景品表示法違反となる「おとり広告」とは?そのポイントを解説
【ご相談内容】
当社はネット通販を主力事業としていますが、今後は実店舗販売も手掛ける方針であるところ、今般、駅前の人通りの多い立地に旗艦店を立ち上げることになりました。
そこで、多くの顧客に来店してもらい、ついで買いを促すべく、ネット通販では入手できないプレミアム品の販売を計画しています。ただ、このプレミアム品を購入できる対象者は、既にネット通販利用者(会員)のみとする予定です。
プレミアム商品が購入できることを強調したチラシ案を作成したところ、印刷会社より、「プレミアム品の購入条件や数量について記載せず、単に強調するだけの広告の場合、おとり広告に該当するのでは」と疑義が出されました。
おとり広告とは何か、仮におとり広告に該当する場合、このチラシ案をどのように修正すればよいのかについて教えてください。
【回答】
プレミアム品につられて来店した顧客に対し、他の商品・役務を売りつけるという営業手法は、あまり褒められたものではありません。やり方によっては、悪徳商法とレッテルを貼られて、深刻な風評被害を招きかねないリスクの高い手法です。ただ、残念ながら、目先の利益を求めて上記のような営業手法をとる事業者は後を絶たないのが実情です。
そこで、景品表示法では、「おとり広告」に関する定めを置き、広告表示規制による被害防止を図っています。
上記の【ご相談内容】に記載した広告表示については、不当表示としてのおとり広告に該当する可能性が極めて高いものと言わざるを得ません。
本記事では、そもそも不当表示となるおとり広告とは何かを解説した上で、本件事例においてどのような点に注意して広告審査を行い、修正すればよいのかにつき、そのポイントを解説します。
【解説】
1.おとり広告の意義
(1)定義・趣旨
おとり広告ですが、一般的には、事業者において販売する気がないにもかかわらず、商品・役務を広告に掲載することで消費者を誘引し、当該商品・役務とは別の商品・役務を売りつけようとするマーケティング手法のことを言います。
ところで、この(広義での)おとり広告による表示のうち、景品表示法に基づき不当表示とされるものは、次の4類型と定められています。
一般消費者に商品を販売し、又は役務を提供することを業とする者が、自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を除く。)に顧客を誘引する手段として行う次の各号の一に掲げる表示
①取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示 ②取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 ③取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 ④取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示 |
さて、このおとり広告ですが、事業者が本来売りたいと考えている商品・役務は広告として表示されていない以上、優良誤認表示及び有利誤認表示は想定できません(なお、売る気がない商品・役務それ自体の広告表示に不当性があれば、当該商品・役務自体の不当性を別途検討することになります)。
もっとも、おとり広告により、一般消費者は当該広告対象となった商品・役務を購入できると誤認している以上、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害していることは明らかです。
そこで、優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)及び有利誤認表示(景品表示法第5条第2号)とは別に、内閣総理大臣が指定する表示(景品表示法第5条第3号)の1つとして、おとり広告が制定されています。
(2)違反した場合の効果
事業者が行っている広告表示が、おとり広告であり不当表示に該当する可能性があると消費者庁が判断した場合、消費者庁は事業者に対し調査を実施します。
この調査を踏まえ、不当表示と断定はできないものの何らかの問題ありと消費者庁が判断した場合、事業者は指導措置を受けることになります。
一方、不当表示であると消費者庁が判断した場合、事業者は、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる措置命令を受けます。なお、措置命令を受けたことは公表対象となることから、事実上風評被害等を受けることになります。
なお、課徴金納付命令の対象にはなりません(景品表示法第8条第1項)。
(3)おとり広告規制と合わせて押さえておくべき関連事項
上記(1)で記載した通り、おとり広告は景品表示法第5条第3号に基づく内閣総理大臣の指定があるのですが、不動産についてはこれとは別に内閣総理大臣の指定が定められています。
