ソフトウェア使用許諾(ライセンス)契約書作成のポイントについて解説
【ご相談内容】
当社は、開発したソフトウェアについて、ネットワークを介して使用できるサービスを展開する予定です。
そこで、ソフトウェア使用許諾契約書を作成しようと考えているのですが、どのような点に注意すればよいのか教えてください。
【回答】
一昔前のソフトウェアの使用方法といえば、量販店等でソフトウェアが組み込まれたCD-ROM等の媒体物(パッケージ)を購入してユーザ端末にインストールする、WEBサイトよりソフトウェアプログラムを購入してユーザ端末にダウンロードする、といったものが主流でした。
しかし、今ではクラウドコンピューティングと呼ばれる、開発者・販売者が管理するサーバ上にソフトウェアを保存し、ユーザはインターネット回線を通じて当該サーバにアクセスしてソフトウェアを使用するという形式が主流となっています。
そこで、本記事ではクラウド型(SaaS、ASP)と呼ばれるソフトウェア使用許諾(ライセンス)契約を念頭に、契約条項例とそのポイントを解説していきます。
なお、本記事では契約書を作成することが多いサービス提供者(ライセンサー)視点での解説となります。また、いわゆる一般条項(秘密保持条項、契約上の地位の移転禁止条項、解除条項、反社会的勢力排除条項、合意管轄条項など)については触れず、クラウド型のソフトウェア使用許諾(ライセンス)契約において特徴的な条項に絞って解説を行います。
【解説】
1.条項例とポイントの解説
(1)契約締結に先立つ前提条件を定めた条項
第×条(使用権の許諾条件)
1. ユーザは、本ソフトウェアの使用を開始するためには、次の各号の要件を全て満たす必要があります。 ①使用を開始するに先立ち、サービス提供者が指定する情報を提供すること ②当社と過去に行われた取引において、契約違反がなかったこと (以下省略) 2. サービス提供者は、ユーザが前項各号のいずれかの要件を満たさない場合には、使用申込みを拒絶し又は本契約を解除することができます。なお、当該拒絶又は解除によりユーザに何らかの損害が発生した場合でも、サービス提供者は一切の責任を負いません。 |
1項は、サービス提供者とユーザがソフトウェアの使用許諾(ライセンス)契約を締結するに際し、サービス提供者が要求する前提条件を定めた条項となります。
この前提条件は、ケースバイケースで定めることになりますが、一般的に定められることが多いのは、申込みに際してユーザ情報を提供すること、当該情報に虚偽がないこと、過去にトラブル等を起こしていないこと、ソフトウェアの分析・解析等の目的ではないこと、反社会的勢力に該当しないこと等となります。また、上記条項例では示していませんが、「その他サービス提供者が不適当と判断する相当の理由がないこと」といったバスケット条項を定めておくことも多いようです。
2項は、ユーザからのソフトウェア使用申込みを拒絶した場合、本契約締結後に1項に定める事由が発覚したことで契約を解除した場合であっても、サービス提供者は何らの責任を負わないことを定めたトラブル防止条項となります。
なお、上記条項例では示していませんが、拒絶事由及び解除事由について、サービス提供者は開示義務を負わないと定めることも有用です。
(2)ライセンスの内容を定めた条項
第×条(使用権の許諾)
本契約に従うことを前提として、サービス提供者はユーザに対して、本ソフトウェアについての非独占的で譲渡不能かつ再許諾不可な使用権を許諾します。 |
クラウド型でソフトウェアを提供する場合、多数のユーザによる使用を想定しています。したがって、ソフトウェアを独占的に使用させることはあり得ないこと、ユーザがソフトウェアを第三者に譲渡及び再使用させることは不可能であることにつき、念のため定めた条項となります。
なお、上記条項は一般的なことを定めたにとどまりますが、ソフトウェアに対して予想される使用態様に応じて、例えば…
・人的範囲として、ユーザ(法人)の各構成員(従業員など)に限り使用可能と定める
・技術的範囲として、複製、翻案、貸与、公衆送信等を不可と定める
・地理的範囲として、日本国内のみ使用可能と定める
・物的範囲として、使用可能な端末を定める
・利用目的範囲として、ユーザ自らの使用に限定することを定める
といった細かな条件を明記することも検討に値します。
(3)権利の帰属について定めた条項
第×条(その他権利の不付与)
ユーザは、本契約に基づき本ソフトウェアの使用を許諾されるのみであり、売買の対象として本ソフトウェア及びその一切の派生物にかかる著作権、特許権その他の知的財産権並びに所有権その他いかなる権利も取得するわけではありません。 |
