ネット通販事業にまつわる法律のポイントと対処法を徹底解説

【ご相談内容】

当社は、インターネット上でビジネススクールを立ち上げ、動画コンテンツの視聴サービスや講師とのオンライン相談サービスを提供することを計画しています。

気を付けておくべき法律上の規制等があれば教えてください。

 

 

【回答】

ネット通販事業には大きく物販と役務提供(技能や便益といったサービス)の2種類が存在します。基本的には両者共通で適用される法律が大部分を占めますが、一部は役務提供のみ留意しなければならない法律も存在します。

以下の解説では、主として役務(サービス)提供を行うネット通販事業を念頭に、円滑な事業運営のために知っておきたい法律と、現場対応につき解説を行います。

 

 

【解説】

1.法律上の参入規制

ネット通販事業を開始するに当たり、何らかの事業計画を練ると思われるのですが、収支計画だけではなく、法律上の参入規制がないのかを十分確認する必要があります。

なぜなら、参入規制への調査不十分のままネット通販事業を開始し、軌道に乗り始めたところで参入規制に引っかかってしまった場合、事業の見直しはもちろん、場合によっては事業の継続自体が不可能となることがあるからです。

 

(1)許認可

参入規制の代表格が許認可の有無となります。

例えば、節税相談サービスを税理士以外の者が提供した場合、税理士法違反となります。あるいは、金銭回収に関する代行業務を弁護士以外の者が実施した場合、弁護士法違反となります。

近時はシェアリングエコノミーの普及などで、技能や技術などを提供・代行することを謳うネット通販事業が盛んになっていますが、“ユーザが納得・満足していれば法律違反とはならない”という理屈は一切通じませんので、注意を要します。

なお、許認可の有無等については、次の記事をご参照ください。

 

新規事業を立ち上げる際に知っておきたい許認可について、弁護士が解説!

 

(2)特定商取引法の重複適用

ネット通販事業は、特定商取引法の「通信販売」に該当するため、通信販売規制が適用されます。ただ、ネット通販事業の“やり方”によっては、特定商取引法に定める他の取引類型に該当し、そちらの規制も適用されるということが起こりえます。

①訪問販売規制

例えば、工務店がネット通販事業として家屋改修サービスを開始したとします。そして、ユーザの求めに応じてユーザ宅に行き、現地調査を行ったうえで見積もりを出し、後日受注するという業務フローがあったとします。この場合、意外と見落としがちなのですが、特定商取引法の「訪問販売」に該当しますので、法定書面の発行やクーリングオフ応諾義務などが課されることになります。

なお、上記事例の場合、事業者が自宅に押し掛けたわけではなく、ユーザが自宅に来るよう要請しているので、訪問販売規制の適用除外(特定商取引法第26条第6項第1号)に該当するのではと疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、現行の行政解釈上、適用除外に該当しないとされていますので注意を要します。

 

②電話勧誘販売規制

例えば、教育事業者がネット通販事業としてオンライン学習サービスを開始したとします。そして、ユーザの求めに応じてZoomで面談を行い、ユーザの状況に合わせた学習コースを提示し、後日受講契約を締結したという業務フローがあったとします。この場合、意外かもしれませんが、特定商取引法の「電話勧誘販売」に該当しますので、法定書面の発行やクーリングオフ応諾義務などが課されることになります。

「電話」ではなく「Zoom」なのに?と疑問を持たれる方もいるかもしれません。しかし、現在の行政解釈上、Zoomに限らず音声通話ができる機能を備えた媒体での勧誘は、電話勧誘販売に該当するとされています。通常の用語例からは離れるため分かりづらいのですが、要注意です。

 

③継続的役務提供

例えば、英語熟練者がネット通販事業としてGoogle Meetを用いた英会話レッスンを開始したとします。この場合、特定商取引法が定める「特定継続的役務事業」の7類型の1つである「語学教室」に該当する可能性があります(一定の金銭負担と契約期間の要件を充足する必要あり)。該当する場合、法定書面の発行やクーリングオフ応諾義務、中途解約規制などが課されることになります。

 

上記以外にも、例えばオンラインサロンサービスで提供される内容によっては、業務提供誘引取引や連鎖販売取引に該当する可能性も考えられます。

いずれにせよ、ネット通販事業だから「通信販売」記載だけで事足りるわけではないことを押さえるのがポイントです。

 