また、現場実務的には、特定業種ごとに定められている公正競争規約が存在する場合、その内容を押さえておくことも重要です(例えば、自動車、家庭電気用品、旅行業などでおとり広告に関する公正競争規約が存在します)。なぜなら、事業者が業界団体に属していなかったとしても、消費者庁が不当なおとり広告であると判断するに際しては、公正競争規約を参照しているからです。
どの業種で公正競争規約が存在するのか等については、次の消費者庁のWEBより確認してください。
(4)注意点
おとり広告と似て非なるものとして、“おとり廉売”というマーケティング手法があります。
これは、特定の商品・サービスを原価割れで提供することで消費者を誘引し、別の商品を購入させようとするものです。原価割れとはいえ当該商品・サービスを提供する以上、おとり広告に該当しません(おとり広告は、そもそも広告対象となった商品・役務を売る気が無く、いわば存在しない商品・役務という点で相違があります)。
もっとも、不当廉売(独占禁止法第2条第9項第3号など)という別問題が生じ得ますので、この点は要注意です。
また、後記3.(2)で触れますが、おとり広告を含む広告表示を行った場合、優良誤認表示や有利誤認表示が必ずと言っていいほど付きまとってきます。現場実務での広告チェックの際は、おとり広告だけに引っ張られることがないよう注意したいところです。
2.おとり広告の類型
景品表示法に基づく不当表示とされるおとり広告には4類型があること、前述1.(1)の通りです。類型ごとで確認しておきたいポイントを解説します。
(1)取引に応じられない場合
取引の申出に係る商品又は役務について、取引を行うための準備がなされていない場合その他実際には取引に応じることができない場合のその商品又は役務についての表示 |
これは読んで字の如くであり、広告表示に用いた商品・役務がそもそも存在しないので不当表示になるという類型です。
ちなみに、「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」では、「取引を行うための準備がなされていない場合」の具体例として、次のようなものを記述しています。
・当該店舗において通常は店頭展示販売されている商品について、広告商品が店頭に陳列されていない場合
・引渡しに期間を要する商品について、広告商品については当該店舗における通常の引渡期間よりも長期を要する場合
・広告、ビラ等に販売数量が表示されている場合であって、その全部又は一部について取引に応じることができない場合
・広告、ビラ等において写真等により表示した品揃えの全部又は一部について取引に応じることができない場合
・単一の事業者が同一の広告、ビラ等においてその事業者の複数の店舗で販売する旨を申し出る場合であって、当該広告、ビラ等に掲載された店舗の一部に広告商品等を取り扱わない店舗がある場合
なお、2つ目の例のように、取引を行うための準備は一応整っているものの、引渡しまで時間を要する場合や、4つ目の例のように、一部しか引渡しができない場合もおとり広告に該当するとされている点は注意を要します。
また、「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」では、「取引に応じることができない場合」の具体例として、次のようなものを記述しています。
・広告商品等が売却済である場合
・広告商品等が処分を委託されていない他人の所有物である場合
上記は中古自動車や美術品等の特定物を念頭に置いたものと考えられます。
民法の解釈論としては、他人物売買であっても契約としては有効なものとして取り扱われ、直ちに違法と判断されるわけではありませんが、おとり広告との関係では直ちに不当表示と判断されることに注意を要します。
(2)供給量が著しく限定されている場合
取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 |
例えば、一店舗当たり1個しか販売できない商品であるにもかかわらず、その点を広告に明示しなかったので不当表示となるという類型となります。
さて、「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」では、「著しく限定されている」とは、準備できている販売数量が予測購買数量の半数にも満たない場合をいうとされています。そうすると、予測数量を恣意的に設定すればよいのではないかと考える方もいるかもしれません。しかし、当然のことながら予測には合理性が必要ですので、過去の販売実績等を考慮しながら予測数量を設定する必要があることに注意を要します。
ところで、予測数量が難しいという場合、供給量が限定されている旨広告に表示することで対処することになります。
ただ、「明瞭に記載」する必要があるところ、この点「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」では、商品名の特定と実際の販売数量が明記される必要があるとされています。このため、例えば、「数に限りがあります」、「早い者勝ち」、「売切れ御免」といった広告表示だけでは「明瞭に記載」したとは言えないことを押さえる必要があります。
(3)1人当たりの供給量等に制限がある場合