クラウド型の場合であれば誤解は少ないのですが、例えば、ソフトウェア(CD-ROM等)を量販店等で購入し、端末にインストールして使用するパッケージ型の場合、ソフトウェアを購入した以上、全ての権利はユーザに帰属しているという誤解に基づくトラブルが頻発していました。
このような誤解を回避し、権利関係について明確にすることを目的として定められる条項となります。
ちなみに、上記(2)で記述した「ライセンス内容を定めた条項」と裏表の関係になるため、(2)と(3)はまとめて条項化することも多いようです。
(4)ID及びパスワードの管理について定めた条項
第×条(ID及びパスワードの管理)
ユーザは、サービス提供者が発行したID及びパスワードを善良な管理者の注意をもって保管・管理するものとし、ユーザに発行しているID及びパスワードによる行為は、ユーザの行為とみなします。ユーザによるID及びパスワードの管理不十分、使用上の過誤、不正使用等によってユーザが損害を被ったとしても、サービス提供者は一切責任を負いません。 |
サービス提供者において、ソフトウェアが不正使用されているか否かについては判断しようがないというのが実情です。
このため、ユーザに対して、ID及びパスワードについて厳格な管理を義務付けることが重要です(なお、上記条項例では明示していませんが、注意喚起をこめて第三者に開示及び貸与することを禁止する旨明記することも一案です。ただし、一般的には次の(5)で記述する「禁止事項」で定めることが多いので、内容的には重複することになります)。
また、たとえユーザが不正使用と主張したとしても、ID及びパスワードが一致している限り、サービス提供者は正当な使用とみなし、何らの責任を負わないことを定めることでトラブル回避を図ることも重要なポイントとなります。ただし、ID及びパスワードがサービス提供者の責任で漏洩したという場合にまで、サービス提供者が一切責任を負わないというのは行き過ぎです。また、ユーザに消費者が含まれる場合、この条項自体無効と判断されるリスクがあります。この点を考慮するのであれば、サービス提供者に帰責事由がある場合は免責されない旨、念のため定めておくことも一案です。
なお、ユーザがユーザに属する構成員(従業員など)に対して、サブライセンス用のID及びパスワードを発行することが予定されている場合、サブライセンス用のID及びパスワードの管理はユーザが行うこと、サブライセンス用のID及びパスワードの一致によるソフトウェアの使用はユーザの行為とみなすことを定めておくことも有用です。
(5)ソフトウェア使用に際しての禁止事項を定めた条項
第×条(禁止事項)
1. ユーザは、本ソフトウェアの使用に関し、次の各号に定める行為を行ってはなりません。 ①有償、無償を問わず、本ソフトウェアの全部又は一部を第三者に販売、貸与、頒布、譲渡又はその他の処分 ②本契約に基づく本ソフトウェアの使用権につき再使用権の設定、又は第三者への譲渡 ③第三者へのID及びパスワードの譲渡、貸与 ④本ソフトウェアに関し、複製、リバースエンジニアリング、逆コンパイル又は逆アセンブルなどの解析作業及び改変・翻案行為 ⑤本ソフトウェアの全部若しくは一部の他のソフトウェアの一部への組み込み、又は他のソフトウェアの全部又は一部の本ソフトウェアの一部への組み込み ⑥本ソフトウェアに表示されている著作権及びその他の権利者の表示について、変更を加えること ⑦サービス提供者が指定するデータ転送量を超過して、本ソフトウェアを使用する行為 ⑧その他、本契約で明示的に許諾された範囲を超える本ソフトウェアの使用 (以下省略) 2. ユーザは、前項各号のいずれかの規定に反した場合、当該行為を直ちに停止するとともに、違約金として×円をサービス提供者に対して支払うものとします。なお、当該違約金は、サービス提供者からユーザへの損害賠償及び本条以外に定められた違約金の請求を妨げるものではありません。 |
ソフトウェアの使用許諾契約を作成するうえで、最重要ポイントの1つとなるのが、この禁止事項の設定です。なぜなら、この条項が適切に定められていない場合、サービス提供者は、ユーザによるソフトウェアの使用につき適切な管理指導を行うことができず、思いもよらないリスクを負担し、あるいは販売機会の損失等の経済的不利益を被ることがあるからです。
したがって、禁止事項の設定に際しては、あらゆる角度から検討を行い、必要十分な事項を定めた上で、その内容の充実化を図る必要があります。
