2023年改正特定商取引法のポイント(契約書面等の電磁的提供)について解説
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【ご相談内容】
当社は、オンライン上で個別指導塾を展開しています。
契約手続きはもちろん、サービス提供も全てオンライン上で行うため、契約書面等の発行など非オンライン作業が煩わしかったのですが、2023年6月1日より、契約書面等を電磁的方法により交付することが可能になったと聞き及びました。
契約書面等の電子化(電磁的方法による提供)の概要について、教えてください。
【回答】
2023年6月1日より改正特定商取引法が施行され、契約書面等の電子化及び電磁的方法による提供が可能となりました。
ただ、今般の改正法は、消費者保護の側面がかなり強く出ているため、事業者にとってはあまり使い勝手の良い制度とは言えず、導入には高いハードルがあるというのが実情です。
しかし、オンラインのみでサービス提供を行っているのであれば、事業プロセスを多少見直すことで導入することも可能と考えられます。
本記事では、導入に際して検討する必要がある事項を、①消費者より事前承諾を得るフェーズ、②電磁的方法により契約書面を交付するフェーズ、③交付後のアフターフォローのフェーズに分類し、各フェーズで特定商取引法が求めている内容を関連付けて解説を行います。
なお、本記事は、概要書面、申込書面、契約書面のうち、主として契約書面の電子化(電磁的方法による提供)を念頭に置いて解説を行います。
【解説】
1.特定商取引法とは
特定商取引法とは、消費者トラブルが生じやすい一定の取引を対象とし、当該取引を行う事業者に対し様々な規制をかけている法律です。特定商取引法が対象としている取引は、訪問販売、電話勧誘販売、通信販売、特定継続的役務提供、連鎖販売取引、業務提携誘引販売取引、訪問購入となります。
さて、本記事では、2023年6月1日に施行された改正特定商取引法に基づく契約書面の電子化(電磁的方法による提供)について解説しますが、影響を受けるのは、通信販売を除くすべての取引類型となります(通信販売では、そもそも契約書面の発行が義務化されていないため)。
IT化、X-Tech、DXなど、取引の電子化が進む中で、ようやく契約書面の電子化(電磁的方法による提供)が認められたわけですが、残念ながら今回の改正内容は、事業者にとって非常に使い勝手が悪く、かつ期待するほどのコストダウンは見込めない…というのが執筆者個人の率直な見解です。とはいえ、取引の電子化は間違いなく進んでいきますので、長期的な視点で見れば、事業者において挑戦する価値はあるかと思います。
2.大まかなプロセス
2023年6月1日施行の改正特定商取引法により認められた契約書面の電子化(電磁的方法よる提供)ですが、実施するためには次の3つのフェーズを乗り越える必要があります。
①消費者より事前承諾を得るフェーズ
②電磁的方法により契約書面を交付するフェーズ ③交付後のアフターフォローのフェーズ |
改正特定商取引法の解説資料(後述参照)などを見ていただければわかると思うのですが、事業者に課せられた義務は多種多様であり、おそらく一読しただけでは、どのタイミングで、どのような処置を講ずればよいのか頭に入ってこないと思われます。
そこで、この3つのフェーズがあることをとりあえず押さえた上で、各フェーズにおいて事業者に課された義務は何かという視点で整理すれば、比較的理解しやすいと思われます。
なお、これらのフェーズで求められている各種内容を確実に実行しない限り、適法に契約書面を交付したことになりません。交付していないということは、民事的にはクーリング・オフを主張される状態が継続していること、刑事的には刑事罰を受けるリスクがあることになります。
特定商取引法が要求する事項はかなり細かなところまで踏み込んでいますので、1つずつ着実に対処したいところです。
3.消費者より事前承諾を得るフェーズ
(1)ゴールの確認
このフェーズでの獲得目標は、契約書面を電磁的方法により交付することについて、消費者の事前承諾を得ることとなります。
もっとも、この事前承諾ですが、口頭ではNGとされています。
消費者より事前承諾を得たことを証する「書面」が必要であり、この書面を消費者に「交付」することが必要となります(特定商取引法施行規則第10条第7項等)。
したがって、真のゴールは「承諾書面」と「交付」と設定することになります。
さて、契約書面の電子化を行おうとしているのに、承諾書面(有体物)の交付という非電子的手段(アナログ)を用いなければならない点に違和感を持つ、事業者も多いと思われます。
執筆者個人も同感なのですが、残念ながら改正特定商取引法で定められている以上、如何ともしがたいところがあります。
ただし、書面(有体物)ではなく、データで承諾書面を交付できる例外が2つあります(特定商取引法施行規則第99条等)。
・契約書面ではなく、概要書面を交付する場合。
・取引全体をオンラインで完結させることが可能な特定継続的役務提供(特定権利販売契約を含む)の場合
後者ですが、例えば、オンライン上で提供する個別指導塾の場合、契約の申込みから実際の授業までオンラインのみで行われることが多いかと思います。この場合、承諾書面をデータで交付することが可能となります。
