【間違えやすい賃金実務①】 賃金の銀行口座への振込み

 当社は賃金の支給方法として、当社が指定する銀行口座に振込んで支払う形を取っています。

 ところが、当社に入社してきた従業員が、当社が指定する口座への振込みは回避して欲しいこと、現金払いにして欲しい旨の申し入れを行ってきました。

 当社は、当該従業員の申し入れを受け入れなければならないのでしょうか。

 また代替策として、当該従業員が希望する銀行口座に振込んで支払うことも検討していますが、この場合、振込手数料を控除しても良いでしょうか。

 

回答

 従業員が同意しない限り、会社指定の銀行口座に賃金を振り込んで支払うという形式を取ることはできません。
 したがって、賃金支給日に現金にて支払わざるを得ないことになります。
 また、会社指定の銀行口座以外の銀行口座であることを理由に、振込手数料を控除して支払うことも違法と言わざるを得ません。

 

解説

1.労基法24条と「通貨」で「直接払い」の原則
賃金の支払い方法については、今では当たり前のように銀行口座振り込みになっているかと思います。
 ただ、労働基準法の大原則論からすれば、実はこの銀行口座への振込みによる支払い方法は重大な問題があるのが実情です。
 すなわち、労働基準法24条では「賃金支払いの原則」として、次のような5原則を掲げています。

 

 ① 通貨払いの原則
 ② 直接払いの原則
 ③ 全額払いの原則
 ④ 毎月1回以上払いの原則
 ⑤ 一定期日払いの原則

 

 したがって、労働基準法24条の原則論を形式的に適用する限り、銀行口座への振込みによる賃金支払いは、①及び②の原則に反することになります。

 

2.賃金の銀行口座への支払いに関する厚生労働省による指導
 もっとも、会社の便宜はもちろん、従業員にとっても、多額の現金を持ち歩くことへの不安や引き落としによる債務の支払い等の便宜もあり、銀行口座への振込による賃金支払いは双方にとってメリットがあります。
 そこで、厚生労働省としても形式的に違法という扱いをせず、通達により、銀行口座への振込による賃金支払いを行うに際しては、概要として次のような措置を講じるように指導しています。

 

・個々の労働者より、書面による申し出または同意を取り付けること
・労使協定を締結すること
・賃金明細書などの計算書を賃金支給日に発行すること
・賃金支給日の午前10時ころまでには払い出し・払戻しが可能な状態になっていること
・金融機関(金融商品取引業者も含む)については一行・一社に限定せず、労働者の便宜を図ること
・証券総合口座へ賃金を支払う場合は、MRF口座であることを確認すること
 以上のことから、賃金を銀行口座に振り込んで支払うのであれば、従業員が希望する銀行口座への振込手続を行う必要があります。

 

3.振込手数料の控除と賃金
 次に、従業員が希望する銀行について会社に取引口座がない場合、会社としては他行への送金手続を行うことになる以上、振込手数料が発生します。
 この振込手数料を誰が負担するべきかという問題ですが、仮に従業員に負担させるとなった場合、上記賃金支払いの原則の③に抵触することになってしまいます。

 したがって、振込手数料は会社が負担せざるを得ません

 

※上記記載事項は当職の個人的見解をまとめたものです。解釈の変更や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい

間違えやすい賃金実務の記事一覧

【間違えやすい賃金実務①】 賃金の銀行口座への振込み

【間違えやすい賃金実務②】 賃金からの控除

【間違えやすい賃金実務③】 賞与算定に際しての考慮事項

【間違えやすい賃金実務④】 退職金支給の必要性

【間違えやすい賃金実務⑤】 退職金制度見直しの可否

【間違えやすい賃金実務⑥】 年俸制と賃金計算

【間違えやすい賃金実務⑦】割増賃金の算定基礎となる賃金

【間違えやすい賃金実務⑧】 割増賃金支払いの必要性

【間違えやすい賃金実務⑨】 賃金カット

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