不実証広告規制とは何か? その意味や対処法などを解説

 

【ご相談内容】

当社は、製造販売している消費者向け商品につき、積極的な宣伝広告活動を展開しており、訴求力を重視して一部広告にはやや誇張された内容があります。

ある日、消費者庁より文書が届き、広告表示に記載されている効果・性能に疑義があるとして、裏付け資料の提出を求められました。

今後どのように対応していけばよいのでしょうか。

 

 

【回答】

消費者庁より送付された文書は、おそらく不実証広告規制手続きを開始することを宣言した文書であると考えられます。

そうであれば、15日以内に、広告に記載された効果・性能につき合理的に根拠づける資料を探し、整理した上で、消費者庁に提出する必要があります。

万一、資料を提出しない場合、又は提出した資料が合理的な根拠を示すものではないと消費者庁が判断した場合、景品表示法違反(優良誤認表示)として措置命令等が発令され、様々な不利益が及ぶことになります。

以下では、不実証広告規制の内容と、事業者にとって重要な対応となる「合理的な根拠を示す資料」とは何かを中心に解説します。

 

【解説】

 

1.不実証広告規制とは

(1)概要

不実証広告規制とは、事業者が、消費者庁長官より、商品又は役務の品質、規格その他の内容に関する表示について、期間を定めて、その裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求められたにもかかわらず、当該資料を提出しない場合、当該表示を不当表示とみなすという規制のことを言います。

景品表示法では、次のように定められています。

第7条第2項

内閣総理大臣は、前項の規定による命令(※執筆者注:措置命令のこと)に関し、事業者がした表示が第5条第1号(※執筆者注:優良誤認表示のこと)に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。

 

要は、消費者庁より「広告表示について優良誤認の疑いがあるから合理的根拠を示せ」と言われたにもかかわらず、事業者が合理的根拠を示さなかった場合、消費者庁は有無を言わさず優良誤認表示と断定し、制裁を科してくるということです。

本来であれば、行政処分を科す行政機関側において問題があることを立証しなければならないのですが、それでは時間と労力がかかり、消費者被害が拡大する恐れがあるため導入された制度となります。

 

(2)なぜ事業者は不実証広告規制に注意しなければならないのか

広告表示を行う以上、それなりの根拠を持っていると考えている事業者も多いと思います。

ただ、不実証広告規制により提出が求められる「合理的な根拠を示す資料」とは、事業者が考えている根拠資料よりも相当絞られています(後述3.参照)。

このため、事業者の考えと消費者庁の考えのズレ(事業者が不実証広告規制を正しく理解していないこと)により、事業者が根拠資料を提出しても、「当該資料は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められない」として、簡単に優良誤認表示として認定されてしまうというのが実情です。

したがって、事業者としては、不実証広告規制に耐えうるだけの根拠資料を有しているのか、内部検証はもちろんのこと、弁護士等の専門家を交えて外部検証も行うことをお勧めします。

 

2.不実証広告規制の手続きの流れ

 

優良誤認表示の疑義ありとして、不実証広告規制の手続き開始後のフローは次の通りとなります。

 

(1)文書による資料提出の要求

消費者庁より、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求める文書が事業者宛に送付されます。なお、この文書には、「①当該事業者がした当該表示内容、②資料の提出先及び提出期限」が記載されています。

 

(2)資料の提出

合理的な根拠を示す資料の提出期限は原則15日以内とされています。

この提出期限については、「正当な事由」がある場合は延期申請ができるとされています。しかし、消費者庁は「具体的にどのような理由であれば、正当な事由と認められるかは、個別の事案ごとに判断されることになるが、新たな又は追加的な試験・調査を実施する必要があるなどの理由は、正当な事由とは認められない。」という見解を公表しています。おそらく現場実務の運用としては、自然災害等の不可抗力による場合くらいしか想定していないように思われます。

 