なお、ユーザがユーザの構成員(従業員など)に対してサブライセンスを行う場合、ユーザに対し、サブライセンシーによる禁止行為を防止する監視義務を負担する旨定めておくことが有用です。
ところで、クラウド型の場合、リバースエンジニアリングが実施される可能性は低いと考えられますが、著作権法第30条の4第3号の解釈として、ユーザによるリバースエンジニアリングは可能とされていることから、あえて明記しています。ただし、公正取引委員会は、リバースエンジニアリングが不公正な取引方法に該当する場合も有り得るという見解を公表しています(平成14年公表の「ソフトウェアライセンス契約等に関する独占禁止法上の考え方」を参照)。
やや専門的な議論とはなりますが、リバースエンジニアリング禁止条項を定めても、常に有効という訳ではないことは意識しておきたいところです。
(6)使用料の支払い等を定めた条項
第×条(初期導入費用)
1. ユーザは、本ソフトウェアの初期導入費用として、×円(税込)をサービス提供者に対して支払います。 2. ユーザは、前項に定める初期導入費用を、本契約締結までに、サービス提供者の指定する銀行口座に振り込む方法で支払います。なお、振込手数料はユーザの負担とします。 3.ユーザは、本契約が終了した場合、いかなる理由があっても、サービス提供者に対して初期導入費用の返還を求めることはできません。
第×条(月額使用料) 1. ユーザは、本ソフトウェアの月額使用料を、次の各号に従って支払うものとします。 (料金体系について省略) 2. ユーザは、サービス提供者が発行する請求書又は請求データに記載された金額を、締月の翌月×日(×日が金融機関休業日の場合には直後の金融機関営業日)にユーザの口座からの自動引落の方法により支払います。 3. 前項に定める約定日に自動引落にて支払いができなかった場合における支払い、本契約において別段の定めがある場合の支払い、その他自動引落以外の方法による支払いによって生じる振込手数料等の送金費用は、ユーザが負担します。 |
ライセンス料の支払いに関する内容をまとめた条項となります。
上記では、イニシャル(初期)費用とランニング(月額)費用とを分けて定めていますが、イニシャル(初期)費用が発生しないのであれば、この条項を定める必要はありません。
また、サブスクリプションの場合、ランニング(月額)費用は定額となりますので、上記の月額使用料に関する第1項のような定めも不要となります。
なお、ユーザがユーザの構成員(従業員など)に対してサブライセンスを行う場合、サブライセンスの数に応じて月額使用料が変動する場合、月額使用料に関する第1項には、その条件を明記する必要があります。また、ユーザがサブライセンス数を誤魔化した場合などを想定し、発覚した場合には違約金の支払い義務を課す条項なども定めておくことも一案です。
(7)ソフトウェアのバージョンアップ(アップデート)を定めた条項
第×条(更新・アップデート・バージョンアップ等)
1. サービス提供者は、本ソフトウェアの改良、機能追加等を目的として、本ソフトウェアの一部を随時更新します。ただし、当該更新はサービス提供者の裁量により行われるものであり、サービス提供者は当該更新を行う義務を負いません。 2. ユーザが更新された本ソフトウェアを使用した場合、ユーザは、当該更新前の本ソフトウェアを使用する権利を放棄したものとみなします。 3. ユーザは、本ソフトウェアの更新により、更新前の機能及び性能等が維持されるわけではないことを理解し了承します。 4. ユーザが本ソフトウェアの更新を拒絶する場合、サービス提供者は本契約を解除することができます。 |
クラウド型サービスの特徴は、サービス提供者が必要に応じてソフトウェアの改善を行い、最新版を提供するという点にあります。ただ、ユーザからの様々な要望に応えて常時最新版を提供すること(バージョンアップ・アップデート・更新を行うこと)は、サービス提供者に無理を強いることになりますし、最新版を提供しないことを理由とした契約違反責任を問われると、サービスの提供自体が困難となりかねません。
そこで、第1項では、最新版の提供(バージョンアップ・アップデート・更新を行うこと)は、サービス提供者の法的義務ではないことを明記し、サービス提供者のリスクヘッジを図っています。