取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示 |
要は、目玉となる商品・役務の供給につき条件があるのであれば、その点を明瞭に記載しない限り不当表示となるという類型です。
この類型への対応は、例えば、顧客1人当たりの供給量に制限があるのであれば「お一人様3点限り」といった広告表示を行えばよいということになります。
この点、「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」では、実際の販売日、販売時間等の販売期間、販売の相手方又は顧客一人当たりの販売数量が当該広告等に明瞭に記載されなければならないと記述されています。
(4)取引をする意思がない場合
取引の申出に係る商品又は役務について、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品又は役務についての表示 |
これは目玉商品を購入しに来たにもかかわらず、当該商品の問題点を指摘し、別商品の案内ばかり行うといった対応を事業者が組織的に行うことで、目玉商品の販売を渋っているという実情があるのであれば、翻って目玉商品の販売を広告表示していること自体が矛盾となるので不当表示になるという類型です。
この点、「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」では、「取引の成立を妨げる行為が行われる場合」の例として、次のようなものを記述しています。
・広告商品を顧客に対して見せない、又は広告、ビラ等に表示した役務の内容を顧客に説明することを拒む場合
・広告商品等に関する難点をことさら指摘する場合
・広告商品等の取引を事実上拒否する場合
・広告商品等の購入を希望する顧客に対し当該商品等に替えて他の商品等の購入を推奨する場合において、顧客が推奨された他の商品等を購入する意思がないと表明したにもかかわらず、重ねて推奨する場合
・広告商品等の取引に応じたことにより販売員等が不利益な取扱いを受けることとされている事情の下において他の商品を推奨する場合
なお、広告に表示された商品・役務以外の商品・役務を一切提案してはならないという訳ではありません。ただ、提案してもなお、顧客が広告に表示された商品・役務の購入を希望しているのであれば、提案を取り下げるといった対処を取らない限り、おとり広告と言われかねないリスクを抱えることになります。
この類型については、広告表示のみならず、店舗等での現場対応者に対する教育も重要になることを押させておきたいところです。
(5)注意事項
やや細かい話ですが、しかし現場実務で重要となるポイントとして、上記(1)から(4)の類型に該当した場合、直ちに不当なおとり広告と判断されるわけではない、ということを知っておく必要があります。
すなわち、不当なおとり広告となるか否かは、上記1.(1)でも記載した通り、「顧客を誘引する手段」として用いられたことが判断基準となります。
したがって、例えば、単にお店の名前を知ってもらうためにおとり広告を行ったが、思った以上に顧客が殺到し、在庫不足に陥ってしまったというだけであれば、不当表示としてのおとり広告には該当しません。
特に、紙媒体の広告の場合、広告スペースの関係で目玉商品の供給条件(上記(3)の類型を参照)を十分に記載しきれないということが多いと思われます。しかし、来店した顧客に対し、他の商品を売りつけようと接客した場合はもちろんアウトですが、特に他の商品を売りつけようとした形跡がないのであれば、広告表示としては不適切と言わざるを得ないものの、不当表示としてのおとり広告該当性については十分争う余地があります。
現場実務では意外と失念しがちですので、注意したいところです。
3.事例の検討
上記の【ご相談内容】で記載した広告表示を審査する上でのポイントを解説します。
(1)おとり広告該当性
本件事例では、来店者全員が、“ネット通販では入手できないプレミアム品”を購入できないにもかかわらず、販売することを謳い文句にして顧客への来店を働きかける広告表示となります。
そうすると、「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」でいうところの、「取引の申出に係る商品又は役務の供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示」に該当すると考えられます(前述2.(3)を参照)。
また、おそらくはプレミアム品については数に限りがあると考えられるところ、場合によっては、「取引の申出に係る商品又は役務の供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合のその商品又は役務についての表示」に該当する可能性があります(前述2.(2)を参照)。
以上のことから、このままでは不当表示とされるおとり広告に該当すると思われます。
(2)有利誤認表示該当性
本記事はおとり広告に関するものですが、おとり広告に関する広告審査を行った場合、優良誤認表示及び有利誤認表示の問題があわせて起こりうることが多いようです。
