業務委託契約書における損害賠償条項に関する注意点とは
【ご相談内容】
当社では業務委託契約書のひな形があり、取引先にはそのひな形を提示し契約交渉を行っています。今般ある取引先より、損害賠償条項につき全面的な修正を要求されました。
このようなことは初めてであり少々戸惑っているのですが、どのような点にポイントを置いて損害賠償条項の内容を修正していけばよいのか、教えてください。
【回答】
損害賠償条項は、契約書に当たり前のように定められているためか、結構読み飛ばされることも多く、弁護士が契約書チェックで指摘して、はじめてそのリスクに気が付いたという事業者も多いところです。
損害賠償条項を検討するに際しては、自らが損害賠償請求を行う者なのか、損害賠償義務を負担する者なのかその立ち位置を意識すれば、有利・不利の判断はしやすいと考えられます。
そこで、以下では、属性に応じた損害賠償条項のサンプルを示した上で、業務委託契約における取引類型ごとで、さらに突っ込んで検討するべきポイントにつき解説を行います。
なお、損害賠償条項の必要性や定める際の注意点については、次の記事もご参照ください。
契約書に定める「損害賠償条項」の考え方・チェックポイントを解説
【解説】
1.損害賠償条項のパターン
業務委託契約書において定められる損害賠償条項については、大きく次の4パターンがあると考えられます。
(1)法律に忠実な条項例
法律に忠実とは、民法第415条に則った条項という意味です。
例えば次のようなものです。
甲及び乙は、本契約の履行において又はその履行に際し、その責めに帰すべき事由により相手方に損害を与えた場合、これによって相手方が被った損害を賠償しなければならない。 |
法律通りの内容ですので、双方当事者にとってはフェアな条項といえます。ただ、あえて業務委託契約書に定める必要が無いと考えることも可能です。
(2)損害賠償請求する側に有利な条項例
契約違反に基づく損害賠償に関しては民法第415条以下が規律しているのですが、損害賠償請求を行う者が有利な内容に修正し、業務委託契約書に定める場合があります。
例えば次のようなものです。
(例1)
甲が本契約の目的に反する行為により乙に損害を与えた場合、甲はその損害を賠償する。
(例2) 本契約に違反して乙に損害を与えた場合、甲はその損害を賠償する。但し、甲に故意又は過失がない場合はこの限りではない。
(例3) 甲又は乙は、本契約に反することで相手方に損害を与えた場合、相手方に生じた一切の損害を賠償する。
(例4) 本契約に違反した場合、甲は事由の如何を問わず、違約金として金×円の支払い義務を負う。 |
(例1)は、契約上の義務違反に留まらず、①本契約の目的を踏まえた然るべき対応を取らなかった場合も含め損害賠償責任が発生すること、②損害賠償義務を負担する者の認識及び認識可能性を問わず損害賠償責任が発生すること、を定めている点で、損害賠償請求権を行う者にとって有利な条項となります。
(例2)は、損害賠償義務を負担する者が帰責事由の無いことを証明しなければならないという点では民法第415条と変更はありません。しかし、免責される条件が故意または過失に限定されている点で損害賠償請求を行う者に有利な条項となります(※民法第415条は「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」と故意過失以外の免責を認めています)。
(例3)は、「一切」と定めて損害の範囲を際限なく拡大する目的で定められる条項であり、損害賠償請求を行う者にとって有利な条項となります。もっとも、相当因果関係のある範囲での損害という限定は法律上課せられますので、何でもかんでも損害賠償請求が可能となるわけではないことに注意が必要です。
(例4)は、一見すると、請求できる損害賠償額に制限が課せられるため、損害賠償請求を行う者にとって不利になると思われるかもしれません。
たしかに、そのような場面も想定されます。しかし、例えばデータ保管契約において、データの滅失毀損があったのは事実だが、データそれ自体の損害額を算定することが難しい場合に、具体的な違約金を明記することで損害賠償請求を容易にするといったことが考えられます。その観点からすると、損害賠償請求を行う者にとって有利な条項となります。
