利用規約・約款に免責規定・免責条項を定める場合の注意点

【ご相談内容】

当社は、AIを用いた新たなWEBサービスの開発を進めています。ただ、AIが完全無欠とは言い難いため、色々とトラブルが発生することも想定されます。

そこで、できる限りのリスクヘッジを行うべく、利用規約内に免責規定・免責条項を定めようと考えています。

免責規定・免責条項に対する法的規制の有無、内容等について教えてください。

 

【回答】

どのような顧客属性を想定してWEBサービスを展開しようとしているのかにより、法的規制の有無や内容が変わってきます。

すなわち、事業者のみを顧客として想定し、かつ事業者でなければ利用不可という体制を構築したWEBサービスの場合、サービス提供事業者と顧客とが合意さえすれば、内容如何に関わらず免責規定・免責条項は原則有効となります。ただし、2020年4月1日より施行された改正民法の定型約款ルール(民法第548条の2第2項)を意識する必要があります。

一方、消費者をターゲットにしている場合はもちろん、事実上消費者も利用可能な事業者向けWEBサービスの場合、消費者取引に該当することから、消費者契約法第8条への対策が必須となります。

以下の【解説】では、法律の解説だけではなく、いくつかの裁判例を取り上げて裁判所はどういった視点で判断しているのかを指摘すると共に、具体的な条項例を参照しつつ、有効or無効の判断と検討するべきポイントに触れていきます。

本記事をご参照いただくことで、法的有効性を担保しやすい免責規定・免責条項を作成することが可能になるかと思います。

 

【解説】

1.免責規定・免責条項の必要性

例えば、個人情報が漏洩した場合、一顧客当たりの損害は比較的低額に収まったとしても、多数の顧客に被害が及んでいる場合、事業者が負担する損害賠償の総計は多額となります。特に、不特定多数の顧客に対して商品販売や役務提供を行うWEBサービスの場合、事業者の損害賠償総額は莫大なものとなり、事業継続さえ危うくなることもあり得ます。

したがって、商品販売事業者や役務提供事業者としては、利用規約等に自らの損害賠償責任を免除又は軽減する条項(いわゆる免責規定・免責条項)を定めることが必須となります。

 

ところで、免責規定・免責条項を一方的に定めても、法的に問題にならないのかという疑問が生じるかもしれません。しかし、現在の裁判所の判断傾向からすると、免責規定・免責条項を設けることそれ自体は原則有効と言い切ってよい状況です。

したがって、免責規定・免責条項を定めることは、法的にはもちろん社会的にも許容されているといえます。

 

現場実務で問題となりうるのは、免責規定・免責条項の内容、すなわち極端に一方的な内容となっていないかという点です。

当然のことながら、免責規定・免責条項は商品販売事業者や役務提供事業者にとって有利であり、顧客にとっては不利となるので、一方に偏った内容とならざるを得ないのですが、物事には“限度”というものがあります。

免責規定・免責条項を検討する上では、この“限度”のラインを知ることが極めて重要となります。

 

2.免責規定・免責条項作成の上で知っておきたい法律

上記1.で記載した通り、免責規定・免責条項を定めることは原則有効とはいえ、一定の“限度”があります。この限度を示す法律として、次の2つの法律を押さえておくことが重要となります。

 

(1)消費者契約法

消費者契約法は、顧客が消費者である場合、強制的に適用される法律です。

顧客との間で消費者契約法の適用を排除する旨の合意を行ったとしても、そのような合意は無効となります。

 

【消費者契約法第8条】

1 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

①事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

②事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

③消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

④消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

(第2項以下省略)

 

法文が長いので、一読しただけでは分からないかもしれません。非常に単純化するのであれば、次のようにまとめることができます。

・契約違反(債務不履行)・不法行為を問わず、軽過失が存在する場合、全部の損害賠償責任を免責する条項を定めても無効となること

・契約違反(債務不履行)・不法行為を問わず、故意・重過失が存在する場合、一部でも損害賠償責任を免責する条項を定めても無効となること(要は、故意重過失の場合、全部免責はもちろん、一部免責でも無効であること)

・上記2点の反対解釈として、契約違反(債務不履行)・不法行為を問わず、軽過失の場合であれば、一部のみ損害賠償責任を免責する条項であれば有効であること

・損害賠償責任があるのか、どの範囲で損害賠償責任があるのか等の判断権限を事業者に委ねる旨の条項を定めても無効であること

 

(2)民法(定型約款)

