利用規約に対する有効な同意取得の方法とは?
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【ご相談内容】
「直ぐに無料でプレイできる」を謳い文句とした、ゲームアプリをリリースする予定です。
新規ユーザに対しては、できる限り複雑な手続きを踏ませることなくゲームをプレイできる環境にしたいのですが、しかしユーザに対する適正管理の観点からは、何らかの方法でユーザより利用規約への同意取り付けは行いたいと考えています。
同意取得画面を経ずに利用規約に同意させる方法はないでしょうか。
【回答】
法律の原則論からすれば、利用規約の内容を契約条件に組み込むためには、ユーザに利用規約に従うことの同意をもらうほかありません。そして、インターネット取引の場合、同意取得画面を設置し、ユーザが利用規約に同意した旨のデジタル上の痕跡を残さないことには、有効な同意取得を取り付けた証拠を確保できないことになります。
ただ、この原則を貫くと、かえってユーザも不便を被ることになり、どこかでバランスをとる必要があります。
このバランスを図るべく、2020年4月に施行された改正民法では定型約款という概念が新たに設けられました。ただ、インターネット取引では、利用規約が常に定型約款に該当するとは限らないため、本記事では、適宜定型約款のルールに触れつつ、どのような方法を用いれば法的に有効な同意を取り付けたと言えるのか、という観点で解説を行います。
【解説】
1.利用規約とは
利用規約については法令上の定義はありません。
もっとも、一般的には、サービス提供事業者がユーザに対して提示する、サービス利用上のルールをまとめたもの…といった意味で用いられます。
利用規約の特徴としては、
- ユーザとの契約交渉が想定されていないこと(ユーザの要望に応じて利用規約の内容を変更することが予定されていないこと)
- 利用規約の内容はサービス提供事業者が一方的に定めること
- 利用規約に同意しないユーザは、サービスを利用できないこと
などがあげられます。
2.利用規約に対して有効な同意を取得するための画面構成パターン
新たに契約するユーザより利用規約への同意を取得する画面を作成する場合、次のような2つの視点が考えられます。
①同意画面において利用規約の内容をどこまで開示するのか
(一画面内で利用規約の全文を表示する、利用規約へのリンクを貼る、利用規約の内容を一切表示しない)
②同意画面においてユーザより何らかのアクションを求めるのか
(ユーザより明示的な同意アクション有り、何かと便乗した同意アクション有り、同意アクション無し)
その結果、次の9つのパターンに分類されます。
全文表示 | リンクによる表示 | 非表示 | |
明示的な同意 | (1) | (4) | (7) |
便乗・付随しての同意 | (2) | (5) | (8) |
同意なし | (3) | (6) | (9) |
上記9つのパターンのうち、利用規約に対する有効な同意取得手続きを実践したと考えられるのは、(1)(2)(4)(5)の4パターンと考えられます。
■利用規約全文表示×明示的な同意アクション有り((1)のパターン)
例えば、同意取得の一画面内に利用規約全文を表示し、利用規約の内容をスクロールした後に“同意のチェックボックス”や“同意ボタン”を配置するというのが典型例です。
ユーザに利用規約の内容を開示していること、ユーザに同意のためのアクションを要求しているという点では、一番同意取得の有効性が認められやすい画面構成となります。
ただ、利用規約を正確に作成しようとすればするほど長文となり、スクロール作業が必要となるため、ユーザの離脱率がどうしても高くなりがちであり、ユーザ獲得に失敗するという難点があります。
そこで、同意取得画面にさらにウインドウを設けて、そのウインドウ内をスクロールする形式にし、同意取得画面それ自体はスクロール作業を不要とするという画面構成も検討に値します。もっとも、この画面構成の場合、利用規約用のウインドウをスクロールしなくても、ユーザは同意アクションを行うことが可能であり、どうしてもユーザへ十分に利用規約を開示したとは言い難い面も出てきます。
