令和5年改正不正競争防止法のポイントを解説
Contents
【ご相談内容】
令和5年(2023年)6月に不正競争防止法が改正されたと聞き及びました。
新たなビジネス領域として注目されているメタバース等に関するもの、営業秘密侵害に対する権利主張の容易化に関するもの等が含まれているとのことで、当社としても注目しています。
令和5年改正不正競争防止法のポイントを教えてください。
【回答】
経済産業省のWEB上では、令和5年改正不正競争防止法の概要について、次のように記載しています。
①デジタル空間における模倣行為の防止 商品形態の模倣行為について、デジタル空間における他人の商品形態を模倣した商品の提供行為も不正競争行為の対象とし、差止請求権等を行使できるようにします。 ②営業秘密・限定提供データの保護の強化 不正競争防止法について、ビッグデータを他者に共有するサービスにおいて、データを秘密管理している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能とします。また、損害賠償請求訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護を強化します。 ③外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充 OECD外国公務員贈賄防止条約をより高い水準で的確に実施するため、自然人及び法人に対する法定刑を引き上げるとともに、日本企業の外国人従業員による海外での単独贈賄行為も処罰対象とします。 ④国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化 不正競争防止法について、国外において日本企業の営業秘密の侵害が発生した場合にも日本の裁判所に訴訟を提起でき、日本の不正競争防止法を適用することとします。 |
以下では、現場実務では特に重要になると思われる①と②を中心に解説を行います。
なお、令和5年改正不正競争防止法の施行日ですが、本記事執筆時点では不明であるものの、遅くとも令和6年(2024年)6月14日までには施行される予定です。
【解説】
1.デジタル空間における模倣行為の防止
【改正後の不正競争防止法第2条第1項第3号】
他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し又は電気通信回線を通じて提供する行為 |
現行法では定められていない「電気通信回線を通じて提供する行為」を追加したというのが、改正点となります。
改正のポイントは次の通りです。
(1)フィジカル/デジタルを交錯する模倣事例への対応
例えば、現実世界(フィジカル)で流通している商品を模倣して、3Dモデルをネットワーク上(デジタル)で提供するという事例が徐々に増えているところ、現行法で果たして対処可能なのかという問題意識から改正されました。
すなわち、現行の不正競争防止法について、「形態は有体物の形態でなければならず、無体物は含まれない」とする解釈(なお、経済産業省「逐条解説 不正競争防止法(令和元年7月1日施行版はこの解釈を採用しています)と、「形態には無体物による形態も含まれる」とする解釈(なお、東京地方裁判所平成30年8月17日判決は「(ソフトウェア)を起動する際にタブレットに表示される画面や各機能を使用する際に表示される画面の形状、模様、色彩等は形態に該当し得る」と判断しています)があり、争いがありました。
この解釈上の疑義を解消するべく、「電気通信回線を通じて提供する行為」を追加することで、無体物の形態を含むことを明確にしました。
これにより、今後進展すると予想されるメタバース等のデジタル・仮想空間における形態模倣行為に対し、権利者は不正競争防止法による対策を講じることが可能となります。
ちなみに、あえて不正競争防止法を改正しなくても、現行の意匠法や著作権法で対処できるのではと疑問を持つ方がいるかもしれません。
しかし、意匠法については、そもそも意匠登録しているのかという点や、意匠登録を行っていたとしても、現実の物品を模倣したデジタル・仮想空間上でのデータとではその機能等を異にし、意匠権侵害に該当しないことが多いと考えられます。また、著作権法については、実用品は応用美術であり著作物に該当しないとする解釈が主流であり、やはり著作権侵害に該当しないことが多いと考えられます。
したがって、現行の意匠法や著作権法では対処することは困難といえます。
(2)無体物と「商品」の関係
上記(1)で記載した通り、形態については無体物を含むことが明確にされたのですが、そもそも論として「商品」に無体物を含むのかという点も実は解釈上の疑義があります。
この点について、政府の産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会で議論になったようですが、経済産業省としては商品に無体物が含まれるという解釈を公にすることで対処する方針のようです。おそらくは前述した「逐条解説 不正競争防止法(令和元年7月1日施行版)を改訂し、この点を明確化するものと思われます。