WEBサービスなど不特定多数の顧客を対象に展開する場合、利用規約・約款などを定めることが一般的です。この利用規約・約款を用いて取引を行う場合、よほどのことがない限り、民法に定める定型約款ルールの適用がされます。

なお、この定型約款ルールは、顧客が消費者である場合はもちろん、事業者である場合も適用されます。

 

【民法第548条の2】

(第1項省略)

2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

 

定型約款ルールが施行されたのが2020年4月からであることから、具体例が乏しく、どのような場合に民法第548条の2第2項違反となるか、本記事執筆時点(2023年10月)では判断するのが難しいというが実情です。

この点、執筆者の個人的見解となりますが、

・故意重過失がある場合に、全部の損害賠償責任を免除する条項については、民法第548条の2第2項違反となる可能性が極めて高い

・軽過失に留まる場合であっても、全部の損害賠償責任を免除する条項については、民法第548条の2第2項違反となる可能性が十分あり得る

・故意重過失がある場合に、一部の損害賠償責任を免除する条項については、民法第548条の2第2項違反となる可能性が高い

・軽過失に留まり、かつ一部の損害賠償責任を免除する条項については、民法第548条の2第2項違反となる可能性は低い

と整理できるのではないかと考えます。

 

3.免責規定・免責条項が争われた裁判例

利用規約・約款等に定められた免責規定・免責条項の法的有効性について争いとなった裁判例はいくつか存在しますが、ここでは比較的有名な3つの裁判例を取り上げます。

 

(1)条項の体裁上、軽過失が全部免責と解釈されるのか争われた裁判例

消費者契約法の適用がある取引において、要旨「利用者に損害が発生した場合であっても、サービス提供事業者の故意又は重過失がある場合を除き、サービス提供事業者は責任を負わない。」と定める利用規約があったことを前提に、裁判所は次のように判断しています。

 

【東京高等裁判所平成29年1月18日判決】

(サービス提供事業者)は、上記各条項につき、(サービス提供事業者)の故意又は重過失の場合を免責対象から除いているとして、消費者契約法8条1項3号にいう「責任の全部を免除する条項」に当たらない旨主張するが、この主張が失当であることは、同項4号との対比から明らかである。

上記各条項は、(サービス提供事業者)の軽過失による不法行為責任を全部免除しているものであり、同項3号に当たる。

 

上記のような免責規定・免責条項の場合、①故意重過失の場合は損害賠償責任を負うことのみ定めた条項であるという解釈も可能ですが、②軽過失の場合は責任を負わないことを定めた条項であると反対解釈することが可能です。

この点について、裁判所は②の解釈を採用したということになります。

免責規定・免責条項について、故意重過失は例外であるという点に意識が行き過ぎて、軽過失の場合はどうなるのかを失念している条項例を数多く見かけます。利用規約・約款等にこのような条項例を定めていないか、今すぐチェックして欲しいところです。

 

(2)人身損害に対する一部免責規定・免責条項の有効性が争われた裁判例

消費者契約法の適用がある取引において、要旨「サービス提供事業者の故意又は重過失がある場合を除き、サービス提供事業者が負担する損害賠償の範囲は治療費等の直接損害に限られる。」と定める利用規約があったことを前提に、裁判所は次のように判断しています。

(※なお、実際の裁判所の判断は、利用規約に基づく契約が成立していないとしていますので、次に引用する裁判例はあくまでも傍論となります)

 

【札幌高等裁判所平成28年5月20日】

本件免責条項…は…損害賠償の範囲について、(サービス提供事業者)の故意又は重過失に起因する損害以外は治療費等の直接損害に限定しているが、(サービス提供事業者)が、試合中にファウルボールが観客に衝突する事故の発生頻度や傷害の程度等に関する情報を保有し得る立場にあり、ある程度の幅をもって賠償額を予測することは困難ではなく、損害保険又は傷害保険を利用することによる対応も考えられることからすれば、このような対応がないまま上記の条項が本件事故についてまで適用されるとすることは、消費者契約法10条により無効である疑いがあ(る)。

 

上記の免責規定・免責条項は、故意重過失の場合は法律上の損害賠償責任を負う、軽過失の場合は一部免責される旨定めているにすぎず、形式上は消費者契約法第8条には違反していません。

しかし、消費者契約法第10条では、「…(省略)その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と規定されているところ、軽過失の場合に治療費等の直接損害に限定する免責規定・免責条項は、この消費者契約法第10条により無効となる可能性があると裁判所は指摘しました。

