競業禁止・競業避止義務に基づく損害賠償請求の注意点
Contents
ご相談内容
当社関係者が、当社と競業する事業を開始し、当社の顧客に積極的な営業活動を行うことで顧客を奪取し、当社に損害が生じる事態となっています。
競業行為を行っている者に対して損害賠償請求を行いたいのですが、可能なのでしょうか。
回答
競業行為者に対して損害賠償請求を行う場合、まずは競業行為者がご相談者様に対し、競業禁止・競業避止義務を負っているのかを検討する必要があります。
義務を負担していることが確認できた場合、ご相談者様においてどのような損害が生じているのか、その損害が法律上の損害といえるのか、損害額をいくらと算定するのか、次に検討する必要があります。
これらの検討を経て、競業行為者に対する損害賠償請求が認められることになりますが、競業禁止・競業避止義務は、複雑な法解釈論があり一筋縄ではいきません。
以下の【解説】では、競業行為者の属性に応じて解説します。
解説
1.競業禁止・競業避止義務とは
競業禁止義務または競業避止義務とは、事業者と一定の関係にある者が、その事業者と競業関係になることを控える義務のことをいいます。この競業禁止・競業避止義務には、自ら競業事業を行う場合、競業する他の事業者に就職すること、競業する他の事業者の利益になる行為を含む場合があります。
競業禁止・競業避止義務が発生する場面としては、その法的地位に基づき法律が義務を課している場合もあれば、当事者間の合意に基づき義務が発生する場合、事情に応じて信義則を根拠に義務が発生する場合などが考えられます。
2.競業禁止・競業避止義務違反になる場面
競業禁止・競業避止義務に基づき損害賠償請求を行うためには、相手方が競業禁止・競業避止義務を負っていることが大前提となります。
競業禁止・競業避止義務を負担しているか否かについては、次の通り、相手方の属性に応じて検討する必要があります。
(1)従業員
a)在職中
従業員のうち、「支配人」に該当する者は法律上当然に競業禁止・競業避止義務が課せられます。
ちなみに、ここでいう「支配人」とは、事業者(使用者)が付した肩書で判断されるものではありません。形式面では登記が必要であり、実質面では営業所等において営業・事業の全般を行う主任者であることが要件となります。
【会社法第12条第1項】
支配人は、会社の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。
①自ら営業を行うこと。 ②自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること。 ③他の会社又は商人(会社を除く。第24条において同じ。)の使用人となること。 ④他の会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。 |
支配人に該当しない従業員は、競業禁止・競業避止義務を定めた法律が存在しません。しかし、裁判例を通じて、競業禁止・競業避止義務を負担するという解釈が固まっていますので、法解釈上当然に負担するといえます。
例えば、次のように述べる裁判例が存在します。
【東京地方裁判所令和元年5月28日判決】
一般に、被用者は、使用者の正当な利益を労使間の信頼関係に反するような態様で侵害してはならないという雇用契約上の付随義務ないし信義則上の義務を負い、競業避止義務を負うというべきところ、被用中に競業取引を行って使用者の正当な利益を害した場合は、雇用契約上の付随義務ないし信義則上の義務違反として、民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負うというべきである。 |
b)退職後
在職中は、上記a)で記載した通り、従業員は当然に競業禁止・競業避止義務を負担します。しかし、退職後は雇用契約が存在しない以上、競業禁止・競業避止義務を負担するいわれはありません。
したがって、退職後であれば、従業員は競業禁止・競業避止義務を負担しないことになります。
もっとも、秘密情報の漏洩防止などの観点から、事業者と従業員との間で別途合意を行い、従業員に競業禁止・競業避止義務を負担させる場合があります。ただ、従業員の職業選択の自由の観点からの考慮が必要となるため、合意さえすれば常に従業員に競業禁止・競業避止義務を負担させることが可能という訳ではないことに注意が必要です。この点については後述第4で触れます。
なお、合意書を取り付けるのではなく、就業規則に退職後の競業行為を禁止する旨定めておくことで代用できないかというご相談を受けることがありますが、裁判例は判断が分かれていますので、確実を期すのであれば合意書を取り付けた方が良いと考えられます。
(2)取締役
a)在任中
