ECサイトの利用規約を作成する際の注意点とは
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【ご相談内容】
当社は、事業者向けに商品を販売していたのですが、販路拡大を兼ねて消費者向けのインターネット通販を行うことを計画しています。
ECサイトの構築は終了しましたので、あとは利用規約を作成するだけとなっているのですが、具体的に何を定めればよいのでしょうか。
定めるべき内容について教えてください。
【回答】
EC事業は、直接顔を合わせて商売するわけではないため、人的信頼関係のない取引となります。このため、事前にどこまで取引ルールを説明していたのかが重要となり、この取引ルールを規律したのが利用規約といえます。
ECサイト用の利用規約はある程度定めるべき内容が決まっていますので、以下では自社EC用の利用規約を中心に定めておいたほうが良い事項を解説します。なお、モール型ECについても、基本的には自社EC用の利用規約をベースにして作成することになりますが、三当事者間の取引を考慮した特有の条項が存在します。モール型ECについては、その特有の条項に絞って解説を行います。
【解説】
1.ECサイトにおける利用規約の意義
(1)利用規約の必要性
世の中には様々なECサイトが存在しますが、ボリュームの差はあれ、何らかの利用規約が定められていることが通常です。
では、利用規約を定める意義はどこにあるのでしょうか。
模範的な回答をするのであれば、「運営者とユーザとの権利義務を明確化するため」となります。ただ、抽象的に権利義務といわれても、やや理解しづらいかもしれません。
そこで、利用規約を定めることで、ECサイト運営者にどのようなメリットが生じるのかをイメージすれば分かりやすいかもしれません。この点、代表的なメリットを2つ挙げておきます。
1つ目は、ECサイト運営者がユーザより何らかの攻撃を受けた場合、利用規約が防波堤の役割を果たしてくれるということです。典型的には、ユーザがECサイト運営者のミスを原因として損害賠償請求を行ってきた場合に、損害賠償責任制限条項を利用規約に定めておくことで、ECサイト運営者の負担額が一定範囲に抑えられる場面が出てきます。
2つ目は、ECサイト運営者がユーザに対して何らかの対策を講じたい場合、利用規約が拠り所になるということです。典型的には、迷惑行為を行う特定のユーザに対し、ECサイト利用を強制的に拒絶することが可能となる場面が出てきます。
利用規約は、ECサイト運営者がECサイトを安全かつ快適に運営を行うための必須ツールと考えておけば間違いありません。
(2)注意点
上記(1)で記載した通り、ECサイト運営者は、利用規約を定めておくことで安全かつ快適なECサイト運営を実現することができるのですが、利用規約の内容について、ECサイト運営者の一方的な都合のみ定めることは考え物です。
なぜなら、ECサイトの利用規約は、民法の定型約款(民法第548条の2)に該当すると考えられるところ、民法では、いわゆる不当条項と呼ばれるものや不意打ち条項と呼ばれるものに該当した場合、ユーザとの間で合意は成立しなかったものとして取り扱うと規定しているからです。
なお、定型約款に関する法規制の詳細については、次の記事をご参照ください。
民法改正に伴う約款(利用規約、会員規則など)の見直しポイントについて、弁護士が解説!
次に、ECサイトのユーザに消費者が含まれる場合、利用規約を定めるにあたっては消費者契約法を意識する必要があります。例えば、ECサイト運営者がユーザに対して違約金支払い義務を課す場合、消費者契約法が定める限界を超えた部分は無効となること(消費者契約法第9条)、逆にECサイト運営者がユーザに対して負担する損害賠償責任について、一切責任を負わないと定めても無効となること(消費者契約法第8条)等が規定されています。
なお、消費者契約法の詳細については、次の記事をご参照ください。
消費者と契約書を取り交わす際に気を付けたい条項内容について、弁護士が解説!