いわゆる人身損害の場合、怪我の程度等によっては重い後遺障害が残ってしまう可能性があるところ、上記のような免責規定・免責条項では、この後遺障害分まではカバーされず不当であるという価値判断が働いたものと推測されます。

この裁判例を踏まえると、生命・身体に危害を及ぼす可能性のある商品の販売やサービスの提供を行う場合、軽過失による損害賠償責任につき妥当な免責範囲はどこまでなのか、慎重に判断する必要があると考えられます。

 

(3)故意重過失がある場合も一部免責規定・免責条項が有効なのか争われた裁判例

消費者契約法の適用が無い(=事業者間取引)において、要旨「サービス提供事業者の故意又は過失により利用者が損害を被った場合、サービス提供事業者は個別契約に定める契約の金額の範囲内において損害賠償を支払う」と定める利用規約があったことを前提に、裁判所は次のように判断しています。

なお、この裁判例は、民法の定型約款ルールが施行される前の事件であることにご注意ください。

 

【東京地方裁判所平成26年1月23日判決】

(サービス提供事業者)が、権利・法益侵害の結果について故意を有する場合や重過失がある場合(その結果についての予見が可能かつ容易であり、その結果の回避も可能かつ容易であるといった故意に準ずる場合)にまで(一部免責条項)によって(サービス提供事業者)の損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは、著しく衡平を害するものであって、当事者の通常の意思に合致しないというべきである…(省略)。

したがって、(一部免責条項)は、(サービス提供事業者)に故意又は重過失がある場合には適用されないと解するのが相当である。

 

上記2つの裁判例と異なり、本事例は事業者間取引に限定されるものとなりますが、裁判所は

・サービス提供事業者の主観(故意、重過失、軽過失)を区分しない一部免責条項であっても、条項それ自体は有効である

・しかし、サービス提供事業者の故意重過失によって生じた損害についてまで、一部免責条項を適用するのは不当である(当事者間で適用する合意が無い)

と判断したことがポイントになります。

おそらくは、この裁判所の考え方は、現行民法の定型約款ルールである民法第548条の2第2項に受け継がれると思われますので、押さえておきたいところです。

4.具体的な条項例の検討

上記2.で記載した法律及び3.で記載した裁判例などを考慮しつつ、具体的な条項例の有効性について、以下検討します。

なお、適用される法令等の相違を踏まえ、BtoC取引(消費者を対象とする取引)とBtoB取引(事業者間での取引)とで分けて検討します。

 

(1)全部免責規定・全部免責条項

(例)

・当社は、天災地変等の当社の責に帰すべき事由によらない損害については賠償責任を負わない。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

いわゆる不可抗力により発生した損害の場合、サービス提供事業者に故意・重過失はもちろん、軽過失もありません。

したがって、消費者契約法第8条の適用はなく、民法上も損害賠償責任を負わないことから、上記条項は有効となります。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

サービス提供事業者に帰責性が無い場合、損害賠償責任を負わないことは当然である以上、上記条項は有効となります。

 

(例)

・いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わない。

・当社の責めに帰すべき事由があっても一切損害賠償責任を負わない。

・当社に故意又は過失があっても一切損害賠償責任を負わない。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

消費者契約法第8条第1項第1号又は同第3号に違反する内容となります。

したがって、上記条項は無効となります。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

サービス提供事業者に帰責性があるにもかかわらず、一切の損害賠償責任を負わないと定めることは、民法第548条の2第2項に定める「第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害する」ものに該当する可能性が極めて高いと考えられます。

したがって、上記条項は無効と考えた方が無難です。

なお、例えば、無料版の利用や試供品の提供などのように、①顧客が対価を支払わず、サービス提供事業者も直接的な金銭的利益を享受しない場合であって、かつ②無料版や試供品であることを顧客に説明している事例に限定されるのであれば、上記条項が有効となる場面もありうるかもしれません。

 

(例)

・当社は、商品の品質等に不適合があっても、一切損害賠償、交換、修理を行わない。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

損害賠償責任を一切負わないと定める以上、上記条項は当然に無効となります。

なお、消費者契約法第8条第2項では、契約不適合責任の場合において、損害賠償責任を一切負担しない代わりに修理や代金減額に応じる場合であれば、損害賠償責任を負わない旨定めても有効と定められています。ただ、上記条項は、「交換、修理を行わない」と定めている以上、消費者契約法第8条第2項の適用も無いことになります。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

民法に定める契約不適合責任の規定は、任意規定とされています。このため、特約により契約不適合責任の内容を修正し、あるいは一切責任を負わない旨定めることも有効と考えられています。