次に、第2項から第4項では、最新版の提供(バージョンアップ・アップデート・更新を行うこと)により、更新前のソフトウェアに係る使用関係を整理し明記しています。ユーザの中には、更新前のソフトウェアの利用を希望する場合も想定されるところ、本契約では更新前のソフトウェアの使用は認めず、契約解除事由としています。ややユーザに対して強圧的な規定ですが、新旧両方のサービス提供が難しい場合があることを想定すると、サービス提供者の立場からすれば、たとえ法的有効性に疑義があるとしても定めておいた方が良いと考えられます。
なお、第2項は、ソフトウェアにより提供されるサービス内容の変更を前提としたものとなります。更新により本契約の内容(取引条件、例えば月額使用料が増額するなど)が変更する場合、契約変更手続きを踏む必要があり、第2項だけでは対処しきれないことに注意を要します。
ところで、ソフトウェアについて、ユーザによるカスタマイズを許諾するサービスを提供している場合、最新版の提供(バージョンアップ・アップデート・更新を行うこと)により、当該カスタマイズ部分が正常に稼働するか分からない場合があります。
したがって、サービス提供者の立場からすれば、ユーザが開発(カスタマイズ)等したソフトウェア内の構成部分につき動作保証しない旨明記したほうが無難と考えられます。
(8)契約期間について定めた条項
第×条(使用権の許諾)
本契約の有効期間は、本契約の締結日から1年間とします。但し、契約期間満了の6ヶ月前までに、ユーザとサービス提供者何れからも文書による異議が出されなかった場合、本契約は自動的に同一条件にて1年更新されるものとし、以後もこの例によります。 |
上記条項例はソフトウェア使用許諾契約特有のものではなく、他の取引類型でも見かける内容です。
上記条項例をベースに、ソフトウェア使用許諾契約で特に検討したい事項があるとすれば、
・最低使用期間に関する条項を定める必要がないか
・ユーザからの中途解約を禁止する、又は中途解約に条件を付す条項を定める必要がないか
・サービス提供者からの中途解約を可能とする条項を定める必要はないか
といったことが考えられます。
契約期間の条項自体は単純ですが、経営戦略的な視点も加味して定めたいところです。
(9)サービス提供者が保証又は非保証する事項を定めた条項
第×条(非保証)
本契約において明示的に合意したものを除き、ユーザは、サービス提供者が本ソフトウェアに関して、正確性、最新性、有用性、信頼性、適法性、完全性、有効性を保証するものではないことを確認し、明示・黙示を問わずその他一切の責任をサービス提供者が負わないことを了承します。 |
ソフトウェアについて、何をどこまで保証するべきかは非常に悩ましい問題です。
ただ、サービス提供者のリスクヘッジの観点から「一切保証しない」と定めてしまうのは、ある種の矛盾であり、ソフトウェアの優位性等をユーザにアピールすることが困難となってしまいます。
そこで、上記条項例では、契約書に定めた事項(契約書別紙としてSLA等を添付することを想定しています)のみ保証し、それ以外は一切保証しないという内容で定めてみました。もちろん、色々な考え方がありますので、上記条項例にこだわることなく、実情に応じて内容を定めることが肝要です(例えば、プロトタイプ(試供品)のソフトウェアであれば、一切保証しないと定めることも十分あり得る話です)。
さて、上記条項に付随して、さらに契約条項化するかを検討するべき事項としては次のようなものがあります。
・保証の範囲として、ユーザがサービス提供者に無断又は無許可で行ったソフトウェアのカスタマイズに対して保証しないことを明示するべきか
・保証の範囲として、ユーザがサービス提供者より許可を得て開発(カスタマイズ)等したソフトウェア内の構成部分と、サービス提供者が開発したソフトウェアとの連携稼働については保証しないことを明示するべきか
・保証の範囲として、ソフトウェアと他のソフトウェアとを組み合わせて稼働する場合には保証しないことを明示するべきか
・保証違反に対する責任の取り方として、ソフトウェアの修補に限定されることを明示するべきか
・保証違反に対する責任の取り方として、損害賠償責任を負わないことを明示するべきか
要はどこまで細分化して明記するのかという問題であり、実情に合わせて取捨選択することが重要となります。
ところで、保証の有無を問わず、サービス提供者はソフトウェアが稼働するよう保守業務を随時実施しています。保証責任に関する条項と合わせて、保守に関する条項も整理するのも有用と考えられます。例えば、次のような条項が考えられます。
第×条
1. サービス提供者は、本契約の期間中、本ソフトウェアが稼働するよう必要な保守を行います。