2.自社EC用の利用規約を作成する上でのポイント
「自社EC」という名称ですが、本記事では、ECサイト運営者自らがECサイトを構築及び運営し、自社商品・サービスを販売・提供している形態のことを意味します。要は自社ホームページにある通販サイトとイメージしてください。
さて、世の中には様々な自社EC用の利用規約が公開されていますが、執筆者なりに共通事由を抽出し整理しました。以下では簡単にポイントを記述します。
(1)会員資格に関する事項
・会員(ユーザ)登録
ECを利用するに先立ち、会員(ユーザ)登録させることが一般的かと思います。
会員(ユーザ)登録させる目的はマーケティングのためなど色々考えられるところですが、利用規約の作成という場面で考える場合、会員(ユーザ)登録を拒絶する事由を明記することがポイントです。
なぜなら、ECサイトを利用させるに値するユーザなのか選択権を有することで、ECサイト運営者において円滑なECサイト運営ができるようになるからです。
・未成年者対応
未成年者と取引する場合、法定代理人の同意を得ないことには、たとえECサイト運営者に責任が無くても、後で一方的に契約を取り消されるリスク(民法第5条)を抱えることになります。
したがって、できれば未成年者はECサイト利用不可と利用規約に定めておきたいところなのですが、例えばオンラインゲームの場合、主たるユーザが未成年者という場合もあり得るところです。この場合、未成年者対策をどこまで利用規約に定めておくべきかがポイントとなります。
・ID、パスワード
会員(ユーザ)登録が認められた場合、個々のユーザにIDとパスワードが発行され、ユーザはこれらを用いてログインし、ECサイトを利用することになります。この結果、ECサイト運営者は、IDとパスワードを通じて個々のユーザと紐づけて管理することになるのですが、場合によっては第三者がIDとパスワードを悪用し、なりすましてECサイトを利用してくる可能性があります。
この場合、本来のユーザとトラブルになりますので、ユーザに対し、
①IDとパスワードの管理を厳格に行うこと(第三者に開示しないこと)
②IDとパスワードが漏洩したと認識した場合は直ちにECサイト運営者に報告を行うこと
③漏洩につきECサイト運営者に責任が無い限り、IDとパスワードを利用したECサイトの利用は本人による利用とみなすこと
を定めておくことがポイントとなります。
・登録情報の変更
ECサイト運営者がユーザに対して連絡を取りたい場合、登録情報に記載された連絡先へ連絡することになります。このため、登録情報に変更が生じているにもかかわらず、情報の更新が行われていない場合、ECサイト運営者は連絡を取りようがなく、困った事態に陥ってしまいます。
このような事態を防止することを目的として、登録情報に変更があった場合は直ちに変更する旨定めておくことがポイントとなります。
なお、変更しなかったことによりユーザに不利益が生じた場合、ユーザの自己責任であること(サイト運営者は責任を負わないこと)を明記することも一案です。
・会員資格抹消
この「会員資格抹消」には
①ユーザが希望して抹消する場合
②ECサイト運営者が強制的に抹消する場合
の2つの内容が含まれます。
まず、①のユーザ希望による抹消の場合ですが、ECサイト運営者が予め定めた手順に従ってユーザの手で抹消手続きを進めることを定めておくことがポイントです。なぜなら、抹消手続きについてルール化しない場合、様々な手段でユーザより抹消に関する問い合わせが来るようになり、ECサイト運営者の事務作業が煩雑になるからです。
次に、②のECサイト運営者による強制抹消ですが、利用規約を作成するのであれば必ず定めておきたい事項となります。なぜなら、ECサイト運営者にとって好ましくないユーザを排除できないことには、ECサイトの健全性を維持できず、円滑な運営に支障を来すことになるからです。どのような場合に強制抹消の対象となるのかにつき具体的かつ詳細に定めることがポイントとなります。
(2)取引実行に関する事項
・契約成立時期
ここでいう「契約」とは、会員契約ではなく、商品の売買やサービスの提供契約のことを指します。
さて、契約成立時期を定めておく目的ですが、ECサイト運営者において、どの時点までであれば契約不成立を主張できるのかという視点で重要となります。なぜなら、例えばECサイト上に価格を誤って表示していた場合や在庫切れを起こしていた場合であっても、原則的にはユーザが注文した時点で契約が成立すると考えられるため、ECサイト運営者はその誤った価格にて商品を売渡し、あるいは商品を無理やりにでも確保して売渡さなければなりません。しかし、利用規約において契約成立時期につき、ECサイト運営者が商品を発送した旨注文者に連絡をしたときと定めていた場合、発送前に価格誤表示に気が付いた場合や在庫が無いことに気が付いた場合、法的に契約不成立(注文を拒絶すること)と取扱うことが可能となります。
