Web制作(更新)、保守運用、広告運用代行に関連する契約書作成のポイントを解説

【ご相談内容】

以前にWEBサイトを制作し公開しているのですが、制作後全く手をつけず放置していたところ、社長より、もっとWEBサイトを活用した施策を講じるべきであるとの指示が出ました。

そこで、WEBサイトを更新(刷新)することを前提に、様々な機能をWEB上に実装することに伴う保守業務、及びWEBサイトへの誘導を行うインターネット広告を実施することになりました。

これらの業務につき外部委託するところ、外注先より契約書のドラフト案が提示されました。契約内容につき、どのような点に注意すればよいのか教えてください。

 

【回答】

最近では、WEBサイト(ホームページ)は既に作成済みであることを前提に、当該WEBサイトをどのように活用するのかという視点での取引が活発化しているようです。このため、執筆者が関与する業務としても、単純なWEBサイト制作契約書の作成・チェックは減少しています。

そこで、本記事では、執筆者において最近多くなったと感じている、WEBサイトの更新(刷新)、WEBサイトの保守運用、WEBサイトの広告運用代行に関する契約を取り上げ、解説を行います。

 

なお、WEBサイト制作契約に関する一般的な事項については、次の記事をご参照ください。

IT業界で業務委託契約書を作成する場合の注意点とは?

 

【解説】

1.WEBサイト更新(刷新)契約

WEBサイト更新(刷新)契約において、一般条項(※)を除き定められることが多い内容は次の通りです。

・業務内容及び範囲

・業務の依頼方法(個別契約の成立)

・業務遂行方法(納品、検収、報告など)

・契約不適合責任

・コンテンツ等の権利帰属

・報酬の支払い

・損害賠償の制限、免責

・契約期間

 

※一般条項とは、例えば、「期限の利益喪失条項」、「契約解除条項」、「債権譲渡禁止条項」、「権利義務の譲渡禁止条項」、「秘密保持条項」、「反社会的勢力排除条項」、「不可抗力条項」、「合意管轄条項」などを指します。

 

上記内容の中でも、特に意識しておきたい条項は次の3点となります。

 

(1)従前のWEB制作者との権利関係の確認・処理

WEBサイトの更新(刷新)契約を締結するに当たっては、まず確認しなければならないのが、従前のWEB制作者との権利関係についてです。例えば、次のような条項です。

第×条

1. 委託者は受託者に対し、本契約の対象となるWEBサイトに関するコンテンツ及びプログラムについて、正当な権限を有することを表明し、保証する。

2. 受託者がWEBサイトの更新業務を行うことで、第三者より権利侵害、異議の申立てその他紛争が生じた場合、委託者の責任と負担で当該紛争を解決する。

 

【委託者側視点】

残念ながら、委託者としては、上記のような条項を受け入れざるを得ないのが実情です。

なぜなら、対象となるWEBサイトの権利処理については、専ら委託者が行ってきた事項であり、受託者においてコントロールしようのない事項といえるからです。

したがって、委託者は、第三者が制作したWEBサイトにつき、当該第三者ではなく別の事業者にWEBサイトの更新等を依頼する場合、コンテンツ及びプログラムについて、当該第三者に著作権その他権利が帰属していないか確認する必要があります。

ちなみに、一般的には、当該第三者と締結した契約書の内容を確認すれば判別できます。もっとも、もし契約書に著作権等の権利帰属について定められていない場合、あるいはそもそも契約書を取り交わしたことが無いという場合、コンテンツ及びプログラムの著作権等の権利は当該第三者に帰属している可能性が極めて高くなります。

この場合、委託者において当該第三者と権利帰属につき調整を図る必要が生じます。

なお、仮に上記のような条項を定めなかったとしても、WEBサイトの更新業務完了後に第三者より権利侵害等の申立てがあった場合、法的には委託者が責任を負担することになるのが原則と考えられます(受託者に責任を押し付けることは難しいという意味です)。

 

【受託者側視点】

受託者が制作したWEBサイトではない場合、上記のような条項は必ず定めておきたいところです。

上記の委託者側視点でも記載した通り、WEBサイトのコンテンツ及びプログラムに係る著作権その他の権利については、受託者において調査しようがないからです。

もっとも、調査のしようがないとはいえ、漫然と調査が必要であることを委託者に告知することなく、WEBサイト更新業務を遂行するのは考え物です。なぜなら、受託者としての専門性及び職責を踏まえると、委託者に対し調査が必要である旨の説明義務があったとされる可能性は十分想定しうるからです。

