下請代金の減額禁止

質問

最近の円相場の変動を踏まえ、当社(製造メーカー)は部品業者に対し、当該部品の仕入れ値減額を申し入れることを検討しています。これについて何か法律上問題となり得るのでしょうか。

 

回答

原則的には問題にならないと考えられますが、下請法上の取引に該当する場合は「下請代金の減額禁止」に該当しないか、製造メーカーの方が部品業者より優越性が認められるのであれば、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」が問題になり得ます。

 

解説

 代金の減額交渉を行うことは、取引上当然あり得ることであり、これについては特に法は規制を及ぼしてはいません。

 しかしながら、減額を要求する側(本件では製造メーカー)の力が強く、部品業者が否応なく従わざるを得ないという力関係の歪みがあるのであれば、その点は是正されなければなりません。

 この是正に対処するのが独占禁止法2条9項5号で禁止する「優越的地位の濫用」ということになります。また、「優越的地位の濫用」を具体化した法律(個別法)として、下請法(正式名称は下請代金支払遅延等防止法)が存在します。

 

本件についての考え方ですが、まず「下請法」違反が存在しないかを検討する必要があります。下請法の適用の有無については、①親事業者、下請事業者該当性の確認、②下請法が定める取引形態該当性の確認、③禁止行為該当性の確認というプロセスを踏む必要があるのですが、詳細については次回以降で解説を試みます。

 

さて、下請法への該当性①②をクリアーした場合、下請法が定めるに定める禁止行為(③)の1つとして「下請代金の減額の禁止」というものがあります。これは一旦決定した仕入れ額について、後日、減額を行うことを禁止するものです。本件申し入れが、この禁止態様に当たるのであれば、下請法違反として処断されることになります。なお、一旦決定した仕入れ額ではなく、将来的な仕入れ値に関する減額交渉については、「買いたたきの禁止」に該当する可能性がありますので、注意が必要です。

 

 次に、下請法の適用範囲外となった場合、独占禁止法が禁止する「優越的地位の濫用」への該当性を検討することになります。ここでいう「優越性」ですが、市場において絶対的な優越性・独占の地位にあることを意味するわけではありません。当事者間の取引関係において、相対的に相手方に優越していることを意味します。したがって、本件でも、部品業者は製造メーカーに対して、物言えぬ関係だというのであれば、優越的地位の濫用に該当し、減額申入れが違法という結論になり得ます。

 

<現場担当者が知っておきたいポイント>

◆製造メーカー側

 ⇒下請法上の「親事業者」に該当しないかを事前に確認の上、何故、減額申入れを行う必要性があるのか、その合理的根拠(資材の高騰、売上高の減少、販売先からの値下げ圧力など)を固めた上で、フェアーな交渉を心掛けるようにしましょう。

◆部品業者側

 ⇒下請法上の「下請事業者」「取引形態」該当性を確認の上、合理的根拠に基づかない減額申入れに対しては、下請法違反、独占禁止法上の優越的地位の濫用に当たることを指摘し、一方的な減額申入れに対して対抗できるようにしましょう。
※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。

「企業間取引と独占禁止法」で取り上げた相談内容の目次です。

■下請代金の減額禁止

■下請法の効果(親事業への義務①)

■下請法の効果(親事業者への義務②)

 

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