ちなみに、違約金以上の損害が生じた場合の対処が気になるというのであれば、例えば、「但し、乙に当該違約金を超える損害が発生したときは、その超過額を請求することができる。」と定めておくことで対処可能となります。もっとも、違約金の額が著しく過大である場合は公序良俗違反等で無効となる可能性があることに注意が必要です(民法第90条)。
(3)損害賠償を受ける側に有利な条項例
上記(2)とは逆に、契約違反に基づく損害賠償に関しては民法第415条を修正して、損害賠償義務を負担する者が有利な内容に修正し、業務委託契約書に定める場合があります。
例えば次のようなものです。
(例1)
本契約に違反して乙に損害を与えた場合、甲は、甲に故意又は重過失がある場合に限り、その損害を賠償する。
(例2) 本契約に違反しかつその違反が甲の責めに帰すべき事由であることを乙が証明した場合、乙は甲に対し、損害賠償を請求することができる。
(例3) 甲又は乙は、本契約意に反することで相手方に損害を与えた場合、相手方に対し、直接かつ現実に生じた通常の損害を賠償する。
(例4) 本契約に違反した場合、甲は、乙が被った損害を賠償する。但し、甲が負担する損害賠償額は金×円を上限とする。
(例5) 甲は、成果物の種類・品質・数量に関して契約内容に適合しないことを発見したときは、成果物引渡し後6ヶ月以内にその旨を乙に通知しない限り、当該適合しないことを理由とする追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び契約の解除をすることはできない。 |
(例1)は、損害賠償義務を負担する者の帰責事由を故意重過失に限定するという点で、法律より責任範囲を狭めていることから損害賠償義務を負担する者にとって有利な条項となります。
(例2)は、帰責事由があることにつき損害賠償請求を行う者が証明しなければならないという点で法律とは真逆のことを定めています。したがって、損害賠償義務を負担する者とって有利な条項に修正されているといえます。
(例3)は、損害賠償の対象となる損害の範囲を、「直接損害」かつ「現実損害」かつ「通常損害」の3つに絞っています。民法第416条第2項は、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったとき」は特別損害を請求できると定めており、この特別損害を排除している点で損害賠償義務を負担する者にとって有利な条項と一応言えます。
もっとも、「直接損害」や「現実損害」という用語は法律上用いられていません。このように定める条項はよく見かけるのですが、実際のところ損害の範囲をどこまで絞り切れているのかは疑義が残ります。法律用語を意識して修正するのであれば、「…相手方に対し、その生じた損害(但し、逸失利益や弁護士費用、その他特別損害は除く)を賠償する。」と書いたほうが無難と考えられます。
(例4)は、損害の範囲については絞り込みを掛けず、しかし現実に損害賠償義務を負担する者が支払う金額に上限を設けることで、損害賠償義務を負担する者の責任を軽減するという目的で定められる条項となります。したがって、損害賠償義務を負担する者にとって有利な条項となります。
なお、現場実務でよく見かけるのは、「損害賠償義務者が受領した金額を上限とする」といった、要は受け取った金額をすべて返すことでチャラにする…という内容となります。
(例5)は、契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)に関して定めた条項となるところ、業務委託契約の場合、法的性質が請負の場合にのみ検討が必要となります(委任・準委任の場合は契約不適合責任の適用がありません)。
この点、民法第566条によると、「不適合を知ったとき」から「1年以内に」売主に通知する必要があると定めています。この2点を修正している点で、損害賠償義務を負担する者にとって有利なものとなります。ただし、いわゆる時効の利益を放棄することは不可能であることから(民法第146条)、損害賠償請求権に関する時効期間を延長する又は短縮するような条項を定めても無効となることに注意が必要です。