したがって、形式的にはユーザより同意を取得していたとしても、場合によっては同意取得の効力を否定される可能性は残ってしまうことに注意が必要です。
なお、画面構成として、“同意のチェックボックス”や“同意ボタン”をトップ(画面上部)に配置し、利用規約はスクロールしないと確認することができないという場合、直ちに同意取得の有効性が否定されるわけではないと考えられます。しかし、例えば、同意ボタン等の配置と利用規約全文表示とが不自然に離れている場合は、やはりユーザへ十分開示したとは言い難い側面も出てきます。
したがって、同意取得画面に別ウインドウを設けた場合と同じく、同意取得の効力を否定される可能性はあることに注意が必要です。
■利用規約全文表示×何かと便乗した同意アクション有り((2)のパターン)
例えば、同意取得の一画面内に利用規約の全文を表示するものの、利用規約に対する同意ボタン等を配置するのではなく、“表示内容を了承した上で注文する”といった別アクションのボタン操作ついでに利用規約への同意も一緒に取得しようとするものが典型例です。
上記例であれば、画面上に、ユーザが選択した商品又はサービスの申込み内容と申込みに当たって適用されるルールとしての利用規約が一緒に表示されていると考えられるところ、これらの「表示内容」を「了承」した上で注文するということですので、原則的には同意取得の有効性を認めてよいと考えられます。
もっとも上記例の場合、画面上にどのような内容が表示されるのか、画面構成が極めて重要となります。例えば、注文ボタンがトップ(画面上部)に配置され、その注文ボタンからだいぶ離れた場所(何回もスクロールしないと閲覧ができない画面構成)に利用規約の表示があった場合、ユーザに対して十分に利用規約を開示したとは言い難い側面は否定できません。
したがって、本来のアクションに便乗する形式で利用規約の同意取得をしようとする場合、その本来のアクションであるボタン等の直ぐ近くに利用規約の内容を表示するといった工夫が必要と考えられます。この点、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(令和4年4月版)」では、「ウェブサイト中の目立たない場所にサイト利用規約が掲載されているだけで、ウェブサイトの利用につきサイト利用規約への同意クリックも要求されていない場合」は利用規約が契約に組み入れられないという見解を明らかにしているところです。
なお、上記例では(2)パターンに該当するよう、あえて“表示内容を了承した上で注文する”というぼかした表現を用いました。しかし、可能であれば“利用規約に同意した上で注文する”といった、便乗して同意を取り付けるとしても、利用規約に同意することが一義的に分かるような表現を行うことをお勧めします。
■利用規約へのリンク×明示的な同意アクション有り((4)のパターン)
上記(1)及び(2)の各パターンは、同意取得画面において利用規約全文を表示するという点でユーザへの配慮が十分になされた方式と言えます。
一方、(4)及び(5)のパターンは、同意取得画面において利用規約の内容は表示せず、あくまでもリンクを貼りつけているだけに過ぎません。ユーザが、リンク先に記載されている利用規約の内容を閲覧することが必ずしも保証できないという点では、ユーザに対して利用規約の内容を十分に開示していないといわざるを得ません。
この点を強調し、従前はリンクだけでは不十分であり、たとえ明示的な同意取得を取り付けたとしても、有効な同意取得とならないと考えられていました。
しかし、最近では、原則的に有効な同意取得と考えて差し支えないとされています。
