なぜテンプレートの利用規約はダメなのか?弁護士が教えるテンプレートの落とし穴
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【ご相談内容】
新たなWEBサービスを展開するに当たり必要となる利用規約の作成準備を行っていたところ、インターネットで無償のテンプレートを入手することができました。
目を通したところ問題なさそうなので、そのまま自社サービス用の利用規約として用いようと考えているのですが、やはり問題がありますか。
【回答】
もちろん、そのテンプレートが自社サービスの特徴や独自性を網羅し、内容が過不足なく定められているのであれば問題はありません。
ただ、テンプレートですので、なるべく様々なサービスに適用できるよう、条項内容を一般化・抽象化していることが通常です。
したがって、できる限り、弁護士等の専門家にもテンプレートの内容をチェックしてもらい、本当に用いてよいのか確認して欲しいところです。
なお、利用規約をコピペすることの問題点については、次の記事をご参照ください。
利用規約をコピペすることは違法?コピペによる法的リスクを弁護士が解説
【解説】
1.なぜ利用規約のテンプレートを用いることは問題なのか
インターネット検索を行えば、無料で利用規約のテンプレートを入手することが可能です。
ただ、このテンプレートをそのまま使用することはもちろん、必ずしも法律に明るくない事業者が自己流に修正して使用する場合、様々な問題が発生します。
具体的には次のような問題です。
①自社サービスに適合しないリスク
テンプレートという性質上、汎用的な内容となりがちです。このため、自社のサービス内容やビジネスモデルに合わない条項が含まれている、逆に必須となる条項が含まれていないといったリスクがあります。
例えば、ネット通販(ECサービス)用のテンプレートを用いたところ、自社が販売する商品はデジタルコンテンツであるにもかかわらず、テンプレートが有体物の商品を前提にしていたため、不適切な利用規約になっていた事例などを本記事執筆者は見かけたことがあります(返品に関する取扱いなどで矛盾が生じる等)。
②法的な必要条件を満たさないリスク
テンプレートが公開された時期が数年前であり、その後に実施された法改正に対応できておらず、今では書かれている条項内容が無効になるといったリスクがあります。
例えば、2023年6月1日より施行された改正消費者契約法により、いわゆるサルベージ条項が無効という取扱いになったにもかかわらず、自社用の利用規約として用いたテンプレートには改正内容が反映されていない事例などを本記事執筆者は見たことがあります。
③自社ポリシーと合致しないリスク
テンプレートに定められた条項が一方当事者に有利になるよう作成されているため、テンプレートをそのまま用いることで、自社の運営方針と抵触するリスクがあります。
例えば、自社運営サイトに投稿されたユーザ制作のコンテンツについて、自社の運営方針は著作権を譲受けるという立場であるにもかかわらず、自社用の利用規約として用いていたテンプレートではユーザに著作権が留保されるとされていた事例などを本記事執筆者は見たことがあります。
④同業他社との差別化ができないリスク
マーケティング戦略として同業他社との差別化を訴求しているにもかかわらず、テンプレートには差別化を意識した条項が定められていないため、かえってユーザからの信頼を損なうというリスクがあります。
例えば、30日間はサービスを無料で利用できることを訴求しているにもかかわらず、自社用の利用規約として用いたテンプレートには利用開始月より利用料が発生すると定められ、ユーザよりクレームを受けた事例などを本記事執筆者は見たことがあります。
⑤ユーザとのトラブルに適応できないリスク
ユーザとトラブルが発生した場合、ユーザはどのように動くのか、自社はどのように対処するのかを意識した条項が定められていないため、トラブル対応が上手くできないといったリスクがあります。
例えば、ユーザからの損害賠償請求については一定の制限を設けたいと考えていたにもかかわらず、自社用の利用規約として用いたテンプレートには免責条項が定められていないため、想定外の損害賠償責任を余儀なくされた事例などを本記事執筆者は見たことがあります。