取締役として在任している期間中は、法律上当然に競業禁止・競業避止義務を負います。
この点、法律は競業禁止・競業避止義務を負担することを前提に、取締役が競業行為を行う場合に必要機関から事前承認を取得する必要がある旨定めています。
【会社法】
第356条第1項
取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。 ①取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。 (2号以下省略)
第365条第1項 取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。 |
(注)会社法第356条は取締役会を置かない会社、会社法第365条は取締役会設置会社に関する規定
b)退任後
退任後は会社との準委任契約がない以上、取締役は当然に競業禁止・競業避止義務を負担することにはなりません。
もっとも、経営情報の流用防止などの観点から、事業者と取締役との間で別途合意を行い、取締役に競業禁止・競業避止義務を負担させる場合があります。ただ、取締役の営業の自由の観点からの考慮が必要となるため、合意さえすれば常に取締役に競業禁止・競業避止義務を負担させることが可能という訳ではないことに注意が必要です。この点については後述第4で触れます。
(3)執行役員
a)在任中
そもそも「執行役員」という用語自体が法律上定められていません。このため、各事業者において執行役員の地位・役割が異なるのですが、雇用契約であれば、前述2.(1)の考え方に従い、競業禁止・競業避止義務を負担することになります。
一方、準委任契約の場合、執行役員は善管注意義務(民法第644条)を構成する具体的な義務の1つとして、競業避止義務を負担すると解釈されています。
以上のことから、根拠に相違が生じるとはいえ、在任中の執行役員は競業禁止・競業避止義務を負担するという結論に変わりはありません。
b)退任後
執行役員を従業員に近づけて考えるのか、取締役に近づけて考えるのかはさておき、事業者との契約がない以上、当然に競業禁止・競業避止義務を負担するいわれはないこと、従業員及び取締役の場合と同様です。
そして、別途合意により競業禁止・競業避止義務を負担する場合があるものの、職業選択の自由又は営業の自由の観点から常に負担させることが可能という訳ではないことも同様です。
(4)取引先
事業者間での取引の場合、「契約自由の原則」という考え方が妥当しますので、取り決めが無いのであれば、原則として取引当事者が競業禁止・競業避止義務を負担することはありません。
ただし、次のような例外があります。
①法令上の定めがある場合
代表的なものは、事業譲渡における譲渡人に対する競業禁止・競業避止義務です。
【会社法第21条】
1. 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない。
2. 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から30年の期間内に限り、その効力を有する。 3. 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。 |
②取引当事者間で別途競業禁止・競業避止義務に関する合意をした場合
例えば、フランチャイズ契約では、フランチャイズの対象となる事業と同一又は類似する事業を行うことを加盟者に禁止する旨の特約を設けることが通常です。また、共同研究開発契約であれば、取引当事者以外の第三者との間で同一目的の研究開発を禁止する旨の特約を設けることが多いようです。さらに、OEM契約の場合、対象製品と同一又は類似する製品の製造販売を受託者に対して禁止するといった特約を定める場合があります。
これらの合意ですが、従業員や取締役とは異なり、(建前論としては)対等な取引当事者間での合意である以上、競業禁止・競業避止義務を負担する側の営業の自由を考慮する要請は小さく、合意があれば競業禁止・競業避止義務を負担させることは原則可能と考えられています(なお、優越的地位の濫用など独占禁止法違反が認められ、かつ民法第90条に定める公序良俗違反といえる場合は、合意内容が否定される場合もありますが、適用範囲は狭いと考えられます)
(5)フリーランス
フリーランスであることを理由に、当然に競業禁止・競業避止義務を負担するという法律は存在しません。
したがって、取引当事者がフリーランスと合意することで、フリーランスに対して競業禁止・競業避止義務を負担させることは原則可能です。