上記のように、ECサイト運営者にとって不都合な事態を回避する手段を確保するために、契約成立時期をどの時点に設定するのかがポイントとなります。
なお、契約成立時期を遅らせる場合、ユーザも注文を撤回できる時間が生じることを意味することには注意が必要です。
・申込拒絶事由
ECサイトの場合、基本的にはどのようなユーザからの注文にも応えるという運営方針を取っていますが、中にはECサイト運営者にとっては好ましくないユーザ(例えば転売ヤーなど)からの注文があります。
この場合、一定の事由に該当する場合は注文を受け付けないことを明記することがポイントとなります。最近では転売ヤーと判明した場合や、転売ヤーの疑義が生じる場合(商品の大量購入等)を拒絶事由として明記することが多くなってきているようです。
・商品の引渡し
ECサイト上で商品売買取引が成立した場合、通常はECサイト運営者自らがユーザに対して商品の引渡しを行わず、配送業者を通じて商品の引渡しを行います。
この配送業者が何らかのミス等を起こした場合に、ECサイト運営者はどこまで責任を負うのかを定めておくことがポイントなります。特に近時では、配送業者の事情による配送遅延や置き配によるトラブル(商品未受領)が目立ってきていることから、ECサイト運営者が免責される事由及び責任範囲が限定される事由を明記することが重要となります。
・代金等の支払、決済
ECサイトを運営する主目的は、商品を売渡し又はサービスを提供することで、現金を得ることは否定できないかと思います。
したがって、如何にして代金をスムーズに支払ってもらうか(支払い方法についてECサイト運営者が指定した方法のみに限定する旨定める等)、代金未回収リスクを低減させる措置を講じるのか(代金前払いを定める等)等を明記することがポイントとなります。
なお、代金以外にどのような費用が発生するのか(送料や代引き手数料など)、いつの時点でどのような方法で支払うのか等についても、ユーザとのトラブル回避の観点から明記することがポイントとなります。
・所有権移転、危険負担
一般的にはユーザが現実に商品を受領した時点をもって所有権及び危険負担が移転すると定めることが多いと思われます。
もっとも、例えば高額商品であれば、代金支払い完了時まで所有権はECサイト運営者に留保する、あるいは著作物であれば、所有権は移転するが著作権はECサイト運営者に留保される、さらにはデジタルコンテンツであれば、そもそも所有権の移転が観念できない(著作権はECサイト運営者に留保される)、といった商品やサービスの特性に応じた配慮を定めておくことがポイントとなります。
・返品特約
ここでいう返品特約とは、ECサイト運営者に責任が無く、ユーザの一方的都合により商品の返品が認められるかという問題です。
特定商取引法では、通信販売についてクーリングオフが認められない代わりに、商品の引渡しを受けた日から起算して8日が経過するまでの間であれば、ユーザは無条件で契約を解約し返品することができる(ECサイト運営者は代金返還義務を負う)と規定されています。しかし、この無条件返品については、当事者間の合意により適用排除することが可能です。
したがって、無条件返品を受けたくないのであれば、ECサイト運営者は必ず無条件返品は認められない、又は無条件返品を認める場合であっても一定の条件がある(受付期間を短期にする、商品未開封の場合しか受け付けない、返品時の送料はユーザ負担など)ことを利用規約に定めることがポイントとなります。
なお、返品特約については、利用規約だけではなく、特定商取引法上に基づく表示として別途記載する必要があること、WEB上の申込画面で告知を行う必要があるといった、利用規約の作成だけには留まらない問題があることに注意が必要です。
・契約不適合責任
従前は瑕疵担保責任と呼ばれていたものですが、2020年4月1日の民法改正により契約不適合責任と改められました。中身としては、商品の種類、品質、数量が契約の内容に適合しない場合に売主が責任を負うというものとなります(民法第562条以下)。
利用規約に定めるに際しては、次の2つを押さえておきたいところです。
