合意書とは?契約書、同意書等との違いや作成の際のチェック事項について弁護士が解説
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【ご相談内容】
当社は委託者よりシステム制作を受託し、現在制作作業を進めているところ、委託者より追加業務の要望が発生しました。
現在締結済みの契約書に定める業務とは異なる追加業務であることから、別途書面を作成しようと考えています。
この場合、契約書、合意書、覚書などのタイトルが付された文書のうち、どれを選択すればよいのでしょうか。また、作成に当たって注意点などがあれば教えてください。
【回答】
別途書面を作成するにあたり、そのタイトルに「契約書」、「合意書」、「覚書」のいずれを選択しても問題ありません。ただ、既に契約書を締結しているのであれば、一目で契約書に付随する書類であることが分かるように「××契約に関する合意書」といったタイトルを付したほうがよいかもしれません。
合意書を作成する場合の一般的な注意点としては、【解説】3.で述べる形式面と内容面に関する注意事項を意識すること、チェック事項としては、【解説】4.で述べる事項を意識してください。
【解説】
1.合意書とは
合意書について、正式な法的定義はありませんが、一般的には当事者間で合意した事項を記した書面とされます。
合意した事項を記すという点から合意書の対象となる範囲は広く、法的な権利義務関係を合意した場合に合意書を作る場合もあれば、権利義務とは関係がない事項(例えば、戦略的パートナーシップとして今後協力する…といった抽象的なもの)に関する合意書もあり得ます。
2.合意書とその他の書面との違い
「合意書」というタイトルがついた文書以外にも、同意書、誓約書、契約書、覚書…といった様々なタイトルがついた文書が世の中には存在します。
これらの文書の関係性は、次のように整理できます。
(1)合意書と同意書の違い
同意書について正式な法的定義はありませんが、一般的には一方当事者が他方当事者に対して、同意した内容を記した書面とされます。
例えば、IT業界で用いられることが多い同意書としては、次のようなものがあります。
【例:取引先への出向同意書】
同意書
私は、貴社による出向命令について同意し、×年×月×日付出向辞令書記載の内容に異議はありません。
××株式会社御中 ×年×月×日 ×××× 印 |
相違点としては、合意書は、合意した当事者全員が合意書に署名(記名)押印することが念頭に置かれているのに対し、同意書は、同意した当事者のみ署名(記名)押印することが通常です。
したがって、同意書は、同意書に署名押印した者だけに拘束力(=約束を遵守する義務)が生じるにすぎず、同意書を受領した側には拘束力は生まれません。ただし、事実上の効果と言えばよいでしょうか、同意書に、同意書を受領する側において誤った事項が記載されているにもかかわらず、同意書差出人に対して特に異議を述べずに放置していた場合、同意書に記載されていた内容について、同意書を受領した側は黙示的に承認していたと指摘される可能性があります。同意書の内容に誤り等があった場合、同意書を受領する側は同意書差出人に対し、速やかに誤り等を修正するよう申し入れたいところです。
一方共通点ですが、合意書と同意書について、法的な意味での優劣関係はありません。このため、内容が権利義務に関する事項であれば、どちらの書面であっても法的拘束力が生じることになります。
(2)合意書と誓約書の違い
誓約書についても正式な法的定義はありません。同意書と類似しますが、一般的には、一方当事者が他方当事者に対して、誓約した内容を記した書面とされます。
例えば、IT業界で用いられることが多い誓約書としては、次のようなものがあります。
【例:発注に先立つ誓約書】
誓約書
株式会社××御中 ×年×月×日 ××株式会社 代表取締役×× 印
下記に記載する「××システム」の開発について、貴社と業務委託契約書を締結するまでの間、本書により業務(仕様調整/設計)を遂行するようお願いします。 なお、本書発行後に、弊社事情により、委託した業務が中止又は終了した場合は、本書発行時からの貴社業務遂行に要した費用を支払います。 記 案件名:×× 委託内容:×× (省略) 以上 |
相違点及び共通点については、上記(1)で記載した同意書に関する内容がそのまま当てはまります。
(3)合意書と契約書の違い
契約書についても正式な法的定義はありませんが、一般的には、合意書と同じく、当事者間で合意した事項を記した書面とされます。
実のところ、合意書と契約書には、法的な差異や優劣はなく、単にタイトルが違うだけとなります。