(3)デベロッパー(プラットフォーマー)との関係

ネット通販事業をアプリケーションで実施する場合、App StoreやGoogle Playといったデベロッパー(プラットフォーマー)を通じて提供することが一般的です。

この場合、デベロッパー(プラットフォーマー)が定める利用規約その他ポリシー等で、一定の事業活動が制限されていないかを事前に確認する必要があります。

ちなみに、確認しないままネット通販事業を開始し、後で違反が発覚した場合、デベロッパー(プラットフォーマー)は容赦なくリジェクトします。こうなると、二度とそのプラットフォーム上でネット通販事業をすることができなくなりますので、必ず対処することをお勧めします。

 

 

2.サイト・アプリ制作

ネット通販事業を開始する場合、WEBサイトやアプリケーションを制作することが必須となります。

このWEBサイトやアプリケーション制作にも様々な落とし穴が潜んでいますので、ここでは特に注意してほしい事項を紹介します。

 

(1)情報セキュリティ

自ら制作を行う場合はもちろん、専門業者に依頼する場合であっても、全くのゼロからWEBサイトやアプリケーションを制作することは皆無で、OSS(オープンソースソフトウェア)を含む既に存在する第三者プログラムをベースに制作することが多いとされています。

この場合、事業者としては、必ずどのプログラムをベースにしているのか調査するようにしてください(専門業者に依頼する場合でも、質問すれば特に抵抗なく回答してくれるはずです)。なぜなら、プログラムによってはセキュリティ上の欠陥が指摘されており、長期にわたって不具合が解消されていないということがあるからです。

セキュリティ上の欠陥があるプログラムをベースにWEBサイトやアプリケーションを制作した場合、ネット通販事業を開始後しばらくして顧客情報の漏洩事故が発生し、事業継続どころではないといった事態も現実に発生していることから、十分注意したいところです。

なお、調査方法ですが、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の注意喚起情報を取得することはもちろん、ある程度はインターネット検索で情報収集することが可能です。

 

(2)フリー素材

ネット通販事業用のWEBサイトやアプリケーションを制作するに際し、フリー素材と呼ばれるものを用いることがあります。例えば、UIデザインに用いる画像や、WordPress用のプラグインなどが代表的なものです。

さて、このフリー素材ですが、①無料で使用可能、②無条件で使用可能の2つの意味が混在していることに注意を要します。なぜなら、フリー素材とは名乗っているものの、無料で使用可能という意味に過ぎず、商用禁止という場合があり得るからです。

もし商用禁止のフリー素材を用いてWEBサイトやアプリケーションを制作した場合、後日著作権侵害を主張され、場合によっては深刻なトラブルに発展することもあります。自ら製作する場合は利用条件を熟読し確認すること、専門業者に依頼する場合は契約条件として商用禁止のフリー素材を用いない旨の表明保証をさせるといった対策が重要です。

 

ところで、フリー素材の利用条件調査に際しては厄介な問題があります。

それは、フリー素材を提供しているサイト運営者が、果たしてその素材の処分権限を有するのか保証がないということです。例えば、無料で商用利用可能と明記されていた素材の提供を受けたところ、後で著作権者であると名乗る者より、その運営サイトは著作権者に無断で開設されたものであるとして、使用禁止と損害賠償を求められるという事例が頻発しています。

フリー素材を提供する運営者の属性の調査まで必要となることに注意を要します。

 

(3)特定商取引法に基づく表示

ネット通販事業は特定商取引法に定める「通信販売」に該当する以上、特定商取引法が定める15項目をWEBサイトやアプリケーション上に明記する必要があります。

さて、近時多いご相談事項としては、この特定商取引法が定める15項目の明記を省略できないか、特に個人事業主の場合における氏名や連絡先を省略できないかというものです。

この点、特定商取引法第11条では、ユーザより申入れがあった場合は遅滞なく開示することをWEBサイトやアプリケーションに明記することを前提に、一定の要件を充足する場合は省略可能とされています。

ただ、少々ややこしい要件となっているため、WEBサイトやアプリケーションの制作完了前に弁護士等の法律の専門家に相談し、表示方法や申入れがあった場合の開示フローを確認したほうが無難です。

 

(4)画面遷移(特に最終確認画面)