上記以外にも、テンプレートを用いたことで生じる問題点やリスクは考えられます。
重要なことは、テンプレートはあくまでも参考例に過ぎず、自社向けにカスタマイズする必要があるということです。ただし、必ずしも法的知識に明るくない事業者が我流でカスタマイズすることは危険極まりないと言わざるを得ません。
法律の専門家である弁護士のアドバイスを受ける、または弁護士のリーガルチェックを受けて、自社に最適化された利用規約を作成することが最も確実な方法です。
また、社会情勢の変動に応じた法改正や裁判例の変更、行政の取締り方針の見直しなどを考慮し、利用規約を適宜アップデートできる体制を整えることも意識したいところです。
次の2.以下では、本記事執筆者がこれまでに多数の利用規約の作成やリーガルチェックを取扱うことで得られた知見等を踏まえ、サービス類型ごとで、自社用の利用規約に定めておくべき条項とテンプレートにある条項とで矛盾抵触しやすい典型事例を挙げていきます。
2.ネット通販(ECサービス)のテンプレート利用規約を用いる場合の注意事項
(1)返品ポリシー
第13条 商品の返品、交換並びに注文の撤回及び取消し
1 当社は、以下の各号の何れかに該当する場合に限り、商品の返品を受け付けます。 (1号から3号まで省略) (4)以下のいずれにも該当しない場合であって、かつ、利用者が商品受領後7日以内に当社が別途定める手順に従い返品の申請を行った場合。但し、返品申請がなされた日から7日以内に当社に商品が到着しない場合、返品することができません。 ①使用済み、お直し、洗濯又はクリーニングされた場合 ②商品タグ又はラベルが切り離された又は紛失された場合 ③返送時の商品(箱、商品の付属品を含みますが、これらに限りません。)の状態がお届け時と比べて毀損、汚損又は紛失その他劣化している場合 ④商品に臭いが付着、汚れ又はキズが生じた場合 ⑤パッケージが商品の一部となっている商品について、パッケージが開封された場合 ⑥下着、水着、靴下その他肌に直接触れる商品、化粧品その他の衛生商品、福袋、フィギュア、雑誌、ギフトラッピングを利用した商品又は本サイトにおける販売ページ上に「返品・交換対象外」の記載がある商品の場合 |
(ZOZOTOWNサービス利用規約より引用)
上記条項はテンプレートではないのですが、解説用資料として引用しています。
さて、消費者向けネット通販(ECサービス)の場合、特定商取引法の適用を受けるため、ユーザ都合による返品を受け付けるのか、受け付ける場合はどのような条件を設けるのか明らかにする必要があります。
この点、ZOZOTOWNはユーザに一定の配慮を示して、ユーザ都合による返品を受け付けていますが、中小の事業者の場合、ユーザ都合による返品をいちいち受け付けると事業が成り立たなくなる恐れがあります。このため、一切ユーザ都合による返品を受け付けないという事業戦略を採用する場合があるところ、自社用の利用規約として用いたテンプレートには返品規定があることに気が付かず、いざユーザからの返品申込みがあった際に、どうにかして拒絶できないかというご相談事例が後を絶ちません。
実際のところは拒絶することは大変難しいのですが、根本的な原因は、事業者がテンプレートの内容をよく確認しなかった点にあると言わざるを得ません。
ネット通販(ECサービス)向け利用規約のテンプレートを参照する場合、返品ポリシーが自社の方針に合致するのか必ず確認したいところです。
(2)キャンペーン・特典
ネット通販(ECサービス)は、いかにしてユーザを囲い込むのかが重要な経営課題とされています。この点、近時はポイント発行を行う事業者が多いため、一般に公開されているテンプレートでも現金に換えて支払いに用いることができるポイントの取扱いについて、何らかの規定が設けられていることが多いようです。
もっとも、法律上はポイントを発行する義務などありませんので、自社ECサイトではポイントを発行しないという運営方針をとることは当然可能です。
このような運営方針であるにもかかわらず、自社用の利用規約として用いたテンプレートにポイント発行規定がある場合、ユーザからのポイント発行に対する問い合わせ等に適切な対応をとることは困難です。場合によっては口コミ等でたちまち悪評が広がり、事業継続が困難な状態に追い込まれる可能性さえあります。