本件事例でも、“ネット通販利用者(会員)のみ”“プレミアム品”を購入することが可能という条件があるにもかかわらず、来店者であれば誰でも購入できるような「取引条件」であるかの如く表示している点が、有利誤認表示と判断される恐れがあります。
なお、本件事例に関連してですが、仮にプレミアム品の供給量が限定されていることを強調しプレミアム品の優良性を誇示した場合は、優良誤認表示と判断される可能性もあります。
ちなみに、おとり広告に関連して、優良誤認表示及び有利誤認表示の問題が同時に起こりうることについては、「『おとり広告に関する表示』等の運用基準」でも明記されており、具体例として次のようなものがあげられています。
<優良誤認表示に当たる例>
・実際に販売される商品が、キズ物、ハンパ物、中古品等であるにもかかわらず、その旨の表示がない場合
・新型の商品であるかのように表示されているにもかかわらず、実際に販売される商品が旧型品である場合
・実際に販売される商品が特売用のものであり通常販売品と内容が異なるにもかかわらず、通常販売品であるかのように表示されている場合
<有利誤認表示に当たる例>
・実際には値引き除外品又は値引率のより小さい商品があるにもかかわらず、その旨の明瞭な記載がなく、「全店3割引」、「全商品3割引」、「○○メーカー製品3割引」等と表示されている場合
・実際の販売価格が自店通常価格と変わらないにもかかわらず、自店通常価格より廉価で販売するかのように表示されている場合
・広告商品等の購入に際し、広告、ビラ等に表示された価格に加え、通常は費用を請求されない配送料、加工料等の付帯費用、容器・包装料、手数料等の支払を要するにもかかわらず、その内容が明瞭に記載されていない場合
・「閉店」、「倒産」等特売を行う特別の理由又は「直輸入」、「直取引」等特に安い価格で販売することが可能となる理由が表示され、これらの理由により特に安い価格で販売するかのように表示しているにもかかわらず、実際には自店通常価格で販売を行っている場合
・二重価格表示(割引率の表示を含む。)において以下のような表示が行われている場合((a)比較対照価格として、実際の市価よりも高い価格が市価として用いられている場合、(b)比較対照価格として、架空の、又は既に撤廃されたメーカー希望小売価格が用いられている場合、(c)比較対照価格として、実際の自店旧価格(又は自店通常価格)よりも高い価格が自店旧価格(又は自店通常価格)として用いられている場合、(d)自店旧価格(又は自店通常価格)がないときに、比較対照価格として任意の価格が自店旧価格(又は自店通常価格)として用いられている場合)
・消費税、容器料等込みで設定されているメーカー希望小売価格等を比較対照価格とする二重価格表示において、当該店舗における販売価格が消費税、容器料等抜きで記載されている場合
(3)対処法
本件事例の広告ですが、不当表示を回避するために次のような対策を講じることが考えられます。
(a)不当表示とされるおとり広告該当性を避けるために、“ネット通販利用者(会員)のみ”“プレミアム品”を購入することが可能であることを明瞭に表示することが必要となります。
また、プレミアム品の販売数には限りがあると考えられることから、販売数量、販売期間、1人当たりの販売数量等の取引条件を明瞭に表示することが求められます。
(b)有利誤認表示該当性を避けるために、「強調表示」と「打消し表示」を意識する必要があります。特に打消し表示については、「打消し表示の内容を一般消費者が正しく認識できないことにより、商品・サービスの内容や取引条件について実際のもの又は競争事業者 に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される場合、景品表示法上問題となるおそれ」があると、指摘されていることに注意を要します。詳細については、次の公表資料をご参照ください。
(参考)打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点 (実態調査報告書のまとめ)(消費者庁)
4.当事務所でサポートできること
当事務所は広告代理店様との取引や、自社WEBでネット通販を手掛ける事業者様との取引などがあり、景品表示法を含む広告規制に関するご相談を日常的に受けています。
また、景品表示法等に基づく取締り状況などについては意識的に情報収集するようにしています。
さらに、実際に消費者庁より連絡があった後の対処法についてもご相談を受けています。
したがって、当事務所では、業務を通じて得た知見やノウハウ等が蓄積されていると自負しており、これら知見・ノウハウ等を踏まえたご依頼者様への対応が可能となっています。
景品表示法その他広告規制に関するご相談があれば、是非当事務所をご利用ください。
<2023年4月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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