契約書の内容を変更する手順とは? 変更方法を弁護士が解説
【ご相談内容】
取引先と契約書を結んでいるのですが、契約を締結してから10年以上経過しています。このため、現場で慣行的に行われている取引手順と、契約書に定められている取引手順とにズレが生じており、今般これが原因でトラブルが発生しました。
今後のトラブル防止のためにも、契約書の変更手続きを取りたいのですが、どのような方法で行えばよいのか、教えてください。
【回答】
一度締結した契約書の内容を変更する場合、相手当事者と新たに契約書を取り交わすという方法が一番正確です。
しかし、大幅な内容変更を行うわけではなく、一部の内容変更に留まる場合、わざわざ新たな契約書の取り交わすことは色々と煩雑であり、時間もかかります。
そこで、簡易な方法により契約内容の変更ができないかを検討することになります。
この点、一昔前であれば契約書=紙媒体であったため、覚書等を作成して対処するという方法がポピュラーでした。しかし、最近では電子契約も徐々に普及しており、電子媒体を用いた契約内容の変更手続きについても意識する必要があると考えられます。
そこで、本記事では、紙媒体を用いて変更する場合と電子媒体を用いて変更する場合に分類した上で解説を行います。
なお、最後に、相手当事者の了解を得ずして契約内容を変更できる場合があることについても簡単に触れておきます。
【解説】
1.紙媒体を用いて変更する場合
(1)締結済みの契約書を直接訂正することで変更する方法
例えば、継続的な売買契約において、経済情勢の変動等により、契約締結当時に定めていた商品単価や納期では色々と不都合があるという場合において、売主と買主が商品単価と納期の変更に合意したとします。
この合意内容について、売買契約書自体を直接修正することで実現しようとする場合、次のような方法を用いることになります(本記事では識別できるよう、訂正内容と訂正したことを記す文言を赤文字で記載しています。実際には黒文字記入で問題ありません。なお、赤文字部分の直後に売主と買主の訂正印を押します)
第×条 売主は買主に対し、次の条件にて商品を売渡す。
150(参文字削除、参文字加入)㊞㊞ ①100円/個とする。
受注の都度、売主が指定する(十文字削除、十参文字加入)㊞㊞ ②10日以内に納品する。
|
なお、本件事例で上記のような方法を用いた場合、あたかも契約締結当初から商品単価が150円であるかのような解釈も可能となり、特に買主にとっては差額分を請求されるリスクを抱えることになります。
このリスクを排除するためには、例えば、上記の「第×条」と「次条」の間のスペースに、「前条は×年×月×日より適用される。」と追記して、売主と買主の押印を行うといった対処を行う必要があります。
(2)覚書を作成することで変更する方法
上記(1)以外にも、別途書類(覚書など)を作成することで対応する方法もあります。
例えば、次のようなものです(タイトルは覚書以外に、念書、確認書、合意書等の名称を問いません)。
覚書
売主と買主は、×年×月×日付売買契約(以下「原契約」という)に関し、次の通り変更することに合意した。
1.原契約第×条を次の通り変更する。 ・商品単価:1個当たり「150円」に変更する。 ・納期:「受注の都度、売主が指定する」に変更する。 2.本書に定めの無い事項については、原契約の通りとする。 3.本書の効力は×年×月×日から発生する。
本契約の成立を証するため本書2通を作成し、甲乙署名押印の上、各1通ずつ保有する。
年 月 日
売主 ㊞ 買主 ㊞ |
ところで、別書面を作成した場合に気を付けなければならないことが1点あります。
それは印紙税の取扱いについてです。
本件の場合、原契約が「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)に該当するところ、「単価」の変更は印紙税法上の「契約書の重要な事項」の変更に該当し、覚書それ自体が課税文書となります。したがって、覚書にも印紙の貼付けが必要であることに要注意です。
合意した変更内容を書面化した場合、何が「契約書の重要な事項」の変更に該当するとして課税文書になるのかについては、次の国税庁のサイトにて確認してください。
別表第2:重要な事項の一覧表(国税庁)
なお、覚書の作成の仕方については、次の記事も参照してください。
覚書・合意書・示談書等を作成する際にチェックするべき事項について、弁護士が解説!