ネット通販(ECサービス)向け利用規約のテンプレートを参照する場合、自社が採用していないキャンペーン・特典に関する規定がないか必ず確認したいところです。
(3)決済方法
ネット通販(ECサービス)では、多種多様な決済方法に対応することで顧客の利便性を高めることが経営課題とされています。このため、一般的に公開されているテンプレートでは、クレジットカードは当然のこととして、電子マネーや仮装通貨、デビットカード、振込用紙による後払いなどを想定した規定が設けられていることが多いようです。
もっとも、多種多様な決済手段に対応することは手間・労力・費用の負担増となりますので、自社ECサイトでは決済手段を絞り込むという運営方針をとることは有り得る話です。
このような運営方針であるにもかかわらず、自社用の利用規約として用いたテンプレートに非対応の決済手段に関する規定がある場合、ユーザとのトラブルや未回収事案が発生することになりかねません。
ネット通販(ECサービス)向け利用規約のテンプレートを参照する場合、自社が対応していない決済手段に関する規定がないか必ず確認したいところです。
上記以外にも、自社が取扱う商品・サービスを念頭に置いた内容となっているか、サポート体制・対応時間に相違がないか、賠償責任・免責事項に関する考え方が自社ポリシーと合致するか、利用規約とプライバシーポリシーとに矛盾抵触がないか等の注意点があります。
3. プラットフォーム(マッチングなど)のテンプレート利用規約を用いる場合の注意事項
(1)清算ルール(プラットフォーマーの役割・立ち位置)
第14条 販売手数料等及び売上申請
(1項省略) 2. 引出申請 取引完了となった場合、弊社は、その旨をメルペイ社に通知するものとし、出品者(メルペイ残高ユーザに該当する方は除くものとします。)は、当該取引完了時から 180 日以内に、メルカリアプリにおける所定の手続により、加盟店規約に基づき、売上金の引出請求をメルペイ社に対して行うものとします。 |
(メルカリ利用規約より引用)
上記条項はテンプレートではないのですが、解説用資料として引用しています。
さて、ユーザ間のマッチングを実現するプラットフォームサービスの場合、ユーザ間での取引決済の便宜又はトラブル防止のため、エスクロー決済をはじめとしたプラットフォーマーによる介在があることが多くなっています。もっとも、法律上は、ユーザ間での直接決済を行うことは問題ありませんし、プラットフォーマーが介在する義務などありません。このため、ユーザ間の決済に関し、プラットフォーマーがどこまで関与するのか、関与した場合の清算ルールにつき明らかにする必要があります。
この点、メルカリでは、ユーザ間の決済に介在することを前提に、ユーザが180日以内にメルカリ側が預かっている売上金の支払い請求を行わない限り、支払い請求権が失効する場合があることを定めています。ただ、これは1つの考え方に過ぎず、事業者によっては失効期間を調整することもあれば、そもそもエスクロー決済等を採用しないという判断もあり得ます。
色々な戦略がある中で、プラットフォーム用の利用規約のテンプレートを参照する場合、ユーザ間の取引により発生した金銭の清算ルールをはじめとした、プラットフォーマーの役割や立ち位置につき、自社の方針に合致するのか必ず確認したいところです。
(2)ユーザの登録条件
プラットフォームサービスを展開する上で、好ましくないユーザをどのようにして排除するのかが重要な経営課題とされています。この登録条件については様々な内容が考えられるところ、一般に公開されているテンプレートでも何らかの規定が設けられていることが多いようです。
この点、自社プラットフォームサービスの性質に応じて、例えば、未成年者は登録できない、外国籍は登録できない、性別によっては登録できないといった運営方針をとることも原則可能です。
このような運営方針であるにもかかわらず、自社用の利用規約として用いたテンプレートに登録除外条件が規定されていない場合、ユーザより登録申請があった場合に拒絶することが難しくなります。そして、適切な対応ができなかった場合は、差別的であるとして炎上騒ぎに発展し、事業遂行に支障を来すといった事態にもなりかねません。
