2022年の特定商取引法(特商法)の改正点とは?
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【ご相談内容】
2021年(令和3年)に改正特定商取引法が成立し、2022年(令和4年)6月1日より施行されたと聞き及びました。
改正特定商取引法の内容は、サブスクリプション形態をとる通信販売に大きな影響を及ぼすとのことですが、どのような修正が行われ、どのような対応を取ればよいのか、ポイントを教えてください。
【回答】
2022年(令和4年)6月1日より施行の改正特定商取引法は、巷ではサブスクリプション形態の取引に対して規制が強化されたと言われていますが、実際のところ、サブスクリプションのみならず通信販売事業を行う事業者全体に影響のある改正内容となっています。
そこで、本記事では、主としてインターネット通販を念頭におきつつ、2022年6月1日施行の改正特定商取引法に基づき通販事業者が対応するべき事項を解説すると共に、最後に通販事業以外の事業者が留意するべき改正特定商取引法の内容を整理し、そのポイントを記述します。
【解説】
改正点① 通信販売における規制強化
(1)広告表示の拡大
「広告表示」を書くと、宣伝・マーケティング活動を行うに際して用いる広告コンテンツに何か表示をしなければならないのかと考える方も多いのですが、これはいわゆる「特定商取引法に基づく表示」という項目の中で記載するべき事項のことです。
おそらくネット通販その他インターネット上で取引を行う場合、WEB制作業者やプラットフォーム運営者より「特定商取引法に基づく表示」を作成するよう指示を受けると思うのですが、それのことです。
2022年(令和4年)6月1日より、次の3点を「特定商取引法に基づく表示」の中に記載することが義務付けられていました(特定商取引法第11条)。
①契約の申込期間
②役務提供契約に対する申込みの撤回・解除の定め
③定期役務提供契約における金額、契約期間その他の提供条件
①についてですが、実は改正法前にも「申込みに有効期限があるときはその期限」を明示することが規則で義務付けられていました。したがって、旧法に従って対応ができていた通販業者にとっては、特段新たな表示事項とはなりません。
今回の改正で、この「申込期間」に関する表示義務の根拠が規則から法律に格上げになったことで、実は後述の(2)の注文画面(最終確認画面)の表示事項にもなったこと、及び後述(4)の表示に不備があった場合に消費者は注文を取消すことが可能となったこと、という別の場面で影響が生じることになります。
次に、②についてですが、従前はネット上での物販=有体物を対象とする取引につき申込みの撤回・解除につき表示することが義務付けられていました。しかし、今回の改正により役務提供契約、要はサービスの提供やライセンスの付与に関する無体物を対象とする取引についても申込みの撤回・解除につき表示することが必要となります。
ちなみに、役務提供契約の場合、法定返品制度(8日間であれば事業者の責任の有無に関係なく、消費者は無条件で商品を返品できる制度のこと)は適用されません。
したがって、役務提供契約における申込みの撤回・解除を表示する場合、利用者都合による解約の可否及び解約可能な場合の条件、並びに事業者の責めに帰すべき事由による解除(契約不適合責任など)を行う場合のルールを表示すればよいということになります。なお、利用者に誤解を招かないためよう念のための注意喚起として、役務提供契約の場合は法定返品制度の適用がないことを表示するのも一案かもしれません。
最後に、③についてですが、定期役務提供契約、いわゆるサブスクリプションによるサービス提供・ライセンス付与の取引と考えればわかりやすいかと思います。旧法では定期購入(2回以上商品の売買契約を継続して締結する取引)のみ、金額、契約期間その他の提供条件に関する表示義務があったのですが、改正法により役務提供契約にも表示義務が生じることとなりました。
今回の改正は通信販売に関する事項が多いところ、特にサブスクリプションビジネスを展開する事業者を狙い撃ちにした改正内容が大部分を占めます。それだけトラブルが多く、行政も監視を強めているということを意味しますので、事業者としては適切な表示を心掛けたいところです。
(2)注文画面(最終確認画面)における表示事項の拡大
インターネット上の通信販売において、注文画面(最終確認画面)に取引条件を適切に表示する必要があることは従前より定められていたところ、サブスクリプションビジネスによるトラブルが近時激増したことを受け、表示するべき事項を改めて整理したというのが今回の改正内容となります。
改正法に基づき、注文画面(最終確認画面)に表示しなければならない事項は次の6つとなります。
①当該売買契約に基づいて販売する商品若しくは特定権利又は当該役務提供契約に基づいて提供する役務の分量(特定商取引法第12条の6第1項第1号)
②商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)(特定商取引法第12条の6第1項第2号)
③商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法(特定商取引法第12条の6第1項第2号)
④商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期(特定商取引法第12条の6第1項第2号)
⑤商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容(特定商取引法第12条の6第1項第2号)