例えば、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(令和4年4月版)」では、「ウェブサイトの利用に際して、利用規約への同意クリックが要求されており、かつ利用者がいつでも容易にサイト利用規約を閲覧できるようにウェブサイトが構築されていることによりサイト利用規約の内容が開示されている場合」は、サイト利用規約が契約に組み入れられると解説しているところです。
おそらく利用規約への同意を取得するためのWEBサイト構成としては、一番多いパターンではないかと思われます。
ただ、同意取得画面のどこに利用規約へのリンクが貼ってあるのか一見すると分かりづらい場合、同意ボタンより何回もスクロールしないことには利用規約へのリンク画面に到達しない場合(不自然に同意ボタンと利用規約へのリンク画面が離れている場合)など、実質的にユーザが利用規約の内容を確認したくても困難な画面構成であれば、たとえ利用規約に対する同意を取得したとしても、その有効性が否定されるリスクがあります。
■利用規約へのリンク×何かと便乗した同意アクション有り((5)のパターン)
例えば、同意取得画面において利用規約の内容は表示せずリンクを貼るのみ、また利用規約に対する同意ボタン等を配置するのではなく、“表示内容を了承した上で注文する”といった別アクションのボタン操作ついでに利用規約への同意も一緒に取得しようとするものが想定されます。
これについても上記(4)で解説した通り、近時の考え方は、同意取得画面において利用規約の内容を全文表示する必要はなく、ユーザにおいて利用規約の内容を確認できる機会を付与すれば足りるとしていることから、このパターンによる同意取得も原則有効と考えて差し支えありません。
ちなみに、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(令和4年4月版)」では、「例えばウェブサイトで取引を行う際に申込みボタンや購入ボタンとともに利用規約へのリンクが明瞭に設けられているなど、サイト利用規約が取引条件になっていることが利用者に対して明瞭に告知され、かつ利用者がいつでも容易にサイト利用規約を閲覧できるようにウェブサイトが構築されていることによりサイト利用規約の内容が開示されている場合」は、サイト利用規約が契約に組み入れられると解説しているところです。
なお、ユーザにおいて、取引を行うに際しては利用規約を適用することを告知し、かつその利用規約の内容につき確認できる機会を付与することが重要となりますので、告知不十分である場合や、リンクがどこに貼っているのか分かりづらい画面構成の場合は、同意取得の有効性に疑義が生じることになります。
3.利用規約に対する同意が認められない場合のトラブル
専門家にも関与してもらいながら納得のいく利用規約を作成した、しかし、その利用規約をユーザに適切に開示し、了解を取り付けなかったことから、利用規約の効力が認められない…という失敗談が後を絶ちません。
特に、書面の場合であれば署名押印が残ることで、たとえユーザが利用規約の内容を知らなかったと反論しても、なかなか反論は認められないのですが、WEBの場合、署名押印という確実な痕跡が残らないことから、上記のような反論をユーザが行ってきた場合、サービス提供事業者はたちまち危うい立場に置かれることになります。
ところで、利用規約の効力が認められない場合、ユーザより利用料を徴収できない、ユーザと適切な関係を構築することができない、ユーザの問題行動に対処できない等々、サービス提供事業者は様々な不利益を被ることになります。
したがって、サービス提供事業者は、ユーザより利用規約への同意をどのように取り付けるのか、WEB画面の構成・遷移についても気を配り、できれば弁護士のアドバイスを受けながらWEBサイトの構成を考える必要があります。
4.定型約款で対応しようとする場合の注意点
(1)「定型約款」法制による救済可能性
2020年4月1日に施行された改正民法では、新たに「定型約款」という概念が導入されました。ちなみに、何をもって定型約款に該当するか等については、次の記事をご参照ください。
民法改正に伴う約款(利用規約、会員規則など)の見直しポイントについて、弁護士が解説!