プラットフォームサービス用の利用規約のテンプレートを参照する場合、自社が採用する登録条件に関する規定が必要十分かを確認したいところです。
(3)禁止事項
プラットフォームサービスを展開するに当たり、ユーザをいかにしてリピーターに育成していくかが重要な経営課題とされています。そこで、プラットフォームサービスでつながったユーザ間での直接取引を禁止し、必ずプラットフォームを通じた取引を強制するといった規定が、一般に公開されているテンプレートでは設けられていることが多いようです。
もっとも、自社プラットフォームの差別化要因として、直接取引をするか否かはユーザの判断に任せるといった訴求を行うこともあり得る経営判断です。
このような経営判断を行っているにもかかわらず、自社用の利用規約として用いたテンプレートではユーザ間の直接取引を禁止し、一定の制裁を科すといった規定が設けられている場合、マーケティング用の訴求内容と矛盾するためユーザより不信感を買う事態となります。そして、場合によっては、レピュテーションが著しく悪化し、事業継続が困難になるといったことにもなりかねません。
プラットフォームサービス用の利用規約のテンプレートを参照する場合、自社が採用する許容事項(取引ルール)と合致しているのか確認したいところです。
上記以外にも、プラットフォーム内で想定している取引内容を念頭に置いた規定となっているか、ユーザ間でトラブルが発生した場合の解決手段に矛盾が生じていないか、ユーザより取得するデータの利用方法・保存条件・開示方針などが自社ポリシーと相違ないか、サービス停止や終了に関する条件に不備がないか、責任の所在・分担・内容につき法的適合性があるのか等の注意点があります。
4. コンテンツ提供(ゲームなど)のテンプレート利用規約を用いる場合の注意事項
(1)課金・支払い条件
第6条 利用料金等
1.ユーザは、本サービスのうち有料サービスを利用する場合には、利用料金等を支払うものとします。 (2項省略) 3.当社は、当該月に係る利用料金等を、その翌月以降に請求する場合があります。 (4項から6項省略) 7.お支払いただいた利用料金等は、ユーザが当該利用料金等に係る期間の途中でユーザ登録を解除し本サービスの利用を終了された場合においても、その理由の如何を問わず、一切返金を行わないものとします。 |
(ドラゴンクエストⅩ利用規約より引用)
上記条項はテンプレートではないのですが、解説用資料として引用しています。
さて、ゲームコンテンツの課金方法としては、パッケージソフトの買い切りパターン、サブスクリプションとして毎月課金するパターン、原則無償でプレイ可能としつつ強化アイテム等を欲する場合は課金するといったパターンがあります。自社が提供するコンテンツサービスによってマネタイズ化するためには、適切な課金戦略を練ることが重要な経営課題となります。
この点、ドラゴンクエストⅩは毎月課金するパターンを採用しているのに対し、ドラゴンクエストⅩ以外のドラゴンクエストシリーズは買い切りパターンのようです。このように同一タイトルであっても、コンテンツ提供会社は戦略的に課金方法を選択していることが見て取れます。
様々な課金方法がある中で、コンテンツ提供用の利用規約のテンプレートを参照する場合、ユーザからの利用料金徴収方法や条件につき、自社の方針に合致するのか必ず確認する必要があります。
(2)知的財産権の取扱い
コンテンツ提供サービスを展開する上で、ユーザによるコンテンツ利用をどこまで許容するのかが重要な経営課題とされています。そして、一般に公開されているテンプレートでも、知的財産権の帰属やライセンス等につき何らかの規定が設けられていることが多いようです。
この点、自社が提供するゲームコンテンツについて、ゲームの実況配信やキャラクターの二次創作を認めることでコアなファンを獲得するという経営方針をとるのであれば、ユーザに対して知的財産権のライセンス供与を積極的に行うことになります。
ところが、自社用の利用規約として用いたテンプレートに、ユーザがゲームをプレイする目的外での利用は認めないと規定されていた場合、ファン獲得が難しくなり経営に打撃を与えることにもなりかねません。