⑥商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(第15条の3第1項ただし書に規定する特約がある場合にはその内容を、第26条第2項の規定の適用がある場合には同項の規定に関する事項を含む。)(特定商取引法第12条の6第1項第2号)
各事項について、特に定期購入・サブスクリプションを中心に簡単な解説を記述します。
①ですが、定期購入契約の場合、各回に引渡す分量と総分量(引渡しの回数)を表示する必要があります。定期役務提供契約の場合、役務の提供期間とその期間内に利用可能回数があるのであればその内容を表示する必要があります。またいずれの契約についても、期間無制限である場合や自動更新がある場合はその旨を表示する必要があります。なお、期間無制限の場合、一定期間を区切った分量を目安として表示することが望ましいとされています。
②ですが、スポット取引の場合であっても、従前より複数の商品・サービスを購入した場合の支払総額を表記していたかと思います。これとパラレルに考えると、定期購入契約の場合、各回の代金のみならず、支払代金総額を表示する必要があることがポイントとなります。また、定期役務提供契約の場合、無償から有償サービスに移行する段階で支払うべき金額を表示すると共に、期間無制限であれば一定期間を区切った支払(総)額を表示することが望ましいとされています。
③ですが、定期購入契約の場合、各回の代金の支払時期を表示することがポイントとなります。
④ですが、定期購入契約の場合、各回の商品の引渡し時期を表示することがポイントとなります。
⑤ですが、例えば「今なら半額!」といった訴求を行う場合、いつからいつまでのことを指して「今なら」というのかを表示することがポイントとなります。
なお、「今だけ半額!なくなり次第終了!」といった訴求の場合、個数限定販売であって申込期間ではないことから表示不要となります(個数限定販売であることを明記したほうが顧客とのトラブルを回避できるという意味では、任意で表記したほうが無難かもしれません)。
⑥ですが、定期購入契約の場合において、解約(事業者の責めに帰さない利用者都合による契約解消)の申し出に期限がある場合はその申出期限を表示すること、利用者に違約金その他不利益が生じる場合はその旨及びその内容を表示することがポイントとなります。
なお、解約妨害の事例が多発していることから、表示内容の適切さ・分かりやすさはもちろんのこと、解約手続きがスムーズに進めることができるかについても、行政が特に注意を払って取り締まりを強化していること、事業者は注意する必要があります。
ちなみに、注文画面(最終確認画面)での具体的な表示の仕方と詳しい解説、その他特定商取引法第12条の6第1項以外で注文画面(最終確認画面)が果たす機能等については、次の記事もご参照ください。
ネット通販における最終確認画面の重要性について、弁護士が解説!
(3)誤認表示の禁止
例えば、インターネット通販において、商品を選択しカートに入れた後、「次へ」という表示が出たのでクリックしたところ、注文完了となってしまった…という場合、利用者からすれば、「次へ」をクリックしたら注文になるとは通常想定できません。このような契約の申込みとなることにつき、誤認させるような表示を行うことは禁止されています(特定商取引法第12条の6第2項第1号)。
また、上記(2)で記載した、注文画面(最終確認画面)に表示するべき事項、例えば、サブスクリプションサービスについて「いつでも解約可能」としつつ、実は解約するには一定の条件を充足する必要がある場合において、注文画面(最終確認画面)を目いっぱいスクロールした先の画面の隅に小さな文字で条件が記載されていた場合、利用者からすれば無条件で解約可能と誤解するのがむしろ通常です。
このような特定商取引法第12条の6第1項各号に基づき表示するべき事項につき、誤認されるような表示を行うことは禁止されています(特定商取引法第12条の6第2項第2号)。
(4)取消権の新設
今回の改正で事業者にとって一番影響の大きい事項ではないかと考えられます。
新たに設けられた取消権が行使可能となる場面は次の4類型となります(特定商取引法第15条の4)。
①特定商取引法第12条の6第1項に基づく表示(注文画面・最終確認画面に表示する6事項)につき、不実の表示があり、その表示を利用者が誤認した場合
②特定商取引法第12条の6第1項(注文画面・最終確認画面に表示する6事項)に基づく表示を行わず、その表示が行われていない事項につき存在しないと利用者が誤認した場合
③特定商取引法第12条の6第2項(誤認表示の禁止)に違反し、申込みに関して誤認させるような表示を行った場合(当該表示が申込みにならないと誤認させた場合)
④特定商取引法第12条の6第2項(誤認表示の禁止)に違反し、特定商取引法第12条の6第1項に基づく表示(注文画面・最終確認画面に表示する6事項)について利用者が誤認した場合
事業者による注文画面・最終確認画面の表示や構成、遷移に不備があった場合、利用者より取消権を行使されても致し方がないと考えられます。しかし、事業者は問題なしと認識していても、利用者より問題ありとして取消権を行使されたことで、果たしてその取消権行使は正当なものといえるのか(特定商取引法第15条の4の要件を充足するのか)につき、今後紛争が続出するものと考えられます。
事業者においては今一度、注文画面(最終く確認画面)の表示や構成、遷移につき確認を行ってほしいところです。