さて、利用規約がこの「定型約款」に該当する場合、上記2.で解説した以外の5パターン((3)、(6)、(7)、(8)、(9))であっても、ユーザは利用規約に同意したものとみなされ、ユーザに対する拘束力を有する場合があります。
以下では、この点につき解説します。
■利用規約全文表示×同意アクション無し((3)のパターン)
例えば、同意取得画面と言いつつも、単に利用規約全文が画面に表示されるだけで、「次へ」といったクリックボタンを押すと、別情報を記載した画面に遷移するといったものが想定されます。
上記例のような画面構成の場合、ユーザからすれば利用規約の内容が表示されただけに過ぎず、同意又は不同意の意思表示を行ったとはいえません。
したがって、原則として同意を取得したとはいえないと考えられます。
もっとも、例えばユーザがフリープランを利用するに先立ち、サービス提供事業者がフリープランを利用することによって利用規約に同意したものとみなす旨十分な注意喚起を行い、その注意喚起後も異議無くユーザがフリープランを利用したといった場合、黙示の同意が認められる可能性があります。
ただ、ケースバイケースの判断となり安定性を欠くため、サービス提供事業者としては黙示の同意に頼る方式を採用するべきではありません。
なお、明示的な同意を取得せず、かつユーザに対して一切の注意喚起を行わず、単に利用規約上に「本サービスを利用した場合、利用規約に同意したものとみなす」と定めているにすぎない場合、黙示の同意が成立するとは言い難く、また“みなし同意”条項の有効性を問われることから、有効な同意取得とは言えないと考えるべきでしょう。
さて、上記が原則的な考え方なのですが、「定型約款」に該当する場合は別です。
この点、定型約款に該当した場合ですが、民法は
・ユーザに対し、事前に定型約款を契約の内容とする旨相手方に告知した場合
・その定型約款の個別の条項について合意したものとみなす
と定めています(民法548条の2第1項第2号)。
つまり、利用規約(定型約款)を前提に取引を行う旨ユーザに事前告知さえすれば、ユーザが利用規約の内容に対する同意アクションをとらなかったとしても、利用規約に同意したものとみなされることになります。ちなみに、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(令和4年4月版)」では、「ウェブサイトで定型取引を行う際に、申込ボタンや購入ボタンのすぐ近くの場所に、事前に契約内容とすることを目的として作成した利用規約を契約の内容とする旨表示している場合」、利用規約が契約内容に組み込まれるという考え方を明らかにしています。
以上の通り、民法の定型約款に関する定めを利用できる場合、利用規約を前提とした取引であることを事前告知さえしておけば、必ずしもユーザから同意を取得する必要はないことになります。
もっとも、現場実務では、定型約款に該当しない場合のリスクを想定し、あるいはユーザに同意アクションを要求することで同意したことへの認識を裏付ける目的で、同意取得画面上に同意クリックを配置する等の対策を講じることが一般的です。
民法上の定型約款に関する考え方が十分に世間一般に浸透しているとは言い難い実情がありますので、できる限りユーザより明示的な同意アクションを得るように構成することが無難と考えられます。
なお、WEBサイト上にあるQ&A集、FAQ、特定商取引に基づく表示は、基本的に定型約款に該当しないと考えられます。これらに書いてある事項を契約内容として組み込みたいのであれば、民法の定型約款に関する規定で対処せず、個々に明示的な同意を得る必要があります。
■利用規約へのリンク×同意アクション無し((6)のパターン)
画面上、利用規約へのリンクが貼り付けられているものの、利用規約への同意を求めるわけではなく、そのまま画面遷移してしまう場合、利用規約への同意を取得したとはいえないと考えられます。
なお、黙示の同意の可能性については、上記(3)のパターンで解説した通りです。
ところで、ここでも重要な例外として、民法の定型約款に関する規定の適用が考えられます。
すなわち、民法の定型約款に該当する場合、あくまでも定型約款(利用規約)を前提とした取引であることを事前告知さえすればよいとされていますので、このパターンであっても利用規約に対する有効な同意取得を取り付けたとみなすことが可能です。
もっとも、現場実務の対応としては、ユーザより何らかの同意アクションを取り付けたほうが良いと考えられること、上記(3)のパターンと同様です。
■利用規約表示なし×明示的な同意アクション有り((7)のパターン)
例えば、同意取得画面において、利用規約の内容について一切表示されていない、リンクも貼られていないものの、「利用規約に同意する」旨のボタンのみ配置されている、というものが想定されうる事例です。
ユーザからすれば、抽象的な意味で利用規約に同意することは理解できるものの、具体的な利用規約の個々の条項については開示されていないため、同意対象となる内容につき検討のしようがありません。