受託者自らを守ること、及び委託者とのトラブルを回避するためにも意識したい条項です。

 

(2)業務範囲の確定

WEBサイトの更新(刷新)契約を締結する場合、何をどこまで行うのかを明確にし、当事者間の認識齟齬を防止する必要があります。例えば、次のような条項です。

第×条

1. 本契約の対象となる「WEBサイトの更新業務」とは、次の通りとする。

・本契約締結時点で公衆送信済みのコンテンツ、又は本条に基づき成立した個別契約に基づき更新業務が完了しかつ公衆送信済みのコンテンツ(以下まとめて「既存コンテンツ」という)につき、委託者の依頼に基づき、既存コンテンツの更新・修正を行うこと、及び既存コンテンツデータを公衆送信用サーバへの転送(アップロード)作業を行うこと。

2. 委託者が受託者に対して更新業務を依頼する場合、受託者は委託者に対し、更新業務受託の可否、予定納期、更新業務の具体的内容・仕様、報酬額、その他必要な情報を記載した見積書を提示する。

3. 前項に定める見積書に対し、委託者が受託者に対して、書面による承諾の意思表示を行うことで、更新業務に関する個別契約が成立する。なお、個別契約が成立しない限り、受託者は更新業務を履行する義務を負わない。

 

【委託者側視点】

WEBサイトの更新(刷新)といっても、旧コンテンツと新コンテンツを置き換えるだけなのか、新たなコンテンツを追加して配置するのか、レイアウト・UIを変更するのかなど様々なものが想定されます。

各業務によって作業量・労力が異なる以上、料金体系も異なることが予想されますので、何をどこまで行ってもらえるのかについては、明確に契約書で定めておきたいところです。

上記条項例では、原則的には旧コンテンツと新コンテンツを置き換えることが業務範囲であることを明示しています。

 

【受託者側視点】

業務範囲を明示しないことには、委託者との認識齟齬を招き、結果的に本来想定してなかった業務を適正な報酬を得ることなく受託することにもなりかねません。

したがって、受託者としても、業務範囲を明示する条項を定めることは極めて重要なこととなります。

なお、上記条項例では示していませんが、業務範囲を“言葉”で簡潔に表現することが難しい場合、対象外となる業務を具体的に列挙し、委託者との認識齟齬を回避するという方法もあります。例えば、受託者は、納入物のコピーまたはバックアップを行わないこと、受託者はドメイン及びサーバの契約管理を行わないこと、CMS等の第三者が開発したソフトウェアの更新に応じた納入物の修正作業は行わないこと、といったものが考えられます。

 

(3)責任範囲限定の有無

WEBサイトの更新(刷新)契約を締結後、何らかのトラブルが発生した場合、どのような責任を負担するのか定めておく必要があります。例えば、次のような条項です。

第×条(契約不適合責任)

1. 第×条に定める検査では発見することが困難であった当事者が合意した仕様との不一致、不具合、バグ等(以下「不適合」という)が納品完了後×日以内に発見された場合、委託者は受託者に対して不適合の修正を請求することができる。

2. 前項の請求があった場合、受託者は合理的期間内に不適合の修正を行うことで、委託者に対するその他の責任を免れることができるものとする。

3. 本条第1項に定める期間内に請求がなかった場合及び本契約が終了した場合、委託者は受託者に対し、不適合に基づく報酬減額請求、損害賠償請求、その他一切の請求を行うことができない。

 

第×条(免責)

受託者は、次の各号につき、一切の責任を負わないものとすることに委託者は合意する。

①テスト環境を含むサーバに対するメンテナンス等の理由により、一時的に閲覧できない状態になること

②電気通信網の遮断その他不具合による情報授受が不可能又は不完全となること

③CMSサービス提供会社によるサービス内容の変更・廃止に伴うWEBサイトへの悪影響

(以下省略)

 

第×条(損害賠償)

委託者及び受託者は、相手方に損害を与えたとき、その損害を賠償するものとする。但し、受託者の賠償額は、当該損害賠償請求の原因となった個別契約に基づき、委託者が受託者に支払った報酬額を上限とする。

 