(3)その他解釈上の疑義について
政府の産業構造審議会知的財産分科会不正競争防止小委員会では、
・取締り対象となるデジタル・仮想空間内での模倣行為の内容
・保護期間の終期の起算点(形態模倣行為は「日本国内において最初に販売された日から起算して3年」という制限があるところ、最初に販売された日とはどの時点を指すのか)
についても提言しており、おそらくは「逐条解説 不正競争防止法(令和元年7月1日施行版)の改訂版で明らかになると考えられます。
2.営業秘密・限定提供データの保護の強化
(1)限定提供データの定義の明確化
【改正後の不正競争防止法第2条第7項】
この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)をいう。 |
現行法では「技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)」と定められていますが、改正法では、「技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)」というのが改正点となります。
一見するとこの改正によってどのような差異が生じるのか分からないのですが、例えば、ある事業者が相当量蓄積されたデータを、秘密保持契約を締結したうえで取引先に開示したところ、当該取引先が当該データを公開してしまった、という事例があったとします。
この場合、現行法では、①非公知性を満たさない以上、営業秘密として保護されることは無い、②ある事業者は秘密として管理していた以上、限定提供データには該当しない、という結論になります。限定提供データの場合、公知・非公知を問わず秘密として管理されていないデータであっても保護対象となるのに、秘密として管理されていた場合には保護対象とならないのはいかにもバランスが悪いと言わざるを得ません。
要は、秘密として管理されているが公知なデータにつき、営業秘密と限定提供データのどちらでも保護対象とならない間隙があることから、これを限定提供データの保護対象にすることで、埋め合わせを図ろうとしたのが改正法の目的となります。
想定されている事例がかなりレアなものになってくるとは思われますが、現場実務的な発想としては、相当量蓄積されているデータの法的保護を図りたい場合、営業秘密に該当しないか、営業秘密に該当しないのであれば限定提供データに該当しないか、という発想を行うことが重要になります。
ちなみに、現行法における限定提供データに関する解説は次の記事をご参照ください。
収集・蓄積された価値あるデータの法的保護について、弁護士が解説!
(2)営業秘密・限定提供データ侵害における損害賠償額算定規定の拡張
【改正後の不正競争防止法第5条】
1 第2条第1項第1号から第16号まで又は第22号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者がその侵害の行為を組成した物(電磁的記録を含む。以下この項において同じ。)を譲渡したとき(侵害の行為により生じた物を譲渡したときを含む。)、又はその侵害の行為により生じた役務を提供したときは、次に掲げる額の合計額を、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。 (1号省略) ②譲渡等数量のうち販売等能力相応数量を超える数量又は特定数量がある場合におけるこれらの数量に応じた次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額(被侵害者が、次のイからホまでに掲げる不正競争の区分に応じて当該イからホまでに定める行為の許諾をし得たと認められない場合を除く。) (イ及びロ省略) ハ 第2条第1項第4号から第九号までに掲げる不正競争当該侵害に係る営業秘密の使用 ニ 第2条第1項第11号から第16号までに掲げる不正競争当該侵害に係る限定提供データの使用 (2項及び3項省略) 4 裁判所は、第1項第2号イからホまで及び前項各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額を認定するに当たっては、営業上の利益を侵害された者が、当該行為の対価について、不正競争があったことを前提として当該不正競争をした者との間で合意をするとしたならば、当該営業上の利益を侵害された者が得ることとなるその対価を考慮することができる。 |
第5条第1項頭書において「技術上の秘密」が削除されたこと、及び「その侵害の行為により生じた役務を提供したとき」を追加したこと、並びに現行法には定められていなかった第5条第1項第2号、及び第4項を新たに設けたことが改正点となります。
①「技術上の秘密」削除の意義
現行法では、「第2条第1項第4号から第9号までに掲げるもの(※執筆者注:営業秘密侵害に関する規定です)にあっては、技術上の秘密に関するものに限る。」とされているため、営業秘密のうち、営業上の秘密は第5条第1項の適用がありませんでした。