したがって、形式的には同意を取得していたとしても、有効な同意取得とはならないと考えるのが原則となります。
もっとも、ここでも重要な例外として、民法の定型約款に関する規定があげられます。すなわち、
①定型約款(利用規約)を契約内容とする旨合意する(ユーザの個々の条項に対する認識の有無、内容の了解の有無を問わない。民法第548条の2第1項第1号)
②定型約款(利用規約)を前提とした取引であることを事前告知する(個々の条項を必ずしも開示しなくてもよい。民法第548条の2第1項第2号)
のいずれかに該当すれば、同意取得を取り付けたとみなすことが可能です。
本件の場合、①への該当性、例えば、個別具体的な内容を開示しなくても、抽象的に定型約款(利用規約)に同意する旨のボタンをクリックさせることで、ユーザより個別具体的な利用規約の条項内容について同意を取得したものとして取り扱うことが可能となります(ちなみに、②は前述の(3)や(6)のパターン、後述(9)のパターンにおいて、例外的に有効な同意取得として取り扱うことが可能となる規定となります)。
なお、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(令和4年4月版)」では、「ウェブサイトで定型取引を行う際に、申込ボタンや購入ボタンのすぐ近くの場所に、事前に契約内容とすることを目的として作成した利用規約を契約の内容とする旨表示している場合」、利用規約が定型約款として契約の内容とみなされると記述されています。
ユーザが離脱することなくスムーズに申し込み手続きを完了させたいと考えるサービス提供事業者としては、今後利用規約が定型約款に該当することを前提にこのパターンにて利用規約に対する同意取得を取り付けることが多くなると予想されます。
ただ、民法は、定型約款(利用規約)について、ユーザより開示要請があった場合、同意取得前はもちろんのこと同意取得後であっても開示するよう定めています(民法第548条の3第1項)。特に同意取得前に開示要請があったにもかかわらずこれに応じなかった場合、同意取得は無効と定められていること(民法第548条の3第2項)を踏まえると、このパターンで対応する場合、ユーザからの開示要請対策を講じる必要があることに注意が必要です。
ちなみに、当該対策を新たに講じるくらいであれば、これまで通りの上記の(4)又は(5)のパターンで対処したほうが、新たな作業工数も増えず楽であるという考え方も成り立つところかもしれません。
■利用規約表示なし×何かと便乗した同意アクション有り((8)のパターン)
例えば、同意取得画面において、利用規約の内容について一切表示されずかつリンクも貼られていない状況下で、「利用規約に同意して注文する」旨のボタンのみ配置されている、というものが想定されます。
これについても、同意の対象となる利用規約の内容が開示されていない以上、ユーザからすれば内容の検討のしようがないことから、このパターンでの同意取得は無効になると考えられます。
もっとも、民法上の定型約款に関する規定が適用される場合は別です。
すなわち、上記(7)のパターンと同じく、利用規約が定型約款に該当する場合、利用規約の個々の条項を開示しなくても、利用規約を前提に取引を行うことに関する抽象的同意さえ取り付ければ、ユーザは利用規約の個々の内容に同意したものとみなされます。
なお、ユーザより開示要請があった場合に対応する必要があること、同意取得前に開示要請があったにも関わらず適切な対応を行わなかった場合、同意取得が無効となることも同様です。
■利用規約表示なし×同意アクション無し((9)のパターン)
ユーザに対して利用規約の内容を開示していない、ユーザより何らの同意取得を取り付けていないとなると、利用規約を契約内容に組み入れることはおよそ不可能と言わざるを得ません。
もっとも、民法上の定型約款に該当する、上記(3)のパターンで解説した通り、事前に利用規約を前提にした取引であることをユーザに告知することで、例外的にユーザより利用規約への同意を取得したとみなすことができる場合があります。なお、この場合、個別具体的な利用規約の内容開示まで要求されているわけではありません。
結局のところ、民法の定型約款に該当する場合
・利用規約の個々具体的な内容を開示する必要なし
・利用規約を前提に契約する旨事前告知すれば足りる(同意の取付け不要)
ということになります(民法第548条の2第1項第2号)。
繰り返しの引用となりますが、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(令和4年4月版)」では、「ウェブサイトで定型取引を行う際に、申込ボタンや購入ボタンのすぐ近くの場所に、事前に契約内容とすることを目的として作成した利用規約を契約の内容とする旨表示している場合」、利用規約が定型約款として契約の内容とみなされるとしています。
ただ、民法の定型約款に関する規定の一般的認知度からすると、このパターンで利用規約につき同意を得たと主張する場合、法律論としては正しくても、事実上ユーザからの不満は持たれやすく、場合によっては炎上騒ぎにつながることも否定できません。その観点からすれば、あまりこのパターンに頼りすぎるのは望ましくないと考えられます。
