【民法改正】第18回 解除・危険負担
弁護士:民法改正の概要を解説してきましたが、今回でいよいよ最終回です
社長:18回ということは1年半か。非常に長かったためか、最初の方は覚えていないような…。
弁護士:その都度、解説記事を見て思い出せば大丈夫ですよ。まったく最初からやるとりは、はるかに頭に残りやすいと思いますよ。
社長:そうだね。じゃ、始めようか。
弁護士:まず、解除についてですが、理論的には重要な変更となっているのですが、おそらく現場実務上では大きな変更にはならないと思います。
社長:理論的な重要な変更とは?
弁護士:現行民法では、契約を解除するためには相手方の帰責が必要とされていました。しかし、改正民法では相手方の帰責を問わず、「契約の目的を達成できない」場合には契約解除ができるとされました。
社長:契約目的を達成できない=相手方に責任があるというはなしではないの!?
弁護士:通常はご指摘の等式が当てはまるはずなのですが、不可抗力の場合など相手方に帰責が無い場合も事例としては想定されます。
社長:なるほど、ややレアケースの場合も包含しているのか。ちなみに、相手方に責任は無いけど、自分に帰責がある場合も契約解除は可能なの?
弁護士:自分に帰責がある場合は解除不可です。
社長:当然といえば、当然のことだな。
弁護士:そうですね。さて、相手方の帰責を問わずに解除できるわけですが、やはり契約を解除するためには一定の条件が必要です。
社長:通常は、一定期間の猶予(=催告)を与えて、その猶予期間中に契約違反状態を解消できなかった場合に契約解除という流れだね。
弁護士:その通りです。実はこの部分は現行民法と改正民法とで相違はありません。ただ、改正民法では、一定の猶予期間中に改善することで軽微な契約違反としかいえない状態となった場合、解除はできないことを念のため明記しました。
社長:これも特に複雑怪奇なことではないね。
弁護士:そうですね。一方、契約書によく明記されている“無催告解除”についてですが、改正民法では、①履行不能、②明確な履行拒絶、③一部の履行不能or明確な履行拒絶による契約目的の達成不能、④定期行為(特定の日時や期間内に履行しないと契約目的が達成できないもの)、⑤契約目的達成に足りる履行見込なし、の5つの場合には法律上も無催告解除が可能と明記されました。
社長:催告するまでも無く、契約目的が達成できない状況であれば無催告解除が可能ということだね。
弁護士:その通りです。ちなみに、契約書によく規定されている無催告解除は、法律上無催告解除が可能な事由を、さらに拡張・追加するために定められています。
社長:なるほど。ところで、③の場合だけど、全体として契約目的が達成できないという訳ではなく、一部は履行可能という場合にも契約全体を解除することが可能ということになるのかな?
弁護士:一部の履行だけしてもらっても契約目的を達成できないという場合には、契約全体の解除が可能となります。一方、契約目的を一部でも達成できるという場合には、履行不能or明確な履行拒絶を行った一部についてのみ契約が解除というのが、改正民法の立付けとなります。
社長:う~ん、契約目的達成可能か否かという基準は非常に曖昧模糊としているので、ここで双方見解の相違といった紛争が起こりそうだな。
弁護士:たしかに懸念材料にはなりますね。今後作成する契約書では、契約目的は何なのか、一部の履行で意味があるのか等について明記する必要があるかもしれませんね。
社長:ところで、相手方の帰責を問わず契約解除が可能となった場合、現行民法にある“危険負担(※)”の規定は必要なくなるのでは?
(※危険負担とは、例えば売買契約の場合、売買対象物が売主・買主双方の帰責なく滅失した場合に、売主は目的物引渡し債務の履行を免れるのに対し、買主は代金支払い債務を免れることができるのか、という問題を解決するための法概念となります)
弁護士:たしかに、契約を解除すれば事足りるような気もします。ただレアケースかもしれませんが、契約を解除したくても、相手方と連絡が取れない場合は契約解除が難しい場面もあるかもしれません(契約解除の意思表示が相手方に到達する必要があるため)。
そこで、危険負担の規定のうち、いわゆる債務者主義と呼ばれる条項だけは残した上で、契約の履行を拒絶することができるという形に改正されました。
社長:ちょっと話が難しいなぁ。。。
弁護士:上記の「※」の事例でいえば、買主は、形式上は代金支払い債務を負担しているので、債務者という扱いになります。そして、買主としては、目的物が滅失した以上、売買契約を解除したいと考える訳ですが、売主と連絡が付かず解除の意思表示を行なうことができない状態です。このような状況下で、後日、売主から「カネを払え!」と言われても、危険負担の債務者主義=債務者有利に判断するというルールを適用すれば、債務者である買主は売買代金の支払いを拒絶することができる、という結論に持って行くことができます。
社長:なるほど。たしかに、そういった使い方ができるね。
(平成29年8月30日更新)
※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。