(3)措置命令

事業者が提出した資料について、消費者庁が合理的な根拠ありと判断した場合、手続きは終了となります。

一方、事業者が資料を提出したものの消費者庁が納得しない場合、消費者庁は「当該資料は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められない」とだけ述べて、優良誤認表示に該当すると判断します。

その上で、消費者庁は事業者に対し、措置命令(例えば、①一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること、②再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること、③今後、表示の裏付けとなる合理的な根拠をあらかじめ有することなく、同様の表示を行わないこと等を命じる)を発令します。

なお、消費者庁は、事業者が提出した資料につき、合理的な根拠として認められない理由を開示しません。もし、事業者がその理由を知りたいと考えた場合、別途手続きを踏む必要があります(行政不服審査の申立て、仮の差止の訴えの提起など)。

 

(4)課徴金納付命令

優良誤認表示と認定され措置命令が発令された場合、後で課徴金納付命令も発令する可能性が高くなります。

課徴金とは一種の罰金のようなものですが(刑法上の罰金ではないことに注意)、広告表示に基づく取引額の3%を課せられますので、取引規模によっては事業者にとって大きな負担となり得る厳しい制裁となります。

なお、課徴金制度の詳細については、次の記事をご参照ください。

 

景表法における課徴金制度とは?予防策から対処法までそのポイントを解説

 

(5)取消訴訟

不実証広告規制手続きを経て措置命令が発令されたことに対して不服がある場合、事業者は、取消訴訟を提起し争うことになります。

 

3.「合理的な根拠」の判断基準

 

不実証広告規制の手続きが開始された場合、事業者の対処法としては、とにもかくにも「合理的な根拠を示す資料」を15日以内に提出すること、これに尽きます。

ただ、上記1.(2)でも記載した通り、事業者が合理的と考えている資料と、消費者庁が合理的と認定する資料とにはギャップがあります。

したがって、消費者庁がどのようなものであれば合理的と考えているのかを探る必要があります。この点、消費者庁は「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―」を公表し見解を示していますので、以下では、そのポイントを解説します。

 

(1)概要

消費者庁が考える「合理的な根拠」とは、次のように整理できます。

考慮要素 具体例
①提出資料が客観的に実証された内容のものであること (a)試験・調査によって得られた結果

(b)専門家、専門家団体もしくは専門機関の見解または学術文献

②表示された効果・性能と、提出資料によって実証された内容が、適切に対応していること (a)一定の前提条件下で効果・性能が実証されたのであれば、その前提条件を消費者に明示して効果・性能を表示していること

(b)実際の商品使用環境と実証実験環境とが合致していること

 

「合理的な根拠」と消費者庁に判断してもらうためには、考慮要素の①と②の双方を充足する必要があることを押さえる必要があります。

 

(2)考慮要素①(客観的実証性)について

具体例として(a)(b)を記載しましたが、いずれか一方に該当すれば問題ありません。

以上を前提に、「提出資料が客観的に実証された内容」であることを裏付けるものの具体例として「(a)試験・調査によって得られた結果」が考えられます。

この点、消費者庁は

「試験・調査によって得られた結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、当該試験・調査の方法は、表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要がある。」

と指摘した上で、その一例としてJIS規格や法律に基づき指定を受けた検査機関を挙げています。

ただ、現場実務では、商品の効果・性能につき、一般的に認められた方法や専門家多数が認められる方法が存在しないことが多いというのが実情です。

これについて消費者庁は、「方法が存在しない場合には、当該試験・調査は、社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施する必要がある。社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法が具体的にどのようなものかについては、表示の内容、商品・サービスの特性、関連分野の専門家が妥当と判断するか否か等を総合的に勘案して判断する。」と、漠然とした指摘に留めています。このため現場実務では、「社会通念上及び経験則上妥当」な方法とは何かを模索しながら合理的な根拠を収集することが重要となります。

