【民法改正】第17回 相殺

【民法改正】第17回 相殺

弁護士:民法改正に関する解説もいよいよゴールが見えてきました。今回と次回でいったん終了させたいと考えています。
社長: 1ヶ月に1回ペース、今回で17回目ということは、約1年半行ったわけか…。
弁護士:そうなりますね。さて、今回は「相殺」に関する内容です。
社長:こっちの持っている債権と、こっちが負担している債務とを精算するってやつだな。
弁護士:その通りです。基本的な内容については大きな変動が無いのですが、これまで解釈論ではっきりしていなかった事項について、新たな規律を設けたというイメージになります。
社長:早速はじめてよ。
弁護士:まず、1つ目としては「相殺禁止の合意」について、当事者以外の第三者にどこまで対抗ができるのか、明記されました。
社長:債権上禁止特約と同じような問題なのかな。その考え方を踏まえると、
・当事者間で約束することは当然有効
・でも第三者に対してはその約束を対抗することは原則不可
・しかし第三者がその約束を知っていた(悪意)又は簡単に知ることができた(重過失)の場合は、例外的に対抗可能。
といったところになるのではないかな。
弁護士:ご名答です。付け加えるところが無いので、次に行きますね。2つ目は、「不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止」と呼ばれるものです。
社長:なんだか難しい言葉が並んでいるなぁ…
弁護士:まず「受働債権」ですが、イメージとしては、こちらが負担している債務のことです。自分から見て、受け身の債権なので受働債権…と考えれば分かりやすいかもしれません。
社長:なるほど、こちらが負担している分のことをいうのか。
弁護士:はい。その受働債権が、①悪意による不法行為に基づく損害賠償債権、②人の生命又は身体による損害賠償債権の場合は、相殺はダメということが改正民法では明記されることになりました。
社長:つまり自分が何か悪いことをした場合によって負担することになる損害賠償義務については、被害者に対して債権を持っていたとしても相殺することはダメ、つまりちゃんと賠償しなさい、ということだね。
弁護士:その通りです。なお、細かい話ですが、上記①②の損害賠償債権について、被害者から譲受けた第三者である場合、被害者保護という話は無くなりますので、当方は譲受人である第三者と相殺することは可能となります。
社長:なるほど、「被害者保護」キーワードな訳だね。
弁護士:そうですね。さて、最後の3つ目ですが、これはこの分野を勉強すると必ず出てくる「差押えと相殺の優劣」という問題について、かなり整理がなされました。
社長:また、何だか難しそうな話だな。
弁護士:簡単な例をあげますと、私は社長に対して弁護士報酬債権を持っていたとします。一方、社長は私に対して貸金債権を持っていたとします。
社長:この場合は単純に相殺可能だね。
弁護士:そうですね。ところが、私が金融機関からお金を借りていて返済が滞ったため、金融機関が私の弁護士報酬債権を差し押さえたとします。この場合、社長は相殺可能なのか、というのが「差押えと相殺の優劣」という問題になります。
社長:イメージができたよ。で、結局どうなるの?
弁護士:結論から申し上げますと、社長の相殺権行使が優先します。つまり、金融機関が差押えに基づく直接支払いを要求してきたとしても、相殺を主張すれば、金融機関への支払いを拒絶することができるという結論になります。
社長:なるほどね。ちなみに、金融機関が差押えを行ってきた後に、弁護士に対してお金を貸した、つまり貸金債権を取得した場合はどうなるの。
弁護士:この場合は差押えが優先します。
社長:つまり、差押え前に債権を取得していたか否かで、結論が変わってしまうのだな。
弁護士:その通りです。なお、少し細かい話をしますと、差押え当時に具体的に債権として発生していなくても、差押え前に債権発生原因が生じている場合は、差押え前に債権を取得していたことと同視して、相殺が優先すると改正民法では規定されることになっています。
社長:う~ん、あまり適切な例ではないけど、差押え前に、弁護士が社長である僕に対して、交通事故を起こしてしまい、差押え当時は治療中だったので具体的な債権は発生していなかったけど、完治後に具体的な損害賠償額が定まった場合、社長である僕は相殺可能、という事例をイメージすればよいのかな。
弁護士:例としてはその通りです。ただ、何だか私が一方的に悪者になっていますね(笑)。
社長:そこは気にしないでくれ(笑)。
弁護士:ちなみに、先ほどの例では、被害者が損害賠償債権を持っている場合ですので相殺可能です。加害者が損害賠償債務を負担している場合に相殺することは禁止されていることと混同しないように気を付けてください。
あと2つ目の解説ともリンクするのですが、差押え前に債権発生原因がある債権を譲り受けることでの相殺は不可となりますので、ご注意ください。

(平成28年12月7日更新)

 

 

 

 

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

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