もっとも、フリーランスは相対的に取引弱者に該当するため、あまりに一方的かつ強度な競業禁止・競業避止義務である場合、独占禁止法上の観点からその有効性に影響を及ぼす可能性があります。また、2024年内に施行予定のフリーランス新法の解釈やガイドラインの内容によっては、フリーランスとの競業禁止・競業避止義務に関する合意に対して、一定の制限が課せられる可能性もありますので、注意を要します。
3.競業禁止・競業避止義務違反による損害賠償
(1)実務で損害賠償請求が難しい理由
前述2.で記載した根拠に基づき、当事者が競業禁止・競業避止義務を負担している場合、その義務に違反して競業行為を行った場合は、契約違反(債務不履行)又は不法行為が成立します。したがって、損害賠償請求は法的には可能という結論となります。
しかし、現場実務では、なかなか思ったような損害賠償請求が認められていないのが実情です。これは、①特に合意を根拠とする競業禁止・競業避止義務の場合、裁判所が法解釈論により義務を無効と判断する場合があること、②法律上の損害の立証ができていないこと、③損害額の立証ができていないこと、が要因と考えられます。
このうち、①については後述4.で触れますので、ここでは②と③につき解説します。
(2)法律上の損害の立証
「法律上の損害」というと分かりづらいかと思います。
ここでは、①具体的な損害項目をピックアップした上で、②その損害項目のうち、相当因果関係という法律上のフィルターを通過した損害項目のことを「法律上の損害」とイメージして頂ければと思います。
例えば、①については、競業行為により取引先が奪取されたことで余剰在庫を抱え、仕方なく商品を廃棄したというのであれば、商品処分費という損害項目をピックアップすることが可能です。
また、競業行為により取引先が混乱し、多数の問い合わせが殺到したことで業務時間が伸びたというのであれば、増加人件費という損害項目をピックアップすることが可能です。
あるいは競業行為により取引が無くなってしまったことで、余剰人員が発生した場合は、円満に退職してもらうために要した人員整理費(退職金の上乗せ等)という損害項目をピックアップすることが可能です。
さらには、競業行為により休業を余儀なくされたというのであれば休業損害が、競業行為がなければ得られたであろう逸失利益が、競業行為によるグタグタ劇で取引先の信用を失ったというのであれば信用棄損が、競業行為に対する一連の対応を弁護士に依頼したいのであれば弁護士費用が、それぞれ損害項目としてピックアップすることが可能です。
次に、ピックアップした損害項目に“相当因果関係”と呼ばれる法的フィルターを通すことになるのですが、これは正直なところ、専門家である弁護士でも判断に迷うことがありますので、法律に必ずしも明るくない方が判断するのは至難の業です。
例えば、上記のうち商品処分費について検討した場合、仮に取引先が奪取されなかったとしても本当に商品を確実に売却できたといえるのか、新たな取引先を開拓することで商品を売却することができたのではないか、今売れなくても将来売ることができたのではないか等々の疑問が生じます。この結果、競業行為があったから損害(商品処分費)が生じたとは必ずしも言えないとして相当因果関係が否定され、法律上の損害に該当しないと判断することになります。
あるいは信用棄損について検討した場合、自由競争が認められている社会環境下では、取引先に対してアプローチする同業他社はごまんといるのであって、たまたまアプローチした同業他社が競業禁止・競業避止義務を負担する者であったとしても、殊更害意ある態様で営業活動が行われていないのであれば、競業行為によって社会的信用が低下したとは言い難いとして相当因果関係が否定され、法律上の損害に該当しないと判断することも有ります。
法律上の損害については、専門家である弁護士と十分に議論しながら、ある程度時間をかけて検証することをお勧めします。
(3)損害額の立証
上記(2)で記載した「法律上の損害」が認められた場合、項目ごとの損害につき金銭評価を行うことになります。
ただ、この金銭評価も非常に難しい問題があります。
例えば、逸失利益を念頭に置いた場合、
・利益とは何を指すのか(売上利益・営業利益・経常利益・純利益といった決算上の利益概念と同等に考えてよいのか、それとも限界利益といった管理会計の概念を採用するべきではないか等)
・競業行為によって取引先が奪取されなかったとしても、いつまでその取引先と確実に取引が継続できていたといえるのか
・当方の営業回復措置(人員配置、取引先開拓など)が不十分であった場合は斟酌されるのか
・確実な損害額を算出することが困難な場合はどうなるのか(奪取されていなかった場合、取引先である元請より確実に注文はあると予想されるものの、工事現場によって発注額が変動する場合など)
といった事項を検討する必要があります。
これについても、専門家である弁護士と協議しながら、必要十分な検証を行うことをお勧めします。
