利用規約を変更するに当たり、利用者への通知が必要となる場面とは?

【ご相談内容】

これまでに発生したトラブルへの対応や社会情勢の変動に合わせて、当社が提供するサービスに係る利用規約を変更しようと考えています。

サービスを利用する顧客に対しては、念のため利用規約変更に関するお知らせ通知を行う方針なのですが、作業が煩雑であり、またコストも発生するため、できることなら通知を省略したいとも考えています。

利用規約の変更に当たり、顧客への通知は必ず必要となるのでしょうか。

 

 

【回答】

結論から申し上げると、利用規約の変更に際し、法律上は通知義務が定められていません。このため、顧客への通知を省略することは法律上可能です。

ただ、法律は必要最小限のルールしか定めていませんので、自主的に顧客への通知を行うことはもちろん問題ありません。また、利用規約変更に伴う顧客とのトラブルを少しでも回避したいのであれば、顧客への通知はむしろ推奨されます。

したがって、法律上はともかく、事実上顧客への通知を行ったほうが無難といえます。

以下では、民法に定める定型約款に該当する利用規約と、該当しない利用規約とに分けて、利用規約変更に際して顧客への通知が求められる場面につき、検討と解説を行います。

 

【解説】

1.利用規約を変更するためのルール

2020年4月1日に改正民法が施行されたため、利用規約の変更を検討する場合、定型約款に該当する場合と該当しない場合とで分けて検討する必要があります。

ところで、定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」をいいます(民法第548条の2第1項)。なお、定義の中にある定型取引ですが、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」をいいます(民法第548条の2第1項)。

要は、多数の契約に用いられるために、あらかじめ定型化された契約条項の総体であって、交渉を通じて修正することが予定されていないものが“定型約款”に該当すると考えて間違いありません。一方、契約書のひな形のような、多数の契約に用いられるために、あらかじめ定型化された契約条項の総体、あるいは、定型的な書式のような、あらかじめ定型化された契約条項の総体は、その後の交渉による修正が予定されている以上、“定型約款”に該当しません。

 

(1)定型約款に該当する場合

利用規約を変更するための要件は、民法第548条の4に定められています。

概要は次の通りです。

【実体要件】

・変更内容が顧客(ユーザ)の一般的利益に該当すること。

・顧客(ユーザ)の一般的利益に該当しない場合は、変更が契約の目的に反せず、かつ変更に係る事情に照らして合理的なものであること

 

【手続要件】

・変更の効力発生時期を定めること

・周知すること(周知内容としては、利用規約を変更する旨、変更後の利用規約の内容、変更の効力発生時期)

 

押さえておくべきことは、利用規約が定型約款に該当する場合、顧客の同意なく、事業者(利用規約制定者)が一方的に利用規約を変更できるという点です。

そして、要件論として、顧客に対する通知義務が課されておらず、周知で足りるとされていることもポイントとなります。

なお、周知とは、定型約款準備者(利用規約を制定した事業者のこと)の通常の顧客が定型約款の変更の内容を知り得る状態を作出することを意味します。このため、個々の顧客に対して個別通知が必要となるわけではなく、また、個々の顧客が現実に変更内容を認識しているか問わない、というのが法律の建前論となります

 

(2)定型約款に該当しない場合

利用規約が定型約款に該当しない場合、上記(1)で記載した民法第548条の4が適用されない以上、利用規約制定者が、顧客の同意なく一方的に利用規約を変更することは不可能というのが原則論です。

もっとも、改正民法の立法担当者によると、事業者間取引(BtoB取引)において利用規約の一方的変更があり得る旨定められている場合、民法第548条の4に準じて有効に変更できる場合があり得ると解説しています(この理由として、「基本的に、契約の個別の条項を認識せずに、契約が締結されることは少なく、少なくとも、それはその契約当事者がどのような内容であってもその効力を引き受ける実質的な意思がある」と指摘しています)。

また、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」では、BtoB取引のみならずBtoC取引の場合であっても、利用規約の一方的変更に対する「黙示の同意」が認定できる場合があると解説しています(ただ、これはケースバイケースの判断になると言わざるを得ません)。

以上の通り、利用規約が定型約款に該当しない場合、顧客の同意があるかが焦点となるため、通知の有無は直接的な問題とはなりません。

 

 

2.「周知」と通知の関係

 

