表示(指示警告表示)と製造物責任法・PL法
表示(指示警告表示)と製造物責任法・PL法
第1 指示・警告上の欠陥とは
「指示・警告上の欠陥」による製造物責任法が問題となった事例として、前回、いわゆるこんにゃくゼリーの事件を記載しました。
ところで、この「指示・警告上の欠陥」について、製造物責任法に定義はありません。
あくまでも解釈論として、製造物責任法にいう「欠陥」の一類型として言われているに過ぎません。
ただ、一般的には、製造物を使用または消費する際に発生する可能性がある危険について、それを予防・回避するための指示や警告が不十分なことを、「指示・警告上の欠陥」と呼ぶことが多いようですので、本稿でもこの定義に従うものとします。
第2 指示警告漏れがあったら即責任を負うのか?
1. 結論からいうと、「極めてまれにしか起こりえない特殊事故を全て想定して、指示警告を行う必要は無い」というのが原則論となります。
例えば、金槌を使用していた者が、釘を抜くために釘抜きの頭部を金槌で打ち付けていたところ、金槌の縁端部に亀裂が生じ、破片が眼球に飛び込んで負傷したという事故において、製造業者の指示警告上の欠陥を否定した裁判例(京都地判昭和58年3月30日)が代表例としてあげられます。
ポイントは、指示警告が無くても、明白に危険が予想される製造物であれば、使用者においても十分注意できる以上、指示警告がなかったとしても直ちに欠陥があるとは言い切れないということになります。
2. 大原則論は上記の通りですが、ただ、実際の裁判では判断が微妙な事例もあります。
少し前のニュースでも報じられていましたが、携帯電話をズボンのポケットに入れていたところ低温熱傷になったとして損害賠償請求がなされた裁判事例につき、一審の仙台地裁は欠陥を否定、二審の仙台高裁は欠陥を肯定したという事例が存在します(仙台地判平成19年7月10日、仙台高判平成22年4月22日)。
上記裁判例では、結論を分けた理由として、携帯電話をズボンのポケットに収納したままコタツで暖を取ることが、使用者において明白に危険な行為と予想できるのかという点に違う判断がなされたようです。
3. いずれにせよ、ありとあらゆる事故を想定して指示警告の表示を行うことは不可能と言わざるを得ません。さりとて、製造業者側の危険リスクに対する常識と使用者による危険リスクに対する認識との間に齟齬があるのも事実です。
こうなってくると、製造業者側からすれば、やはり細かく指示警告上の表示を行うことで、リスクヘッジを図るというスタンスを取るのがベターではないかと思われます。
なお、最近、製造業者は、製造物の無断改造等が行われているにもかかわらず、製造物責任を追及してくる場合があります。本来的には使用者による自己責任、危険の引受けの問題であり、製造物責任の問題とは次元を異にするような気もするのですが、リスクヘッジの観点からは、必ず無断改造を禁止する旨の警告表示を行うべきではないかと考えます。
第3 指示警告上の表示方法
指示警告上の表示をいくら詳細に表示記載したとしても、分かりにくい表示記載であれば、意味がありません。
ところで、最近エコの観点から、取扱説明書等を製造物に添付せず、インターネットのWEB上に記載する方法が用いられていますが、果たして、これで分かりやすい表示記載といえるのは、若干疑問の余地があるように思います(実質的には取扱説明書の引渡しを受けていない、したがって指示警告を受けていないと言われてしまう余地があるのではないかという懸念を個人的には持っています)。
現状からすると、特に危険と思われる注意事項については、今まで通り、製造物に取扱説明書を添付する、危険度が若干落ちるなど細かい事項については、WEB表示にするという二段構えが無難ではないかと思われます。
※上記記載事項はあくまでも当職の個人的見解に過ぎず、内容の保証までは致しかねますのでご注意下さい。