4.競業禁止・競業避止義務違反を防ぐためには
(1)法律上当然に競業禁止・競業避止義務が発生する場合
在職中の従業員、在任中の取締役及び執行役員、事業譲渡の譲渡人は、法律上当然に競業禁止・競業避止義務を負担しているのですが、そもそも該当者がこの義務を認識していないということが多いようです。
したがって、競業禁止・競業避止義務違反を防ぐためには、この義務を負担する該当者に対しして指導教育を行い、しっかり認識させることが重要となります。
指導教育は色々な方法がありますが、①実際の裁判例などを題材にし、違反した場合の(悲惨な)顛末を説明することでインパクトを与えること、②喉元過ぎれば熱さを忘れる…がありますので、反復教育の実施により記憶に残るようにすること、③社内監視体制の存在を該当者に告知することで、常に緊張感を持たせること、を意識すれば実効性が上がると思われます。
(2)合意により競業禁止・競業避止義務が発生する場合
一個人である従業員・取締役・執行役員と、ビジネス上の取引先とでは考え方が異なるため、以下では分けて検討します。
a)退職後の従業員、退任後の取締役・執行役員
これらの者は、法律上当然に競業禁止・競業避止義務を負わず、別途合意することで競業禁止・競業避止義務を負う場合があること、上記2.(1)~(3)で記載した通りです。もっとも、職業選択の自由及び営業の自由の観点から、当該合意が常に有効として扱われるわけではありません。
したがって、競業禁止・競業避止義務違反を防ぐためには、法的有効性を担保する合意内容とすることが必要です。
この点、裁判例の傾向を踏まえると、合意内容の有効性は次の事項を考慮しながら判断されると考えられます。
①使用者(事業者)の利益
②退職者・退任者の地位 ③禁止範囲(期間、地域、業務内容・対象) ④代償措置 ⑤その他事情 |
「①使用者(事業者)の利益」とは、営業上・技術上の情報の保護、独自ノウハウの保護などが該当します。不正競争防止法上の営業秘密に該当する必要性はありませんが、一定程度のオリジナリティ性が求められると考えられます。
この使用者(事業者)の利益が高度であればあるほど、職業選択の自由・営業の自由を後退させてもやむを得ず、合意は有効であるという判断に傾きやすくなります。
「②退職者・退任者の地位」ですが、例えば、営業上・技術上の情報や独自ノウハウ等に触れる機会が多い者であれば、競業禁止・競業避止義務を課す必要性が高いといった考慮要素として機能します。
一般的には、高い職位にある者に対しては競業禁止・競業避止義務を課す必要性が高い、末端の平社員やパート・アルバイト等の非正規職員であれば必要性は低いという結論になりがちです。しかし、形式的な地位だけで判断される訳ではなく、使用者(事業者)の利益に接触できるのかという実質面が重要となります。
「③禁止範囲(期間、地域、業務内容・対象)」は、例えば、5年も拘束するのは長すぎるので合意無効とされやすい、日本全国での活動を制限するのは広範すぎるので合意無効とされやすい、使用者(事業者)が取扱う業務以外(関連業務、付随業務を含む)をも対象とするのは制限が強すぎるので合意無効とされやすい、といった個別事情を考慮する要素として機能することになります。
あくまでも個別事情を考慮するので、一律の基準を示すことは難しいのですが、一般的には2年を超えて競業行為を禁止することは有効性に疑義が生じる、使用者(事業者)の活動地域外まで競業行為を禁止することは有効性に疑義が生じる、使用者(事業者)の業務範囲には含まれるものの、義務対象者が実際に従事していない業務まで競業行為を禁止することは有効性に疑義が生じると言われています。
「④代償措置」は、文字通り、競業禁止・競業避止義務という不利益を課す代わりに、何らかの便益を提供するというものであり、近時の裁判例は、合意の有効性判断に当たり、この代償措置の有無を重視していると言われています。
典型例は退職金の上乗せ措置ですが、在職・在任中の賃金・報酬が著しく高額であることをもって代償措置を講じたと認定している裁判例も存在します。
「⑤その他事情」は、ケースバイケースで様々な事項が考えられます。
なお、近時は、競業避止義務を課す合意書へのサインがあるものの、本当に従業員等の自由な意思に基づいてサインされたといえるのか、という点で争いが生じることが増えているようです。
b)取引先
従業員・取締役・執行役員は一個人に過ぎず(相対的には)弱者に当たりますので、その保護の要請が強くなる結果、職業選択の自由・営業の自由への配慮が重視されます。しかし、取引先の場合、対等な立場においてビジネス交渉を行う以上、営業の自由への配慮は後退します。この結果、競業避止義務を課す合意内容の有効性は、次の事項を考慮して判断されているようです。