なお、契約不適合責任の具体的内容として、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除の4種類がありますが、これらの権利行使につき条件を付す(例えば、先に追完請求を行使させ、追完ができない場合に初めて損害賠償請求ができるとする条件など)ことで、損害賠償義務を負担する者にとって有利な内容を定めることも検討可能です。
(4)折衷的な条項例
業務委託契約書が一方当事者より提案される場合、上記(2)及び(3)で記載したような一方当事者にとって有利な内容が定められていることが通常です。
これに対し、提案を受けた側が修正案を提示し、双方協議の上で損害賠償条項の内容が整理されていくのが通常なのですが、よくある落し所的な損害賠償条項は次のようなものです。
甲及び乙は、相手方の本契約の不履行によって損害を被った場合、相手方に対し、本件業務の対価を限度として、損害の賠償を求めることができる。但し、本契約の不履行につき、損害を与えた当事者に故意又は重過失があった場合は、当該上限を適用しない。 |
上記損害賠償条項のポイントは、次の通りです。
・帰責事由の立証責任については原則として法律通り(双方当事者にとってフェア)
・損害の範囲については制限をかけない(この点では損害賠償請求を行う者に有利)
・原則として損害額の制限を設ける(この点では損害賠償義務を負担する者に有利)
・しかし例外として、損害賠償請求を行う者が損害賠償義務を負担する者の故意重過失を証明した場合、損害額の制限は及ばない(証明責任につき損害賠償請求を行う者が負担する点で損害賠償義務を負担する者にとって有利だが、証明できた場合は損害額の制限が外れるという点で損害賠償請求を行う者にとって有利)
双方の立場において、何を核心的な利益(譲れない事項)と捉え、何を譲歩してやむなしと考えるのかによって、様々な損害賠償条項が考えられるところです。
2.取引類型に応じた検討ポイント
業務委託契約は民法・商法等で定められている契約類型ではありません。このため、様々な取引内容が「業務委託契約」という言葉に置き換えられ、契約書が作成されます。
ところで、業務委託契約を法的に考えた場合、仕事の完成を目的とする請負型の業務委託契約と、事務の処理を目的とする委任(準委任)型の業務委託契約に分類できます。もっとも、仕事の完成と事務の処理の両方の目的が混在するパターンの業務委託契約が存在したり、逆に仕事の完成なのか事務の処理なのか目的が判別できないパターンの業務委託契約が存在したりします。特に2020年4月1日に施行された改正民法では、成果完成型の委任(準委任)契約が認められたため、ますます請負と委任(準委任)の区別が難しい状況です。
したがって、業務委託契約における損害賠償条項を検討するにあたっては、請負か委任(準委任)かについて過度にこだわらず、自らの立場は主として損害賠償請求を行う側なのか、損害賠償義務を負担する側なのかを考慮しながら検討する必要があります。
以下では、ネット・WEBを用いて事業を行う者であれば、何かしら関係することが多い取引類型ごとで、損害賠償条項の検討の仕方につき解説します。
(1)IT取引
-WEB・システム制作-
これは文字通り、WEB・アプリ制作、システム・プログラム開発などの取引が該当します。この取引類型における損害賠償条項を検討するに際しては、当事者の属性に応じて次のようなことを検討することがポイントです。
【委託者側】
WEBやシステムに不具合が生じた場合、取引機会を喪失したことによる逸失利益、不具合対応に要する人件費、風評被害による信用棄損など、不具合に要する修理費に留まらない様々な損害が生じます。
したがって、できる限り損害賠償請求に制限が無い損害賠償条項を定めたいところです。
ところで、少し場面が異なるのですが、何らかの理由で中途解約する事態に至った場合、委託者はいつでも解約できる代わりに、受託者が被った損害を賠償する必要があります(民法第641条)。この場面では委託者は損害賠償義務を負担する者となりますので、損害賠償を制限する損害賠償条項を検討する必要がある点に注意が必要です。
【受託者側】
上記委託者側とは逆で、WEBやシステム不具合により被ったと主張する損害が際限なく広がっていく可能性があります。
したがって、損害の範囲につき一定の絞りをかける、負担するべき損害額につき制限を設けた損害賠償条項を定めたいところです。