例外はこの2つに限定されていますので、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、業務提携誘引販売取引、訪問購入において、契約書面の電子化(電磁的方法による提供)に関する消費者からの承諾については、有体物である書面で行う必要があること要注意です。
ところで、「承諾書面」に記載する内容ですが、単に「契約書面の電子化につき承諾しました」というものでは足りないとされています。
消費者庁の資料によれば、例えば、「お客様が契約書面の交付に代えて、当社ウェブサイトにアクセスしてファイルをダウンロードすることにより契約書面の記載事項の提供を受けることについて承諾したため、当社は●●を販売する売買契約について、お客様にファイルをダウンロードしてもらうこととしました。」といった文案が紹介されています。
要は、消費者に対し、“契約書面に記載される事項について、具体的にどのような電磁的方法により提供を受けることについて承諾したのか”を明確に記載することがポイントとなります。
(2)事前承諾の取得方法
上記(1)で解説した通り、消費者からの承諾は、「承諾書面」と「交付」が必須条件となるところ、では、どのようにして消費者の承諾を取り付ければよいのか、その方法につき検討する必要があります。
この点、改正特定商取引法では、消費者保護の観点から厳格な様式性を要求しています。具体的には次の通りです(特定商取引法施行規則第11条等)。
①電子メール等によって承諾する旨を送信する方法
②事業者のウェブサイト等を利用する方法であって、当該ウェブサイト等において消費者に必要事項を記入させて承諾ボタンをクリックしてもらうような方法 ③消費者が電磁的記録媒体に承諾する旨を記録して、当該媒体を事業者に交付する方法 |
現場実務を踏まえると、③の方法は現実的な方法とは言い難いことから、おそらく事業者は①又は②の方法のどちらかを選択して対処することになると考えられます。
なお、②の方法を採用する場合ですが、「必要事項を記入」させる必要があるとされています。この意味ですが、いわゆるチェックボックスのみで承諾手続きを行うことは認められていないという趣旨であることに注意を要します。
次に、上記の①~③のいずれの方法を採用するにせよ、「販売業者又は役務提供事業者がファイルへの記録を出力することにより書面を作成できるものでなければならない。」と定められています(特定商取引法施行規則第11条第2項等)。
よくPDFデータ等で印刷不可設定にしている場合がありますが、このような設定を行っている場合、適法に承諾書面を交付したことにならないので注意が必要です。
(3)承諾取得に当たって消費者に開示するべき事項
消費者より承諾を取得するにあたり、消費者に対する説明責任といえばよいのでしょうか、事前に情報開示することで、消費者が誤った判断をしないようにすることが事業者に求められています。
開示するべき情報は次の通りです(特定商取引法施行規則第9条、第10条等)。
①事業者が実際に使用する電磁的方法
②電磁的方法により提供される書面に記載すべき事項が、消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへ記録される方式 ③消費者の承諾がなければ原則どおり契約書面等が交付されること ④電磁的方法により提供される事項が、契約書面等に記載すべきものであって、消費者にとって重要なものであること ⑤電磁的方法で提供する場合においては、消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に消費者に到達したものとみなされ、かつ、到達した時から起算して8日(連鎖、業提の場合は20日)を経過した場合、クーリング・オフができなくなること ⑥電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な電子計算機(映像面の最大径が4.5インチ以上であるもの)を通常使用し、かつ、当該提供を受けるために電子計算機を自ら操作(提供が完結するまでの操作)することができる消費者に限り、電磁的方法による提供を受けることができること |
上記のうち、まず①と②については「電磁的方法の種類及び内容の提示」と呼ばれるものです。例えば、事業者のWEBサイト上に消費者がアクセスし、消費者がダウンロードすることでPDFデータにより契約書面の電磁的交付を想定している場合、①は事業者のWEBサイト(https://www.××××)に公開する方法、②は消費者がダウンロードすることで、PDFデータ形式にて利用端末に記録される方式、といった情報を開示することになります。
次に、上記③から⑥については「重要事項の説明」と呼ばれるものです。おそらく⑥について、そもそも4.5インチとはどれくらいの大きさなのかを分かっていない消費者も少なからずいると予想されるため、事業者の確認の手間は増えるのではないかと予想されます。
なお、上記③から⑥については、「事業者は消費者が理解できるように、平易な表現を用いなければならない。」とされており、消費者庁はその具体例として次のようなものをあげています。