ただ、現場実務では、特に取引関係に関する合意事項については契約書というタイトルを付し、契約書の一部修正に関する合意や通常の取引関係とは外れたトラブル解決に関する合意(例えば、不法行為に基づく示談など)などを合意書と付し、使い分けを行うことが多いようです。
なお、IT業界で用いられる契約書は多種多様ですが、その代表例である業務委託契約書については次の記事をご参照ください。
(4)合意書と覚書の違い
覚書についても正式な法的定義はありません。そして、当事者間で合意した事項を記した書面と一般的に定義づけられる点では合意書と同様です。また、合意書と覚書には、法的な差異や優劣はなく、単にタイトルが違うだけであること、上記(3)と同様です。
ちなみに、現場実務において、合意書と覚書につき、明確に何らかの差異を意識して使い分けていないのではと執筆者個人は思います。
例えば、IT業界で用いられることが多い覚書としては、次のようなものがあります。
覚書
委託者と受託者は下記の通り合意した。 記 ×年×月×日付××契約第×条に定める納期について、×年×月×日に変更すること。 以上 (以下省略) |
(5)なぜタイトルの使い分けをするのか
合意書、同意書、誓約書、契約書、覚書について、法的に使い分けのルールが定められているわけではない以上、なぜ使い分けるのかは不明と言わざるを得ません。
ただ、例えば、契約書が存在することを前提に、契約書に明記されていない等の理由で取引関係に付随して合意した事項を「××に関する合意書」、「××に関する覚書」とタイトルを付すことで、契約管理の効率化を図る目的で使い分けているということがあるようです。また、相手当事者が本来負担する必要がない事項についてお願いベースで交渉し、了解を得られた場合は「同意書」とタイトルを付すのに対し、相手当事者に対して当然遵守してもらわなければならない事項について「誓約書」とタイトルを付す、といった立場の違いで使い分けるといったことも有るようです。
いずれのタイトルを付した文書であっても法的効力では差異がない以上、文書管理のしやすさという観点から使い分けを行えば足ります。
3.合意書を作成する際の注意点
(1)形式面について
合意書の形式について、特別な決まり事があるわけではありません。
もっとも、現場実務ではある程度固まった形式がありますので、この形式から外れてしまうと、相手当事者に余計な不安やいらぬ誤解を与えかねません。
そこで、合意書を作成する上で注意しておきたい形式について、ここでは解説します。
①表題・タイトル
表題・タイトルを見ただけで、どのような合意事項が記載された書面なのか判別できるよう「××に関する合意書」といった表題・タイトルを付することが通常です。ただ、表題・タイトルで法的効力に差異が生じるわけではありませんので、「表題・タイトル」で悩むのであれば、単純に合意書と名付けておけば足ります。
②前文
前文とは、表題・タイトルと合意内容(契約条項)の間に挿入されている文章のことです。この前文についても、表題・タイトルと同じく、前文を読んだだけで概要が分かるように記載するのが理想ですが、そもそも前文を必ず明記しなければならないという決まり事などありません。
そこで、悩むくらいなら、「××(以下「甲」という)と××(以下「乙」という)とは、以下の通り合意した。」という一文を明記すれば足ります。
③条・項(数字の振り方)
契約書であれば、第×条、第×項、第×号を意識的に割り当てて作成することが多いのですが、合意書の場合、そこまで神経質になる必要はありません。単純に「1、2、3…」と算用数字で割り当てるだけでも十分です。
ところで、割り当てた数字の横などに見出し(条項タイトル)を明記したほうがよいのか、明記するにしてもどのように表現すればよいか分からない、といったご相談を受けることがあります。しかし、そもそも論として、見出し(条項タイトル)について法律上定める義務はありません。悩むくらいなら、あえて見出し(条項タイトル)は明記しないという対応で事足ります。
なお、見出し(条項タイトル)を明記したほうが情報整理しやすい、各条項に何が書いてあるのか分かりやすい等のメリットがあるのは事実です。しかし、見出し(条項タイトル)と各条項の内容に齟齬がある場合、思わぬトラブルを招くことにもなりかねないことから、無理に見出し(条項タイトル)を明記する必要はありません。
④後文
後文とは、一般的には最終条項と署名押印欄の間に明記される文章のことです。
例えば、「以上の通り合意したので、本合意書2通を作成し、甲乙署名押印の上、各1通を保管する。」といったものが代表的な言い回しとなります。
なお、この後文がないから合意書は無効となるといった法律上のルールは存在しません。もっとも、この一文を挿入することで、署名押印者に対して合意書等の内容の確認を促すといった事実上の効果はありますので、明記したほうが無難です。
⑤作成年月日