①商品の種類、数量は形式的に判断できるのに対し、品質についてはECサイト運営者が想定している品質とユーザが期待している品質とで認識のギャップが生まれやすく、トラブルが生じやすいところです。このトラブルを避けるためには、利用規約において、商品の品質につきどこまで保証できるのか(逆に保証できないことは何か)を定めておくことがポイントです(いわゆる品質保証条項の策定)。
②ユーザは契約不適合責任の追及方法として、代替品の引渡し、補修、損害賠償、代金減額、契約解除のいずれか1つ以上を選択することになりますが、当事者間で責任内容を限定することが可能とされています。そこで、万一サイト運営者が契約不適合責任の追及を受けた場合、責任を果たしやすい選択肢のみユーザは請求可能と定めておくことがポイントです(例えば、代替品の引渡しのみ追及可能とし、他の選択はできないとする等)。
・ECサイト運営者からの契約解除
ユーザに対してECサイト利用不可(ECサイト利用契約の解除)の処分を行うことは、前述の「会員資格抹消」で対応することになります。
ここでの契約解除とは、個別の商品売買契約、役務(サービス)提供契約の解除に関する事項です。ユーザに契約違反が無いことには解除することは難しいというのが原則論ではあるのですが、例えば、昨今生じている物不足の影響によりどうしても商品を仕入れることができない、パンデミックにより生産と物流が全て停止してしまい商品が入手できないといった場面が想定されるところです。
自然災害等の不可抗力免責条項だけでは対応しきれない個別具体的な事由を想定して、契約解除事由を利用規約に定めることがポイントとなります。なお、何でもかんでも定めればよいという訳ではなく、消費者の利益を一方的に害する条項は無効と規定する消費者契約法第10条への配慮が必要となります。
・定期購入・サブスクにおけるユーザからの解約権明記
定期購入・サブスクリプションについては近時問題視されている取引形態であり、2022年6月1日に施行された改正特定商取引法で大幅な規制が追加されています。
中途解約の可否、解約する場合の手順・方法、解約に伴う違約金の有無などにつき、利用規約でも分かりやすく明記することがポイントとなります。
なお、2022年6月1日施行の改正特定商取引法の内容については、次の記事をご参照ください。
ネット通販における最終確認画面の重要性について、弁護士が解説!
・(現金代替物としての)ポイント
ECサイト独自のポイントを付与するという営業戦略をとることが多いかと思いますが、資金決済法や景品表示法等の規制を考慮する必要がないかといった、そもそも論の検討が必要となります。
この点をクリアーした上で、ポイントの発生・付与条件、使用ルール、使用したことによる効果を利用規約に定めることになるのですが、特に重要なのはポイントが失効する場面を明確にする点です。例えば、ポイントに使用期限・有効期限があるのであればその旨、一定条件を満たした場合は自動的に失効する場合があるのであればその旨、失効した場合の清算ルールがあるのであればその旨、などを定めることが重要となります。
・商品レビュー、カスタマーレビュー
ECサイトによっては、ユーザが一定のコメントを投稿できる機能を実装している場合があります。
ただ、このコメントは、ユーザが何らかの不満を持った場合に不満のはけ口として投稿されるという実情があるため、ECサイト運営者にとって好ましくない投稿が多くなりがちという悩みがあります。
このため、ECサイト運営者としては、投稿内容をどこまで規制するのか、どのような場合にECサイト運営者の都合で削除できるのかにつき、具体的な事由を明記して定めておくことがポイントとなります。また、投稿内容がECサイト運営者以外の第三者に関わる事項である場合を想定し、当該第三者より投稿者を特定するための情報提供依頼があった場合の開示ルールを定めておくこともポイントとなります。
なお、ECサイト運営者にとって都合の良い投稿があった場合、ECサイトの広告宣伝のために利用可能であることを定めることも検討に値します。
(3)異常事態を想定したトラブル回避に関する事項
・知的財産権
ECサイトに掲載されている商品やサービスの説明文、画像、動画などはもちろん、ECサイトを構成するプログラムについて、ECサイト運営者又はECサイト運営者が指定する者に知的財産権が帰属する…といった内容を見たことがあるかと思います。
これについては、法律上当たり前のことですので、あえて明記する必要性は乏しいところがあるのですが、念のための注意喚起として定めておくことが多いようです。
ところで、知的財産権で問題となるのは、上記でもあげた商品レビューなどユーザがECサイト上に投稿したコンテンツです。ECサイト運営者が投稿コンテンツを宣伝広告目的等で利用したいと考えるのであれば、投稿コンテンツに係る著作権の帰属、ライセンス条件、ライセンス料などを利用規約に定めておくことがポイントとなります。