この結果、営業上の秘密については、損害賠償の推定規定が適用されず、権利者は不正競争行為を立証できても、具体的な損害額を立証しきれず、満足のいく損害回復を実現することができない(場合によっては損害立証不十分でゼロ算定となり泣き寝入り)という状態になっていました。
そこで、改正法では「技術上の秘密に関するものに限る」という文言を削除し、営業上の秘密についても第5条第1項による損害賠償推定規定が及ぶようにしました。
②「その侵害の行為により生じた役務を提供したとき」追加の意義
現行法では、「物を譲渡した」場合のみ、第5条第1項に定める損害賠償推定規定の適用ができるという定め方になっていました。このため、例えば、侵害者が営業秘密を第三者に譲渡した場合は損害賠償推定規定を適用することができましたが、侵害者が営業秘密を用いて第三者にコンサルティングサービスなどを提供していた場合には損害賠償推定規定を適用することができないという状態になっていました。
営業秘密の使用態様によって差異を設ける必然性はないという観点から、改正法では「その侵害の行為により生じた役務を提供したとき」を文言追加することで、上記事例のような侵害者による営業秘密の役務提供の場合でも、第5条第1項による損害賠償推定規定が及ぶようにしました。
③「第5条第1項第2号」新設の意義
現行の第5条第1項は、「侵害品の販売数量×権利者における1個当たりの利益」を損害賠償額として推定すると定めています。
もっとも「ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。」と定めているため、仮に権利者より侵害者の方が商売上手で、権利者よりも多く売り捌いていた場合、権利者の能力上売ることができた販売分との差額は損害賠償の対象とならず、侵害者に利益を残してしまうという不都合な状態となっていました。
そこで、改正法では第5条第1項第2号を新設し、その差額分については、権利者が侵害者に対してライセンスできたとみなし、ライセンス料相当額を損害賠償額として推定することで、侵害者に不当な利益を残さないよう対処することになりました。
なお、現行法でも第5条第3項でライセンス料相当額を損害倍額として推定する規定が定められていますが、上記の事例のような権利者の生産・販売能力を超えた分に対して現行法の第5条第3項を適用できるかは疑義がありました。
今回の改正でこの疑義は解消されることになります。
④「第5条第4項」新設の意義
権利者に無断で営業秘密を使用等している侵害者に対し、ライセンス料相当額の損害が発生したと推定されるのは現行法と改正法で相違はありません。
ただ、ライセンス料を考慮する上で、権利者と交渉したうえでライセンス料を定めた場合と、権利者に無断で営業秘密等を使用していることを前提にライセンス料を定める場合とでは自ずと金額が異なってきます。
そこで、営業秘密等を無断で使用していることをラインセス料の増額要因として考慮することができることを明らかにしたのが、第5条第4項新設の意義となります。
(3)使用等の推定規定の拡充(営業秘密のみ適用)
【改正後の不正競争防止法第5条の2】
(1項省略) 2 技術上の秘密を取得した後にその技術上の秘密について営業秘密不正取得行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないで、その技術上の秘密に係る技術秘密記録媒体等(技術上の秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう。以下この条において同じ。)、その技術上の秘密が化体された物件又は当該技術秘密記録媒体等に係る送信元識別符号(自動公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。)の送信元を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。第4項において同じ。)を保有する行為があった場合において、その行為をした者が生産等をしたときは、その者は、第2条第1項第6号に掲げる不正競争(営業秘密を使用する行為に限る。)として生産等をしたものと推定する。 3 技術上の秘密をその保有者から示された後に、不正の利益を得る目的で、又は当該技術上の秘密の保有者に損害を加える目的で、当該技術上の秘密の管理に係る任務に違反して、次に掲げる方法でその技術上の秘密を領得する行為があった場合において、その行為をした者が生産等をしたときは、その者は、第2条第1項第7号に掲げる不正競争(営業秘密を使用する行為に限る。)として生産等をしたものと推定する。 ①技術秘密記録媒体等又は技術上の秘密が化体された物件を横領すること。 ②技術秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は技術上の秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。 ③技術秘密記録媒体等の記載又は記録であって、消去すべきものを消去せず、かつ、当該記載又は記録を消去したように仮装すること。 4 技術上の秘密を取得した後にその技術上の秘密について営業秘密不正開示行為があったこと若しくは営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、又は重大な過失により知らないで、その技術上の秘密に係る技術秘密記録媒体等、その技術上の秘密が化体された物件又は当該技術秘密記録媒体等に係る送信元識別符号を保有する行為があった場合において、その行為をした者が生産等をしたときは、その者は、第2条第1項第9号に掲げる不正競争(営業秘密を使用する行為に限る。)として生産等をしたものと推定する。 |
