【民法改正】第16回 債権譲渡
【民法改正】第16回 債権譲渡
弁護士:今回は債権譲渡に関する改正内容を解説していきます。ちなみに、債権譲渡についても民法改正の目玉の1つとされています。
社長:じゃ、早速はじめてよ。
弁護士:まず、非常に理屈っぽい話から入るのですが、現行民法では債権譲渡禁止特約といった譲渡制限があった場合、そもそも債権譲渡ができないというのが原則でした。賃貸借契約書や売買契約書などを締結すると、必ずと言ってよいくらい債権譲渡禁止に関する譲渡制限に関する約定が入っているかと思うですが、この約定によって債権譲渡は原則できなかったのです。
社長:たしかに、相手方の了解を得ない債権譲渡は禁止と定める条項は、ほとんどの契約書で見かけるなぁ。
弁護士:それが、今回の民法改正では大転換を図り、譲渡制限の付いた債権であっても、譲渡それ自体は可能ということになりました。
社長:ほぉ~、それは思い切った変更だね。
弁護士:そうなんです。この譲渡制限が付いた債権であっても譲渡が可能であるということから、関係当事者のバランスや利益考慮を図るための改正が行われています。
社長:具体的にはどういった内容になるのかな。
弁護士:譲渡制限の付いた債権の種類によって場合分けをする必要があります。
【預貯金債権】
⇒ 債権の譲受人(新債権者)の主観的事情を問わず、金融機関(債務者)は、①支払いを拒絶することができる、または②預金者(債権者・譲渡人)に対して主張できる事由(弁済、相殺など)をもって対抗できる。
【預貯金債権以外の債権】
⇒ 債権の譲受人(新債権者)において、譲渡制限が付いていることにつき知っていた(悪意)または重大ミスによって気がつかなかった(重過失)という事情がある場合、債務者は、①支払いを拒絶することができる、または②債権者・譲渡人に対して主張できる事由(弁済、相殺など)をもって対抗できる。
社長:何だか、金融機関の政治力を見せつけられたような規定ぶりだなぁ…。
弁護士:まぁ、それは公然の秘密ということで(笑)。ところで、【預貯金債権以外の債権】の場合における上記①②については、悪意重過失ある債権の譲受人(新債権者)において更なる対抗策が設けられました。
社長:それは何かな。
弁護士:悪意重過失のある債権の譲受人(新債権者)は、債務者に対し、相当の期間を定めて譲渡人(旧債権者)へ支払い等の履行を行うよう催告を行なうことができます。そして、債務者が相当期間内に履行を行わなかった場合、債務者は債権の譲受人(新債権者)に対し、上記①②について対抗できなくなるという対抗策が新たに設けられました。
社長:主導権争いのための応酬といった感じなのかなぁ。
弁護士:そのような見方もできるかもしれませんね。あと、応酬といえば、譲渡制限付き債権が譲渡された場合、債務者は供託することもできるようになりました。
社長:支払うけど、余計な紛争には巻き込まないでね、といったところかな。
弁護士:そうですね。ところで、これまでは、旧債権者(譲渡人)、新債権者(譲受人)、債務者という三当事者を想定してきましたが、さらに当事者が加わる場合があります。それは、譲渡制限が付いた債権を差し押さえる差押債権者です。
社長:うぁ~、ややこしそう。。。
弁護士:当事者がいっぱい出てくるので嫌な感じなのですが、むしろ今回の改正でこの辺りはすっきりしたかもしれません。まとめると、以下のようになります。
【差押債権者が譲渡人の債権者という立場であった場合】
⇒ 譲渡制限の合意に関係なく、無制限に差押え可能。
【差押債権者が譲受人の債権者という立場であった場合】
⇒ 譲受人が譲渡制限の合意について悪意重過失であった場合、差押債権者は債務者より、上記①②の対抗を受ける。
社長:なるほど、差押債権者が誰の債権者であるかによって区別されるわけだね。その他に改正のポイントはあるかい?
弁護士:おそらく馴染みは無いものの、銀行取引等で当然のように明記されている内容として、「異議を留めない承諾による抗弁切断」という点に改正が入りました。
社長:ナニ…ソレ…
弁護士:債権譲渡を行なうことについて何らの異議を述べずに承諾した場合、譲渡人(旧債権者)に対して主張できた事由(相殺、同時履行の抗弁など)について、譲受人(新債権者)に主張できないという、実に厄介な規定が現行民法には規定されていたのですが、それが廃止となりました。
社長:でも廃止されたけど、特約を結んだら例外的に効力を有するというパターンじゃないの!?
弁護士:ご名答です。あと話は変わりますが、別途ポイントになりそうなのが、債権譲渡と相殺の関係について、新たに整理された条項が改正で加わることになりました。学術的には無制限説なんて呼ばれるのですが、
・債権譲渡に関する対抗要件具備時より前に取得した債権
・債権譲渡に関する対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
・譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
であれば、債権譲渡が行われても相殺可能となりました。
社長:この辺りは債権回収の現場実務で威力を発揮しそうだな。
(平成28年11月14日更新)
※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
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