事業者自らが試験・調査を行いデータ収集することももちろん重要ですが、可能な限り第三者機関、特に中立公平性が保持されている機関に依頼し試験・調査を行ってもらい結果資料を入手しておくことが、消費者庁を納得させる上で大きなポイントになると考えられます。

なお、ユーザの体験談、モニターの意見等については、恣意性を排除できない以上、「合理的な根拠」に該当する可能性は極めて低いと考えたほうが無難です。

 

次に、「提出資料が客観的に実証された内容」であることを裏付けるものの具体例として「(b) 専門家、専門家団体もしくは専門機関の見解または学術文献」といったものも考えられます。

これについて消費者庁は、

・専門家等が、専門的知見に基づいて当該商品・サービスの表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの

・専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの

が該当すると述べています。要は、特異な見解は除外するということです。

ところで、現場実務では、(客観的に見て)その商品の効果・性能に関する専門家が存在しないことが多くあります。この場合、「合理的な根拠」に該当する専門家の見解や学術文献はないものと判断し、上記(a)の試験・調査の結果を収集することが重要となります。

 

(3)考慮要素②(適切対応性)について

具体例として(a)(b)を記載しましたが、いずれも充足しないことには適切な対応ではないと判断される可能性が高くなります。

この点、消費者庁は、「表示された効果・性能と、提出資料によって実証された内容が、適切に対応『していない』」事例として、次のようなものを挙げています。

 

(前提条件がある点で適切な対応性を欠く例)

・あらゆる種類のエンジンオイルに対して10%の燃費向上が期待できると表示する自動車エンジンオイル添加剤について、 事業者から、 民間の研究機関が実施した試験結果が提出された。しかしながら、その試験結果は、特定の高性能エンジンオイルについて燃費が10%向上することを確認したものにすぎず、一般的な品質のエンジンオイルについて同様の効果が得られることを実証するものではなかった。

 

(実験環境と使用環境に差異がある点で適切な対応性を欠く例)

・家屋内の害虫を有効に駆除すると表示する家庭用害虫駆除器について、事業者から、公的機関が実施した試験結果が提出された。しかしながら、当該試験結果は、試験用のアクリルケース内において、当該機器によって発生した電磁波が、害虫に対して一時的に回避行動を取らせることを確認したものにすぎず、人の通常の居住環境における実用的な害虫駆除効果があることを実証するものではなかった。

 

(4)注意点

消費者庁が公表している「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針―不実証広告規制に関する指針―」は商品の効果・性能に関する不実証広告を念頭に記載されています。このため、不実証広告規制は、商品の効果・性能のみに適用されるという誤解が一部にあるようです。

しかし、実際の処分事例を見てみると、例えば、「業界最大手」「技術力日本一」「業界最速」といった表示に対して、不実証広告手続きを適用した事例も存在します(実際問題として、これらの表示に対して、「合理的な根拠」を示す資料の提出を求められても、おそらく提出は不可能と予測されます)。

効果・性能とは関係がなくても、広く優良誤認表示に不実証広告規制は適用されることに注意してください。

4.具体例

報道されていない事例を含めると、不実証広告規制手続きが適用された事例は相当数存在します。

ただ、上記2.(3)でも触れた通り、消費者庁は、事業者が提出した資料につき、何をもって合理的な根拠に当たらないと判断したのかその理由を公表していません。このため、消費者庁の公表資料だけでは検証が難しいのですが、適用例だけでも探したいのであれば、次のリンク先をご参照ください。

 

(参考)

景品表示法(消費者庁)

(注)項目欄にある「景品表示法関係公表資料」をクリックすることで、年度ごとの適用事例を閲覧できます。

 

 

5.弁護士に相談するメリット

 

不実証広告規制を含む景品表示法、その他広告に関する経営課題について、弁護士に相談するメリットは次の通りです。

 

・広告内容の法的チェック

弁護士は、広告の内容が規制に適合しているかどうかを事前にチェックし、リスクを抽出することができます。法令等に違反している可能性がある場合、修正のための具体的なアドバイスを提供します。