第5条の2第2項から第4項を新設したことが改正点となります。
この改正点のポイントは、4種類ある営業秘密侵害の行為類型のすべての使用等の推定規定を及ぼすという点にあるのですが、現行法と比較すると次のようになります。
現行法 | 改正法 | |
無権限者が不正取得後、使用した場合
(第2条第1項第4号) |
推定あり | 推定あり |
正当に取得したが、後に不正使用した場合
(同項7号) |
無 | 推定あり |
転得時に悪意重過失で使用した場合
(同項第5号、第8号) |
推定あり | 推定あり |
転得時に善意無重過失だが、後に不正使用した場合
(同項第6号、第9号) |
無 | 推定あり |
現行法の場合、例えば、権利者との合意に基づき営業秘密の開示を受けた取引先が図利加害目的をもって営業秘密を使用した場合、あるいは元従業員が転職先に営業秘密を開示し、転職先が不正に開示された営業秘密であることを事後的に認識したにもかかわらず使用した場合といった事例には、使用等の推定規定が適用されないという状況となっています。
このため、侵害者の内部事情である、侵害者が不正に営業秘密を使用等していることを権利者が証明することは難しく、権利者の保護に欠ける事態となっていところ、改正法によりこの問題は解消されることになります。
なお、使用等の推定規定ですが、改正法においても「技術上の秘密」に限定されていることに注意が必要です(営業上の秘密は使用等の推定規定が適用されません)。
また、「限定提供データ」については、現行法はもとより、改正法においても使用等の推定規定が適用されことも押さえておく必要があります。
3.コンセント制度導入に伴う、不競法の適用除外規定の新設
【改正後の不正競争防止法第19条第1項】
第3条から第15条まで、第21条及び第22条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。 (1号及び2号省略) ③第2条第1項第1号及び第2号に掲げる不正競争 …商標法第4条第4項に規定する場合において商標登録がされた結果又は同法第8条第1項ただし書、第2項ただし書若しくは第5項ただし書の規定により商標登録がされた結果、同一の商品若しくは役務について使用(同法第2条第3項に規定する使用をいう。以下この号において同じ。)をする類似の登録商標(同法第2条第5項に規定する登録商標をいう。以下この号及び次項第二号において同じ。)又は類似の商品若しくは役務について使用をする同一若しくは類似の登録商標に係る商標権が異なった商標権者に属することとなった場合において、その一の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が不正の目的でなく当該登録商標の使用をする行為 |
第19条第1項第3号を新たに設けたことが改正点となります。
この第19条第1項第3号は、要は、類似する商標があっても商標権侵害とならない以上、不正競争防止法違反にならないことを定めた調整規定なのですが、そもそもコンセント制度という言葉自体が分からないと、なかなか理解しづらいところです。
まず前提として押さえておきたい知識ですが、現行商標法第4条第1項第11号にて「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第6条第1項(第68条第1項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」は商標登録を受けることができないと規定しています。したがって、他人が既に登録済みの商標(先行商標)と同一又は類似の商標が出願された場合、商標登録を受けることができません。
しかし、先行商標の権利者が同意しているのであれば、別に登録を認めてもよいのではないかという問題意識があること、諸外国では登録が認められているという実情があります。
そこで、現行商標法第4条第1項第11号の例外として、先行商標の権利者が同意すること、及び先行商標と出所混同の恐れが無いことを条件として、両商標の併存登録を認めることとし、この制度のことを一般的にコンセント制度と呼んでいます。
さて、このコンセント制度も改正不正競争防止法と同時期に施行予定なのですが、コンセント制度が導入された場合、後日どちらか一方の商標が周知性又は著名性を有する事態となった場合、形式的には不正競争防止法違反の問題(不正競争防止法第2条第1項第1号及び同項第2号)が生じます。
しかし、商標登録が許されているにもかかわらず、不正競争防止法違反が認められるとなると、何のための商標登録なのか存在意義が問われかねません。