コンテンツ提供用の利用規約のテンプレートを参照する場合、自社が考える知的財産権のライセンスポリシーに関する規定と合致しているか十分に確認する必要があります。
(3)未成年者による利用
コンテンツ提供サービスを展開する上で、未成年者の利用を認めるのか、認めるとして条件を設定するのか等の対策を練っておくのが重要な経営課題とされています。そして、一般に公開されているテンプレートでも、年齢制限などの規定を設けていることが多いようです。
ところで、自社が提供するコンテンツの利用者について未成年者の利用は認めつつも、課金の上限額を設定することで未成年者の保護を図るといった経営戦略をとることも考えられます。
そうであれば、自社用の利用規約として用いたテンプレートに、年齢制限を定めるのは矛盾となります。一方で課金の上限額につきテンプレートで触れていないのであれば、未成年者対策が不十分であるとして社会的非難を浴びかねません。
コンテンツ提供用の利用規約のテンプレートを参照する場合、自社が考える未成年者対策が反映されているのか十分に確認する必要があります。
上記以外にも、提供するコンテンツを念頭に置いた規定となっているか、ユーザに課したい禁止事項や制裁措置が定められているか、コンテンツ提供中止・中断に関する条件や免責内容が自社の考えに沿うものか、想定する利用ユーザに適用可能な法令を選択しているか(準拠法の問題)等の注意点があります。
5.ソフトウェアサービスのテンプレート利用規約を用いる場合の注意事項
(1)サービス提供形態
[2]サービスの内容
1.お客様は、インターネット環境を通じ、JBCCまたはサービス提供者が別途メール等の方法により通知・指定するクラウド環境にアクセスして、対象ソフトウェアの機能を使用、表示、基本実行、その他のやりとりを行い業務処理のために利用することができます。 |
(楽楽精算サービス約款より引用)
上記条項はテンプレートではないのですが、解説用資料として引用しています。
さて、ソフトウェアサービスの提供形態は、近時はクラウド・SaaSが多いですが、オンプレミスやスタンドアロン形態もまだまだ存在しますので、自社のソフトウェアサービスはどのような形態で提供されるのか明らかにする必要があります。
この点、楽楽精算サービスはクラウドサービスであることが明記されています。
しかし、仮に自社のソフトウェアサービスがオンプレミスの場合、クラウドサービスを前提にした利用規約を用いるわけにはいきません。
複数のソフトウェアサービス提供形態があり得る状況下で、ソフトウェアサービス用の利用規約のテンプレートを参照する場合、提供形態について、自社の提供形態に合致するのか必ず確認する必要があります。
(2)アップデート、機能の修正・追加・廃止
ソフトウェアサービスは、バグや不具合対応、社会情勢の変化等に応じて、アップデートや機能の修正・追加・廃止等を断続的に行うことで、ユーザを維持することが重要な経営課題となっています。そのため、一般に公開されているテンプレートでも、アップデートの頻度、修正や追加された機能の利用条件、機能廃止に伴う補償の有無等につき何らかの規定が設けられていることが多いようです。
この点、自社が提供するソフトウェアサービスについて、アップデートは行わない、新機能は別途費用が発生する等の条件がある場合、その旨利用規約に明記する必要があります。
ところが、自社用の利用規約として用いたテンプレートに、アップデートは必要に応じて行う、機能の修正・追加・廃止に要するユーザ負担なしと規定されていた場合、自社のサービスポリシーと乖離するため、複数のユーザと大きなトラブルとなり、自社のレピュテーションが著しく棄損されることにもなりかねません。
ソフトウェアサービスの利用規約のテンプレートを参照する場合、自社が考えるアップデート、機能の修正・追加・廃止に関するポリシーと規定内容が合致しているか十分に確認する必要があります。
(3)データ管理、バックアップ
SaaS形態でのソフトウェアサービスでは、ユーザによる利用データを収集することになることから、データの保存方法やバックアップ方針の明示が必須となります。このため、一般に公開されているテンプレートでも、データ保存の在り方やバックアップサービス等につき何らかの規定が設けられていることが多いようです。