特定商取引法では、WEBサイトやアプリケーション上での注文画面につき、一定事項の表示を義務付けると共に、表記方法や画面構成等に一定の制限を課しています。そして、ネット通販事業者が、この特定商取引法に定める義務や制限を守らなかった場合、ユーザの申入れにより一方的に注文の取消しができると規定されています。

したがって、画面遷移は特に重要になってくるのですが、事業者が自ら作成する場合はもちろん、専門業者であってもこの辺りの知識については必ずしも明るくないというのが実情のようです。

ちなみに、特に最終確認画面については、上記以外にも様々な法規制が重複して適用されるものとなりますので、取引への障害を取り除くためにも、是非WEBサイトやアプリケーション上での制作完了前に弁護士等の法律専門家に相談し、表示内容の確認をしてほしいところです。

なお、最終確認画面の法律上の機能については、次の記事をご参照ください。

 

ネット通販における最終確認画面の重要性について、弁護士が解説!

 

(5)決済代行会社の利用

ネット通販事業を実施する目的として、“お金を稼ぐこと”を否定する事業者は存在しないかと思います。お金を稼ぐのであれば、いかにしてユーザより確実に対価を回収するのかが重要となるのですが、最近は決済代行会社を利用し、ユーザによる様々な決済手段に対処することが主流となっているようです。

さて、この決済代行会社を利用するに際しては、決済代行会社を挟むことで現実にキャッシュが得られるタイミングを確認することはもちろんですが、法的観点からは、①事業内容が決済代行会社の禁止する事業に該当しないか、②決済代行会社がWEBサイトやアプリケーション上に一定事項の表記を求めていないか、③決済代行会社とWEBサイトやアプリケーションとの連携条件が充足しているか、を十分に確認する必要があります。

いずれについても決済代行会社が定める利用規約等を確認する必要がありますが、かなり長文でその解読は難解なものが多いことから、弁護士等の法律の専門家に依頼し確認してもらうのも一案です。なお、上記③については、特定のプログラムを用いたWEBサイトやアプリケーションの場合、セキュリティ上の問題があるため、発覚次第連携を拒否されたという事例を執筆者は経験しています。

 

(6)保守運用

WEBサイトやアプリケーションは一度制作したら半永久的に稼働するものではなく、環境の変化に応じて補修を行う必要があります。したがって、ネット通販事業を長く続けるのであれば、保守運用を専門業者に委託することは必須と言えます。

ただ、この保守運用契約においては、①保守運用の対象となる業務内容につき認識の齟齬がある、②保守運用業者が倒産等して提供を受けられなくなる、③保守運用業者を変更したくても変更ができない(いわゆるベンダーロックイン問題)といったトラブルが多発しています。

こうしたトラブルへの対応は、保守運用契約に必要な条項を盛り込むことで対処することが可能となる場合が多いと考えられますので、保守運用契約を締結する前に弁護士と相談してほしいところです。

 

 

3.集客

ネット通販事業を続けるためには、集客を行い、ユーザを獲得することが必要不可欠です。集客方法には様々な方法がありますが、近時は監督官庁による規制が厳しくなってきており、特に注意を要する分野と言えます。

 

(1)自ら広告コンテンツを制作し配信する場合

広告コンテンツを制作する場合、まず確認しなければならない法律は景品表示法となります。詳細については、次の記事をご参照ください。

 

景品表示法に定める優良誤認表示とは何か? 具体例や考え方について解説

景品表示法に定める有利誤認表示とは何か? 具体例や考え方について解説

景品表示法違反となる「おとり広告」とは?そのポイントを解説

景表法における課徴金制度とは?予防策から対処法までそのポイントを解説

 

また、提供する役務(サービス)内容によっては、各種業法による規制を意識する必要があります(例えば、食事療法などのアドバイスを行う場合は医師法を考慮する、投資アドバイスを行う場合は金融商品取引法を考慮するなど)。

さらに、広告媒体社の自主規制についても確認する必要があります(媒体社によっては法律よりも厳しい規制を課している場合があります)。

 

(2)広告制作・配信を第三者に委ねる場合

まず重要なポイントとして、第三者に広告制作を委ねたとしても、その広告内容に対して責任を負うのは広告主、すなわちネット通販事業者であるという点です。

例えば、近時はアフィリエイト広告を利用する場面が多くなっているようですが、アフィリエイターが制作する広告コンテンツにつき景品表示法違反があった場合、広告主であるネット通販事業者が景品表示法に基づく処分を受けることになります。