そこで、第19条第1項第3号を新設し、先行商標とコンセント制度により認められた商標との間では、原則として不正競争防止法違反にならないことを確認する規定を設けたというのがポイントとなります。
4.国際的な事業展開に関する制度整備
(1)外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充
現行法 | 法改正 | |
自然人 | 500万円の罰金
5年以下の懲役 |
3000万円の罰金
10年以下の懲役 |
法人 | 3億円以下の罰金 | 10億円以下の罰金 |
外国公務員贈賄に関する規定は不正競争防止法第18条に定められています。
ただ、この違反に対する刑事罰が軽すぎるという指摘を受け、刑事罰を重くする改正が行われることになりました(グローバル視点での協調といえば聞こえがいいですが、端的に言うと外圧による改正です)。
(2)国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化
【改正後の不正競争防止法第19条の2】
1 日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密であって、日本国内において管理されているものに関する第2条第1項第4号、第5号、第7号又は第8号に掲げる不正競争を行った者に対する訴えは、日本の裁判所に提起することができる。ただし、当該営業秘密が専ら日本国外において事業の用に供されるものである場合は、この限りでない。 2 民事訴訟法第10条の2の規定は、前項の規定により日本の裁判所が管轄権を有する訴えについて準用する。この場合において、同条中「前節」とあるのは、「不正競争防止法第19条の2第1項」と読み替えるものとする。 |
【改正後の不正競争防止法第19条の3】
第1章、第2章及びこの章の規定は、日本国内において事業を行う営業秘密保有者の営業秘密であって、日本国内において管理されているものに関し、日本国外において第2条第1項第4号、第5号、第7号又は第8号に掲げる不正競争を行う場合についても、適用する。ただし、当該営業秘密が専ら日本国外において事業の用に供されるものである場合は、この限りでない。 |
第19条の2及び第19条の3を新たに設けたことが改正点となります。
営業秘密侵害が行われた場合、侵害者が日本国内にいるのであれば日本国法に基づき対処することが可能です。しかし、侵害者が国外になる場合、果たして日本国法に基づき対処できるのか疑義が生じていました(いわゆる裁判管轄と準拠法の問題です)。
この疑義を解消するべく、第19条の2で日本国内の裁判手続きが利用できる場合の条件を、第19条の3で日本国法が適用される場合の条件を、それぞれ定めたことがポイントとなります。
5.当事務所でサポートできること
今回の改正法により、事業者様において、特に意識したい事項としては
・メタバース等のデジタル空間での侵害対応に備え、特徴のある商品形態は何かを今一度確認すること
・営業秘密及び限定提供データの保護範囲が拡充された以上、権利者は営業秘密及び限定提供データに該当するのか管理体制を含め再確認し、権利行使がしやすい環境を作ること(なお、基本的には法的保護が強い営業秘密該当性を目指すこと)
・権利者より営業秘密等の不正利用に関する通知を受領した侵害者は、無視するのではなく、社内調査を行うと共に、万一営業秘密等が混入されている場合には直ちに消去し、消去した証拠を残しておくこと
の3点となります(もちろん、上記以外にも対処したい事項が多々あります)。
ところで、不正競争防止法は使い勝手をよくするために頻繁に改正が行われているのですが、せっかく政府が競争に勝ち抜くためのツールを用意してくれている以上、これを利用しない手はありません。そして、不正競争防止法を正しく理解し、積極的に活用することは、もはや自社有利のビジネス環境を作る上で必須です。
ビジネスを遂行する上で不正競争防止法を含む法律を活用したいと考えている事業者様は、是非当事務所にお声掛けください。当事務所は、自社のビジネスを守りかつ積極展開しようとする事業者様を全力でサポートします。
<2023年9月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
- 商用利用は大丈夫? ChatGPTと切っても切れない著作権の関係について解説
- システム開発取引に伴い発生する権利は誰に帰属するのか
- IT企業特有の民事訴訟類型と知っておきたい訴訟対応上の知識
- ホームページ、WEBサイトに関する著作権の問題について解説
- メタバースをビジネス・事業で活用する上で知っておくべき著作権の問題
- 画面表示(UI)は著作権その他法律の保護対象になるのか?
- 令和5年改正不正競争防止法のポイントを解説
- オープンソースソフトウェア(OSS)利用時に注意すべき事項について(法務視点)
- ソフトウェア・エスクロウとは何か? 活用場面とポイントを解説
- プログラムは著作権法でどこまで保護されるのか。注意点とポイントを解説