なお、こちらについては定めておかないことには、ユーザより無断使用を指摘された場合、ECサイト運営者が窮地に立たされることになりますので注意が必要です。
・禁止事項
ECサイトを円滑かつ健全に運営するために必須な条項となります。なぜなら、この条項を根拠にユーザに対して指示を行う、使用停止等の不利益処分を行う、会員登録の抹消を行うことになるからです。
ECサイト運営者にとって、このようなことをされては困るということを事細かに具体的に利用規約に定めることがポイントとなります。
なお、禁止事項として何を定めるべきかについては、次の記事をご参照ください。
・損害賠償責任の減免
ECサイト運営者がユーザに対し、何らかの理由で責任を負わなければならない場合において、できる限りその責任の範囲を限定する目的で定められる条項となります。
ただ、何でもかんでもECサイト運営者は責任を負わないと定めておけばよいというものではありません。民法第548条の2第2項(不当条項)、消費者契約法第8条(全部免責無効、故意重過失がある場合の一部免責無効など)を意識しながら、利用規約上に定めていくことがポイントとなります。
・違約金
ECサイト運営者にとって好ましくない行動をユーザがとらないようにするための事前抑止力と、好ましくない行動によりECサイト運営者が被った損害賠償請求を容易にする目的で、ユーザに一定額の金銭負担を求める条項が定められていることが多いようです。
これについては、民法第548条の2第2項(不当条項)、消費者契約法第9条(違約金の上限条項)、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項)を意識しながら、利用規約上に定めていくことがポイントとなります。
・反社会的勢力排除条項
反社会的勢力排除条項は一定の定型文がありますので、条項内容それ自体は特に頭を使う必要はないかと思います。
内容としては
①反社会的勢力に該当するのみで、取引を解消できること(個別の売買・役務提供契約のみならず、会員登録抹消迄)
②ECサイト運営者(解除した者)はユーザ(解除された者)に対して損害賠償責任を負わないこと
という効果論を定めておくことがポイントとなります。
・サービスの一時停止、中断、終了
ここでいう一時停止、中断、終了は、ユーザに対する制裁処分ではなく、何らかの事情でECサイト運営者がECサイト上で展開するサービスを一時停止等する場合のことを意味します。
ユーザに責任のある事情ではないものの、ECサイト運営者としてもコントロールのしようがない事由(保守点検や通信障害など)を、一時停止事由又は中断事由で定めておくことがポイントとなります。
また、ECサイトの運営が想定通りに進まないといった、ECサイト運営者がビジネスからの撤退を容易にできるようにするために終了事由を定めておくこともポイントとなります。
・契約上の地位譲渡等
ECサイトの利用規約の場合、①ユーザは例外なく契約上の地位の譲渡が禁止される(ECサイトの利用契約に基づいて発生した債権の譲渡も禁止される)のに対し、②ECサイト運営者はECサイト事業を売却する等して契約上の地位譲渡を自由に行うことができる、と片務的に定めておくことがポイントとなります。
・規約の変更
多くの利用規約では、ECサイト運営者の裁量により、時期を問わず利用規約を変更することが可能と定めているようです。
しかし、ECサイトの利用規約は、定型約款(民法第548条の2)に該当すると考えられるところ、定型約款を変更する場合は民法第548条の4に規定するルールに従う必要があります。
したがって、ECサイト運営者が一方的に利用規約を変更することが可能と定めても法的には意味がありませんので、民法第548条の4を意識しながら変更ルールを定めるのがポイントとなります。
・合意管轄
ECサイト運営者にとって利用しやすい裁判所(通常は最寄りの裁判所)を定めるのがポイントとなります。
なお、利用規約を作成するに当たり、同業他社の利用規約を参照(コピペ)した場合、裁判所がなぜか遠方になっている場合がありますので(気が付かずに修正していない)、注意が必要です。
・サルベージ条項
サルベージ条項とは、ある条項が強行法規に反し全部無効となる場合に、その条項の効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する趣旨の契約条項のことをいいます。