また、例えば、いわゆるインフルエンサーに役務(サービス)の使用感についてSNS上に投稿してもらうといった方法は、ステルスマーケティングとして2023年10月より景品表示法の規制対象となりました。ただでさえステマ広告は、世間受けが悪く炎上しがちな広告手法であることを考慮すると、利用に際しては十分注意を払う必要があります。

さらに、第三者との間で広告制作・配信に関する契約を締結する場合、①広告コンテンツの著作権を含む権利の帰属先を決めること(ネット通販事業者に帰属するのであれば、今後使い回しが可能)、②広告コンテンツにつき第三者の権利を侵害しないよう義務付けること(万一権利侵害問題が発生した場合の対処法も合わせて定めておくことが望ましい)、③広告コンテンツをどの媒体に配信するのか決めておくこと(ネット通販事業者にとって望ましくない媒体で配信されないよう監視すること)等がポイントとなります。

 

(3)広告代理店との関係

基本的に広告代理店は、媒体社との広告掲載に関する取次を行うだけであって、広告コンテンツの制作や配信作業を直接行うわけではありません。つまり、広告主であるネット通販事業者の意向が広告コンテンツの制作者や配信作業者に直接伝えることができないという難点が生じます。

したがって、この難点を解決するための契約書の工夫(例えば、意向違いが発生した場合の一切の責任は広告代理店が負う旨定めるなど)が求められることになります。

 

(4)既存顧客リストの再利用・転用

例えば、別事業で入手している顧客リストをネット通販事業のために利用したいと考えた場合、まず確認するべきは別事業で公開しているプライバシーポリシーとなります。具体的には、利用目的において、自社が行う他事業の宣伝広告のために利用する旨明記されているか検討することになります。

万一、利用目的にこの点が明記されていない場合、顧客リストをネット通販事業のためだけに利用することは不可能となることに注意を要します。

なお、そもそもプライバシーポリシーが定められていない場合、別事業で入手した顧客リストをネット通販事業のために利用することはほぼ不可能と言わざるを得ません。再度利用目的を提示して入手しなおすか、既存顧客リストの利用を断念するという判断をすることになります。

 

(5)新たな顧客リストの取得

ネット通販事業の集客目的で、新たに顧客リストを取得する場合、留意したいのが個人情報保護法に定める不正取得に該当しないかという点です。また、提供者は第三者(ここではネット通販事業)に対して合法的に提供していると言えるのかについても確認する必要があります。

なお、提供者においては個人識別が不可能な情報であっても、ネット通販事業が入手することで個人の識別が可能となる情報(個人関連情報)を入手する場合、原則としてネット通販事業者において、当該個人より入手することへの同意を取得する必要がある点にも留意したいところです。

 

 

4.クロージング

獲得したユーザとの取引を実行すること、ネット通販事業者はようやくマネタイズすることが可能となります。

ここではクロージングに当たっての注意点をいくつか挙げておきます。

 

(1)利用規約の取扱い

ネット通販の場合、ネット通販事業者が定めた取引条件を利用規約として定めた上で、この利用規約に従うことを条件にユーザと取引を開始することが一般的です。

この利用規約の取扱いを巡っては、主に次の2点に注意を払う必要があります。

①形式面(同意の取り方、組入れ)

利用規約を制定しても、ユーザに開示されていない又は開示されていてもユーザが探せない(たどり着かない)場所に掲載されているとなると、果たしてユーザは利用規約に従って取引を行う意思があったのか疑義が生じてきます。

このような問題につき、2020年4月1日より施行された改正民法では「定型約款」という概念を新たに設けて規制を行っています。詳しくは次の記事をご参照ください。

 

利用規約に対する有効な同意取得の方法とは?

 

②内容面

利用規約はネット通販事業者が作成するため、どうしてもネット通販事業者にとって都合の良い内容を定めがちです。

もちろん、ユーザがその内容に同意しているのであれば、基本的には法律が介入することは無いのですが、あまりに一方的な内容である場合は一定の規制が課されることになります。代表的なものはBtoC取引における消費者契約法の規制、ネット通販事業者の損害賠償責任を減免する規定に対する制限、消費者(ユーザ)が負担する損害賠償責任を定めた規定に対する制限、消費者(ユーザ)による解除権行使を制約する規定に対する制限などがありますが、他にも色々と考慮する事項があります。

是非、弁護士と相談しながら有効な利用規約を作成してほしいところです。なお、次の記事についてもご参照ください。

 

利用規約が効力を持たない場合とは? 定型約款規制(不当条項規制)について解説

利用規約の作成方法とは?法的観点から正しい作成方法と注意するポイントを弁護士が解説!