なお、上記委託者側で触れましたが、委託者都合で中途解約となった場合、受託者は損害賠償請求を行う側になるのですが、具体的な損害額の算出が難しいという問題があります。この点を考慮し、損害賠償の算出ルールを定めた損害賠償条項を定めることも検討に値します。
-情報処理-
例えば、委託者が保有する情報の分析・編集等の業務を委託するといった取引が該当します。この取引類型における損害賠償条項を検討するに際しては、当事者の属性に応じて次のようなことを検討することがポイントです。
【委託者側】
情報漏洩や情報の滅失毀損などの事故が発生した場合、情報それ自体の経済的価値を算定することが難しいという問題があります。
したがって、損害額立証負担の軽減のためにも違約金を明記した損害賠償条項を定めたいところです。
なお、情報が使用できないことによって様々な損害(逸失利益、漏洩事故対応費用、信用棄損など)が発生しうることから、損害賠償請求に制限が無い損害賠償条項を定めることも重要です。
【受託者側】
本来であれば情報それ自体の経済的価値を証明するのは委託者であり、その証明を容易にする違約金を明記した損害賠償条項は避けたいところです。
もっとも、違約金条項を定めざるを得ない場合、情報それ自体の損害と情報が使用できないことによる損害を合算させた妥当な違約金を設定し、自らが負担するリスクの上限を設定することを検討してよいかもしれません。
(2)商品取引
-製造委託-
例えば、ネット通販を行う場合において、オリジナル商品の製造を第三者に委託するといった取引が該当します。
本記事がIT事業者向けのサイトに掲載される関係上、ここでは、ネット通販事業者(委託者)視点で損害賠償条項を検討する際のポイントを記述します。
【委託者側】
商品それ自体に不具合があった場合の修理費・交換費に関する損害はもちろんのこと、商品の不具合に起因して購入者が怪我をした場合などの拡大損害も見込まれることから、できる限り損害賠償請求が制限されない損害賠償条項を定めたいところです。
なお、製造委託の場合、損害賠償条項が、①一般的(総論的に)に損害賠償を定めている条項、②契約不適合責任における損害賠償を定める条項、③製造物責任における損害賠償を定める条項、の3つに分かれて設けられることが多いようです。また、損害賠償責任は受託者が付保する損害保険にて支払われる保険金に限定される旨の特約が定められていることがあります。さらに、商品を輸出した場合は損害賠償責任を負わない旨の特約が設けられていることもあります。
製造委託取引の場合、あちこちに散らばった損害賠償に関する条項をくまなく探し出し、検討する必要があることに注意が必要です。
-特約店・代理店-
例えば、ネット通販事業者が、メーカーや輸入商社より正規商品を仕入れる場合の取引が該当します。
本記事がIT事業者向けのサイトに掲載される関係上、これについても、ネット通販事業者(購入者)視点で損害賠償条項を検討する際のポイントを記述します。
【購入者側】
商品に不具合があった場合に関連する損害賠償条項のチェックポイントは、上記の「製造委託」と同様となります。したがって、基本的には損害賠償請求が制限されない損害賠償条項を定めたいところです。
もっとも、特約店・代理店契約の場合、例えば競合商品を取扱った場合やメーカー側の販売戦略に反した場合などの契約違反を理由にした、購入者が損害賠償義務を負う場面もあり得ます。損害賠償を請求する者という属性だけを念頭において損害賠償条項を修正すると、自らが損害賠償義務を負担する者となった場合に思わぬ負担を余儀なくされる可能性があることに注意が必要です。したがって、契約書に定められている義務内容をよく確認し、自らが損害賠償義務を負う場面がどの程度あり得るのかを認識した上で、損害賠償条項の修正を行うことがポイントです。
あと、特約店・代理店契約特有の損害賠償条項としては、第三者からの知的財産権侵害申告への対応があげられます。基本的には知的財産権を保有するメーカーや輸入商社が対応し、購入者が損害賠償責任を負わないよう補償する旨定めていることが多いのですが、そういった条項が定められていない場合もあります。ない場合は、損害賠償請求を行う者の視点として補償条項の追加等を要請することが肝要です。
(3)物流取引