①事業者の利益
②禁止内容と事業者利益達成との相関関係 |
「①事業者の利益」は、上記a)で記載した内容以外にも、顧客との関係維持、商圏の確保、品質維持、ノウハウ混在防止、研究開発や顧客開拓等の委託業務専念などといった、情報の保護だけではなく、経済的な利害損得に関する事情であっても含まれると考えられます。
「②禁止内容と事業者利益達成との相関関係」とは、事業者の利益を達成するために過度に広範な競業禁止を定めていないかという意味です。
例えば、商圏の確保であれば、現在および将来進出が予定されている商圏での競業行為を禁止すれば足り、進出予定のない商圏まで競業行為を禁止するのは行き過ぎであって、合意の有効性に疑義が生じるということです。
なお、フリーランスについても、筋論としてはここに記載した考え方で判断することになります。もっとも、フリーランス新法が施行され、運用されていく中で、どこまで労働者に近づけて考えていくのか議論が生じる可能性は否めません。この点は、今後の動向に注視する必要があります。
(3)違約金の設定
上記3.「競業禁止・競業避止義務違反による損害賠償」にて、法律上の損害の判断、損害額の算定など難題があることを解説しました。
この点を解決するべく、競業禁止・競業避止義務に違反した場合、一定の違約金支払い義務を予め定めておくことで対処できないかと考えられるかもしれません。
まず、取引先との間で、競業禁止・競業避止義務に違反した場合に一定の違約金支払い義務を定めておくことは原則有効と考えられます。もちろん、違約金があまりにも不合理である場合は公序良俗違反(民法第90条)として、全部又は一部が無効となる可能性はありますが、これは競業禁止・競業避止義務に限った話ではありません。一般的に合理的とされる違約金の設定方法を検証すれば足ります。
なお、取締役、準委任型の執行役員及びフリーランスについても、同様と考えられます。
次に、従業員の場合、在職中の競業禁止・競業避止義務違反に対して違約金を定めることは、労働基準法第16条に違反しますので、そもそも設定自体不可能です。
一方、退職後の従業員による競業禁止・競業避止義務違反に対して違約金を課すことは、形式的には雇用契約終了後の場面であるため、労働基準法第16条に違反するわけではありません。しかし、労働基準法第16条の趣旨が「従業員の退職の自由を奪うことを禁止する」という点にある以上、この趣旨に反する場合は違約金の設定は無効となる余地があります。
微妙な判断を伴いますので、専門家である弁護士に相談しながら、慎重に検証した方が良いと思われます。
(4)違反を放置しないこと
予防策・抑止策を講じたものの、残念ながら競業禁止・競業避止義務に違反する行為が確認できた場合、これを放置するのではなく、適時・適切に対応することを内外にアピールすることも重要です。
なぜなら、競業禁止・競業避止義務に違反しているにもかかわらず、使用者(事業者)が何ら対策を講じなかった場合、義務負担者に対して誤ったメッセージ(どうせ何もしてこない)を発信し、ますます競業禁止・競業避止義務の違反を招来することになるからです。また、従前まで何らの対策を講じていなかったにもかかわらず、今回のみ必要な対応を行った場合、「過去において黙示的に承認しており、今回だけ対応するのは不均衡である」といった反論を許すことにもなりかねないからです。
忙しいから、面倒だからといった怠慢で放置することは止めるべきです。
なお、検証の結果、競業禁止・競業避止義務に違反で法的措置を講じることが難しいという場面が生じるかもしれません。この場合であっても、相手方の行為が「自由競争の範囲を逸脱した行為」であれば、不法行為に基づく損害賠償請求を行う余地も出てきます。この辺りの議論については、専門家である弁護士とよく相談してほしいところです。
5.当事務所でサポートできること
当事務所では、有効性を担保しやすい競業禁止・競業避止に関する合意書の作成、合意書を締結するタイミング・時期のアドバイス、合意書を締結するに際しての交渉方法のコンサルティングなどの事前予防業務を多数取扱っています。
一方、競業禁止・競業避止義務違反に基づき法的請求を行う側、行われた側の双方の立場で複数の訴訟対応業務に従事しています。
当事務所では、これらの業務を通じて得られた知見とノウハウを活用し、ご相談者様に対して最良のサービスをご提供できるよう尽力しています。
競業禁止・競業避止義務に関するご相談があれば、是非当事務所までお声掛けください。
<2024年3月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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