2. 本ソフトウェアを使用するための管理ページのID若しくはパスワード等の認証情報を失念した場合、又は本ソフトウェアと連携するサーバに稼働不良が発生した場合、その他のユーザにおける本ソフトウェアの使用不能状態となった場合、サービス提供者は有償にて対処します。
(10)ユーザ利用状況に対する調査権(監査権)を定めた条項
第×条(調査・監査)
1. サービス提供者は、ユーザによる本契約の順守状況を確認することを目的として、本ソフウェアの使用状況等を調査及び監査することができます。 2. 前項による調査及び監査を行う旨の通知があった場合、ユーザは当該調査及び監査に協力するものとします。 |
不正利用等が疑われる場合に、サービス提供者がユーザに対して調査及び監査を行う権限を明記した条項となります。
なお、やや自力救済の禁止との関係で微妙なところがありますので、調査及び監査を実行する場合、事前にユーザに通告を行うといった適正手続きを意識するべきです。
ところで、調査及び監査を行った場合、誰が費用負担するのかという問題があります。
基本的にはサービス提供者の判断で行うものである以上、サービス提供者が費用負担するというのが筋論のように思われますが、不正が発覚した場合に限り、ユーザに負担させるというルールを契約書に定めておくのも一案です。また、これに関連して、不正が発覚した場合の違約金についても、まとめて明記しておくことも検討に値します。
(11)データの取扱いについて定めた条項
第×条(データ管理)
1. サービス提供者は、本ソフトウェアで使用するデータについて、安全に管理するよう努めますが、本ソフトウェアが、本質的に情報の喪失、改変、破壊等の危険が内在するインターネット通信網を利用した電磁的サービスであることに鑑みて、ユーザは、データを自らの責任においてバックアップするものとします。当該バックアップを怠ったことによってユーザが被った損害について、サービス提供者は、データの復旧を含めて一切の責任を負いません。 2. サービス提供者は、システム保安上の理由等により、一時的にバックアップを実施する場合があります。但し、当該バックアップはユーザのデータ保全を目的とするものではなく、サービス提供者は、ユーザが要求するバックアップデータの提供に応じる場合であっても、当該データの完全性等を含めて、一切保証しません。 |
データ管理とその安全性については色々な考え方がありますが、サービス提供者の立場からすれば、データ喪失リスクは常に付きまとうと言わざるを得ません。
そこで、第1項では、ユーザにバックアップ責任を課し、サービス提供者はデータ喪失について一切の責任とあえて定めています。ただ、この種の免責条項は有効性を維持できるのかはやや疑問があります。特に、ユーザに対してデータのバックアップサービスを提供しておらず、またバックアップを行う手段が事実上存在しない場合、ユーザにバックアップ義務を課すこと自体が不可能を強いると言わざるを得ません。
したがって、上記条項例については、実情に応じて修正したほうが良い場合があります。なお、ユーザに消費者が含まれる場合、消費者契約法との関係でも有効性を維持できるのか別途検証が必要となります。
次に、第2項では、サービス提供者が自主的にバックアップを行い、バックアップデータを保有している場合の対応ルールについて定めています。ユーザとのトラブル回避のためには必ず定めておいた方が良い条項と言えます。
なお、サービス提供者がバックアップサービスを実施するのであれば、上記第2項のような内容は見直す必要があります。もっとも、バックアップデータの不完全性及び復元保証できない点はやはり明記したほうが無難かもしれません。
(12)損害賠償責任の制限、免責について定めた条項
第×条(責任の限定)
1. 本ソフトウェアを使用したことによってユーザに損害が生じたとしても、サービス提供者に故意又は重過失がある場合を除き、サービス提供者は一切の責任を負いません。 2. サービス提供者は、本ソフトウェアの使用不能から生じるいかなる派生的損害、付随的損害、間接的損害及び特別損害(営業利益の損失、事業の中断等による損害を含みます。)について、かかる損害の可能性を知らされていた場合であっても、ユーザに対して責任を負いません。 3. 本ソフトウェアが使用される環境におけるサーバ、コンピュータ、ネットワーク、カメラ又はサービス提供者が提供していないOS若しくはソフトウェア等の問題により、ユーザの利用目的が満たされなかったとしても、サービス提供者は責任を負いません。また、サービス提供者は、本ソフトウェアがユーザの利用目的に適合することの保証は行いません。 4. サービス提供者は、天災、感染症の罹患又は流行その他不可抗力の原因によるとき又は従業員の争議行為に起因するときは、本契約の不履行又は遅延については責任を負いません。 |