 

(2)ポイント決済

リピーター獲得を目的として、ネット通販事業者が恩恵的に付与するポイント(一定の購入額に応じてポイントを発行する場合など)であれば、原則法律上の規制はありません。ただし、「おまけ」と評価される場合は景品表示法による景品規制(景品の最高額と総額に関する規制)が課されることになります。

一方、ユーザがポイントを有償で購入する場合、資金決済法による規制を考慮する必要があります。もっとも、一般的には資金決済法の適用が除外されるようビジネススキームを構築することが通常です。この点については、是非弁護士等の法律の専門家に相談してほしいところです。

なお、ポイント発行に関する詳細については、次の記事をご参照ください。

 

ポイント発行事業を行う場合の注意点について、弁護士が解説!

 

(3)前払い

ネット通販事業の場合、前払い決済が採用されることは少ないと思われますが、前払い決済とする場合、特定商取引法による一定の規制があります。

すなわち、1週間程度を超えても役務(サービス)の提供が行われない場合、ユーザの不安を取り除くためにも次の事項を記載した書面を発行する義務が課されます。

・申込みの承諾の有無(代金(対価)を受け取る前に申込みの承諾の有無を通知しているときには、その旨。なお、承諾しないときには、受け取ったお金をすぐに返すことと、その方法を明らかにしなければならない。)

・事業者の氏名(名称)、住所、電話番号

・受領した金銭の額(それ以前にも金銭を受け取っているときには、その合計額)

・当該金銭を受け取った年月日

・申込みを受けた商品とその数量(権利、役務の種類)

・承諾するときには、商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)(期間又は期限を明らかにすることにより行わなければならない)

 

 

5.トラブル対応

ネット通販は直接顔を合わせて取引を行わないため、リアル取引では考えられなかったようなトラブルが発生しがちです。

その中でも近時特に問題となっているトラブル事例を3つ挙げておきます。

 

(1)中途解約と清算

役務(サービス)の提供の場合、ネット通販事業者は、一定期間ユーザに利用してもらう(課金してもらう)ことで長期的に利益を回収するというビジネスモデルを選択することが多いようです(その代表例がサブスクリプションです)。一方、ユーザは不必要だと思ったら直ぐに解約するという行動をとります。

そこで、ネット通販事業者は、最低利用期間を設定するなどして一定期間の利用(課金)を確保しようとするのですが、ここで「最低利用期間について知らなかった」と主張するユーザとトラブルが勃発します。

この点、最低利用期間を設定し、その期間中は解約不可とすること(解約する場合は残存期間の利用料金に相当する違約金支払い義務を課すこと)は、原則として有効と考えられます。ただ、例えば、最低利用期間が設定されていることについて、ユーザにあえて分からないように小細工をしていたのであれば別論です。

特定商取引法では、最終確認画面において「解除に関する事項」を明記するよう求めていますので、ユーザに対し、最低利用期間内は中途解約不可であることを画面上に表示する必要があります。なお、最低利用期間内での中途解約は可能とするものの、残存期間に相当する違約金支払い義務を課すのであれば、解除の条件に関する事項なので、同様に明記する必要があると考えられます。

この特定商取引法の義務に違反した場合、ユーザに契約取消権が発生する場合がありますので、注意が必要です。

 

(2)契約の自動更新

上記(1)でも解説した通り、ネット通販事業者は、一定期間ユーザに利用してもらう(課金してもらう)ことで長期的に利益を回収するというビジネスモデルを選択することが多いようです。そこで、ネット通販事業者は契約の自動更新条項を定めることで、できる限りユーザの契約離脱を防止しようと対策を講じることになります。

