となる前に、少しの工夫でトラブルを鎮静化できた、あるいはトラブル自体を回避できたと思うことも少なくありません。

弁護士は、トラブル事例から逆算してトラブルの根本的原因はどこにあったのか、その原因を解消するためには何をすればよかったのか等の分析・検証を行っています。この分析・検証を踏まえたトラブル回避のノウハウを制作事業者に提供することで、制作事業者が本業に邁進できる事業環境の構築が可能となることも、弁護士に相談するメリットとなります。

 

 

6.当事務所でサポートできること

 

WEBサイト制作事業に関する相談を弁護士に依頼するメリットは上記5.に記載した通りです。

当事務所では、さらに次のような強みとサポートを行っています。

 

①WEBサイト制作事業者の運営に関する相談に複数の対応実績があること

当事務所の代表弁護士は、2001年の弁護士登録以来、WEBサイト制裁事業者が抱えるトラブル対応、契約書の作成、契約交渉などに関与し、解決を図ってきました。

これらの現場で培われた知見とノウハウを活用しながら、ご相談者様への対応を心がけています。

 

②時々刻々変化する現場での対応を意識していること

弁護士に対する不満として、「言っていることは分かるが、現場でどのように実践すればよいのか分からない」というものがあります。

この不満に対する解消法は色々なものが考えられますが、当事務所では、例えば、法務担当者ではなく、営業担当者や制作担当者との直接の質疑応答を可としています。

現場担当者との接触を密にすることで、実情に応じた対処法の提示を常に意識しています。

 

③原因分析と今後の防止策の提案を行っていること

弁護士が関与する前にWEBサイト制作事業を開始したところ、ご相談者様が思い描いていたような結論を得られず、以後の対応に苦慮している場合があるかもしれません。

こういった場合に必要なのは、方針・対処法の軌道修正をすることはもちろんのこと、なぜ思い描いた結論に至らなかったのか原因検証し、今後同じ問題が発生しないよう対策を講じることです。

当事務所では、ご相談者様とのやり取りを通じて気が付いた問題点の抽出を行い、改善の必要性につきご提案を行っています。そして、ご相談者様よりご依頼があった場合、オプションサービスとして、WEBサイト制作事業運営に必要な書式作成、マニュアルの整備、担当者向け勉強会の実施なども行っています。

WEBサイト制作事業の適正化とトラブル防止のための継続的なコンサルティングサービスもご対応可能です。

 

 

 

 

<2024年8月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。