作成年月日を明記する義務はないのですが、できる限り作成年月日は明記したほうが無難です。なぜならば、合意成立日の明記は次のような意義・効用を有するからです。
(a)合意成立日が法的意味を持つ場合があること
(例えば、本合意成立日より1年間効力を有する…といった規定がある場合、合意成立日が明記されないことで契約期間を確定することができないという問題が生じるためです)
(b)合意成立日の記載が前後で矛盾する合意内容を解決する場合があること
(例えば、1つの取引に対して複数の合意書が存在し内容が矛盾する場合、原則的には最新の日付の合意書が法的に優先し、過去の合意書は効力を有しないと解釈されるからです)
(c)合意成立日が法的有効性に影響を与える場合があること
(例えば、合意書記載内容について、法改正前であれば有効、法改正後であれば無効という場合、作成日が合意内容の有効・無効の判断材料となるからです)
なお、作成年月日の意義について詳しく知りたい方は、次の記事をご参照ください。
契約書のバックデートは可能? 契約書作成日の意義について弁護士が解説
⑥当事者の表示・署名(記名)押印欄
せっかく合意書を作成しても、当事者が署名押印しないことには、合意内容が成立したことを証明することができません。
したがって、当事者の表示・署名押印欄は必須と考えるべきです。
なお、署名と記名について厳密に使い分けられていないため若干混乱が見られるのですが、法的効力という観点では次のような差異が生じることに注意を要します。
(a)署名のみであっても、当事者が合意したことを証明する手段となりうること(なお、押印は絶対要件ではないが、あった方が有利)
(b)記名のみの場合、当事者が合意したことを証明する手段にはなりえないこと
(c)記名と押印があって、初めて当事者が同意したことを証明する手段となりうること
(2)内容面について
合意書に限りませんが、書面に記載した内容について法的な拘束力を持たせる場合、次の4点を意識する必要があります。
(a)確定性
これは合意内容が曖昧である場合、法的拘束力が生じないという意味です。
例えば、「受託者は、委託者が望むすべてのことを行う」という条項が定められていても、具体的に受託者は何を行うべきか確定できないため、この条項は無効となります。
(b)実現可能性
これは現実的に実現不可能な内容を定めても、法的拘束力が生じないという意味です。
例えば、「受託者は、常に委託者が利益を得ることができる株式投資用プログラムを制作し提供する」という条項が定められていても、株式投資で常に利益を確保することは不可能であることから、この条項は無効となります。
(c)適法性
これは違法な内容を定めても、法的拘束力が生じないという意味です。
例えば、「受託者は委託者に対し、第三者がアクセス制限をかけているシステムにつき、当該アクセス制限を無効化するプログラムを提供する」という条項が定められていても、不正アクセス禁止法に違反するものであるため、この条項は無効となります。
(d)社会的妥当性
これは社会常識に合致しない内容を定めても、法的拘束力が生じないという意味です。
例えば、「受託者の契約違反が発覚した場合、受託者は委託者に対し、違約金として一垓を支払う」という条項が定められていても、非常識な額であり、むしろ委託者に不当な利益をもたらすことになるため、この条項は無効となります。
(3)印紙について
契約書であれば印紙は必要だが、合意書であれば印紙不要となる…という結論にはなりません。合意書に記載された合意内容から導かれる法律関係に基づき、印紙の有無及び金額は判断する必要があります。
なお、印紙はあくまでも税務上の問題にすぎません。このため、印紙を貼らなかったから、合意書が法的に無効となるわけではありません。
4.先方から合意書を示された場合のチェック事項
例えば、契約締結後、ユーザ(委託者)がシステムを通じて実現したい事項に変動等が生じ協議した結果、委託者より次のような合意書が提示されたとします。この場合、受託者はどのような視点でチェックするべきなのか解説します。
合意書
委託者と受託者は、×年×月×日付システム制作契約(以下「原契約」という)に関し、次の通り変更することに合意した。
1.原契約第×条に定める委託業務につき、次の業務を追加する。 ・××に関する業務 2.前項に定める業務の追加に伴い、原契約第×条に定める報酬につき、次の通り変更する。 ・金××円(原契約より×円増額) 3.第1項に定める業務の追加を踏まえ、仕様書の更新を行うと共に、必要な資料及び機器の準備を行う。 4.委託者と受託者は本合意書に定めるほか、何らの債権債務がないことを確認する。
以上の通り合意したので、本書を2通作成し署名押印の上、各自1通保有する。 ×年×月×日 委託者 ×× 印 受託者 ×× 印 |