したがって、上記条項は原則有効と考えられます。

ただ、上記3.(3)の裁判例を考慮すると、サービス提供事業者に故意重過失が認められる場合にまで適用があるのか疑義が残ります。民法第548条の2第2項により当事者間の合意が無い又は公序良俗違反により無効(民法第90条)と取り扱われるリスクは念頭に置いた方が良いと考えます。

 

(例)

・利用者に損害が生じた場合、当社は、商品代金額を上限として損害賠償責任を負う。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

サービス提供事業者の故意重過失に基づく損害賠償責任を一部でも免責する条項は無効となります(消費者契約法第1項第2号又は同第4号)。

したがって、上記条項は無効となります。

なお、軽過失による損害賠償責任の一部を免除する条項は有効であることから、軽過失の場合に限り、上記条項はなお有効という解釈が成り立つのではないかと考える方がいるかもしれません。しかし、2023年6月1日施行の改正消費者契約法で新たに第8条第3項が制定されたため、上記のような解釈論をとることはできません。この点、注意が必要です。

 

(参考)消費者契約法第8条第3項

事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

上記3.(3)で取り上げた裁判例を踏まえると、上記条項は原則有効と考えられます。

なお、サービス提供事業者に故意重過失があり、かつ賠償額が著しく低額であるといった事情がある場合であれば、民法第548条の2第2項により当事者間の合意が無い又は公序良俗違反により無効(民法第90条)になることも考えられますが、ケースバイケースの判断になると思われます。

 

(例)

・当社は一切損害賠償の責任を負わない。ただし、当社の調査により当社に過失があると認めた場合には、当社は一定の補償をする。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

損害賠償責任があるのか、どの範囲で損害賠償責任があるのか等の判断権限を事業者に委ねる旨の条項であるため、消費者契約法第8条第1項第1号又は同第3号に違反します。したがって、上記条項は無効となります。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

原則として有効になると考えられます。

なお、例えば、サービス提供事業者が極端に不合理な判断で責任なしという態度を取っているのであれば、権利濫用(民法第1条第3項)等で対処することになりますが、ケースバイケースの判断になると思われます。

 

(例)

・当社は、人的損害については責任を負うが、物的な損害については一切損害賠償責任を負わない。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

損害賠償責任の一部を免除する条項のように思われるかもしれません。

しかし、個々に発生する損害費目の内、物的損害につき一切免除する旨定められている以上、全部免責条項として取り扱われることになります。

したがって、消費者契約法第8条第1項第1号又は同第3号に違反し、上記条項は無効となります。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

原則的には有効な条項と考えられます。

ただ、例えば、高額な物的損害が発生する可能性があり、その点をサービス提供事業者において予見可能な場合であって、サービス提供事業者に故意重過失があるといった事例であれば、上記条項を適用することが権利濫用である(民法第1条第3項)といった判断はありうるかもしれません。

 

(2)一部免責規定・全部免責条項

(例)

・当社に故意又は重大な過失がある場合を除き、損害賠償責任は××円を限度とする。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

故意重過失の場合は一部免責の対象とはならないこと、一方で軽過失の場合は一部免責の対象となることを定めていることから、消費者契約法第8条第1項には違反しません。

したがって、上記条項は有効と考えられます。

なお、軽過失の場合に負担する損害賠償責任が極端に低額である場合、別途消費者契約法第10条違反の問題が出てきますが、ケースバイケースの判断となります。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

上記条項は有効と考えられます。

なお、例えば、軽過失の場合に負担する損害賠償責任が極端に低額である場合、定型約款ルール(民法第548条の2第2項)や信義則違反(民法第1条第2項)の問題が別途生じ得ますが、おそらくは適用範囲は相当絞られるものと思われます。

 

(例)

・いかなる理由があっても当社の損害賠償責任は××円を限度とする。

・当社は通常損害については責任を負うが、特別損害については責任を負わない。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

故意重過失がある場合にまで、損害賠償責任を一部免除することを定めているため、消費者契約法第8条第1項第2号又は同第4号に違反します。

したがって、上記条項は無効となります。

なお、軽過失の場合に限り、上記条項はなお有効という解釈論は、2023年6月1日施行の改正消費者契約法で新たに第8条第3項が制定されたことにより採用できないこと、注意が必要です。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

上記条項は有効と考えられます。

なお、例えば、上限として設定された金額が著しく低額である場合等の事情があれば、定型約款ルール(民法第548条の2第2項)や信義則違反(民法第1条第2項)として、検討の余地があります。

