<会社取引と金融④>手形の一部空欄・補充と手形決済
【ご相談事項】
取引先より決済用として、他社作成の約束手形を受領しました。一部空欄があるのですが、問題ないでしょうか。また、空欄を勝手に補充しても問題ないでしょうか。
【結論】
手形の振出人が支払ってくれる場合には、空欄のままでも問題が生じることはありません。
一方、不渡りとなった場合、空欄のまま取立てに回してしまうと裏書人への遡求権行使ができなくなる等の不都合が生じますので、万一の場合に備えて空欄を補充するのが望ましいといえます。
なお、空欄の手形の場合、通常は、振出人としても、所持人において補充しても良いという意思を保有していると考えられることから、補充しても問題は無いと考えられます(但し、微妙な問題があるためケースバイケースの判断を要します)。
【ポイント】
1.なぜ空欄の手形が流通するのか?
法律上の原則論からすれば、必要事項がすべて記載されていない手形は無効であり、本来流通することはあり得ません。
しかし、現実の取引では一部空欄の手形(いわゆる白地手形)が当然のように流通しています。また、一部空欄の手形であっても、銀行は取立てに回してくれます。
非常に不思議な現象ではあるのですが、例えば、振出日欄が空欄の手形は、支払いサイトが長期になっていることを表に出したくないため(要は振出人の信用不安を起こさないため)といった実務上の要請があるから流通しているなどと言われています。
2.空欄の手形を受領した場合の対処法
(1)空欄のままで取立てに回した場合のペナルティ
上記1.でも記載した通り、一部空欄の手形であったとしても、銀行に持込めば取立てに回してくれますし、振出人が支払ってくれさえすれば、何も問題なく手形決済は完了します。
しかし、法律上の原則論は、必要事項が記載されていない手形は無効です。
このため、取立てに回した手形の決済が完了しない場合(不渡りとなった場合)、法が予定していた利益を享受できなくなります。この一番の典型例が、裏書人に対して支払いを求めること(遡求権を行使すること)ができないことです。
したがって、一部空欄の手形を受領した場合、所持人は何らかの対策を講じる必要があります。
(2)空欄を補充することができるか
一部空欄の手形にはリスクがあるというのであれば、所持人において空欄を埋めればいいのではないかという発想が生まれてきます。ただ、振出人に断りなく、勝手に埋めてしまってよいものか悩んでしまうかもしれません。
この点、現場実務の対応として、所持人において空欄を補充することは原則可能と考えられており、法解釈論としてもこれを認めています。なぜなら、将来の手形所持人において空欄補充をしてもらって良いと振出人等は考えているのが合理的意思解釈であるとされているからです。
もっとも、例えば、金額が空欄の手形の場合、さすがに上記のような合理的意思解釈という手法を用いることができませんので、この場合は振出人にきちんと記載をしてもらうか、最低でも振出人の了解を得て補充する方が良いと考えられます。
3.まとめ
以上のことから、一部空欄の手形を受領した場合、遅くとも銀行に持込む前に、空欄部分を所持人において補充し、取立てに回すという対応をお勧めします。
【当事務所で提供可能なサービス】
将来的に紙の手形は廃止されることが決定されているとはいえ、製造業や繊維業などを中心にまだまだ手形決済が利用されているようであり、当事務所でも少なからずのご相談を受け、対応を行っています。
手形が不渡りとなった場合の債権回収はもちろんのこと、手形による支払いに少しでも疑義を持った場合、その不安を解消するためにも是非当事務所までご相談ください。