(2)内容面での注意事項
上記(1)で解説した通り、民法の定型約款に関する規定を利用することで、ユーザより明示的な同意を取り付けることなく、利用規約を契約内容に組み入れることが可能となります。
ただ、何点か注意するべき事項があります。
■同意したとみなされない場合
上記2.(7)から(9)のパターンにおいて、同意取得前に利用規約の内容につき、ユーザより開示要請があったにもかかわらず、サービス提供事業者がこれに応じなかった場合、同意したものとみなされないことは記述した通りです(民法第548条の3)。
他にも、民法の定型約款に関する規定によれば、利用規約に次のような条項が含まれている場合、同意を得たことにはならないと規定されています(民法第548条の2第2項)。
①不当条項
例えば、契約違反した場合にユーザは違約金として1兆円を支払う…と定められていた場合、一般常識的には、サービス提供事業者がユーザの契約違反により1兆円もの損害を被ることは無いと考えられます。特段の事情が無い限り不当条項とされ、このような利用規約の条項に対してはユーザからの同意は無かったものと取り扱われます。
②不意打ち条項
例えば、商品販売において、ユーザが注文した商品以外のサービス提供事業者が指定する商品を一緒に購入しなければならない…と定められていた場合、一般常識的にはユーザは抱き合わせで商品を購入することを想定していない以上、不意打ち条項とされ、このような利用規約の条項に対してはユーザからの同意は無かったものと取り扱われます。
なお、消費者契約法が適用される場合、サービス提供事業者の全部免責を認める条項、故意重過失がある場合にまで一部免責を認める条項、平均的損害を超える違約金支払い義務を課す条項などは全て無効となります。
■改正消費者契約法による努力義務
民法第548条の3によれば、ユーザより開示要請があったにもかかわらず、サービス提供事業者がこれに応じなかった場合、同意したものとみなされない旨定められているところ、そもそもユーザにおいて、開示請求権があること自体を知らないということも十分にあり得るところです。
そこで、ユーザが消費者の場合に限定されますが、令和5年(2023年)6月1日に施行された改正消費者契約法では、サービス提供事業者は消費者に対し、利用規約(定型約款)の内容を開示するよう請求できる権利がある旨情報提供する努力義務が課せられることになりました(ただし、消費者が利用規約の内容を容易に知りうる状態に置く措置を講じている場合は義務免除となります)。
努力義務に留まることから、情報提供義務違反によって直ちに何らかの制裁や不利益を被ることにはなりませんが、義務違反を放置している場合、ユーザからあまり良い反応は示されないと考えられます。
本来的には利用規約の全文内容を何らかの形で開示することがベストなのですが、都合により開示できない場合、開示請求権があることくらいは明記しておきたいところです。
■個人情報を取扱う場合
利用規約とは別にプライバシーポリシーを設けることも多いかと思うのですが、利用規約内に、サービス提供事業者が取得したユーザの個人情報を含むプライバシー情報の取扱いに関する規定を定めることも十分あり得る話です。
この点、例えば、サービス提供事業者が取得したプライバシー情報を第三者に提供する場合、第三者提供を行うことを利用規約とは別に表示すると共に、ユーザより明示的な同意を取り付けるという対応を行った方が無難と考えられます。
なぜなら、プライバシー情報の不適切運用による炎上騒ぎが近年多発し、事業者の信用低下や風評被害が生じているからです。
なお、個人情報保護法上の個人データを第三者提供する場合につき、個人情報保護法ガイドライン(通則編)では、利用目的に第三者提供を行うことを明記することを前提としつつ、さらに「同意の取得に当たっては、事業の規模及び性質、個人データの取扱状況(取り扱う個人データの性質及び量を含む。)等に応じ、 本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な範囲の内容を明確に示さなければならない。」と指摘しています。この指摘を踏まえれば、民法の定型約款の定めに従い利用規約につき同意を取得したと言える場合であっても、個人データの第三者提供についてまでユーザより同意を得たと断定することは難しいと考えられることに留意する必要があります。
■特定商取引法に基づく規制がある場合
通信販売を念頭に置きますが、特定商取引法では、いわゆる最終確認画面において必ず表示しなければならない事項が定められています。
最終確認画面には表示されていないものの、利用規約内には定めがあるという事例の場合、民法の定型約款に従い利用規約に定めがある個別内容につきユーザから同意を取得したとみなされたとしても、特定商取引法により当該同意取得は無効となることが十分想定されます。
最終確認画面にどのような事項を表示するべきかについては、次の記事を参照してください。
ネット通販における最終確認画面の重要性について、弁護士が解説!