 

(例)

当社が損害賠償責任を負う場合、その額の上限は××円とする。ただし、当社に故意又は重過失があると当社が認めたときは、全額を賠償する。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

一見すると、故意重過失の場合は一部免責の対象とならず、有効性が認められるような体裁となっています。しかし、損害賠償責任があるのか、どの範囲で損害賠償責任があるのか等の判断権限を事業者に委ねる旨の条項であるため、消費者契約法第8条第1項第2号又は同第4号に違反します。

したがって、上記条項は無効となります。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

上記条項は有効と考えられます。

なお、例えば、サービス提供事業者が極端に不合理な判断で故意重過失なしという態度を取っているのであれば、権利濫用(民法第1条第3項)等で対処することになりますが、ケースバイケースの判断になると思われます。

 

(例)

当社が損害賠償責任を負う条件は以下のいずれかとする。

①当該商品引渡日より×日以内に不具合が判明し、当社宛に通知を行った場合

②当社が事故扱いと認めた場合

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

上記条項のうち第1号については、消費者契約法第8条第1項に違反するものではありません(なお、消費者契約法第10条違反の問題は別途検討の余地があります)。

一方、第2号については、損害賠償責任があるのか、どの範囲で損害賠償責任があるのか等の判断権限を事業者に委ねる旨の条項であるため、消費者契約法第8条第1項第2号又は同第4号に違反します。

したがって、結果的に上記条項は全て無効となります(第1号のみ有効ということにはなりません)。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

上記条項は有効と考えられます。

なお、例えば、第1号について極端に短期間に設定されている場合(十分な検査をすることが不可能な期間設定など)、第2号についてサービス提供事業者が極端に不合理な判断で責任を否定するという態度を取っているのであれば、権利濫用(民法第1条第3項)等で対処することになりますが、いずれもケースバイケースの判断になると思われます。

 

(3)事実上の免責効果が得られる条項

(例)

商品の品質等の不適合による損害賠償責任については、利用者が不適合を知ってから×日以内に当社に申し出た場合に限り負うものとする。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

損害賠償として負担する額を制限しているわけではないため、消費者契約法第8条第1項違反にはなりません。

したがって、上記条項は有効と考えられます。

もっとも、権利行使期間を制限していること、例えば、申出期間が極端に短期間になっている等の事情があれば、消費者契約法第10条違反の問題が生じ得ます。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

上記条項は有効と考えられます。

なお、第1号について、例えば、極端に短期間に設定されている場合(十分な検査をすることが不可能な期間設定など)、定型約款ルール(民法第548条の2第2項)や信義則違反(民法第1条第2項)として、検討の余地があります。

 

(例)

・消費者が当社に故意又は過失があることを証明した場合には損害賠償責任を負う。

 

【BtoC取引(消費者を対象とする取引)の場合】

上記条項は、損害賠償責任があるのか、どの範囲で損害賠償責任があるのか等の判断権限を事業者に委ねる旨の条項ではなく、単に立証責任を転換しただけに過ぎません。このため、消費者契約法第8条第1項違反の問題ではありません。

もっとも、不法行為に基づく損害賠償責任であればともかく、債務不履行(契約違反)に基づく損害賠償責任の場合、故意過失が無いことをサービス提供事業者が立証する必要があります。この点を考慮した場合、消費者契約法第10条違反の問題が生じる可能性があります。

 

【BtoB取引(事業者間での取引)の場合】

上記条項は有効と考えられます。

もっとも、例えば、製造物責任などの特別法により立証責任の転換が図られているにもかかわらず、このような場合にまで上記条項が適用されると定められている場合、定型約款ルール(民法第548条の2第2項)や信義則違反(民法第1条第2項)として、無効と解釈する余地があるかもしれません。

 

5.当事務所のサポート内容

当事務所では、利用規約・約款等の作成・チェックはもちろん、その解釈適用を巡る紛争について日常的に取り扱っています。これにより、サービス提供事業者として真にリスクヘッジするべき事項は何か、リスクヘッジとなる免責規定・免責条項をどのように定めればよいのか等に関する知見とノウハウを、当事務所では保有できていると考えています。

当事務所をご利用くださるご依頼者様に対しては、これらの知見とノウハウを最大限活用し、最良のサービスをご提供できるよう尽力します。

免責規定・免責条項を含む、利用規約・約款等に関するご相談があれば、是非当事務所にお声掛けください。

 

<2023年10月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。