【委託者側視点】

損害賠償等の契約違反に基づく責任追及を行う場面が多いのは、委託者と考えられます。そうすると、委託者としては法律が認めている責任追及手段よりもどの程度制限されているのかを注意深く検討し、必要に応じて条項修正交渉を行うことになります。

上記条項例の場合、

①契約不適合責任を追及できる期間が制限されていること
②必ずしも不可抗力とは言い難い事由であっても受託者は免責されると定められていること
③受託者が負担する損害賠償額につき上限が設けられていること

が法律よりも制限されている事項と考えられます。

これらの点につき、どこまで修正要求を行い、譲歩するのかが検討のポイントとなります。

 

【受託者側視点】

WEBサイトの更新(刷新)は安価(低利益)である場合が多いこと、不具合による損害が拡大しがちであること、受託者では制御できない不具合にまで対処することは困難であること、といった現実的なニーズから責任範囲をできる限り抑えたいのが受託者の本音です。

上記条項例では、受託者として一切の責任を負いたくない場面(免責条項)、受託者として責任を負うが一定期間に限定する場面(契約不適合責任)、受託者が負担する損害賠償額を限定する場面(損害賠償)の3つのパターンを混在させており分かりづらくなっていますが、上記3パターンを巧みに操りながら契約条項を定めていくことがポイントとなります。

なお、2020年4月1日に改正民法が施行された影響で、契約不適合責任を民法そのままの内容で条項化すると、受託者にとって著しく不利な内容となりがちです。時々、法律の通りであればフェアであるので問題ないと考える受託者がいるようですが、非常にリスクがあることを知っておく必要があります。

 

2.WEBサイト保守運用契約

WEBサイト保守運用契約において、一般条項を除き定められることが多い内容は次の通りです。

・業務内容及び範囲

・業務の依頼及び遂行方法(連絡先、受付時間、実施体制など)

・報酬の支払い

・資料、情報の取扱い

・損害賠償の制限、免責

・契約期間

 

上記内容の中でも、特に意識しておきたい条項は次の3点となります。

(1)業務範囲の特定

WEBサイトの保守運用契約を締結する場合、何をどこまで行うのかを明確にし、当事者間の認識齟齬を防止する必要があります。例えば、次のような条項です。

第×条(業務内容)

本契約において、受託者が委託者に対して提供する保守業務等は次の通りとする。

(1)サーバの管理

WEBサイトを構成するコンテンツ、プログラム及びデータベースを格納したサーバー(仮想マシンを含む)の障害・不具合・トラブルの原因調査を行なうこと。

(2)CMSバージョン管理

委託者がWEBサイトのために既に導入しているコンテンツマネジメントシステム(CMS)のバージョン変更があった場合に当該バージョンのダウンロード作業を行なうこと。但し、WEBサイトに適合させるためのCMSプログラムを変更することは除く。

(3)バックアップ

毎月×日にサーバ内に自動的に生成されるバックアップデータについて、翌営業日までに受託者の管理するローカルファイル内にダウンロードの上、保存する作業のこと。なお、ローカルファイル内に保存するバックアップデータの保存期間は、ダウンロード日より×カ月間とする。

(以下省略)

 

【委託者側視点】

WEBサイトの保守運用契約でトラブルとなる原因は、「保守運用業務」というキーワードにどのような業務が含まれているのか、委託者と受託者との間で認識の共有ができていないことに由来することが多いと考えられます。

もちろん、委託者において、必要となる具体的な保守運用業務の内容をイメージすることが難しいかもしれません。ただ、難しいからといって、受託者が提案するままに何も検討することなく受け入れることは考え物です。社内でのニーズを拾い上げると共に、当該ニーズが契約書に反映されているのか弁護士に確認するといった、面倒でも確実な対策を講じることが一番といえます。

 

【受託者側視点】

委託者と受託者との間で業務範囲につき認識共有ができていないことがトラブルの原因であること、上記で記載した通りです。

したがって、できる限り個別具体的に保守運用業務の内容を定めておくことが重要となりますが、どうしても言葉では表現しづらいという場面も想定されます。この場合、保守運用業務として含まれない内容を個別に列挙し、委託者の誤解を防止するといった対策を講じることも検討に値します。例えば、サーバ環境構築などのインフラ関連開発業務、データやデータベースのバックアップ作業、サーバ障害・復旧対応、サーバ監視業務等のインフラ関連保守業務、WEBサイトに対する新規システムの導入又は外部システムとの連携業務などは含まれないと明記することで、業務範囲の絞り込みを図ることが考えられます。

