Web掲載の為に提供を受けた著作物を、書籍出版等の別目的で利用する事の可否
Web掲載の為に提供を受けた著作物を、書籍出版等の別目的で利用する事の可否
質問
当社は、当社が管理するWeb上に掲載するために、有償にて専門家に連載で執筆してもらっています。かなり有用性があり、また、まとまった量になってきたので書籍化を考えているのですが、専門家に相談することなく出版しても問題ないでしょうか。
逆に専門家が書籍化したいと言ってきた場合、当社はどの様に対応すれば良いのでしょうか。
なお、執筆依頼は口約束で行っていたため、特段契約書等は締結していません。
回答
特段の契約を締結していないと言うことからすると、掲載されている執筆に関する著作権は、著作者(=本件で言えば執筆者)に帰属していると考えられます。
そうすると、著作物をどの様に使用・処分するかは著作権者の自由となるため、万一、執筆者が「書籍出版することを決めた!」と言いだした場合、会社としては残念ながら何も言えないのが大原則となります。
また、会社は執筆者よりWebで掲載する範囲内でライセンスを受けたと考えるのが自然ですので、書籍化することはライセンスの範囲外となり、執筆者の承諾無しに書籍化することはできないということになります。
では、この様な問題を解決するためには、どの様な方策があるのでしょうか。次のようなことが考えられます。
① 著作権の譲渡を受ける方法
まず考えられるのが、会社が著作権を譲り受ければいいのでは?という方法です。確かに、端的な解決方法にはなりますが、少なくとも2点注意が必要となります。
すなわち、1点目は単に「著作権を譲渡する」とだけ規定しても、著作権法61条2項により翻案権等の一部権利(同法27条及び28条規定の権利)の譲渡を留保する旨推定されていることです。
少しややこしいのですが、これはどういう事かというと、実は「著作権」というのは様々な権利の集合体と考えられており、
・複製権や公衆送信権に代表される『著作財産権(法律上の用語ではありませんが区別するためこの様な用語例が用いられます)』
・公表権や同一性保持権に代表される『著作者人格権』
・実演家等に認められる『著作隣接権』
があって、さらにこの3種類には細かな権利(著作財産権で例示した複製権や翻案権、公衆送信権など)が規定されているという構造になっています。
(イメージですが、『著作権』という第一階層があり、その下の第二階層として『著作財産権』『著作者人格権』『著作隣接権』があり、さらに第三階層として、第二階層にある3つの権利毎に具体的な権利が埋まっているということを考えるのはいかがでしょうか。要は表面だけではなく下に下に掘り起こさないことには著作権の具体的内容が見えてこないと考えて下さい)。
そして、著作権(一般的には著作財産権を意味します)を譲渡すると記載しても、著作財産権に含まれる権利のうち、同法27条及び28条の権利は当然には譲渡されないと規定されているのです。
従って、これに対する対処法は、譲渡される著作(財産)権の内容として、著作権法27条及び28条の権利も譲渡された旨明記するということになります。万一、この点を明記しない場合、出版化に際して、例えば執筆内容を要約した場合、翻案権侵害という可能性が生じることになります。
次に2点目として、著作者人格権は譲渡されないという点です。これによって何が問題になるかというと、著作者人格権の1つとして同一性保持権という権利があるのですが、先述の執筆内容を要約した場合、同一性保持権侵害ということになってしまいます。
従って、著作権の譲渡と共に、著作者人格権を行使しないという点も明文化する必要があります。
② 出版権の設定を受ける方法
次に考えられるのが、出版権の設定という方法です。出版権とは、頒布の目的をもって著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は科学的方法により文書又は図画として複製することを占有できる権利と定義されています(著作権法80条1項)。
出版権の設定を受けることで書籍化することができる権利を独占できるわけですから、会社としては非常に強い権利を保持することになります。ただ、定義規定からして電子書籍が想定されていませんので、この場合、会社は勝手に電子書籍を出すことはできませんし、一方、執筆者が電子書籍を発行しても会社は文句を言うことができません。また、出版権を設定することで、出版権を保有する側には色々な義務(原則6ヶ月以内に出版する義務など)が課せられますので、必ずしも使い勝手が良いわけではないことに注意が必要です。
③ (排他的独占的な)著作物利用許諾契約を締結する方法
最後に考えられるのが、執筆者の著作物について、会社が使用したい態様で使用することを許諾する旨の約束を取り付けること、執筆者による会社の関与しない形での出版を防止したいのであれば、会社以外に著作物を用いてはならない旨の約束を取り付けること(独占使用)、つまり契約書を締結する方法が考えられます。
ただ、著作権法63条にも書いてありますが、「利用方法」や「利用条件」を適切に規定しないことには問題が生じますし(著作権法には色々な権利が入り組んでいますのでどの権利に関するライセンスかを意識する必要があります)、そもそも著作権は著作者に帰属させておきながら、何も行使できない状況にすることは独占禁止法との関係でも問題が生じる可能性があります。
従って、会社としては何を目的とするのか明確化した上で、契約書の内容を検討する必要があります。
※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。