(5)不実告知の禁止
これも今回の改正で新たに定められた事項となります。
特定商取引法第13条の2を分解して成立すると、次のようになります。
①通信販売に係る売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除を妨げる目的で
②-a 申込みの撤回・解除に関する事項
②-b 契約の締結を必要とする事情に関する事項
③について、不実のことを告げる行為をしてはならない
(※②はa又はbのいずれかに該当した場合)
②-aに該当する例としては、本当は発生しないにもかかわらず、今解約すると違約金が発生すると虚偽の説明を行って、定期購入契約の中途解約を妨害する行為などがあげられます。また、②-bに該当する例として、裏付け証拠もなく、今使用を中止するとかえって悪影響が出ると不安を煽る説明を行って、定期購入契約の中途解約を妨害する行為などがあげられます。
なお、不実告知の禁止に該当した場合、行政からの改善指示や業務停止命令などの行政処分のほか、刑事罰の対象にもなりますので、注意が必要です。
(6)顧客の意に反して契約の申込をさせようとする行為の禁止
これは特定商取引法第14条第1項第2項に基づき、従前より省令で定められ、行政からの指導対象になっていた事項です。
ちなみに、その一部である、「電子契約の申込みとなることを容易に認識できるよう表示していないこと」及び「書面の送付が申込みとなることを容易に認識できるよう表示していないこと」については、法律に格上げされました。すなわち、特定商取引法第12条の6第2項第1号(上記(3)の誤認表示の禁止に該当します)に移行されたことで、取消権の対象となったこと要注意です。
改正点② 行政処分の強化
この部分の改正内容は、事業者が詳しく知っていてもあまり意義はないかと思いますので、端的に次の2点のみ記載しておきます。
①立入検査権限が拡充されたこと(特定商取引法第66条)
②業務停止命令・業務禁止命令の対象となる法人の役員等の範囲が拡大されたこと(特定商取引法第8条の2等)
②ですが、要は、法人のみ業務停止命令等の処分対象としても、その役員が別法人を設立して活動を始めるといたちごっこになってしまうことから、直接その役員に対して業務停止命令等の処分を課すことができること、その役員の対象範囲が今般の改正により拡大したことを意味します。
改正点③ 通信販売以外での改正事項
(1)送り付け商法対策の強化
実はこれについては、2021年7月6日に先行して施行されています。ただ、2021年(令和3年)の特定商取引法の改正内容の1つであることから、一応触れておきます。
実は送り付け商法(ネガティブオプション)については、旧法でも定められており、一定の範囲で消費者保護が図られていました。
しかし、旧法では、一方的に送り付けられた商品を14日間保管する必要があり、消費者にとって負担が生じていました。
そこで、今回の改正法では、14日の経過待たずに、すなわち受領後直ちに送り付けられた商品を処分しても問題なしと規定されました(特定商取引法第59条、同第59条の2)。
事業者視点でいうと、消費者に処分されても一切文句を言えない(商品の返還請求はもちろん損害賠償請求を行うことができない)ことを意味しますので、くれぐれも不当な商品送り付けは行わないようにしてください。
(2)クーリング・オフの電子化
通信販売ではクーリング・オフは適用されませんが、それ以外の特定商取引法で定められている商取引、すなわち訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売、及び訪問購入については、要件の相違が一部あるもののクーリング・オフの適用があります。
このクーリング・オフについては、旧法では書面による行使が条件とされていましたが、今般の改正法では電磁的記録、すなわち電子メールやWEB上のお問い合わせフォーム、FAX、LINE等でも行使可能と改められました。
クーリング・オフの行使方法が拡大されたことを踏まえ、事業者として行うべき対策としては、管理のしやすさを考慮し、クーリング・オフの行使方法につき合理的な範囲内で制限する特約を設け、利用者の承諾を得るという方法が考えられます。但し、消費者庁は「電子メールでアポイントを取るような訪問販売において、クーリング・オフの通知を書面による方法のみに限定する」、「契約締結に際してSNSを用いた連絡を取っていたにもかかわらず、当該SNSを用いたクーリング・オフの通知を受け付けないとする」といった制限特約は、たとえ消費者の承諾を得ていたとしても法律上は無効になる可能性があると注意喚起していることを押さえておく必要があります。
改正点④ 事業者が交付すべき書面の電子化
訪問販売を行う上で必要となる契約書面等につき、従来は紙媒体にて消費者に交付する必要がありました。しかし、今回の改正法では、電磁的方法を用いて交付することを認められました。
しかし、消費者団体等から懸念の声を受け、改正法は成立しているものの、本記事作成時点(2022年7月)では施行されておらず、またいつ施行されるのか見通しが立っていない状態です。
現時点では今まで通り、紙媒体にて契約書面等を交付することを徹底しつつ、今後の動向を注視するほかないかと思います。
<2022年7月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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