例えば、「ECサイト運営者がユーザに対して負担する損害賠償額は、如何なる事由があっても1,000円を限度とします。但し、法令に反する場合はこの限りであはりません。」といった条項がサルベージ条項に該当するのですが、2023年6月1日に施行される消費者契約法により、このような条項は無効扱いとされます。
上記条項は、消費者契約法第8条に違反することが明確ではないという点に問題がありますので、今後は「ECサイト運営者がユーザに対して負担する損害賠償額は、如何なる事由があっても1,000円を限度とします。但し、ECサイト運営者に故意又は重過失がある場合はこの限りであはりません。」と定めるのがポイントとなります。
3.モール型EC用の利用規約を作成する上でのポイント
「モール型EC」とは、事業者が、第三者が運営するプラットフォーム上に出店・出品し、プラットフォームを通じて商品売買やサービス提供を行うECのことを言います。Amazon、ヤフーショッピング、楽天などがプラットフォーム、そこに出店・出品している者が事業者という位置づけです。
モール型ECに用いる利用規約を作成する場合、基本的な構造は上記2.で記述した、自社EC用の利用規約を参照することになります。ただ、モール型ECは三当事者間の契約関係となるため、①プラットフォーマーと出店・出品者との利用規約、②プラットフォーマーとユーザとの利用規約の2種類を作成する必要があります。また、当事者が増える分、権利義務関係が複雑化しますので、その点を意識しながら利用規約を作成していくことがポイントとなります。
以下では、モール型ECの利用規約において、特に考慮が必要となる条項について解説します。
(1)出店・出品料などを含む出店・出品者が負担する費用を明確にすること
当たり前すぎるのですが、トラブルが多いのがお金にまつわる事項です。
具体的な金額以外にも、その費目(対価名目)、対価内容(支払うことで提供される内容)、支払時期、支払方法、契約終了時の返金の有無等につき、1つ1つ細かく丁寧に定めることがポイントとなります。
(2)出店・出品基準を設けること
プラットフォーム事業者は、プラットフォームの活性化を図るため、出店・出品者に様々な商品やサービスを提供してもらいたいというスタンスを取りつつも、一方で、禁制品(例えば医療機器や医薬品、武器、アダルトグッズなど)を出品されては困る(プラットフォームにキズが付く)と考えています。
そこで、モール型ECの利用規約では、モール内で取扱い可能な商品・サービスに関する審査基準を明記し、この審査基準に違反した場合、プラットフォーム事業者において一方的に取扱い不可処分ができるように定めておくことがポイントとなります。
なお、現時点では多くのプラットフォーム事業者に適用はありませんが、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」という法律が存在するところ、同法では、審査基準を開示すること及び中止した場合は理由を開示することが規定されています。同法の適用範囲が今後どこまで拡大するのかは分かりませんが、将来的には全てのプラットフォーム事業者に適用される可能性があるため、今からでも具体的な審査基準の整備と理由開示の在り方について、検討を進めておいたほうが良いかもしれません。
(3)モール内広告について注意喚起すること
モール型ECを運営するプラットフォーム事業者にとって、モール内広告は重要な収入源となっていますが、色々な落とし穴があります。ここでは、①出店・出品者との関係で利用規約に定めておくべき事項、②ユーザとの関係で利用規約に定めておくべき事項に分けて検討します。
まず、①出店・出品者との関係ですが、広告費用、広告期間、広告掲載方法、広告掲載による売上・利益の非保証等について利用規約に定めるのは当然のこととして、広告掲載を中止する条件(できる限り具体的な中止事由を列挙する)及びユーザよりプラットフォーム事業者宛に広告に関する苦情申出あった場合の調査協力義務を定めておくことがポイントとなります。
なお、苦情申出があった場合の調査協力義務ですが、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」を考慮した対応となります(ちなみに、広告ではなくモール内検索の場合、現時点では一部のプラットフォーム事業者のみしか適用はないものの、将来的な適用拡大に備えて「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」に基づき、検索結果の表示順位の決定に用いられる主要な事項を利用規約に明記することが想定されるところです)。