なお、業務範囲と関連して、保守運用の対象となるWEBサイトを契約書上に明記した方が良い場合もあります。なぜなら、委託者が複数のWEBサイトを運営している場合、どのサイトが保守運営の対象となるWEBサイトなのかが分からなくなるからです(一部委託者には、ついでにやって欲しいと要望してくる場合があり、受託者にとって適正な報酬が取れずに作業量が増大する一因となりがちです)。

 

(2)実施体制・対応時間

WEBサイトの保守運用契約を締結した場合、何か事があれば直ちに対処してほしいと考える委託者と、24時間365日体制を構築することは不可能と考える受託者との間でトラブルが生じがちです。このトラブルを回避するために、例えば、次のような条項を定めることが考えられます。

第×条(実施体制・対応時間)

1. 保守対応窓口は以下のとおりとする。

住所:××

会社名:××

電話番号:××

担当責任者:××

2. 保守内容に関する受付対応時間は、平日10時から17時までとする(土日、祝日、年末年始、夏季休業日その他受託者の休業日を除く)。なお、上記受付時間外や緊急時は、別途協議の上で定めた連絡方法により連絡を行うものとし、受託者は、連絡を受けた直後に到来する営業日に受付処理を行い対応する。

3. 保守対応は、原則として委託者の事業所以外の受託者が定める任意の場所より、サーバ内データ及びデータベースへ接続し、状況確認及び修正対応するものであって、訪問対応、常駐対応するものではない。但し、受託者が必要と認めた場合、委託者の事業所への訪問を行い対応する場合がある。

 

【委託者側視点】

24時間365日即時対応することは難しいとしても、緊急時はどこまで対応してもらえるのか、委託者の元まで駆けつけて対処してくれるのか等を確認することがポイントとなります。

なお、上記条項例では、受託者の営業時間外は受付け自体行わないとされていますが、別途費用を支払うことを条件に、緊急時にはすぐに対処できるようにしてもらうといった修正を提案することも要検討です。

 

【受託者側視点】

実施体制については確実に対応できる内容を明記することがポイントです。特に営業時間外での対応はどうなるのか、現場(委託者の事業所)まで駆けつけてくれるのかについては、委託者とトラブルになりやすいので、必ず明記しておきたいところです。

なお、上記条項例では、受託者の裁量により、委託者の事業所へ訪問する場合があることを定めていますが、委託者より要請があった場合は別途料金が発生することを予め明記しておくことも検討に値します。

 

(3)情報管理体制

WEBサイトの保守運用業務を依頼する場合、委託者は受託者に対し、例えばサーバのIDやパスワードといった機密性の高い情報を開示することになるところ、これらの情報の取扱いについてはルールを定めておく必要があります。例えば、次のような条項を定めることが考えられます。

第×条(開示情報の保護)

1. 受託者は、委託者より開示を受けた情報(以下「開示情報」という)について、第三者に開示又は漏洩してはならない。

2. 受託者は、開示情報を、本契約の履行のためにのみ使用、加工、複写等するものとし、他の目的に使用、加工、複写等してはならない。

3. 受託者は委託者に対して、毎年×月末日限り、開示情報の管理状況について報告する。

4. 受託者において、万一、開示情報の漏洩等の事故が発生した場合には、受託者は委託者に対し、直ちに当該事故の発生の日時・内容その他詳細事項について報告する。また、受託者は、自己の費用において、直ちに漏洩等の原因の調査に着手し、速やかに委託者に対し調査の結果を報告するとともに、委託者が満足する内容の再発防止措置を講じ、委託者に対しその内容を報告しなければならない。

 

【委託者側視点】

機密性の高い情報が漏洩することで損害を被るのは委託者である以上、受託者に対して当該情報の取扱いにつき、適切な義務を課すと共に、取り扱い状況につき調査・監査ができるようにすることが重要となります。

なお、秘密保持契約を別途締結している以上、上記のような条項を定める必要がないのではと考える方もいるかもしれません。たしかに、秘密保持契約の締結で事足りる場合もあるのですが、例えば秘密保持契約における秘密情報の定義を踏まえると、開示した情報が秘密情報に含まれない場合があり得ます。また、秘密保持契約を締結したタイミング如何によっては、開示した情報が秘密情報から外れてしまう場合もあります。