■利用規約の内容を変更する場合
サービス提供事業者とユーザとの契約に組み込まれている利用規約の内容につき、その全部又は一部の変更を行う場合、当然のことながら相手の明示的同意が必要となります。
よく利用規約に、「当社は、利用者の承諾を得ることなく、本規約をいつでも変更できるものとします。本規約が変更された場合、利用者は、変更後の本サービスについて、変更後の本規約に従うものとします。」といった条項が定められていますが、たとえ当該条項を含む利用規約への同意を取り付けていたとしても、当該条項自体が一方的な内容なので無効と言わざるを得ません。
したがって、当該条項を根拠に、サービス提供事業者が利用規約の内容を変更することは不可となります。
もっとも、事例によっては黙示の同意が認められる余地はあります。この点、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(令和4年4月版)」では、「利用者による明示的な変更への同意がなくとも、事業者が利用規約の変更について利用者に十分に告知した上であれば、変更の告知後も利用者が異議なくサイトの利用を継続することをもって、黙示的にサイト利用規約の変更への同意があったと認定すべき場合がある」と解説されています。
なお、利用規約が定型約款に該当する場合、民法では利用規約(定型約款)の変更について民法第548条の4で別のルールを設定しています。
この点、ユーザと新たに利用規約を前提にした契約関係に入る場合と比較すると、
・変更予定の利用規約の個別具体的内容を事前に開示する必要がある(民法548条の4第2項)
・ユーザからの明示的同意の取り付けまでは不要であるが、「定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。」という要件を充足させなければならない(民法第548条の4第1項第2号)
という相違があります。
したがって、利用規約(定型約款)を変更するに際しては、(7)から(9)のパターンによる変更は実質的に否定されることになり、かなり厳しい条件が課せられていることに注意が必要です。
5.当事務所においてご対応可能なこと
一口に「同意を取り付ける」といっても色々な方法があり、営業戦略的な観点やユーザビリティの観点など様々な事情を考慮して、同意取得画面の構成や遷移を検討することになります。
当事務所では、様々な利用規約の作成に関与すると共に、画面構成・遷移に関するアドバイスを行ってきました。そして、実際の事例を通じて多数の知見とノウハウを取得し、活用できる状態となっています。
同意の取り付け方、利用規約の内容などについてお悩みがあれば、是非弁護士までご相談ください。
<2022年10月執筆、2024年2月修正>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
当事務所のサービス内容・簡易見積もりシミュレーション
当事務所では利用規約の作成、リーガルチェックのサービスを提供しています。
費用の簡単シミュレーションも可能ですので、ご検討されている方は下記ページをご覧ください。
- サイバー攻撃による情報流出が起こった場合の、企業の法的責任と対処法とは?
- システム開発取引に伴い発生する権利は誰に帰属するのか
- 押さえておきたいフリーランス法と下請法・労働法との違いを解説
- システム開発の遅延に伴う責任はどのように決まるのか?IT業界に精通した弁護士が解説
- IT企業で事業譲渡を実行する場合のポイント
- 不実証広告規制とは何か? その意味や対処法などを解説
- WEBサイト制作事業者が抱えがちなトラブルへの法的対処法
- WEB制作・システム開発において、追加報酬請求が認められるための条件
- IT企業特有の民事訴訟類型と知っておきたい訴訟対応上の知識
- ネット通販事業にまつわる法律のポイントと対処法を徹底解説