・(OKな例)4.5インチ以上の画面サイズを有するスマートフォン、コンピューター等の機器を日常的に使用し、その機器を自ら操作して、ファイルを保存できますか。そのような方でなければ、契約書面を電子メールで受け取ることはできません。
・(NGな例)「閲覧するために必要な電子計算機は、その映像面の最大径をセンチメートル単位で表した数値を2.54で除して小数点以下を四捨五入した数値が5以上であり、そのような電子計算機を日常的に使用し、かつ、当該提供を受けるために電子計算機を自ら操作することができる申込みをした者に限り、法第4条第2項の規定による電磁的方法による提供を受けることができること。」
なお、上記①から⑥について、事業者が消費者に対して情報開示したことを裏付けるために、上記(1)で解説した「承諾書面」内に記述することが現場実務の対応になると予想されます。
また、実際の記述内容として、保険契約で見られるような「YES/NO」方式で説明を受けたことを証する方法や、消費者より表明保証させるような表現を用いて証する方法などが予想されるところです。
(4)承諾取得に当たって消費者に確認するべき事項
上記(1)から(3)において、
・「承諾書面」の「交付」をもってはじめて適法な承諾手続き踏んだといえること
・その承諾を消費者より取得するに際しては法が定める厳格な方式を守らなければならないこと
・承諾を得るにあたり事前に情報開示する必要があること
を解説しましたが、事業者において、これらの事項を遵守するだけでもハードルが高いと思われるかもしれません。
しかし、残念ながら、おそらくは現場実務で混乱を招くであろう条件がまだ課されます。
その条件は「適合性確認」と呼ばれるものです(特定商取引法施行規則第10条第3項、同第4項等)。要は、この消費者に対して、本当に契約書面の電子化(電磁的方法による提供)を実施してよいのか、事業者自らにおいて検証する義務を課しているのですが、これが非常に厄介な内容となっています。その内容とは次の通りです。
①消費者の適合性の確認
②消費者が閲覧のために使用する電子計算機に係るサイバーセキュリティを確保していることの確認 ③第三者に契約書面等に記載すべき事項の提供を求めるかの意思の確認 |
まず①ですが、消費者庁の資料によれば、一例として、「消費者が電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な操作を自ら行うことができ、当該閲覧のために必要な電子計算機及び電子メールにより契約書面等に記載すべき事項を提供する場合には電子メールアドレスを日常的に使用していること」をあげています。実際のところ、どこまで事業者が調査しなければならないのか不透明なところがあり、注意を要するところです。
次に②ですが、消費者庁の資料によれば、「『サイバーセキュリティ・・・を確保している』とは、消費者の使用する電子計算機のオペレーティングシステムやブラウザアプリ(以下「OS等」という。)について、アップデートプログラムの配信を含むOS等の提供元のサポートが終了していないような場合を指します。」「消費者の使用する電子計算機のOS等のバージョンについて、その安全性に欠陥が報告された際に、パッチ配信等のサポートを受けられるバージョンであればよく、必ずしも公開されている最新のOS等にアップデートされていることまで求められるものではありません。」という記述がありますので、参照してください。
最後に③ですが、確認の結果、消費者が希望する場合、消費者が指定する第三者に対し、契約書面のデータを当該第三者に電子メールしなければならないことに注意が必要です(交付手段は電子メールに限定されます)。
さて、上記①から③に記載する適合性確認ですが、「消費者が日常的に使用する電子計算機を自ら操作し、事業者の設けるウェブサイト等を利用する方法により行う必要」があるとされています(特定商取引法施行規則第10条第4項等)。
この点、消費者庁の資料によれば、「例えば、事業者が承諾用のウェブサイトを設け、そこに消費者が使用する電子計算機でアクセスしてもらい、電磁的方法による提供に必要な情報の入力や送信を消費者自身でしてもらうことや、ショートメッセージサービスによる認証手続を経ること等により、消費者が必要な操作を自ら行うことができるかを確認でき、また当該ウェブサイトへのアクセスの際にバックグラウンドで行われる通信を通して消費者の使用する電子計算機に係るOS等の情報を得ることで、消費者の適合性等を十分に確認できることになります。」「単に事業者が口頭で消費者に対しコンピューターを使用しているかを尋ねただけでは、電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な操作を自ら行うことなどを実際に確認できないため、消費者の適合性等を十分に確認したことにはなりません。」という記述があります。
単にペーパー上の確認(表明保証)だけでは不十分であること、事業者が用意した端末で確認させることはNGであることに注意を要します。
(5)禁止行為