したがって、秘密保持契約で対応可能なのかを十分見極めたうえで、上記条項は不要と判断するのかを決めるべきです。

 

【受託者側視点】

委託者が開示する情報が機密性の高いものである以上、上記のような条項は原則受け入れざるを得ません。

もっとも、契約によっては、到底遵守できないような内容が定められていることがあります(例えば、開示された情報は独立区画のセキュリティールーム内で保管し、情報を保存する端末はインターネット回線とは切断された状態であることといった厳しい条件が課せられている場合など)。

情報セキュリティに関する事項につき修正を求めることは気が引けると考える受託者も多いようですが、対応困難であることが分かっているにもかかわらず、無理して受け入れる方が問題ありと言わざるを得ません。できること・できないことを委託者に伝えた上で、現実的な内容に修正することがポイントとなります。

 

 

3.WEBサイト広告運用代行契約

プラットフォーム上の広告、アフィリエイト、インフルエンサーによる拡散など様々な手法がありますが、WEBサイトの広告運用代行契約において、一般条項を除き定められることが多い内容は次の通りです。

・業務内容

・委託者と受託者の役割分担

・報酬の算定方法

・商標等の使用許諾

・広告掲載のために生成した情報の取扱い

・損害賠償

・契約期間

 

上記内容の中でも、特に意識しておきたい条項は次の3点となります。

 

(1)業務内容

インターネット広告には様々な種類があることを踏まえ、どの媒体を利用するのか特定し、当事者双方の認識を共有しておく必要があります。例えば、次のような条項です。

第×条

1. 本契約において、受託者は、次の各号に掲げる範囲内でサービスを提供する。

(1)Yahoo!広告及びGoogle広告の広告管理代行

(2)前号以外のディスプレイ広告及びWEB広告

2. 委託者は、受託者において広告掲載による効果の保証を一切行わないことを了承する。

3. 受託者が広告掲載業務を実施するにあたりID及びパスワードが必要となる場合、委託者はこれを受託者に付与する。ID及びパスワードは、受託者が厳重に管理する。

4. 受託者は、毎月15日までに、委託者に対し広告掲載業務の実施内容を報告しなければならない。この報告は、別途受託者が定める様式を使用し、速やかに電子メールに添付して行う。

 

【委託者側視点】

上記条項例は、いわゆるリスティング広告を想定したものであり、とりあえず媒体のみ明記するだけで、広告掲載に関する細かな事項(ターゲットの絞り込み、掲載のタイミング、キーワードの選定等)については、あえて定めていません。おそらくは細かな事項については、基本的に受託者の裁量に委ねることになることが多いと思いますが、そうであれば後日検証できるよう業務の実施状況について報告義務を課すことが重要となります。

ところで、アフィリエイト広告の場合、受託者は広告主(委託者)とアフィリエイターとを繋ぐプラットフォーマーであることが通常であるところ、アフィリエイター指定の可否、アフィリエイターの管理体制など、リスティング広告とは異なるチェックポイントが生じます。

また、インフルエンサーを通じた広告(情報の拡散)の場合、やはり受託者は広告主(委託者)とインフルエンサーとを繋ぐプラットフォーマーとなりますが、どちらかというと、広告するコンテンツ内容のすり合わせを行うことが主な業務となりますので、やはりチェックポイントが異なってきます。

 

【受託者側視点】

受託者としては何をどこまで行うのかをきちんと明記することはもちろんですが、広告の成果について保証ができないことを明記することが重要となります。

ところで、上記条項例では触れていませんが、受託者は、広告により誘導されるWEBサイトの内容それ自体は関知しないことが通常ですので、WEBサイトの適法性や妥当性等については責任を負わない(委託者にて対処する)ことを明記することも一案かもしれません。また、広告掲載することによるトラブル(広告対象となった商品・サービスに対する苦情等)については委託者の責任と負担で対処することを明記することも検討に値します。

 

(2)報酬の算定方法

広告運用業務に対する報酬算定方法は様々なものがあり、トラブルを避けるためにも分かりやすく一義的に記載する必要があります。例えば、次のような条項です。

第×条

委託者が受託者に支払う報酬は、月間広告費の20%とする。

 