一方、ユーザは自動更新であることを認識していない、あるいは更新拒絶をしたくても条件が厳しすぎると主張して、トラブルが勃発します。

この点、自動更新条項を設定すること自体は、法的な問題は生じません。

しかし、更新を拒絶する条件が不当に制限されている(例えば、一定期間・時間内での電話でしか受付けない等)といった場合は別論です。

消費者契約法第10条では、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が「消費者の利益を一方的に害する」と認められる場合は無効と定めていますので、これに該当しないか十分検討する必要があります。

 

(3)カスタマーハラスメント(カスハラ)

ネット通販事業の場合、顔が見えないためか、過剰な要求を行うユーザが多くみられます。一方、ネット通販事業者は、基本的にはユーザの怒りの気持ちを押さえようと譲歩しがちとなります。

そこで、ユーザが調子に乗って過剰な要求を行うため、ネット通販事業者は困惑し、場合によっては交渉担当者が精神的不調を来す等の問題が生じることになります。

近年カスタマーハラスメント対策をすることが事業者に義務付けられたことから、事業者としても一担当者任せにするわけにはいかなくなっています。また、図に乗ったユーザに対して毅然とした態度を示すことも求められています。

これらの点については、次の記事をご参照ください。

 

不当要求があった場合の対処法について、弁護士が解説!

企業が取組む必要のあるカスタマーハラスメント対策について、弁護士が解説!

 

 

6.弁護士に相談するメリット

ネット通販事業という形態自体は特別な許認可は不要であるため、誰でも参入しやすいという特徴があるところ、近時物販はAmazonや楽天等のプラットフォームに参加して商売する、役務(サービス)取引はプラットフォームに参加しつつも、独自のECサイトで商売するといった動きがみられるところです。

しかし、上記1.から5.までで解説した通り、ネット通販事業はあちこちに落とし穴が仕掛けられており、この問題を認識していない、あるいは認識していても適切な対処法を知らないままネット通販事業を運営することは危険極まりないと言わざるを得ません。

したがって、ネット通販事業者はこれらのリスクに対して適切な対策を講じる必要があるのですが、必ずしも法律の専門家ではない事業者のみで全てを調査し尽くすことは事実上不可能と言わざるを得ません。

また、本記事では触れていませんが、ネット通販事業者が取得した行動履歴等のパーソナルデータの利活用、AIナビゲーションの誤りによる責任問題、不適切広告への対応など、様々な経営課題が発生しがちです。

これらの経営課題を事前に把握した上で予防策を講じることができること、万一問題が発生した場合は解決に向けての手助けをしてもらえること、これが弁護士に相談するメリットとなります。

 

 

7.当事務所でサポートできること

ネット通販事業の運営・展開に関する相談を弁護士に依頼するメリットは上記6.に記載した通りです。

当事務所では、さらに次のような強みとサポートを行っています。

 

①ネット通販事業の運営・展開に複数の対応実績があること

当事務所の代表弁護士は、2001年の弁護士登録以来、ネット通販事業者が抱えるトラブル対応、利用規約の作成、広告コンテンツのリーガルチェックなどに関与し、解決を図ってきました。

これらの現場で培われた知見とノウハウを活用しながら、ご相談者様への対応を心がけています。

 

②時々刻々変化する現場での対応を意識していること

弁護士に対する不満として、「言っていることは分かるが、現場でどのように実践すればよいのか分からない」というものがあります。

この不満に対する解消法は色々なものが考えられますが、当事務所では、例えば、法務担当者ではなく、ユーザと直接やり取りを行う担当者との直接の質疑応答を可としています。

現場担当者との接触を密にすることで、実情に応じた対処法の提示を常に意識しています。

 

③原因分析と今後の防止策の提案を行っていること

弁護士が関与する前にネット通販事業を開始したところ、ご相談者様が思い描いていたような結論を得られず、以後の対応に苦慮している場合があるかもしれません。

こういった場合に必要なのは、方針・対処法の軌道修正をすることはもちろんのこと、なぜ思い描いた結論に至らなかったのか原因検証し、今後同じ問題が発生しないよう対策を講じることです。

当事務所では、ご相談者様とのやり取りを通じて気が付いた問題点の抽出を行い、改善の必要性につきご提案を行っています。そして、ご相談者様よりご依頼があった場合、オプションサービスとして、ネット通販事業運営に必要な書式作成、マニュアルの整備、担当者向け勉強会の実施なども行っています。

ネット通販事業の適正化とトラブル防止のための継続的なコンサルティングサービスもご対応可能です。

 

 

 

 

<2024年8月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。