上記1.(1)で解説した通り、定型約款に該当する利用規約を一方的に変更する場合、顧客への周知で足り、法律上は通知まで求められていません。

しかし、例えば周知方法として、利用規約制定者のホームページ上で、“利用規約を変更する旨、変更後の利用規約の内容、変更の効力発生時期”に関する情報を公開した場合、果たしてどの程度の顧客が当該情報に現実に気が付くのかは不透明です。

たしかに、法律上は顧客が認識したか否かは問われません。

とはいえ、実際の現場では「そんな情報が公開されていたことは知らなった」、「公開されているとはいえ、気付かない場所に配置されている」、「そもそもホームページに訪問することがない」等々の不平不満やクレームが殺到することも予想され、対応担当者が疲弊することもあり得る話です(なお、昨今ではカスタマーハラスメントを意識する必要がありますので、利用規約を変更する際は、社内でのカスハラ対策の構築が求められます)。

 

そこで、現場実務を意識した場合、法律上は「周知」で足りるとしているものの、顧客対応としては十分な説得力を持たない可能性が高いことから、自衛策として個々の顧客に対して、“利用規約を変更する旨、変更後の利用規約の内容、変更の効力発生時期”に関する情報を通知することが推奨されます。すなわち、「周知」したことを裏付ける補強として個々の顧客に対する通知を実施するという発想です。

この通知を実施することで、ホームページで公開していること以外に、顧客に対して案内を行っていることという説得材料を取得することができますので、現場での顧客との交渉はかなり行いやすくなると考えられます。

 

なお、個々の顧客に対して通知しても、「通知を受け取っていない」、「通知を受け取っていても中身を読んでいない」等といって、食い下がってくる顧客がいるかもしれません。

こういった事例を想定して、利用規約では、例えば

・顧客が届け出た連絡先に通知すれば、たとえ届かなくても受領したものとみなすこと

・顧客が届け出た連絡先あてに通知して届かなかったとしても、事業者は再度通知する義務はないこと、顧客の連絡先を調査する義務はないこと、届かなかったことに対して事業者は責任を負わないこと

・連絡先の変更があった場合、顧客に対して変更届出を行う義務を課し、その義務を履行しなかったことによる不利益は顧客が負うこと

といった条項を整備することが考えられます。

また、説得話法として、単なるホームページの公開に過ぎない場合、その顧客との関係で閲覧機会を付与したとは説明しづらいところがあるのですが、通知を行った場合は、確実にその顧客に対して閲覧機会を付与したと言える以上、利用規約制定事業者としてやるべきことをやったと胸を張って言いやすくなります(閲覧機会を付与した証拠を保有できるという意味です)。

以上のことから、定型約款に該当する利用規約を変更する場合、「周知」という言葉だけにとらわれず、可能な限り個々の顧客に対して通知することが望ましく、また結果的には「周知」性を補強し、利用規約の変更が有効であることを裏付ける材料となり得ることを押さえておいて損はありません。

 

ところで、上記のように説明した場合、利用規約における変更手続きに関する定めとして、顧客に対して個別通知を定めたほうが良いと考える方がいるかもしれません。

しかし、そこまで定める必要はありませんし、むしろ定めることは有害無益と言わざるを得ません。

なぜなら、利用規約で個々の顧客に対して通知することを利用規約制定事業者に義務付けた場合、何らかの理由で通知ミスが生じた場合、手続き不備として利用規約の変更が無効と判断されるリスクが高まってしまうからです。

ポイントは、利用規約制定事業者が課される内容は法律上の義務である周知に留め、実際の現場運用(社内ルール)としては、法律よりやや厳しめに個々の顧客に対する通知を実施する…といった差異を設ける点となります。

 

最後に個々の顧客に対する通知手段ですが、法律上の義務ではない以上、その手段・方法に制限はありません。

利用規約制定事業者のコストを考えた場合、顧客より届出のあった電子メール宛への通知が一番現実的と考えられます。もっとも、顧客の属性、例えば主たる顧客が高齢者の場合、紙媒体での通知を行ったほうが無難なことも想定されます。

 

 

3.「黙示の同意」と通知の関係

上記1.(2)で解説した通り、定型約款に該当しない利用規約を変更する場合、顧客からの同意を得ることが原則的対応となります。

この同意には「黙示の同意」も含まれますが、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」では、黙示の同意が認定されるためには、次のような事情を考慮する必要があると指摘されています。