-3PL(商品の搬入搬出、保管、在庫管理)-
例えば、ネット通販事業者が取扱う商品の物流業務(商品の保管、出し入れ、在庫管理など)を第三者に委託する場合の取引が該当します。
本記事がIT事業者向けのサイトに掲載される関係上、ネット通販事業者(委託者)視点で損害賠償条項を検討する際のポイントを記述します。
【委託者側】
物流業務の遂行に不備があり商品に不具合が生じた場合の商品損害はもちろん、運送遅延に伴う損害、在庫管理ミスに伴う機会損失等による損害等も見込まれます。したがって、基本的には損害賠償請求が制限されない損害賠償条項を定めたいところです。
もっとも、物流業者との契約書は何らかの損害賠償制限条項が定められていることが通常であり、特に契約書ではなく約款に書いてあることが多いことから、委託者が気付きにくいという特徴があります。また、商品が高価品であれば事前に物流業者に申告しない限り補償を受けられない等の独特のルールもあります。さらに、契約によっては商品不具合への保険は委託者自らが行う義務が定められていることもあります。
損害賠償条項の検討はもちろんですが、なかなか契約内容の修正に応じてもらえない実情を踏まえ、填補されない損害分をどこかに転嫁できないか(例えば損害保険に加入する等)まで考慮することが重要となります。
-配送(デリバリー)-
例えば、飲食店がWEB上で注文を受け付け、商品(飲食物)を宅配する場合に配送業者を利用する場合の取引が該当します。
本記事がIT事業者向けのサイトに掲載される関係上、これについてもWEB注文を受け付ける飲食店(委託者)視点で損害賠償条項を検討する際のポイントを記述します。
【委託者側】
配送業務の遂行に不備があり商品自体に不具合が生じた場合の商品損害はもちろん、配送遅延に伴う損害、商品を雑に取り扱ったことによる風評被害等も見込まれます。したがって、基本的には損害賠償請求が制限されない損害賠償条項を定めたいところです。
もっとも、大手のデリバリー業者の場合、損害賠償責任を制限する条項を定めた契約書を提示し、契約内容の修正には応じないことが通常です。このため、填補されない損害分につき転嫁できないか、最悪自らの損失として受け入れるのか等の判断が必要となります。
一方、個人のデリバリー業者の場合、委託者有利の契約内容にできることも多いのですが、支払能力が無いという問題もあります。このため、契約書上の損害賠償条項の検討に留まらず、当該デリバリー業者において適切な損害保険に加入しているのか等のチェックが重要となります。
(4)金融取引
-加盟店契約-
例えば、ネット通販事業者が、ユーザによるクレジットカード決済を可能とするために、クレジットカード会社と行う取引が該当します。
これについては、加盟店(ネット通販事業者)視点で損害賠償条項を検討する際のポイントを記述します。
【加盟店側】
加盟店において、クレジットカード決済による損害賠償を行う場面は多くないと考えられます。むしろ加盟店は、クレジットカード会社からの損害賠償義務を負担する側に立つことが多いのが通常です。例えば、禁制品その他不正取引を行った場合の立替金返還義務(遅延損害金が上乗せさせることが通常)、ユーザからの商品欠陥・不具合クレームがあった場合の立替金返還義務(何らかのペナルティ金が上乗せされる場合あり)、加盟店契約に違反した場合の違約金支払い義務などです。
したがって、理想的には、賠償対象となる損害及び損害額につき制限を設けた損害賠償条項を定めたいところですが、契約内容の修正はほぼ不可能です(契約内容の修正を申出たところ、クレジットカード会社より契約を拒否されるだけです)。残念ながら、これといった有効策はなく、どういった場合に損害賠償義務を負担するのか事前に把握し、違反行為に該当しないように気を付けるほかないのが実情です。
-決済代行-
例えば、ネット通販事業者が、クレジットカード各社との加盟店契約の煩雑さを回避するために、決済代行会社に間に入ってもらう取引などが該当します。
これについても、加盟店(ネット通販事業者)視点で損害賠償条項を検討する際のポイントを記述します。
【利用者側】
決済代行会社が自ら債権回収手続きを行う場合、手荒な(?)な回収行為による風評被害ということも考えられなくもありません。しかし、基本的には上記クレジットカードの加盟店契約と同じく、決済代行利用者は損害賠償義務を負担する側に立つことが多いと思われます(上記加盟店契約で触れた事項が基本的には当てはまります)。