 

・裏付けの確認

広告に記載された情報が客観的な証拠に基づいているかをチェックし、証拠が不十分な場合はその改善策を提案します。例えば、臨床試験のデータがある場合、そのデータが適切に引用され、広告内容と一致しているかを確認します。

 

・消費者庁その他関係機関への対応

広告が法令に違反していると疑われる場合、弁護士は迅速に対応策を立案し、事業者の法的リスクを最小限に抑えるためのアドバイスを提供します。これには、広告の修正や撤回、対応計画の策定が含まれます。

 

・緊急時の対応

法令違反が指摘された場合の具体的な対応策を策定し、事業者が迅速かつ適切な対応を行えるようサポートします。例えば、広告の修正や撤回、謝罪文の掲載などの対応策を提案します。

 

・交渉のサポート

消費者庁を含む行政機関との交渉や、消費者とのトラブルが発生した場合には、その解決に向けたサポートを提供します。弁護士は、事業者が不利な立場に立たないよう、適切な交渉を行います。

 

・コンプライアンスプログラムの構築

弁護士は、企業が不実証広告規制に違反しないよう内部コンプライアンスプログラムを構築する支援を行います。これには、社員教育の実施や、広告制作プロセスの見直しが含まれます。

 

・社員教育

広告制作に関わる社員に対して、広告に関係する法令教育を実施し、違反リスクを未然に防ぐための意識向上を図ります。具体的には、不実証広告のリスクや、規制に違反しないためのポイントについての研修を行います。

 

・プロセスの見直し

広告制作のプロセスを見直し、規制に違反する可能性がある部分を特定し、改善策を提案します。例えば、広告の制作段階で法務部門が関与する仕組みを導入することで、違反リスクを低減することが可能です。

 

・裁判対応

不実証広告規制により措置命令などの不利益処分を受けたことにつき、異議や不服がある場合、弁護士は事業者を代理して裁判に対応します。

 

 

6.当事務所でサポートできること

 

広告内容や表示に関する相談を弁護士に依頼するメリットは上記5.に記載した通りです。

当事務所では、さらに次のような強みとサポートを行っています。

 

①消費者庁による指導等への対応策に関する相談に複数の対応実績があること

当事務所の代表弁護士は、2001年の弁護士登録以来、事業者の広告表示のリーガルチェックや、広告を巡るトラブル、消費者庁等の行政機関からの指導対応などに関与し、解決を図ってきました。

これらの現場で培われた知見とノウハウを活用しながら、ご相談者様への対応を心がけています。

 

②時々刻々変化する現場での対応を意識していること

弁護士に対する不満として、「言っていることは分かるが、現場でどのように実践すればよいのか分からない」というものがあります。

この不満に対する解消法は色々なものが考えられますが、当事務所では、例えば、法務担当者ではなく、営業担当者や広告制作担当者との直接の質疑応答を可としています。

現場担当者との接触を密にすることで、実情に応じた対処法の提示を常に意識しています。

 

③原因分析と今後の防止策の提案を行っていること

弁護士が関与する前に宣伝広告を開始したところ、行政指導等により、ご相談者様が思い描いていたような結論を得られず、以後の対応に苦慮している場合があるかもしれません。

こういった場合に必要なのは、方針・対処法の軌道修正をすることはもちろんのこと、なぜ思い描いた結論に至らなかったのか原因検証し、今後同じ問題が発生しないよう対策を講じることです。

当事務所では、ご相談者様とのやり取りを通じて気が付いた問題点の抽出を行い、改善の必要性につきご提案を行っています。そして、ご相談者様よりご依頼があった場合、オプションサービスとして、広告表示に関する社内研修やマニュアルの整備、広告表示の常時チェックなども行っています。

事業の適正化とトラブル防止のための継続的なコンサルティングサービスもご対応可能です。

 

<2024年8月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。