もっとも、データを保存することやバックアップサービスを提供することは、法律上の義務ではありません。このため、自社が提供するソフトウェアサービスでは、データは保存しない、バックアップはユーザの責任で行う、データの消去については一切関知しないといった取引条件を設定することも可能です。
ところが、自社用の利用規約として用いたテンプレートに、データを保存すること、バックアップサービスを提供することが規定されていた場合、自社が設定する取引条件と全く異なるため、後でユーザより損害賠償を含めた法的責任の追及を受けることになりかねません。
ソフトウェアサービスの利用規約のテンプレートを参照する場合、自社が設定するデータ管理方針と規定内容が合致しているか十分に確認する必要があります。
上記以外にも、提供するソフトウェアサービスを念頭に置いた規定となっているか、サポート体制が現実を無視した内容となっていないか、ユーザライセンスの範囲・条件に相違がないか、SLAに誤りや虚偽がないか、料金プランや決済方法が異なっていないか、解約条件が自社ポリシーと矛盾しないか等の注意点があります。
6.テンプレートの利用規約を使用する場合に弁護士に相談するメリット
テンプレートの利用規約を用いる場合に弁護士に相談することには、次のような具体的なメリットがあります。
これらのメリットは、リスクの軽減やサービス運営の安定化に直結します。
①自社サービスへの適合性の確認と調整
上記1.で指摘し、上記2.から5.までで具体的内容を解説しましたが、一番のメリットは、弁護士が、自社のサービス内容やビジネスモデルを理解したうえで、テンプレートを適切にカスタマイズできることが挙げられます。
これにより、自社サービスに合わない条項や不足している項目を補完できます。
②法律や規制への適合性の確認
テンプレートが法改正や地域特有の規制に対応していない場合、弁護士が必要な修正を行い、法的リスクを軽減することができます。
③リスクの特定と対応策の明確化
弁護士が関与することで、自社サービスに特有の法的リスクを洗い出し、それに対応する条項をテンプレートに追加し、リスクの発生を未然に防ぐことが可能となります。
④競合との差別化と信頼性の向上
テンプレートを単に流用するのではなく、弁護士による監修を受けた利用規約を作成することで、他社との差別化を図ることができ、ユーザや取引先からの信頼性向上が可能となります。
⑤トラブル時の迅速な対応準備
利用規約を弁護士が作成・確認している場合、実際に紛争やトラブルが発生した際に、弁護士がどの条項が適用され、何がポイントになるのか事前に把握できているので、迅速な対応を受けることが可能となります。
7.当事務所でサポートできること
当事務所では、多種多様な利用規約の作成及びリーガルチェックを日常業務として取り扱っています。このため、実例を踏まえた数々の知見とノウハウを蓄積していますので、ご相談者様には経験に裏付けられたアドバイスをご提供することが可能です。
そして上記に加え、当事務所はさらに次のような特徴を有しています。
①専門知識に基づく理解:当事務所の代表弁護士は情報処理技術者資格を保有し、インターネットビジネスに潜む独特のリスク等を把握しています。このため、相談しても弁護士が理解できない・理解するまで時間がかかるといった問題が生じません。
②カスタマイズされたサポート:企業の規模や業種に応じた法的サポートを提供し、それぞれのニーズに合わせた柔軟な対応が可能です。
③早期解決を目指す交渉力:トラブルが発生した場合、法廷外での早期解決を目指した交渉に尽力します。
テンプレートの利用規約をカスタマイズすることで、ご相談者様につきまとうリスクをできる限りゼロに近づけ、自社サービスの更なる飛躍につなげるべく、当事務所の弁護士が全力でサポートします。
利用規約の作成及びリーガルチェック、利用規約の適用の仕方や解釈法につきお困り事や悩み事があれば、是非当事務所までご相談ください。
<2025年1月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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