(1)合意した内容を洗い出す
改めて指摘するまでもありませんが、合意書を作成する目的は、合意内容を書面に表し、各当事者が署名押印することで、合意内容を証拠化することにあります。
この点、本件のような事例の場合、例えば、業務が追加されることで作業工数・日数が増える以上、納期の変更(後ろ倒し)について協議し、何らかの合意に至っていることが通常です。ところが、上記合意書では納期の変更について明記されていないため、修正する必要があります。
このように、合意した内容について、全て合意書に反映されているのか逐一チェックすることが重要となります。
(2)5W1Hを意識する
分かりやすい文章を作成するコツとして5W1Hがあげられますが、合意書を作成する際も、「誰が」「誰に対して」「いつまでに」「どこで」「何を行うのか」「どうやって行うのか」を意識するべきです。
この点、上記合意書の第3項は、主語が抜けているため、誰が仕様書を変更するのか、誰が資料・機器の準備を行うのか不明確となっています。
受託者からすれば、仕様書を委託者に勝手に書き換えられてしまうと困る(本来約束できないことまで補償させられかねない)、システム制作に必要な資料と機器は委託者に準備してもらわないと困る(受託者の責任と負担による情報収集と機器購入を主張されかねない)、といった不安及び懸念が生じます。
したがって、第3項については、例えば、「第1項に定める業務の追加を踏まえ、受託者は×年×月×日までに仕様書の更新を行い、委託者に当該仕様書の写しを提供する。また、委託者は受託者に対し、×年×月×日までに、受託者が必要と認める資料及び機器を準備し、提供する」といった修正協議を行うなど、受託者は対策を講じる必要があります。
(3)清算条項の必要性を検討する
清算条項とは、上記合意書であれば第4項に定めているもので、要は「合意書に書いてあること以外は、以後お互いとやかく言うことはできない」という紛争の蒸し返しを防止することを目的とした条項となります。
紛争解決のためには、この清算条項を入れることが多いのですが、常に入れるべきかは一考を要します。特に本件のような事例の場合、清算条項を入れてしまうことで、形式的な解釈論として原契約で定めていた合意事項は効力を失うことになり、これは双方当事者にとって不都合が生じると考えられます。
したがって、本件のような事例の場合、上記合意書の第4項は削除し、原契約との結びつきを明らかにするため、例えば「本合意書に定めのない事項は、原契約に従う」といった一文を明記するのが無難です。
ちなみに、清算条項の必要性を判別するための1つの基準としては、「当事者間で今後の関係を構築する必要性がない」という場合には清算条項を入れて双方の関係性を消滅させる、「引き続き当事者間での関係を継続する必要がある」という場合には、清算条項を入れないと整理すれば分かりやすいかもしれません。
(4)出口戦略(合意内容からの解放)を検討する
合意書に法的拘束力が生じることは、上記2.の通りです。
もっとも、合意書を締結した当時とは異なる事情が発生した場合、むしろ合意書を解除・解約したいという事態も想定されます。
もしこういった事態に備えるのであれば、解除・解約条件、解除・解約権の行使方法、合意書の効力が喪失する時期、効力喪失に伴う清算方法などを明記する必要があります。
なお、本件のような事例の場合、原契約に解除・解約に関するルールが定められていると思われますので、あえて合意書に記載する必要性は乏しいかもしれません。
5.当事務所でサポートできること
一般的に合意書を作成する場合、A4用紙の1~2枚程度の簡易なものが通常です。また、法的拘束力が生じるとはいえ、しょせんは日本語で書かれた文章です。
このような事情もあり、専門家に依頼することなく合意書を作成することが多いようなのですが、上記4.で解説したような落とし穴があちこちに仕掛けられており、場合によっては取り返しのつかない不利な状況に追い込まれることも有り得る話です。
当事務所では、複数のIT企業の顧問弁護士を務めているため、どのような場面で合意書が必要なのか、何を記載すればよいのか、誰との間で合意すればよいのか等のIT取引特有の勘所を押さえていると共に、様々な知見とノウハウを有しています。
合意書の作成及びチェックはもちろん、合意書を作成したほうが良いのか、そもそも何について協議し合意すればよいのかといったことでもお話をお伺いしています。合意書に関するご相談があれば、是非当事務所までお声掛けください。
<2024年2月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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