次に、②ユーザとの関係ですが、広告掲載につき、プラットフォーム事業者が売主となるわけではないこと、プラットフォーム事業者が広告主(出店・出品者)の推奨を行うわけではないこと、一定の広告審査を行っているが、商品・サービスの適法性・妥当性・有用性等につき保証できないことを利用規約に定めておくことがポイントとなります。
景品表示法対策及び名板貸責任対策を兼ねることになりますが、プラットフォーム事業者が売主ではないこと、及び売主と誤解されないようにすることが重要となります。
(4)出店・出品者とユーザとのトラブルへの介入基準を考慮すること
モール型ECの場合、取引形態としては出店・出品者とユーザとの間で直接売買契約又は役務提供契約が成立しており、プラットフォーム事業者は契約当事者とならないことが前提とされています。
したがって、例えば、商品に不具合があったこと、役務(サービス)に問題があったこと、キャンセルが発生したとしても、出店・出品者とユーザとの間で直接対処するべき事項であって、プラットフォーム事業者は何ら関知しないことを、利用規約で定めておくことが一応のポイントとなります。
ただ、上記のような利用規約の定めがあったとしても、一定の場合にはプラットフォーム事業者が契約当事者ではないといっても責任を負う場面があるという解釈論が優勢になっています。また、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」では、プラットフォーム事業者に対し、出店・出品者の身元確認を行う努力義務が課せられると共に、ユーザ(消費者)から要請があった場合は出店・出品者情報を開示しなければならないと規定されています。
以上のことから、ユーザが出店・出品者と連絡が取れない場合は、身元確認情報を提供する限度で、プラットフォーム事業者は紛争に関与する必要があるという点で、一切関知しないという対応はできません。将来的にもっと厳しい規制が課される可能性が高いことを踏まえると、プラットフォーム事業者が紛争解決に積極的に関与する場面を想定し、準備を進めたほうが良いかもしれません。
(5)出店・出品者からの解約条件を整備すること
プラットフォームに出店・出品しても利益が上がらない場合、ビジネスですので出店・出品者はプラットフォームから離脱することになります。
ただ、この離脱条件が複雑である、離脱するには一定額の金銭負担が必要になる、競業避止義務が課せられることを原因としたトラブルや、そもそも中途解約が認められないことによるトラブルなどが多発しています。
プラットフォーム事業者としては、出店・出品者からの離脱はできる限り阻止したいと考えるかもしれませんが、意欲のない出店・出品者がプラットフォーム内にいても他の出店・出品者に悪影響を及ぼしますし、何よりユーザに活気のないプラットフォームと見限られてしまうリスクさえあります。この観点からすると、一定条件を充足すれば出店・出品者による中途解約が可能であることを定めておくことがポイントとなります。
なお、プラットフォーム事業者と出店・出品者との取引は事業者間取引であり、消費者契約法の適用が無いことを理由に、プラットフォーム事業者にかなり有利な解約条件を定めがちです。しかし、2020年4月1日より施行されている民法第548条の2第2項に定める不当条項に該当すると判断された場合、そもそも利用規約に定めた内容にて合意していないという取扱いになります。この点を考慮しながら、中途解約条件を設定することが肝要です。
4.当事務所でサポートできること
色々と解説を行いましたが、この記事では書き切れていない事項があります。つまり、ECサイトの利用規約作成に当たっては、まだ他にもポイントとなる事項が多数存在するということです。
同業他社のECサイトを参照することの有用性は否定しませんが、丸パクリは考え物です。例えば、運営するECサイトの特性が考慮されていないため、いざ利用規約を活用しようとしても、使い勝手が悪いという問題が発生したりします。あるいは、運営するECサイトでは導入していないサービスを参照元の同業他社が実施していたため、当該サービスを期待していたユーザより大クレームを受け、対応に難儀するといった問題が起こったりもします。
ECビジネスを円滑に行いたいと考えるのであれば、利用規約の作成は見様見真似ではなく、必ず専門家に作成を依頼するべきです。当事務所では、様々なECサイトの利用規約を作成した実績がありますので、ECサイトの利用規約の作成、見直し、チェックに際しては、是非当事務所までお声掛けください。
<2023年2月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。