【委託者側視点】

上記条項例の場合、広告費が増加すればするほど報酬も比例的に増額するという関係に立ちます。

ある意味では分かりやすいのですが、これでは大規模な広告を行いたいと委託者が考えても、報酬のことが気になって足踏みしてしまうということにもなりかねません。このような事態に備えて、報酬については一定額を上限とする条項を明記できないか交渉することがポイントとなります。

なお、実際に広告費として用いた分だけ報酬を支払えばよいので、一見すると不正な報酬請求はないと考えるかもしれません。しかし、広告の掲載方法は受託者の裁量によって行われることが通常である以上、委託者が意図しない方法で広告掲載が行われチャージされている可能性も否定できません。したがって、上記(1)でも記載した通り、広告掲載の実施状況について検証できる体制を構築し、必ず検証することが重要となります。

 

【受託者側視点】

委託者側視点と同じく、広告費と報酬額が連動する点では分かりやすい報酬体系といえます。

しかし、広告費が少額にとどまった場合、作業量とは見合わない報酬になるリスクも潜んでいます。この観点からすると、月額の最低報酬額を定めることも検討に値します。

なお、上記報酬体系は一般的にはリスティング広告に見られるものです。アフィリエイト広告の場合、成果報酬型(アフィリエイト広告を介してユーザがWEBサイトを訪問し、商品・サービスを購入したことで発生する報酬体系)となるのが通常ですので、条項内容が異なることになります。また、インフルエンサーを利用する場合、固定額を支払うという報酬体系になるのが通常であり、やはり条項内容が異なることになります。

受託者としては、広告媒体・手法に応じて、適切な報酬に関する条項を定めることがポイントとなります。

 

(3) 広告掲載のために生成した情報の取扱い

リスティング広告の場合、キーワードの選定や入札単価等が極めて重要な情報となり、受託者のノウハウと言っても過言ではありません。このため、これらの情報の権利関係につき決めておく必要があります。例えば、次のような条項です。

 

第×条

1. 受託者が、広告掲載業務遂行のために作成、編集、加工等した広告アカウント内の情報(キャンペーン、広告グループ、広告、キーワード、その他の設定及びデータ等)の権利は、受託者に帰属する。

2. 委託者は、前1項の情報を受託者の許可なく、本件業務の目的の範囲外で利用してはならない。

 

【委託者側視点】

委託者としては、上記条項例で記載した情報があれば、自ら広告運用を行うことができますので、可能であれば入手したい情報となります。もっとも、これらの情報は受託者のノウハウとも言うべき情報ですので、受託者に対して譲渡するよう要求すると、激しい抵抗を受けることが予想されます。

したがって、上記のような条項例は受け入れざるを得ないのが実情です。

但し、委託者としては、受託者との取引が終了したとしても、広告運用を継続する可能性がありますので、第2項について取引終了後は適用しないよう受託者に協議したいところです(なお、受託者の誤解を招かないよう、広告アカウント自体は削除し、情報自体は消去することを前提にした方が無難と考えられます)。

 

【受託者側視点】

情報それ自体は権利の対象ではありません。このため、実は上記のような条項を定めておかない限り、上記条項例で記載したような情報は受託者単独に当然に帰属すると結論付けることはできません。

したがって、受託者としては必ず定めておきたい条項となります。

なお、考え方にもよりますが、取引終了後にこれらの情報を受託者が保持していたとしても、おそらくは何らの利益を生まない情報になると思われます。そうであれば、広告アカウント自体を有償で譲渡するということを想定し、委託者が希望した場合には一定額で譲渡する旨定めておくことも一案かもしれません。

 

4.当事務所でサポートできること

当事務所では、WEBサイト制作契約書はもちろん、本記事で取り上げたWEBサイト更新(刷新)契約書、WEBサイト保守運用契約書、WEBサイト広告運用代行契約書の作成及びリーガルチェックを日常的に行っています。

また、他にも、WEBサイトの譲渡契約書、WEBサイト用のコンテンツ使用許諾契約書、WEBサイト(通販サイト)の運用代行契約書、レベニューシェア契約書、ITコンサルティング契約書など、WEBに関連する様々な契約書の作成及びリーガルチェックに関与しています。

業務を通じて得られた知見及びノウハウをご依頼者様に還元することが可能と考えています。WEBサイト制作契約書などの作成・リーガルチェック・解釈方法などについてご相談がございましたら、是非当事務所をご利用ください。

 

<2023年4月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。