・変更の告知を行うこと

・顧客において、具体的な利用規約の内容はともかく、利用規約に何らかの変更がなされることを認識していると認められること

・顧客に対して変更内容が適切に開示されていること

・利用規約制定事業者が顧客に対し、利用規約の変更内容につき顧客の理解を促す努力をしたこと

・変更内容の合理性

 

ところで、上記にある「告知」ですが、「利用者(顧客)に対して利用規約によってその契約を締結する旨の意思を表示する行為」という意味で用いられていますので、本記事で用いている通知とほぼ同義といえます。

そうであれば、黙示の同意の有効性は、通知が重要な考慮要素になると考えて間違いありません。

そして、その通知するべき内容については、民法第548条の4に準じて、最低でも利用規約を変更する旨、変更後の利用規約の内容、変更の効力発生時期を包含する必要があると考えるべきです。また、例えば「同意しない場合は…(顧客において能動的なアクションを要する)。何もしない場合は同意したものとみなす。」といった記載を行うことも考えられます。ただ、こういった記載は一度通知しただけでは不十分であり、複数回・一定期間にわたって繰り返し行わないことには、積極的な考慮要素として評価されないのではないかと執筆者は考えます。

では、その一定期間とは具体的にどの程度の期間を指すのでしょうか?

当然のことながら、法律上の根拠規定は存在しません。

ただ、2020年4月1日施行の改正民法前に裁判となった事例を検証する限り、数ヶ月単位の期間を設けることで、利用規約の一方的変更が有効と判断されているように思われます。この観点からすると、最低でも3ヶ月、できれば6ヶ月程度の期間を設定し、複数回の通知を行うこと(例えば、ログインすることでサービスが利用できるものであれば、ログイン画面に利用規約の変更案内文を掲載する、1ヶ月に最低でも1回は電子メールにて利用規約の変更案内メールを送信する、利用規約変更の効力発生日より2週間前から1ヶ月前くらいの間は、顧客が最初に訪問する画面に毎回ポップアップ広告を出して利用規約変更の案内を行うなど)が望ましいと考えられます。

 

 

4.プライバシーポリシーとの関係

利用規約とプライバシーポリシーは本来別物なのですが、利用規約の中にプライバシーポリシーの内容を包含して定める手法もまま見かけるところです。

ところで、上記のような包含する形式の場合、上記2.及び3.で記載した利用規約の変更手続きをもってプライバシーポリシーに該当する内容も変更することが可能なのか問題となります。

この点、2020年4月1日に施行された改正民法の立法担当者は、プライバシーポリシーの変更に際しては民法第548条4は適用されないと解説しています。

したがって、定型約款に該当する利用規約に含まれるプライバシーポリシーについては、上記2.で解説した手続きとは別に、顧客よりプライバシーポリシー変更に関する明示的な同意が必要になると考えられます。

一方、定型約款に該当しない利用規約の場合を含め、プライバシーポリシーの変更に「黙示の同意」が適用されることについても、否定的にみたほうが良いと考えられます。なぜなら、例えば、個人情報保護委員会が公表しているガイドライン等を確認する限り、明示的な同意を前提とした記述となっているからです(例えば、利用目的の変更に対する同意など)。

以上のことから、プライバシーポリシーに関する部分のうち、少なくとも個人情報保護法等で同意が要求されている箇所については、上記2.及び3.で解説した議論は該当せず、変更に際しては顧客からの明示的な同意が絶対要件になると考えるべきです。

 

 

5.当事務所でサポートできること

過去に発生したトラブルへの対応、法改正や最新裁判例への対応、社会情勢や顧客動向の変動などを踏まえ、せっかく利用規約の内容を変更したにもかかわらず、手続きに不備があったため、変更後の利用規約の内容が効力を有しない…といった事象が生じると、利用規約制定事業者が提供するサービス内容は大混乱に陥り、一時的なサービス停止、場合によってはサービス廃止、究極的には事業者の廃業(倒産)といったことにもなりかねません。

こういったことにならないためにも、変更する利用規約の内容の合理性チェックはもちろんのこと、利用規約の変更手続きに対するチェックも十分意識する必要があります。

当事務所では、規模の大小を問わず、利用規約を変更するための一連のサポートを行った実績があり、これらの実例を踏まえた知見とノウハウを蓄積しています。

利用規約の変更を確実に行うことが経営課題であるとお考えの事業者様におかれましては、是非当事務所にお声掛けください。蓄積した知見とノウハウをフル活用しながら、その経営課題の解決に向けて、当事務所が全力でお手伝いをさせて頂きます。

 

<2024年6月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。