よく見かける、サービス提供者にとって有利な内容となっています。具体的には、
・1項はサービス提供者が責任を負う場面を故意重過失に制限する条項
・2項はサービス提供者が負担する損害賠償の範囲を制限する条項
・3項はサービス提供者の支配下にない事由によって生じた損害賠償責任を負わない旨定めた条項
・4項は不可抗力による免責条項
を定めたものとなります。
なお、ユーザに消費者が含まれる場合、第1項については軽過失であっても全部免責されるという内容が消費者契約法により無効となることに注意が必要です。そこで、上記条項例とは異なり、軽過失の場合は、一定の損害賠償額に限定される(例えば月額使用料の数か月分を上限とする等)という内容を最初から盛り込んでおくことも一案と思われます。
(13)知的財産権の侵害クレーム対応について定めた条項
第×条(知的財産権)
ユーザによる本ソフトウェアの使用に関して、第三者がユーザ又は再使用者に対して、著作権、特許権その他の権利を侵害する旨の主張をしてきた場合、ユーザはサービス提供者に対し直ちにその内容を通知し、その対応についてユーザとサービス提供者にて協議を行うものとします。 |
上記(3)ではソフトウェアに関する権利関係の帰属を定めていますが、ここでは第三者より知的財産権侵害の指摘を受けた場合の処理について定めています。
上記条項例では単に協議するとだけにとどめていますが、サービス提供者のスタンスによって様々な定め方が考えられます。
例えば、サービス提供者が、サービス提供者が開発したソフトウェア自体について知的財産権侵害がないことを保証する場合、
・第三者から知的財産権の侵害クレームがあった場合、サービス提供者の責任と負担で対処すること
・ユーザは第三者より知的財産権の侵害クレームを受けた場合、直ちにサービス提供者に報告を行うこと
・サービス提供者が対処するにあたり、ユーザは合理的な範囲で協力すること
・知的財産権侵害を免れることができない場合、サービス提供者において必要な措置を講じることで、ユーザはそれ以上の責任追及をすることができないこと
を定めることが多いと考えられます。
なお、そもそも論として、知的財産権の侵害がないことを保証する場合の条件として、ユーザが開発(カスタマイズ)していないこと、ユーザが他のソフトウェア等と組み合わせて使用していないこと等の条件を明示することもポイントになります。
ところで、上記条項は、第三者が知的財産権侵害を申立ててきた場合を想定しており、第三者がソフトウェアに係る知的財産権を侵害していることを知った場合の処置については定めていません。
必要に応じて、ユーザによる報告義務及び協力義務を課す、サービス提供者の責任と負担で対処する等の定めを置くことを検討する必要があります。
(14)使用環境についてユーザによる自己管理を定めた条項
第×条(設備等の準備、維持等)
1. ユーザは、本ソフトウェアの使用にあたり、必要となる通信機器、ソフトウェア、その他これらに付随する全ての機器の準備及び回線利用契約の締結、インターネット接続サービスへの加入等について、自己の費用と責任において行うものとします。 2. サービス提供者は、ユーザが本ソフトウェアを使用するためのネットワーク通信を行うことができる動作環境にあることを何ら保証しません。 3. サービス提供者は、ユーザが用いた通信機器、ソフトウェア、その他これらに付随して必要となる全ての機器、電気通信回線、インターネット接続サービスなどの不具合等によって、ユーザが本ソフトウェアを使用できなかった場合であっても、一切責任を負いません。 4. ユーザは、サービス提供者による本ソフトウェアの提供に支障をきたさないように、ユーザの通信機器等を正常に作動するよう維持する責任を負います。 5. ユーザが、サービス提供者の設備又は本ソフトウェアの不具合を発見したときは、サービス提供者にその旨通知し、当該不具合の修理又は復旧を求めるものとします。 |
ユーザがソフトウェアの稼働不良に関するクレームを申立てきた場合、よくよく話を聞いてみると、ソフトウェアそれ自体には不具合がなく、ユーザの使用環境に問題があるというパターンが多くあります。
そこで、責任区分を明確にするべく、上記のような条項例を定めておき、サービス提供者の支配下にない事由によるソフトウェアの稼働不良については、サービス提供者において対処する必要がなくかつ責任を負わないとすることが有用と考えられます。