最後に、事前承諾を得るフェーズのみ想定したものではありませんが、大部分はこのフェーズに関係すると考えられますので、特定商取引法が定める禁止事項を記載しておきます(特定商取引法施行規則第18条第9号等)。
法第4条第2項(法第5条第3項において準用する場合を含む。)の規定により法第4条第1項の規定により交付する書面(法第5条第3項において準用する場合にあっては、同条第1項又は第2項の規定により交付する書面)に記載すべき事項を電磁的方法により提供するに際し、次に掲げる行為を行うこと。
イ 電磁的方法による提供を希望しない旨の意思を表示した顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者に対し、電磁的方法による提供に係る手続を進める行為 ロ 顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなるものにつき、不実のことを告げる行為(法第6条第1項 に規定する行為を除く。) ハ 威迫して困惑させる行為(法第6条第3項に規定する行為を除く。) ニ 財産上の利益を供与する行為 ホ 法第4条第1項又は法第5条第1項若しくは第2項の規定による書面の交付につき、費用の徴収その他財産上の不利益を与える行為 (ニに掲げる行為を除く。) ヘ 第10条第3項の確認に際し、偽りその他不正の手段により顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者に不当な影響を与える行為 ト 第10条第3項の確認をせず、又は確認ができない顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者に対し電磁的方法による提供をする行為 チ 偽りその他不正の手段により顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の承諾を代行し、又は電磁的方法により提供される事項の受領を代行する行為 リ イからチまでに掲げるもののほか、顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の意に反して承諾させ、又は電磁的方法により提供される事項を受領させる行為 |
ここでは特に注意を要すると思われる「ニ」、「ホ」、「ヘ」について解説します。
まず「ニ」ですが、契約書面の電子化(電磁的方法による提供)を選択する場合は、割引する、特典を付けるといった提案を行い、消費者より承諾を得る行為などが禁止行為に該当します。
次に「ホ」ですが、契約書面の電子化(電磁的方法による提供)では発生しないにもかかわらず、契約書面を書類で提供する場合には実費の負担を消費者に求めるといった行為などが禁止行為に該当します。
最後に「ヘ」ですが、消費者庁の資料によれば、「例えば、消費者に事業者のパソコンを使用させて承諾させる場合、当該規定に該当することになります。」と記述されています。事業者の端末を用いて適合性確認を行うこと(前述(4)の「消費者が日常的に使用する電子計算機を自ら操作し、事業者の設けるウェブサイト等を利用する方法により行う必要」に関する記述参照)は禁止行為に該当すること要注意です。
4.電磁的方法により契約書面を交付するフェーズ
(1)ゴールの確認
このフェーズでの獲得目標は、消費者に対して、契約書面を電磁的方法により提供することとなります。
ただ、消費者において確実に確認し得る方法で交付することが求められるため、電子化された契約書面については一定の仕様が義務付けられます。また、交付手段についても一定の技術方法が義務付けられています。
(2)電子化した契約書面の仕様
消費者に交付する契約書面データについては、次の仕様基準を満たす必要があります(特定商取引法施行規則第8条第2項、同第3項等)。
①申込みをした者が、ファイルへの記録を出力することにより書面を作成できるものであること。
②「ファイルに記録された書面に記載すべき事項について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置」が講じられていること。 ③ダウンロードによる方法の場合、ファイルに記録された書面に記載すべき事項を事業者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する旨又は記録した旨を消費者に対し通知するものであること。 ④明瞭に読むことができるように表示すること |
上記のうち、①と②は事業者が講ずべき技術的措置、③は事業者に対する告知義務、④は契約書面データの内容表記に関する事項となります。ポイントは次の通りです。
①は、上記3.(2)の承諾書面と同じく、消費者において契約書面のデータを印刷できるよう技術的対策を講じる必要があるということです。
②は、例えば事業者が保有する契約書面データと、消費者が保有する契約書面データに相違が生じた場合、改変の有無等が判別できるよう技術的対策を講じる必要があるということです。
③は、事業者が消費者に対し、どこにアクセスすればダウンロードできるのか、そのURL等を通知するということです。