したがって、理想的には、賠償対象となる損害及び損害額につき制限を設けた損害賠償条項を定めたいところですが、契約内容の修正はほぼ不可能です(契約内容の修正を申出たところ、決済代行会社より契約を拒否されるだけです)。クレジットカードの場合と同じく、どういった場合に損害賠償義務を負担するのか事前に把握し、違反行為に該当しないように気を付けるほかないのが実情です。
(5)その他
上記(1)から(4)に分類されないものの、IT企業であれば関係しそうな業務委託契約として、2つをあげておきます。
-コンサルティング-
技術指導や戦略提案を行う又は受ける取引が該当します。
【委託者側】
指導内容に誤りがあった、提案内容を実践したが改善しなかった等を理由とした、委託料の返還、無駄な経費の発生、機会損失等の損害賠償が考えられます。したがって、基本的には損害賠償請求が制限されない損害賠償条項を定めたいところです。
なお、コンサルティング契約は結果を保証するものではないため、何をもって契約違反があったのか損害賠償請求を行う側で立証しづらいという問題があります。したがって、一定の成果を下回った場合など基準を設定した損害賠償条項を定めるなどの工夫が必要となります。
【受託者側】
コンサルティング内容に問題があったことを理由として、様々な損害賠償を受けるリスクがあります。したがって、損害の範囲につき一定の網をかける、負担するべき損害額につき制限を設けた損害賠償条項を定めたいところです。
なお、コンサルティングという特性上、内容につき委託者の意図する特定の目的に適合すること、有用性・完全性等を有することにつき保証できないといった成果保証を否定する文言を定めておきたいところです(つまり、業務遂行プロセス上に問題があった場合にのみ契約違反の問題が生じるようにすることで責任範囲を限定するという趣旨です)。
-マッチング-
プラットフォーム事業者が設置するプラットフォームを用いて、特定の目的を持ったユーザ同士をマッチングさせるといった取引が該当します。
【プラットフォーム事業者側】
プラットフォーム事業者は、マッチングの機会を提供するのみであって、ユーザ同士のトラブルに対しては何ら責任を負わないというのが原則的立場です。したがって、ユーザ同士のトラブルに対しては何ら責任を負わないとする損害賠償条項を必ず明記したいところです。
一方で、プラットフォームそれ自体の不備があった場合、プラットフォーム事業者は損害賠償義務を負担することになりますが、利用料の返還以外に機会損失や無駄な経費など際限なく損害賠償請求を受けるリスクが生じます。このため、損害の範囲及び損害額の制限を定めた損害賠償条項を定めたいところです。
【利用者側】
利用者からすれば、損害賠償義務を負担する場面は限定されると考えられることから、損害賠償請求を行うことにつき制限がない損害賠償条項を定めたいところです。
もっとも、プラットフォーム事業者との契約内容変更交渉は事実上難しいと言わざるを得ません。填補されない損害分を事前に把握した上で、リスク転嫁可能か又は自ら引き受けるのかを判断する必要があります。
3.当事務所でサポートできること
本記事では、業務委託契約に関係する損害賠償条項に絞って解説しました。
各種契約類型及び当事者属性に応じて、損害賠償条項の定め方に色々な工夫の余地があることがお分かりいただけたかと思います。
ただ、契約は当然のことながら相手のあることですので、相手をどのように説得し、どこまで妥協するのか戦略的に考える必要があります。また、損害賠償問題について、損害賠償条項だけを検討しても不十分な場合も想定されます(免責条項の存在など)。さらに、損害賠償の請求根拠が複数ある場合、それぞれの適用関係につき専門的知見を必要とする場面もあり得る話です。
適切な判断を行うためにも、契約問題については是非弁護士にご相談ください。
<2022年12月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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