(3)署名押印が不要の場合
上記(2)のような変更内容を記載した覚書等の合意書面を作成した場合、署名押印を行わないことには有効性を担保できません。この観点から、例えば契約内容の変更会議を行い、当該会議の議事録を作成したとしても、署名押印が無いことには議事録の内容にて変更合意が成立したと裏付けることは困難となります。
もっとも、署名押印が無くても変更合意の効力が認められる書類が存在します。
例えば、何らかの理由で裁判手続きとなった場合、裁判上の和解により和解調書を裁判所が作成した場合、当事者の署名押印はありませんが、和解調書に記載されている内容については法的効力が認められます。また、裁判上の調停手続きを通じて一定の合意に達した場合、調停調書を裁判所が作成しますが、当事者の署名押印が無くても、調停調書に記載されている内容については法的効力があります。さらに、公証人役場において公正証書を作成した場合、やはり署名押印がありませんが法的効力が認められます。
ときどき和解調書や調停調書、公正証書に署名押印が無いことで、重大なミスを犯したと相談に来られる方がいますが、裁判上の和解手続きや調停手続き、公正証書作成手続きにおいては、署名押印に代わる契約当事者の意思確認方法が行われています。したがって、契約当事者の署名押印は不要です。
2.電子媒体を用いて変更する場合
(1)覚書を電磁的記録にて作成し変更する場合
例えば、元々の契約については紙媒体で契約書を作成しているものの、印紙税の負担を回避したいとして電子媒体で覚書等を作成するといったことが考えられます。
なお、もともとの契約書について、紙媒体ではなく電子媒体を用いて締結手続きを行っている場合、上記1.(1)で記載したような、変更内容を直接契約書上に訂正して対処するという方法をとることができません。この場合、覚書等を紙媒体で作成するのか、電子媒体で作成するのか選択することになります。
さて、電子媒体を用いて変更契約を行う場合、契約当事者が変更合意を行ったことをどうやって裏付けるかがポイントとなります。なぜなら、紙媒体のような署名押印という証拠を残すことができないからです。
この点、電子署名という方法が法制度としては存在しますが、あまり普及しているとは言い難い状況です。
また、民間会社が提供している電子契約サービスが存在しますが、当然のことながら費用が発生しますので、費用対効果の観点から検討する必要があります。
ところで、簡易な方法として、電子メールやチャットを用いて契約内容の変更手続きを行うということが現場実務では行われているようです。例えば、契約内容の変更を希望する者が相手当事者に対し、変更内容を電子メール又はチャットで送信し、相手当事者が当該メール又はチャットに返信する形式で変更内容を了承するといった方法です。
たしかに、これも1つの方法として認められると考えられます。特に、口頭で変更内容に合意した場合よりも、後で内容を再現することができるため、口頭での変更合意よりも望ましい点があります。
しかし、電子メールやチャットの場合、署名押印と比較すると安定性に欠く場合があるのも事実です。
例えば、電子メールやチャットのやり取りを行っている当事者が、本当に電子メール又はチャットアカウント上に記載のある名義人といえるのか、という点です。外部の人間が不正にアクセスして電子メールやチャットのアカウントを乗っ取り、なりすましてやり取りを行っている可能性はあり得る話です。
また、当該アカウントについて名義人以外に複数人が共有して利用しており、名義人以外の第三者が形式的に名義人を名乗ってやり取りを行っていた場合なども想定されます。つまり、電子メールアカウントやチャット上の名義人と同一と言えるのか、実際にやり取りを行っていた者が名義人より権限を得て行っていたのか、という点について、電子メールやチャットのみから裏付けることが難しいという問題がどうしても残ります。
さらに、元々の契約書において「本契約の内容は、合意書面を作成し、当事者双方の署名押印がある場合のみ変更することができる」といった変更方法に関する規定があった場合、電子メールやチャットでは、元々の契約書に定められている変更要件を充足しないことになります(ちなみに、この点については、電子メールやチャット以外の電子媒体で変更合意を行った場合も問題となり得ます。一般論として「書面」は紙媒体のものを指すと考えられるからです)。
なお、WEBメールやチャットの場合、サービス提供事業者が管理するデータ領域内でやり取りが記録されているにすぎず、契約当事者が管理するデータ領域内にやり取りの記録が保存されていないことが通常です。このため、サービス提供事業者がサービスを廃止した場合やデータを破棄した場合、当該やり取りの記録を後日閲覧できないことはもちろん、やり取りの記録を抽出することができないという問題もあります。要は、やり取りの記録が自己領域内に保存されていないことで、後で証拠化することができないというリスクがあることも理解しておく必要があります。
電子媒体にて変更合意を行う場合、上記のような問題点をクリアーする必要があることに要注意です。
(2)電子媒体で変更合意を行えない場合
本記事作成時点(2022年(令和4年)10月)では、例えば、訪問販売や特定継続的役務提供など特定商取引法に基づき義務付けられている契約書面については、電子媒体による交付が認められていません。したがって、契約書面の変更を行う場合も電子媒体による変更手続きは認められないと考えられます。
もっとも、2023年6月に予定されている改正特定商取引法では、消費者の承諾があった場合に限り、電子媒体を用いた契約書面の交付手続きが可能となります。この場合、契約内容の変更手続きも電子媒体により変更可能になると予想されますが、何らかの条件が課せられる可能性もあり、今後の議論の推移を見守る必要があります。