④は、字義通りなのですが、消費者庁の資料によれば、例えば、赤地に赤字を表示するといったような場合、極端に小さな文字で表示するような場合(印刷した際の8ポイントを下回る場合)、極端に大きな文字で表示するような場合、画面の大半を書面に記載すべき事項以外の表示が占有し、書面に記載すべき事項が数行しか表示されない場合などが、明瞭に読むことができない例としてあげられています。
(3)電磁的手段を用いた交付方法
交付方法は次の3つに限定されています(特定商取引法施行規則第8条第1項等。なお、上記3.(2)の承諾の取得方法との異同に注意)
①電子メール等によって契約書面等に記載すべき事項を送信する方法
②事業者のウェブサイトを利用する方法 ③事業者が記録媒体に契約書面等に記載すべき事項を記録して、当該記録媒体を消費者に交付する方法 |
交付方法については読んで字の如くかと思います。
現場実務で問題となるのは、事業者は交付したものの、消費者が受領していないと主張してきた場合にどのように処理するのか、すなわち、いつの時点をもって「到達」したと言えるのかが重要となります。
この点、③については、当該記録媒体を交付し、消費者が受領したときと考えられます。したがって、配達証明など受領記録が残る方法を用いることが推奨されます。
一方、①及び②の場合、「消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時(例えば、消費者のサーバー(消費者が専ら管理権を有するクラウドなど必ずしも消費者の手元にあるものに限るものではない。)に記録された時)に、消費者に到達すなわち書面を交付したもの」として取り扱われます(特定商取引法第4条第3項、特定商取引法施行規則第13条)。特に②については、事業者のWEBサイトにアップロードした日ではないことに注意が必要です。
(4)第三者への送付
上記3.(4)で解説した通り、消費者が第三者に対して契約書面のデータを送付することを希望する場合、事業者は当該第三者に対しても、契約書面のデータを送付する必要があります。
ただ、第三者への送付方法は電子メールに限定されています(特定商取引法施行規則第10条第6項等)。
なお、契約書面データを事業者のWEBサイトよりダウンロードする方法にて交付する場合、消費者がダウンロードを実行したと同時に第三者に電子メールを送信するといった技術対応が求められることになります。
5.交付後のアフターフォローのフェーズ
(1)ゴールの確認
事業者が消費者に対して契約書面データを交付した場合、事業者はそれで手続き完了とはなりません。
事業者は消費者に対し、本当に契約書面データを受領しているのか確認する必要があります(特定商取引法施行規則第12条等)
したがって、このフェーズでの獲得目標は、消費者に対する「到達確認」の実施となります。
(2)到達確認
「到達確認」の方法ですが、消費者庁の資料に次のような記述があります。
事業者としては、単に提供したデータが開けるか否かを確認するのではなく、
①自己が使用する電磁的方法の特性などを把握した上で、確実に消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録されたこと ※例えば、消費者の使用に係る電子計算機(コンピューター等)に備えられたファイルに記録されるために消費者に一定の操作が必要となる場合には、その操作が行われたことなど ②確実に閲覧することができる状態に置かれたこと ※例えば、提供した記載事項の一部を回答してもらうなど を確認することにより、到達についてより確実な立証ができたといえると考えられます |
おそらくは上記①②の方法に限定されるという趣旨ではないと思われますが、消費者に対する到達確認は、ある程度手間をかけて実施する必要があることに注意を要します。
6.当事務所でサポートできること
当事務所は、特定継続的役務提供に該当する事業者(学習塾、家庭教師、語学教室、エステ等)、及び訪問購入に該当する事業者(古物出張買取サービスなど)の顧問弁護士として活動しています。このため、特定商取引法を順守するための契約書面等の文書作成はもちろんのこと、特定商取引法に則った顧客対応指導などを日常的に行っています。
また、2023年6月施行の改正特定商取引法に基づき契約書面等の電子化(電磁的方法による提供)についても相談を受けており、事業プロセスの確認や画面構成・遷移などの現場レベルでの対処法についてもアドバイスを行っています。
特定商取引法は、事業者にとって負担が大きい内容もたしかにあります。
しかし、これを順守できれば安心して事業活動できることはもとより、消費者に対する信頼感を獲得でき、競業他社との差別化を図ることができるツールとして利用することも可能です。
特定商取引法に関するご相談があれば、是非当事務所までお問い合わせください。
(参考)
・契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン(消費者庁)
・令和3年特定商取引法・預託法等改正に係る令和5年6月1日施行に向けた事業者説明会について
<2023年6月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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