(15)ソフトウェアが停止等した場合の処理について定めた条項
第12条(本ソフトウェアの停止等)
1. サービス提供者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、ユーザに事前に通知することなく、本ソフトウェアの全部若しくは一部の提供を停止又は中断することができます。 ①本ソフトウェアの提供に使用されるハードウェア、ソフトウェア、通信機器設備その他一切の資源について、緊急に点検又は保守・更新作業を行う場合 ②コンピューターシステム、通信回線又はクラウドサービス等が事故その他の障害により停止した場合 ③第三者からの不正アクセスを受けた場合等、サービス提供者が、本ソフトウェアを停止又は中断する合理的理由が認められると判断した場合 ④地震、落雷、火災、風水害、停電、感染症の罹患若しくは流行、天災地変、戦争、紛争、動乱、暴動、労働争議などの不可抗力若しくは非常事態が発生し、又は発生するおそれがある場合 ⑤電気通信事業者が電気通信役務の提供を停止した場合 ⑥その他、サービス提供者が合理的な理由に基づき停止又は中断を必要と判断した場合 (以下省略) 2. サービス提供者は、本条に基づきサービス提供者が行った停止又は中断の措置に基づきユーザに損害が生じた場合、一切の責任を負いません。 |
保守実施やメンテナンス、障害対応でソフトウェアの稼働が一時的に停止する場合があることを明記した条項となります。
クラウド型の場合、計画的か偶発的かを問わず、サーバ停止となる事態を回避することができません。このため、ソフトウェアの使用ができないことによる損害賠償責任についても免責されることも定めています。
ただ、常に免責されると考えてよいかは別途検討が必要です。この点を考慮して、故意重過失の場合は免責されないと定める、一定の条件(使用不可時間が一定時間を超えた場合など)を満たした場合は一定の損害賠償を行い、この処置をもって免責されることを定めるといったことも考えられます。
(16)契約終了後の措置について定めた条項
第×条
1. サービス提供者は、本契約が終了した場合、ソフトウェア内に格納された一切のデータを消去します。 2. サービス提供者は、ソフトウェア内に格納された一切のデータが消去されたことによりユーザが被った損害につき、何らの責任を負いません。 3. ユーザは、サービス提供者に対し、ソフトウェア内に格納された一切のデータを引渡すよう要求することはできません。 |
サービス提供者の立場としては、余計なデータを保有し続けることはリスクというほかありませんので、速やかに消去・削除したいところです。そこで、第1項では、サービス提供者によるデータ削除権を定めています。
そして、第2項で、サービス提供者がデータ消去・削除を行っても一切責任を負わないことを定めることで、データ削除に伴うトラブルを回避しています。
また、第3項では、ユーザがサービス提供者に対し、データの抽出や第三者サービスへの引継ぎ等を要求する権利がないことを定めることで、サービス提供者は契約終了後の措置を画一的に処理できるようにしています。もっとも、データの抽出又は引継ぎサービスを実施することも当然可能ですので、当該サービスを実施する場合は、サービス実施条件を定めておく必要があります。
2.当事務所でサポートできること
当事務所は、ソフトウェア開発事業者を含む複数のベンダー様の顧問弁護士として活動しており、ソフトウェア使用許諾(ラインセンス)契約書の作成及びリーガルチェックは日常的に取り扱っています。また、契約関係に伴うトラブル案件への対応実績も複数有しています。なお、本記事はクラウド型(SaaS、ASP)を念頭に置きましたが、パッケージ型やダウンロード型のソフトウェア使用許諾(ライセンス)契約書の作成及びリーガルチェック等も多数の取扱い実績があります。
したがって、相当程度のノウハウと知見を有していると自負しており、ご依頼者様には当該ノウハウと知見を用いた有意的なアドバイスや契約書の作成、その他ご提案を行うことができると考えています。
ソフトウェア使用許諾(ライセンス)契約についてご相談がある場合、是非当事務所をご利用ください。
<2023年5月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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