3.覚書等がなくても変更できる場合
上記1.及び2.では、契約内容を変更するためには相手当事者の了解が必要であること、その了解の裏付け方法として、元々の契約書を訂正し押印する、別途覚書等の書面を作成し署名押印する、電子媒体の場合は署名押印に代わる証拠の残し方がポイントとなる、ことを解説しました。
しかし、一定の条件を満たす場合、そもそも相手当事者の了解を得ることなく、契約内容を変更することが可能です。
以下では、代表的な3つにつき簡単な解説を行います。
(1)定型約款に該当する場合の特則
定型約款とは、民法第548条2に定められているものであり、2020年4月施行の改正民法より導入された概念です。ここで定型約款とは次の①②のいずれにも該当するものをいいます。
①定型取引に用いられること
※定型取引とは次の2条件を充足するものをいいます。 ・不特定多数の者を相手方として行う取引であること(不特定多数要件) ・取引の内容の全部又は一部が画一的であることが契約当事者双方にとって合理的であること(合理的画一性要件)
②定型取引において、契約の内容とすることを目的として、定型約款準備者により準備された条項の総体のこと |
もし契約が定型約款に該当する場合、次の条件を充足する限り、相手当事者の了解を得ることなく契約内容を変更することが可能となります。
・変更予定の利用規約の個別具体的内容を事前に開示すること(民法548条の4第2項)
・定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであること(民法第548条の4第1項第2号) |
本記事では詳細な解説を省略しますが、最大のポイントは、定型約款に該当した場合、覚書等を作成することなく(取引当事者の了解を得ることなく)、定型約款を作成した側において、一方的にて契約内容の変更が可能という点です。
そもそも定型約款に該当するのか、慎重に吟味する必要がありますが、重要な例外となりますので、この記事では簡単に触れておきました。
なお、定型約款に関する解説は次の記事を参照してください。
民法改正に伴う約款(利用規約、会員規則など)の見直しポイントについて、弁護士が解説!
(2)労働契約の特則①(人事権)
例えば、労働契約を締結した場合、使用者(事業主)は労働者に対して労働条件通知書を交付する必要があり、原則としてこの労働条件通知書に記載されている内容が労働契約の内容となります。
この労働条件通知書には勤務内容や勤務場所が明記されているところ、使用者(事業主)は労働者に対し、勤務内容の変更(配置転換)や勤務場所の変更(転勤・在籍出向)を一方的に命じることができるとされています。
これは労働契約において、使用者(事業主)は人事権を行使できるからと説明されることが多いのですが、要は労働条件通知書や労働契約において、勤務内容及び勤務場所が定められていたとしても、使用者(事業主)の都合により、覚書等を作成しなくても(相手当事者(労働者)の了解を得なくても)変更可能という点で重要な例外となることから、ここで触れておきました。
なお、最近では、いくら使用者(事業主)に人事権があっても一定の限界があり、裁量の逸脱と評価される場合は、勤務内容や勤務場所を変更することが不可と判断される場合があることに注意が必要です。
(3)労働契約の特則②(就業規則による不利益変更)
上記(2)では勤務内容や勤務場所について、原則として使用者(事業主)は契約内容を変更することができることを解説しました。
しかし、人事権とは関係性のない事項、例えば賃金を、使用者(事業主)が一方的に減額することはできません(賃金を増額することは可能です。但し、増額した賃金をたとえ元に戻す場合であっても、やはり減額に該当しますので、使用者(事業主)が一方的に変更することはできません)。
もっとも、これにも重要な例外があります。具体的には、労働契約法第9条及び第10条です。
労働契約法第9条
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
労働契約法第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。 |
要は一定の場合、賃金等についても就業規則を変更することにより、覚書等を作成することなく(相手当事者(労働者)の了解を得ることなく)変更することが可能と定められています。
当然のことながら、就業規則の変更による労働条件の変更(労働者にとって不利益となる変更)の適用条件は非常に厳しいものとなるのですが、やはり重要な例外となることから、ここで簡単に触れておきました。
4.弁護士への相談の必要性
上記1.から3.において、一度成立した契約内容を変更する場合の方法について解説を行いました。
もっとも、上記は契約内容を変更する場合の手続き面の解説に留まり、内容面については検討できていません。
これは個々の現場で気を付けて頂くほかないのですが、例えば、安易に契約変更の覚書等を締結することで、元々の契約内容に定められている他の条項と新たな矛盾が発生し、後日トラブルになるということも意外と多く発生したりします。
変更手続きをどのように進めればよいのか、どのような形式で変更合意の裏付けを図ればよいのか等の問題はもちろんのこと、契約内容を変更することで、新たな問題が生じないか等の内容面での検討についても、是非弁護士にご相談ください。
<2022年10月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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